*** june typhoon tokyo ***

Mayer Hawthorne@Billboard Live TOKYO

■ メイヤー・ホーソーン@ビルボードライブ東京

Mayerhawthorne_howdoyoudo


 アンドリュー・メイヤー・コーエンが創り出す新しいソウル・ミュージックの形。

 先日めでたくメジャー・レーベルから2ndとなるアルバム『ハウ・ドゥ・ユー・ドゥ』をリリースした、メイヤー・ホーソーンのビルボードライブ東京での公演を観賞してきた。2ndショウ。昨年の2月の来日公演(その時の記事はこちら)以来、約1年8ヵ月ぶりとなる。

 バンド・メンバーはステージ左から、キーボードのクインシー・マクラリー、ギターのクリスチャン・ヴンダリッヒ、ドラムのクエンティン・ジョセフ、ベースのジョー・エイブラムスの4人にメイヤーが加わる。ギターがトファー・モーア(Topher Mohr)だった以外は前回と同じだが、そこが今回メイヤー・ホーソーン&ザ・カウンティ名義での来日公演とはならなかったところなのかもしれない。
 東京1Day公演だったこともあってか、客席はほぼ埋め尽くされ満員。インディ作『ストレンジ・アレンジメント』でも注目度が高かった彼がメジャー・リリースとなって、いっそう注目度が高まっているようだ。

 バンド・メンバーを先にステージに上げて本人の登場を待つという“焦らしの常套手段”でショウはスタート。バックステージを出た付近でスキャットしはじめると場内のヴォルテージもいっそう高まる。そして惜しむことなくキラー・チューン「メイビー・ソー、メイビー・ノー」で沸かせる。フォーマルにスーツでキメてる風だが、足元は赤いナイキ(?)のスニーカー。バンド・メンバーもシャツ&スーツ系だがどこか遊びがある洒落たスタイルの装いで、上質なレトロ・ソウルを体現するに相応しい佇まいといえる。
 とはいえ、そこに赤のスニーカーといった今風のアクセントがあるように、メイヤー・ホーソーンの音楽も単に過去のソウル・ミュージック回帰とはなっていない。近年では60、70年代あるいはそれ以前のグッド・ミュージックを振り返るような作品、たとえば、ラファエル・サディーク『ストーン・ローリン』であったり、エリック・ベネイ『ロスト・イン・タイム』であったり、が多くリリースされているが、単に旧き良き時代をなぞらえている訳ではなく、前述の作品同様に当時のエッセンスをベースにした楽曲作り以上に“今”を感じさせるからだ。

 というのも、元来、メイヤー・ホーソーンはヒップホップを日常的に吸収してきた世代で、ヒップホップのなかからソウルや旧きグッド・ミュージックを享受してきたから。単純に伝統回帰ならその当時のアーティストを聴けばいいのではないか、という意見や揶揄もあるだろう。だから、メイヤーはつまらないと。でも、実際は違う。よく聴けば、そこにはヒップホップを経由したビートやトラック感覚が横溢しているのだ。つまり、極端なことをいえば、ヒップホップのリスナーに対して、ソウル・ミュージックのアプローチをしているということなのかもしれないのだ。
 そのことが顕著になるのが彼のライヴだ。CDや音源で聴くと、彼の楽曲はソウル・クラシックスやAORマナーに則った風情が漂うが、ライヴでは強めのビートやパワフルなヴォーカルがより堪能出来る。そして、それは明らかに単なるレトロ回帰ではなく、現代のシーンから俯瞰して辿り着いたソウル(ヒップホップ視点的ブルー・アイド・ソウル)といえる。今作『ハウ・ドゥ・ユー・ドゥ』に収録曲「キャント・ストップ」にスヌープ・ドッグが参加した契機となった、メイヤーがリミックスを手掛けた「ギャングスタ・ラヴ」を披露したのもしかり、メイヤーが生まれ育ったデトロイト、つまり“モーター・シティ”“モータウン”について歌った「ア・ロング・タイム」を彼のライヴの本編ラストの定番となりつつある「ジ・イルズ」の直前に配したのもしかりだ。

 そしてライヴでは、メイヤーをサポートするバックバンドの力も大きい。キーボードのクインシー・マクラリーを軸に、今とレトロな時代を自在に行き来するように音空間を操るサウンドは、観客を少なからずエキサイトさせるのに充分だ。観客にも雨が落ちるさまを表現した手の振りを煽って歌う「アイ・ウィッシュ・ウッド・レイン」や切なさや哀愁を携えたファルセット使いの「グリーン・アイド・ラヴ」などで沁みる音楽を展開しながら、一方でポジティヴで陽気な「ユア・イージー・ラヴィン・エイント・プリージン・ナッシン」や「ジ・イルズ」、肌当たりが優しく温かい「ザ・ウォーク」「ドリーミング」といった心をときめかせる音の粒を降らせてくれる。

 本編ではなかったが、アンコール明けにほぼア・カペラ風に披露したエラ・フィッツジェラルドの「アイヴ・ゴット・ア・クラッシュ・オン・ユー」がまた白眉。ソウル・ミュージックのジャンルにこだわることなくさまざまなジャンルから音楽を吸収しながらも、ヒップホップ精神、ヒップホップを通してソウル・ミュージックを体現するという彼の気概が端的に表われた選曲といってもいいだろう。そこにはファンやリスナーをいつでも驚かせたい、既成概念をぶち壊したいという、ストリート的な精神が漲っているのだ。

 モダン・ソウルを提示するスタイルで、R&B/ヒップホップ・リスナーを唸らせる。その才能がちらちらと垣間見られたステージだった。本編ラストでは演奏中に後方の黒いカーテンが開き、六本木の夜景とモダン・ミュージックがコラボレート。上質で洒落たアーバンなロケーションとちょっとナード(=おたく)な楽しさが融合したメイヤーならではの空間に、多くの観客が満足していったことだろう。


◇◇◇

<SET LIST>

00 Introduction
01 Maybe So, Maybe No(*1)
02 Gangster Luv(Original by Snoop Dogg feat. Mayer Hawthorne)
03 Make Her Mine(*1)
04 Your Easy Lovin' Ain't Pleasin' Nothin'(*1)
05 The Walk(*2)
06 Shiny & New(*1)
07 I Wish Would Rain(*1)
08 No Strings(*2)
09 Dreaming(*2)
10 You Make My Dreams Come True(Daryl Hall/Mayer Hawthorne/Booker T. Jones)
11 Green Eyed Love(*1)
12 Reprise
13 Just Ain't Gonna Work Out(*1)
14 A Long Time(*2)
15 The Ills(*1)
≪ENCORE≫
16 I've Got A Crush On You(Original by Ella Fitzgerald)
17 One Track Mind(*1)
18 Work To Do(Oringal by The Isley Brothers)

※(*1):song from album『A Strange Arrangement』
※(*2):song from album『How Do You Do』


<MEMBER>

Mayer Hawthorne(Vocals)

Quincy McCrary(Keyboards)
Christian Wunderlich(Guitar)
Joe Abrams(Bass)
Quentin Joseph(Drums)


◇◇◇

 








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