*** june typhoon tokyo ***

Tuxedo @Billboard Live TOKYO


 改めて“楽しむことが流儀”だと体感した、興奮のファンキー・ステージ。 

 恒例となってきたビルボードライブでの公演が2019年もやってきた。メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンによるユニット、タキシードが送るステージは、9月にリリースされたアルバム『タキシードIII』収録曲を含めたハイテンションなグルーヴが横溢。秋の夜長という季節も忘れさせるディスコ・ブギー・ナイトとなった。

 前回の昨年7月公演(→「Tuxedo@Billboard Live TOKYO」)とは多少メンバーが異なり、前回ではオープニングアクトもこなし、『タキシードIII』でも客演しているタキシード公演お馴染みのフィメール・ヴォーカル、ギャヴィン・トゥレクは今回は帯同せず。代わりにロサンゼルスを拠点に活動するナリア・フランコワス(「ドント・スリープ」のMVを見ると、K.ミッシェル的な露出もチラッとあったりと、エレガントな顔立ちながらストリート感漂う感じ)をヴォーカルにフィーチャーし、ギターもJD・カレラに変更。キーボードのサム・ウィッシュ(前回はサム・ウィシュコスキ名義)は継続しての出演となった。



 キャッチーなフロアキラーな楽曲を、彼らのお気に入りと思われる曲のフレーズを採り入れながら、ほぼノンストップ・スタイルで展開していくスタイルは変わらず。『タキシードIII』の冒頭に収録された彼らのテーマアンセム的ナンバー「ザ・タキシード・ウェイ」をはじめ、陽気で軽快なグルーヴを惜しみなく放っていく。「レディース・ナイト」をはじめとするクール&ザ・ギャング作風をチラつかせる「ザ・タキシード・ウェイ」からオーディエンスはスタンディングで迎え、思いのままに身体を、手を、揺らしていく。「シャイ」になると、ステージ中央にセッティングされた、彼らのライヴでは見慣れた光景となった赤い“HO!”ボタンが発動。その後も“HO!”ボタンが良きタイミングで鳴らされ、その痛快さにオーディエンスも自ら“ホー!”とレスポンスすると、これに呼応してホーソーンはじめメンバーたちが“HO!”ボタンを押すという流れも(ギターのJD・カレラは押し方が上手くなかったのか、一度も鳴らせず)。以前の記事でも書いたと思うが、彼らのライヴを楽しむには余計な理屈は不要。70、80年代あたりのディスコやブギーを軸としたサウンドと遊び心溢れるパフォーマンスの波の渦に身を委ねて歌い踊る、それこそが肝要なのだ。

 メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンの音楽的嗜好が垣間見られる引用やアレンジもまた楽しい。一つ例を挙げれば、本公演でヴォルテージを急速に高めたのが、「ソー・グッド」のリミックス・ヴァージョンで、明らかにニュージャックスウィングを意識したビートで彩りを変えてきた。オリジナルはミドル・テンポのそれほど派手ではない軽やかなリズムが印象的だが、ニュージャックスウィング・テイストに変貌させたことで、ノリが前傾に。そこにトニーズ「フィールズ・グッド」をあの“エロ声”を含めて引用してくるものだから、鼓動が高鳴らないはずがない。“ソー・グッド”から“フィールズ・グッド”へ受け渡すという着想もいい。



 そして、今公演で目を見張ったのは、ジェイク・ワンがいつも以上に踊る(笑)。ニュージャックスウィングでのハンドプッシュの振りや、ショルダーキーボードでステージ前へ出て、他メンバーと並んでラインを作ってダンスするなど、シンプルでオールドスクールな振り付けながらも、楽しむことを基調とした演出を展開。決して巧くはないが(「ナンバー・ワン」のMVでのテニスのように、といったら怒られるか…笑)、楽しくどこかキュートにすら思えるパフォーマンスが目を惹いた。

 さて、キャッチーなディスコ、ブギー、ファンク・チューンをベースにしたステージは、見方を変えれば、やや“マンネリ”だったり、金太郎飴的とも言われたりするが、そこはミディアム・スロー~スローな楽曲を組み込んでメリハリをつけていく。「ゲット・ユー・ホーム」からフロアをミラーボールの輝きで満天の星空を演出した「ジュライ」がその役割を的確に、退屈とは無縁の空間を装っていく。
 センチメンタリズムとホーソーンのハイトーン・ヴォーカルのバランスが“祭りの後”のような享楽と寂しさを生む、個人的に気に入っているメイヤー・ホーソーンの「デザイナーズ・ドラッグ」でメロウなムードとなったフロアの心酔を躍動へとギアを入れると、ここで後方で控えていたナリア・フランコワスがステージ中央へ。それまで衣装はシルヴァーのラメで派手ながらもやや淑やかに歌っていたフランコワスが、ヴィッキー・Dお馴染みの1981年のダンスクラシックス「ザ・ビート・イズ・マイン」を、オーディエンスを煽りながらパッション溢れるヴォーカルで披露。可憐さも湛えながら“肚”(ハラ)に響く耳に残るヴォーカルで、フロアの熱度を上昇させていったが、やはり(巧拙というより訴求力が高いという意味で)歌える人がコーラスにいると、フロアにもたらすグルーヴの密度が違うように思える。



 終盤は『タキシードIII』楽曲から人気曲へ繋げてクライマックスへ。「フックス・ウィズ・ザ・タックス」以降は背後の黒カーテンが開かれて、夜景の光がステージに射し込む粋な演出に。タキシードを一躍人気者へと押し上げた代表曲「ドゥ・イット」で本編の幕を締めた後は、興奮冷めやらぬオーディエンスに急かされて再びステージイン。“オネノン、オネノネノン”(on and on, on and on and on)のシンガロングが響きわたる「テイク・ア・ピクチャー」を経て、ラストはステージにアルコール(ヘネシー)とグラスが運ばれ、メンバーやオーディエンスと乾杯しながらメイヤー・ホーソーン「ヘニー&ジンジャーエール」へ。見慣れた展開ではあるが、それでもジョイフルな笑顔で満たされるフロアを俯瞰すると、タキシードが愛される所以がその光景に凝縮されていたような気がした。

 ミュージックフィーがカジュアルシートで1万円と(人気公演だけに)次第にアップしているゆえ、誰もが気軽に観賞出来るという訳ではないだろうが、楽曲を知らず、知識などなくても理屈抜きで音楽を愉しみたいなら、タキシードのライヴはしっかりそれに応えてくれるはず。歌い踊って飲み干したジンジャーエールの薫りが鼻腔に微かに残るのを感じながら、早くも余韻とともに次の公演への待ち遠しさが募り始めた……そんな一夜となった。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 The Tuxedo Way (*3) 
02 Number One
03 Shy(include phrase of“So Ruff, So Tuff ”by Zapp & Roger)
04 You & Me (*3)
05 2nd Time Around
06 Vibrations (*3)
07 So Good(Remix)(include phrase of “Feels Good”by Tony! Toni! Tone!)
08 The Right Time
09 On A Good One (*3)
10 Good Times(Original by Chic)
11 Toast 2 Us(include phrase of“Big Poppa” by The Notorious B.I.G.) (*3)
12 Get U Home
13 July(include phrase of“Corsican Rose” by Mayer Hawthorne)
14 Designer Drug(Original by Mayer Hawthorne)
15 This Beat Is Mine(main vocal by Nariah Francois)(Original by Vicky D)
16 If You Want It (*3)
17 OMW (*3)
18 Rotational
19 Fux With The Tux
20 Do It
≪ENCORE≫
21 Take a Picture
22 Henny & Gingerale(Original by Mayer Hawthorne)

(*3): song from album“Tuxedo III”

<MEMBER>
Mayer Hawthorne(Lead vo,b)
Jake One(vo,key)

Nariah Francois(vo)
Sam Wish(key)
JD Carrera(g)

 

◇◇◇




◇◇◇

【Tuxedo/Mayer Hawthornのライヴに関する記事】
・2010/02/27 MAYER HAWTHORNE & THE COUNTY@Billboard Live TOKYO
・2011/11/16 Mayer Hawthorne@Billboard Live TOKYO
・2016/01/06 Tuxedo@LIQUIDROOM
・2017/08/17 Tuxedo@Billboard Live TOKYO
・2018/07/17 Tuxedo@Billboard Live TOKYO
・2019/11/07 Tuxedo@Billboard Live TOKYO(本記事)









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