人体 ふしぎ発見!

 人体の小宇宙と呼ばれる「遺伝子」や「脳と心」、「生命」などの不思議を探求する旅へご一緒に出かけましょう。

Ⅰ-4 不老不死

2012-10-08 18:31:00 | 日記

 
①不老不死とは

 秦の始皇帝は「不老不死の薬」を徐福(じょふく、写真)
に探させたという。果たして人の寿命を延ばしたり、不老不
死は可能になるのだろうか。

 アメリカ・テキサス大学で人の細胞の寿命を延ばすことに
成功した。今、老化や死に関係する遺伝子を調べることで解
明が進んでいる。琉球大学医学部付属沖縄アジア医学研究セ
ンターの鈴木信(まこと)博士は、20年にわたって100
歳以上の沖縄のお年寄り、約600人の免疫遺伝子を調べた。
 その結果、遺伝子に共通点(遺伝子DR1タイプがあり、
DR9タイプがない)のあることを発見した。これは病気に
なり難いタイプの組み合わせであった。1997年、122
歳で亡くなったフランス・アルルに住むジャンヌ・カルマン
さんなど、フランスのお年寄りを調べているレオナルド・ダ
・ビンチ大学のフランシス・シュヒテール博士は、免疫遺伝
子以外でもアルツファイマー病など、脳の働きに関係する遺
伝子の共通点(アポE遺伝子E2があり、E4がない)を発
見した。カルマンさんはE2タイプとE3タイプで、この病
気になり難い組み合わせだった。このように元気で長生きす
るお年寄りの遺伝子には、この他にも動脈硬化になり難いタ
イプの遺伝子や白内障、ガンを防ぐ酵素の遺伝子を多く持ち、
何か特別な長寿遺伝子のようなものがあるのではなく、病気
になり難い遺伝子を多く持っていたのである。
 しかし、誰にでも老化と死はやってくる。人の最高寿命は
120歳といわれているが、一体何が不老不死の夢を阻んで
いるのか。普通より早く年を取る早期老化症、最近、その1
つのタイプの原因になる遺伝子が見つかり、その治療法の糸
口になるものと期待されている。ワシントン大学のジョージ
・マーチン博士は早期老化症(ウエルナータイプ)の研究者
で、1996年、この原因遺伝子を発見した。8番目の染色
体にある遺伝子の突然変異(DNAのキズ)である。これに
よりある1つのタンパク質(酵素)が作れなくなり、キズが
修復されなかったのである。老化はこのキズがどんどん溜ま
ることによって起こると考えられている。実はこのキズは健
康な人も増え続け不老不死を阻んでいることも分かってきた。
 例えば、酸素は細胞のミトコンドリアでエネルギーを作り
出す時に使われるが、このとき活性酸素も作られ、この活性
酸素が細胞にキズをつけるのである。そのキズはたった1個
の細胞だけでも1日、数万ヶ所に及ぶといわれる。しかし、
DNAにはこのキズを治す酵素を作る働きがあるが、修復不
能と分かると細胞を自殺(アポトーシス、写真)させる。

 この結果、細胞が減って脳や心臓の老化が始まるのである。
それでは減った細胞を補うことはできないのか。細胞はふつ
う、細胞分裂でその数を増やすが、実は分裂の回数には限界
(時計)があることが分かった。寿命3年くらいのネズミで
は15回、175年のガラパゴスゾウガメでは125回、人
間では60回くらいである。この時計とは一体何なのか。
 グリム童話にある「寿命のロウソク」のように、細胞の中
にも年をとると短くなる寿命のロウソクがあったのである。


②命の時計=テロメア

 1990年、科学論文誌「ネイチャー」である論文が発表
された。そこには「細胞は分裂するたびにDNAのある部分
(テロメア、写真)が短くなる」と書かれていた。

 実際、テロメアがある程度短くなってしまうと、細胞は分
裂を止め老化が始まる。「テロメア」こそ命をつなぐ時限装
置つき時計だったのである。1998年1月、ワシントンポ
スト紙に「不老不死の薬」発見のニュースが載った。テキサ
ス大学南西医療センターのジェリー・シェイ博士は、遺伝子
操作によりテロメアを長くして細胞の寿命を何倍にも延ばす
ことに成功した。しかし、生殖細胞などにあるテロメラーゼ
(酵素)を使い細胞を不老不死に出来たが、不完全な細胞が
残って病気になり死に至るという。結局、テロメアを持つ限
り細胞分裂の回数に限界があり、人の不老不死は夢であるこ
とが分かった。生命は長い進化の中で、大腸菌(写真左)と
コウボ菌(写真右)に代表される2つの生き方を模索してき
た。

 大腸菌はリング状のDNAを持ち、無限に細胞分裂して親
と全く同じ子孫を伝えていく不老不死の生き方、コウボ菌の
方は線状のDNAで細胞分裂のたびにテロメアが短くなり、
寿命に限界がある生き方である。東京大学の石川冬木博士は、
遺伝子操作でコウボ菌のDNAをリンジ状にして観察した。
 すると両親の遺伝子の組み換えが出来なくなったのである。
これは多様な生命を生み出すこと(進化)が出来ないという
ことを意味する。結局、テロメアとは、遺伝子の組み換えに
よって新しい可能性を持つ子孫を残す。一方で、親には限り
ある寿命を持たせてしまう“両刃の剣”だったのである。
 コウボ菌のように線状のDNAを選んだ生物は、不老不死
を棄てるのと引き換えに新しい組み合わせの遺伝子を残し、
いつしか多細胞生物に進化し、多様な地球生命を生み出して
きたのである。この時、生命にとってもう1つの大きな出来
事があった。それは多細胞生物が体細胞と生殖細胞を持った
ことである。こうして多細胞生物では体細胞にはテロメアと
いう時限爆弾が仕掛けられ、その一方で生殖細胞にはテロメ
ラーゼという細胞の寿命を延ばす酵素が与えられ、時限爆弾
が最後の時を刻む前に、有性生殖によって親の体から生殖細
胞を脱出させたのである。親の体細胞は生殖細胞を残すと死
を迎えるように仕組まれた(写真)。しかし、死までの時間

は生物によって違い、とりわけ人には子孫と共に過ごせる長
い時間が与えられたのである。だからこそ、その時計が時を
刻むのを止める瞬間まで、次の世代の遺伝子の可能性を見守
りながら、自分の生きた証を受け渡していくことができるの
である。

  

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