この世のものとは思えないほどの彩度を誇る緑と青の色彩は、太陽の角度によってその色を常に変え、木々の緑や黄や赤と重なって万華鏡のようなコントラストを描き出す。今回は中国が誇る奇跡の秘境、九寨溝へご案内!
中国は明の時代、地理学者?徐霞客はこういった。「五岳より帰りて山を見ることなし、黄山より帰りて岳を見ることなし」。現在中国ではこんなことがいわれているという。「黄山より帰りて山を見ることなし、九寨溝より帰りて水を見ることなし」(黄山を見てしまったら他の山は見れない、九寨溝を見てしまったら他の河川?湖沼は見れない)。
今回は、標高5,000mを超える岷山(みんざん)山脈に抱かれたチベットの秘境、中国の世界遺産「九寨溝(チウチャイゴウ:きゅうさいこう)の渓谷の景観と歴史地域」をご紹介する。
九寨溝はもともと9つの村(寨)がある渓谷(溝)で、チベット族の人々が、農業や放牧をしてつつましやかに暮らしていた。彼らは九寨溝のあまりに美しい色彩からこんな伝説を伝えてきた。
昔々この深い山にある鏡岩と呼ばれる断崖絶壁に、ひとりの美しい妖精が住んでいた。あるとき悪魔がこの妖精に目をつけて、以来1,000年の間つきまとい続けた。山の女神は太陽や雲から作った鏡によって悪魔を封じようとするが、争っている最中に鏡は山の中に落ちて砕けてしまった。その破片は108に分かれて山を彩り、九寨溝の美しい湖になった。
朝方、九寨溝は深い霧に包まれて、山の墨色、雲の白、湖の深い紺色が美しいモノトーンを描いて中国の山水画そのままの姿を見せる。太陽が昇ると霧は次第に晴れていき、湖面は次第に紺から藍、藍から青へ、青からスカイブルーへ、やがてエメラルドグリーンや緑、夕方になると黄からピンク、橙、赤へと、その姿を変える。
億単位の時間の力、太陽と大地の力、植物の力、あらゆる神秘を閉じ込めた九寨溝?五花海の景色
100以上ある湖やその途中にある川や滝は周囲の緑や水深?水質によってもその姿を変え、時おり雲が差したり無数の魚が移動するだけでも色彩は変化する。千変万化するその姿は妖精が落とした万華鏡。言葉を尽くしても語れぬその色彩の不思議さに、人知を超えた美を感じずにはいられない。
それはいつの時代のどこの誰が見ても美しく、まさしく「普遍」の存在。それはただその場の空気に触れ、色彩に身を委ね、木々の香りを味わい、自然の営みの音を聴くだけで感じ取れるもの。
九寨溝を紹介しておきながらなんだけど、もし大切な人を連れて行くのなら、知識も持たせず写真も見せず、いきなりこの場所を訪れて歩き回り、その色彩をピュアに、ダイレクトに感じさせたい。そんな世界遺産が九寨溝だ。
倒れた木々に引っかかった枝や種はそこから根を張り、浮島となって繁茂する。やがて浮島が集まって島を作り、新たな景観を作り出していく
標高2,000~5,000mに及ぶ岷山山脈に位置する九寨溝はY字型の渓谷で、Yの最下部にあたる樹正溝(じゅせいこう)、東の日則溝(じっそくこう)、西の則査窪溝(そくさわこう)から成立する。
針葉樹林から草原、森林限界を超えて万年雪をたたえる白い稜線まで、山中には多くの自然形態を有し、そこに数多くの動物たちが暮らしている。特に有名なのがジャイアントパンダで、しばしばパンダが目撃される「熊猫(パンダ)海」などもあり、絶滅の恐れがある彼らの貴重な保護区にもなっている。
九寨溝の特徴はなんといっても水。あの不可思議な色はいったいどこからくるのだろう?
3~4億年前、海の中にあったこの渓谷は大地の力によって押し出され、隆起した。海中のサンゴ礁は石灰岩となって堆積し、カルストと呼ばれる地形を生み出した。石灰岩は水に溶けやすく、水中に多量の炭酸カルシウムを供給する。
九寨溝の水はほとんど湖の底から湧き出す地下水だが、ただでさえ山でろ過された地下水は美しいのに、炭酸カルシウムはさらにチリやホコリと結びついてこれを沈殿させて透明度を上げる。倒れた木々は冷たい地下水と炭酸カルシウムのために腐敗することなく堆積し、さらに水中の炭酸カルシウムと結びついて樹氷のような「石灰華」を造り出す。
沈殿物はやがて木々にひっかかって集まって、水をせき止めたところに炭酸カルシウムが固まって、天然の棚田を造り、湖へと成長する。こうして独特の水質と堆積物が、九寨溝を稀有な景観に仕上げている。
九寨溝は約60kmの全長で、100をはるかに超える湖や、十数本の滝、森全体を流れる幾本もの川、断崖絶壁に高山、独特な高山植物に動物たちと、その見所は無数にある。
ただ、Y字型の渓谷の「Y」の最下部が入り口になっていて、ここからバスが次々と発着しているのだが、この入り口を見てあまりの観光地ぶりに落胆する人も多いという。私はツアー用の専用バスではなく、定期バスに適当に乗りながら回ったけれど、バスの中の混雑ぶりや列をめぐる争いにつねに巻き込まれてウンザリした。しかも、それぞれの池に着いても、写真を撮る向こう側に人はいなくても、自分たちがいる場所には山のような人だかり。
しかし、それでもなお、九寨溝をみなさんにオススメする。ツアーでもなんでもいい。ほんの一瞬でもいいから、周囲の喧騒に自分自身でフィルターをかけて、自然の色、自然の香り、自然の音に身を委ねてほしい。億の年月と大地の壮大なドラマ、動植物の毎瞬間の活動が、この世界の神秘とすばらしさを伝えてくれるはずだから。
なお、観光ポイントには「長海」「五彩池」「季節海」「原始森林」「熊猫海」「五花海」「孔雀河道」「珍珠海」「珍珠灘瀑布」「鏡海」「犀牛海」「樹正瀑布」「臥龍海」「火花海」「芦葦海」「盆景灘」などがあり、バスで各ポイントに移動して30~1時間ほどそれぞれを徒歩見学するのが一般的だ。
成都から九寨溝は約400kmで、飛行機かバスで移動する。バスだと10~12時間かかるが、標高500mの成都から標高3,000m前後の山岳を抜けるので、途中高山風景やヤクがたわむれる草原、どこまでも続く深い針葉樹林、山水画のような渓谷、チベット族の村々など、様々な絶景を見ることができる。
http://www.jiuzhaigou-tour.com/
中国は明の時代、地理学者?徐霞客はこういった。「五岳より帰りて山を見ることなし、黄山より帰りて岳を見ることなし」。現在中国ではこんなことがいわれているという。「黄山より帰りて山を見ることなし、九寨溝より帰りて水を見ることなし」(黄山を見てしまったら他の山は見れない、九寨溝を見てしまったら他の河川?湖沼は見れない)。
今回は、標高5,000mを超える岷山(みんざん)山脈に抱かれたチベットの秘境、中国の世界遺産「九寨溝(チウチャイゴウ:きゅうさいこう)の渓谷の景観と歴史地域」をご紹介する。
九寨溝はもともと9つの村(寨)がある渓谷(溝)で、チベット族の人々が、農業や放牧をしてつつましやかに暮らしていた。彼らは九寨溝のあまりに美しい色彩からこんな伝説を伝えてきた。
昔々この深い山にある鏡岩と呼ばれる断崖絶壁に、ひとりの美しい妖精が住んでいた。あるとき悪魔がこの妖精に目をつけて、以来1,000年の間つきまとい続けた。山の女神は太陽や雲から作った鏡によって悪魔を封じようとするが、争っている最中に鏡は山の中に落ちて砕けてしまった。その破片は108に分かれて山を彩り、九寨溝の美しい湖になった。
朝方、九寨溝は深い霧に包まれて、山の墨色、雲の白、湖の深い紺色が美しいモノトーンを描いて中国の山水画そのままの姿を見せる。太陽が昇ると霧は次第に晴れていき、湖面は次第に紺から藍、藍から青へ、青からスカイブルーへ、やがてエメラルドグリーンや緑、夕方になると黄からピンク、橙、赤へと、その姿を変える。
億単位の時間の力、太陽と大地の力、植物の力、あらゆる神秘を閉じ込めた九寨溝?五花海の景色
100以上ある湖やその途中にある川や滝は周囲の緑や水深?水質によってもその姿を変え、時おり雲が差したり無数の魚が移動するだけでも色彩は変化する。千変万化するその姿は妖精が落とした万華鏡。言葉を尽くしても語れぬその色彩の不思議さに、人知を超えた美を感じずにはいられない。
それはいつの時代のどこの誰が見ても美しく、まさしく「普遍」の存在。それはただその場の空気に触れ、色彩に身を委ね、木々の香りを味わい、自然の営みの音を聴くだけで感じ取れるもの。
九寨溝を紹介しておきながらなんだけど、もし大切な人を連れて行くのなら、知識も持たせず写真も見せず、いきなりこの場所を訪れて歩き回り、その色彩をピュアに、ダイレクトに感じさせたい。そんな世界遺産が九寨溝だ。
倒れた木々に引っかかった枝や種はそこから根を張り、浮島となって繁茂する。やがて浮島が集まって島を作り、新たな景観を作り出していく
標高2,000~5,000mに及ぶ岷山山脈に位置する九寨溝はY字型の渓谷で、Yの最下部にあたる樹正溝(じゅせいこう)、東の日則溝(じっそくこう)、西の則査窪溝(そくさわこう)から成立する。
針葉樹林から草原、森林限界を超えて万年雪をたたえる白い稜線まで、山中には多くの自然形態を有し、そこに数多くの動物たちが暮らしている。特に有名なのがジャイアントパンダで、しばしばパンダが目撃される「熊猫(パンダ)海」などもあり、絶滅の恐れがある彼らの貴重な保護区にもなっている。
九寨溝の特徴はなんといっても水。あの不可思議な色はいったいどこからくるのだろう?
3~4億年前、海の中にあったこの渓谷は大地の力によって押し出され、隆起した。海中のサンゴ礁は石灰岩となって堆積し、カルストと呼ばれる地形を生み出した。石灰岩は水に溶けやすく、水中に多量の炭酸カルシウムを供給する。
九寨溝の水はほとんど湖の底から湧き出す地下水だが、ただでさえ山でろ過された地下水は美しいのに、炭酸カルシウムはさらにチリやホコリと結びついてこれを沈殿させて透明度を上げる。倒れた木々は冷たい地下水と炭酸カルシウムのために腐敗することなく堆積し、さらに水中の炭酸カルシウムと結びついて樹氷のような「石灰華」を造り出す。
沈殿物はやがて木々にひっかかって集まって、水をせき止めたところに炭酸カルシウムが固まって、天然の棚田を造り、湖へと成長する。こうして独特の水質と堆積物が、九寨溝を稀有な景観に仕上げている。
九寨溝は約60kmの全長で、100をはるかに超える湖や、十数本の滝、森全体を流れる幾本もの川、断崖絶壁に高山、独特な高山植物に動物たちと、その見所は無数にある。
ただ、Y字型の渓谷の「Y」の最下部が入り口になっていて、ここからバスが次々と発着しているのだが、この入り口を見てあまりの観光地ぶりに落胆する人も多いという。私はツアー用の専用バスではなく、定期バスに適当に乗りながら回ったけれど、バスの中の混雑ぶりや列をめぐる争いにつねに巻き込まれてウンザリした。しかも、それぞれの池に着いても、写真を撮る向こう側に人はいなくても、自分たちがいる場所には山のような人だかり。
しかし、それでもなお、九寨溝をみなさんにオススメする。ツアーでもなんでもいい。ほんの一瞬でもいいから、周囲の喧騒に自分自身でフィルターをかけて、自然の色、自然の香り、自然の音に身を委ねてほしい。億の年月と大地の壮大なドラマ、動植物の毎瞬間の活動が、この世界の神秘とすばらしさを伝えてくれるはずだから。
なお、観光ポイントには「長海」「五彩池」「季節海」「原始森林」「熊猫海」「五花海」「孔雀河道」「珍珠海」「珍珠灘瀑布」「鏡海」「犀牛海」「樹正瀑布」「臥龍海」「火花海」「芦葦海」「盆景灘」などがあり、バスで各ポイントに移動して30~1時間ほどそれぞれを徒歩見学するのが一般的だ。
成都から九寨溝は約400kmで、飛行機かバスで移動する。バスだと10~12時間かかるが、標高500mの成都から標高3,000m前後の山岳を抜けるので、途中高山風景やヤクがたわむれる草原、どこまでも続く深い針葉樹林、山水画のような渓谷、チベット族の村々など、様々な絶景を見ることができる。
http://www.jiuzhaigou-tour.com/