「日本の一番長い日」というドキュメンタリーがある。半藤一利氏原作。ただし小説ではない。映画としても有名である。
昭和20年8月14日夜、近衛師団の椎崎中佐、畑中少佐は近衛師団長を殺害した上、ニセの命令書を作り、近衛師団を宮中に乱入させた。
玉音放送のレコードを奪うためである。
天皇のいた「ご文庫」の周りを兵が囲った。空襲でも閉められなかった鉄の扉が閉められた。
近衛師団(天皇直属の軍隊)が天皇に銃を向けた。といっても言いすぎにはならない。実際、乱入に備えて鉄の扉が閉められた。「ご文庫」以外の宮中は荒らされ放題荒らされた。レコードが発見できなかったからである。
天皇制軍隊の本質がここにある。一方に硬直した軍部官僚主義があり、一方に狂気ともいえる過剰なナショナリズムが存在した。前者を統制派、後者を皇道派という。
クーデターは結局東部軍の森司令官に寄って鎮圧される。畑中らは自殺する。田中司令官もその後の小規模の反乱を鎮圧したあと自決する。
阿南陸軍大臣は事態を知っていた。が、あえて止めることもなく自決する。
そして玉音放送は無事流される。
古来、天皇を握ったものが官軍(正統)となる。
天皇を政治の場に出してはいけない。それは今上天皇が最もよく理解されている。近代日本史が教える最も大切な教訓である。「聖断」は憲法上許されない行為であったが、あの場合はあれ以外になかった。それ以後、昭和天皇は聖断どころか「判断」も示さなかった。アルバイシンの丘さんのコメントを引用させていただく。
(将棋の米長氏が昭和天皇に言った)『全国の教育現場に日の丸・君が代を普及させるために頑張っています』といった趣旨だったでしょうか.
これに対して天皇が『強制にならないように』といった趣旨の返事をされたわけです.
この件は覚えておられよう。本来天皇は「強制にならないように」という判断も口にしたくはなかったろう。しかし何も答えないと認めたことになる。仕方なく米長氏を諌めた、わけである。
君側の奸をのぞく=代表例:忠臣蔵、226事件。
場合によればおいさめしてでも=極右、天皇合祀した靖国宮司など。
旧軍部、特に陸軍では天皇に近しいものほど天皇を認めず、中には「天ちゃん」などと当時まだ若かった昭和天皇を小ばかにする者もいたとか。
これは天皇というものに限らず、組織というものの性でしょう。一般企業においても、社長と距離のある平社員は何の疑いもなく、社長という地位にあるというだけで社長という人物までなんとなく尊敬してしまいますが、社長に近い役員ともなると、社長の人物をバカにしていたり。
天皇が危険なのは、日本には天皇を長とする「一家」という「信仰」があるからでしょう。ただこの「信仰」は徐々に綻びつつあるようにも見えますね。
靖国公式参拝問題は却って、中国、韓国を刺激し、それらの国との間に意図的に緊張感を作り、準戦時体制をもたらそうとしているようにしか思えない。
彼らにとっての愛国心とは、自分たちの組織への求心力に過ぎないような気がする。