
とくべつばんでしゅ~

たいわんのネコのニュースでしゅ

朝日新聞記事から
◇猴トンにいる猫の推定数 100匹
(多くは不妊手術済みだが、未手術の猫もいて、総数はあまり変動しないという。)
台湾に、猫がいっぱいいる村がある――。そう聞いたのは台北に赴任してすぐだった。訪れてみたら、山あいのさびれた集落に猫がいるわいるわ。この不思議な空間は何かの世界イチ?
■海外からも客、CNNが紹介
気づいたら、写真撮影用に持っていった脚立の上に、猫がいた。黒毛に茶色のまだらが入った小柄な猫だ。「えさちょーだい」。そう言わんばかりにクリクリした目で見上げてくる。
台北から車や鉄道で約1時間の猴トン(ホウトン)。「人と猫共用の橋が完成した」という昨年3月末のニュースに、猫好きのアンテナがピピッと反応した。調べてみると、海外からも観光客が訪れる人気のようだ。最近は猫で有名な「6大旅行スポット」の一つとして、米CNNでも取り上げられた。
実際に訪れて驚いたのは、猫たちの警戒心のなさだ。ひざまずいてカメラを構えていたら、キジトラの猫が乗って来て動けなくなった。茶トラは足元で寝そべってくつろいでいる。つい顔がにやけてしまう。
駅長室に堂々と出入りする「猫駅長」もいる。名前は「阿肥(アープイ)」。阿肥は電車が来たらきちんと避難するが、中には気づかない猫もいる。このため、駅には猫の近くに投げて電車が来たことを知らせる石が置かれている。
駅前には「常有猫出没 請減速慢行」の道路標識。運転者に猫への注意を呼びかけている。何もかもが猫中心だ。
■数で無理なら「人懐こさ」で
猫を連れて海外と日本を行き来するようになり、十数年になる。台湾に来て感じたのは、猫がいっぱいいる、ということだ。住んでいる台北市内のマンション隣の市場の周りにも、10匹ほどはいるだろうか。夜になると、市場のトタン屋根の上で「猫の集会」が開かれている。
きっと台湾の人たちは猫好きに違いない、その台湾人が好きな猫村は世界一だろう――。強引に仮説を立て、取材を始めた。
猴トンの一帯はかつて、炭鉱で栄えた。その衰退とともに人口も流出し、駅の山側にへばりつくようにして建つ集落に住むのは200人ほど。以前は外から訪れる人もほとんどなかった。
だが、ほかの過疎の村とは一つ、違う点があった。猫がたくさんいたのだ。
「ずっとここに住んでいる」という60代の林美芽さんによると、子どものころは300~400匹はいたという。ねずみ対策で重宝されたらしい。
山に向かって右手に住むセン碧雲さん(60)の説明はちょっと違う。13年前、近所の住民が亡くなった。その家の5匹の猫が2年後には繁殖して30匹余りに増えたという。今は53匹を世話し、えさ代は月に2万台湾ドル(約7万円)かかる。
猫と人間が静かに暮らしていた村を「発見」したのは、「猫夫人」として知られる写真家の簡佩玲さん(44)だ。2008年10月にこの地を訪れ、猫の多さに圧倒された。週2、3回のペースで通い、1年かけて住民との関係を築いた上で獣医師の夫と不妊手術やワクチン接種などの保護活動に乗り出した。
ブログや著書で紹介し、10年に活動がメディアで取り上げられると、人気に火がついた。猫は強い警戒心を見せていたが、えさをもらえると知ると近づいてくるように。今ではすっかり人間に気を許している。
「台湾の人は猫好きですよね」。簡さんにそう聞くと、意外なことに「違う」という。夜に活動することが多い猫は「化け物」と結びつけられ、むしろ嫌われていたのだ。仮説はもろくも崩れつつある。
猫を飼う習慣は、終戦までの日本統治時代に持ち込まれたという説もある。最近はネット上で猫写真の人気が出たこともあり、猫好きが増えているという。
さて、肝心の世界一かどうかだが、30カ国以上で猫を撮ってきた動物写真家の岩合光昭さんに聞いてみた。「猫は1カ所にたくさんいる。100匹くらいというのはよくある」。どうやら数では無理なようだ。「人懐こさでは世界一」という簡さんの言葉で良しとしよう。
■台北支局長・鵜飼啓(記者のいいね!ポイント)
猴トンが猫村として珍しいのは、台北という大都市からの交通の便の良さだ。
猫が多いところは島が多い。地中海では船乗りが連れてきた猫が島々に居着いたという。島と猫。響きは良いが、訪ねていくのが大変、ということでもある。
取材でも、猫島として知られる宮城県の田代島を訪ねようとした。対岸の石巻まで行ったが、海が荒れていて島に渡れなかった。
猴トンにはそういう困難はない。週末は混雑するが、子連れや若者でも気軽に行ける。猫とふれ合い、生命の尊さを知る貴重な教育の場になっている。
〈+d〉デジタル版に「取材余話」