ひとりで生まれて来たのだから

一人が好きな寂しがり。
二律背反のタムラが送る愛の言霊。

だいかんのたまご。

2016年01月24日 | コバナシ日記。
大寒の卵、というものがあるらしい。

以下、引用
 二十四節気のひとつ、大寒。一年で最も寒さが厳しい時期とされ、武道の寒稽古も大寒に行われています。
この日に生まれたたまごは、昔から「食べると健康に暮らせる」といわれ、「寒たまご」として珍重されてきました。
寒さのため鶏の産卵数が減り、その分たまごの滋養分がたっぷりになるからです。
また大寒から5日間は、中国では「鶏始乳」と呼ばれ、鶏がたまごを抱き始める時期とされています。
寒たまごには「生気に満ちあふれた縁起物」という面もあるのです。そのため風水の世界では、
「寒たまごを食べると金運が上昇する」ともいわれています

もう過ぎとる・・・ということで
来年の自分が覚えていることを願う。

とか覚書をしつつ
ポシャったけどイベントで使おうと思っていたお話をここで晒してみる。
お暇な方は読んでみてください。





『わかれとであい』




高校時代、いつも一緒に行動する友人がいました。
通学の電車も同じ、クラスも同じ、毎日毎日友人と楽しく過ごしていました。
たまに喧嘩をすることもあったけど、友人は自分の悪いところはちゃんと認めて
同じ過ちは繰り返さないようにしていました。
私はそんな友人が大好きで、誇らしくもありました。
友人も私のことが好きだと、根拠はないけれど信じられる。
そんな関係でした。

高校三年の冬、私は就職、友人は進学が決まりました。
ホッとした次の瞬間、とてつもない寂しさに襲われました。
卒業したら、今までのように、会えない
そのことに気付いたのです。
でも、卒業まではまだもう少し時間がある。そう思って
今まで通り友人と過ごしていました。
そして、卒業式の日。
私は、たくさん泣きました。
友人が私の背を撫でながら言いました。

「なんでそんなに泣くの?もう会えないわけじゃないのに。会いたきゃいつだってあえるじゃない」

確かにそうだし
そう言ってくれる友人にホッとしました。
でも、そうじゃない。
そうじゃないんだよ。
上手く説明できなくて、いつものように笑う友人を見て、また泣いた。

「泣き虫だなぁ」

そう言って友人は私の背を撫で続けてくれました。

友人は、いつだって会えると言った言葉通り
会いたいときは連絡をくれたし、私が会いたいと言えば時間を作ってくれた。
でも、友人は学生、私は社会人。
時間が合わなくなって少しずつ会う時間が減っていきました。

「元気してる?久しぶりに会いたいなぁ」
「うん、会いたい!時間が合えば会おうよ」

そんなメールのやり取りがしばらく続いて
それから、パタリと連絡はなくなった。

私は、そんなものだよね。と思った。
私には会社の付き合いもあるし、恋人もいる。
友人もそうだろう。
友人は、高校時代一番仲の良かった人、という思い出の登場人物になった。

気が付けば卒業してから二年が経っていました。
先日、久しぶりに友人から連絡が来ました。

『覚えていますか?高校の同級生だった片岡です』

そんな堅苦しい始まりだった。

『最近、よく思い出すことがあるんです。
 私たちの高校の夏服は壊滅的にダサかったよね。色も黄色でさ。目立つからなのかちっちゃい虫が寄ってきたよね。
 靴下は指定でさ、一足700円もするから穴が開いても履き続けてたよね。
 マユちゃんが重ね履きしてきて、これなら穴が目立たない!と胸を張っていたね』

あぁ、そんなこともあったなぁ、と振り返って少し笑った。

『卒業式の日。マユちゃんはすっごく泣いていましたね。
 私、あの時なんでこんなに悲しがるのか本当にまったくわからなかったの。
 死ぬわけじゃないのに、遠くに行くわけじゃないのに、なんで?って
 でもね、やっと気づいたの

 もう、あのダサい夏服は着なくていい。靴下は好きなものを選べる。
 でも、それを一緒に笑いあえなくなる

 あの頃の私は、それが全然わかってなかった。今、やっと気づいて
 今、やっと、あの頃のマユちゃんみたいに泣けました。
 あの時、一緒に泣けていたら・・・そう思います。
 まだ肌寒い日が続きますが、体に気を付けて。それじゃ』

そんなメールでした。
明日、彼女とお酒を飲んできます。

おしまい


ほらぁ。

2015年11月09日 | コバナシ日記。
 コバナシ日記です。
 どこかで読んだことのあるようなものを
 つなぎ合わせたようなお話になったなぁ。
 独創性?オリジナリティ?
 難しいよねぇ。



『もしもし』


 「私の高校時代の友達の従妹の友達の話なんだけどね」
古い知人が突然電話をかけてきて、前置きなしに話しはじめた。
彼女とはそんなに親しくなかったのだけれど
まるで昨日も会ったかのような自然で親し気な口調に思わず「うん」と相槌を打った。

 「最近離婚したみたいでさ。旦那の浮気が原因で」
彼女は私の返事を待つことなく畳みかけるように話し続ける。
いかに旦那が悪い人間か、浮気相手がいかに酷い人間か、それを私にぶつけてくる。
耳から言葉の毒が染みこんで、脳味噌まで腐りそうな気分になった。

 「慰謝料をもらってその子はやり直そうって引っ越したの」
次は、彼女の友達の従妹の友達がいかに頑張り屋さんでステキな人間かを語り始める。
興味はないし、非常に面倒だけどコチラが言葉を挟む隙を与えてくれないので
電話を切るに切れない。

 「それからね、その子は猫を飼いはじめたの」
次はいかに猫が可愛いのかをダラダラ喋るのかと思いきや
彼女の言葉に少しの間が空いた。
いまだ!と思って、電話を切ろうとしたがそれを許さないかのようにまた話しはじめる。

 「その猫、姿を見せてくれないのよ」
 「餌を食べてる形跡はあるの」
 「寝ていると少しごわついた毛並みがその子の手にじゃれついてくることもある」
 「でも、姿が見えないの」

その女性が頭おかしくなってるんじゃないのか、と思った。
いい加減私もイライラしてきたので彼女の言葉をさえぎるように声を張り上げた。

 「ねぇ、あなたの友達の従妹の友達の話が私に何か関係ある?
 もう夜も遅いしいい加減にしてくれる?」

彼女は、少し黙った。

 「じゃあもう切るからね」

電話を切ろうとした時、電話の向こうから彼女の金切り声が響いた。

 「最後まで聞きなさいよぉぉぉぉ!!!!!」

おもわず動きが止まった。耳から離れた電話の向こうで彼女は叫び続ける。

 「大きくなってるんだってぇぇ!!その猫!どんどん大きくなってるんだってぇぇ!!!
 今じゃ大型犬くらいなんだって!!!ねぇ、ありえる?ありえないよね??
 もうね、キャットフードじゃ満足しないみたいでさぁ!
 最近は冷蔵庫の中のものを食い散らかしてるらしいよぉぉ??」

なんなのだろう、こいつ頭おかしいんじゃないのか?
もういい、このまま切ってしまおうと思うけれど
手が震えていてうまく操作できない。

 「み、見えないのになんで大きさがわかるのよ・・・ちょっと落ち着きなさいよ」

 「・・・見えなくてもわかるんだって・・・手に触れてくる感触とかで・・・」

クスクスと笑いながら喋り続ける。

 「でね・・・その猫が最近、いろいろ持ってくるんだって。
 初めはネズミとかスズメとか、小さな動物だったんだけど・・・」

ガタン、とベランダから音が聞こえた。
電話の向こうでは彼女が喋り続けている。

 「彼女、なんとなくお願いしてみたんだって。次は犬をとってきてほしいって。
 そしたら、次の日には犬の死骸があったって」

ガタガタとベランダの音が続いている。
私は電話片手にベランダに近寄ってみた。

 「これは、もしかしたらって思って
 試しに別れた旦那をお願いしてみたんだ。やっぱり未練はあったんだよねぇ」

そっとカーテンを開ける。

 「旦那、連れて来たよ。流石に丸ごとは無理だったみたいだけどね」
 「まぁ、一部だけでも戻ってきてよかったよね」
 「あぁ、そうそう。あなたの彼氏は今どうしてる?」
 「最近連絡ないんじゃない?」
 「でね、その子は優しいからさぁ、旦那が既婚者だって知らなかった浮気相手のことも考えてさ」
 「会わせてあげようって思ったみたい」
 「ねぇ、もしもし?聴いてる?」

 「もしもーし。ねぇ、聴いてる?」
おしまい


どよりひ。

2015年11月01日 | コバナシ日記。
今日も書いてみた。
笑うセールスマンみたいなものをイメージしたよ。
短編ですが、読むには長いかもなので
読んだろかいなぁ、という方だけどうぞよろしくなのです。




『幸重計』


 『人間に与えられる幸も不幸も人生を通してみればプラマイゼロになると言われています
  では、あなたに与えられた幸せはあとどれくらい残されているでしょうか?!』

 何気なくつけていたテレビを二度見した。
 ウソ臭い笑顔を張り付けた男女が、映っていた。

 彼らの前に置かれたテーブルには、古めかしい形の体重計が置かれている。
 
 『わが社が誇るこの新製品・幸重計はあなたに残されている幸せを数値化してお知らせすることができます。
  使い方は超簡単!ただ乗るだけ!乗るだけであなたの幸福を計ることができるのです!』

 『わぁ!とっても簡単ですね。でも・・・幸せの残量を知るなんて、少し怖くないですか?』

 女性はアシスタントなのだろう。
 視聴者の代弁のような役割を果たしている。

 『確かに、そういう声は開発段階でありました。ですが!!プラスマイナスゼロなんですよ?』

 『えぇ、そうですね』
 
 『つまり!ここに現れる数字が減ってきたら、何か不幸になればいいのです!!』

 自信ありげに叫ぶ男性に思わず、顔をしかめてしまった。
 女性アシスタントも同様にちょっと困ったように眉を寄せる。

 『不幸に・・・と言いましても、望んで不幸になるなんて嫌ですよ~』

 『安心してください!自分で不幸を選ぶんです』

 『不幸を、選ぶ?』

 『そうです!たとえば、わざとタンスの角に足をぶつける、など些細なことをするんです』

 『楽しみにしていたお菓子をわざと落とす、とか?』

 『そうです、そうです!!他愛もない、自分が我慢できる範囲の不幸をわざと起こすのです。
  それでも不幸には違いがありません。不幸が増える、そうすると、どうなりますか?』

 『幸せも増える・・・そういうことですね!!』

 女性アシスタントの顔がぱぁっと明るくなった。
 ひどくわざとらしいが。

 『では、試しに松山さん乗ってみてください』

 男性が促すと、カメラが切り替わり女性の足元と幸重計が映し出された。
 おそるおそる乗るとクルクルと数字が動き、やがてぴたりと止まった。

 『35、ですね』

 『はい。松山さんの残りの人生において幸せはあと35回分訪れるということになります』

 『あ、この数字は回数なんですね』

 そう言って、幸重計から降りる松山さん。
 またカメラが切り替わり、ニコニコしている男性と微妙な顔をした松山さんが映る。

 『35回かぁ・・・これって喜んでいい数字なんですか?』

 『多いほうだと思いますよ!松山さんと同じ年齢の別の女性は5でした』

 『5ですか!残り5、というのは不安になりますね』

 『そこで、僕たちは彼女の幸せを増やす方法を考えました』

 『わざと不幸になる、というやつですね。どんな方法を試したんですか?』

 『はい。では松山さんにも試してみましょう!』

 男性はニコニコしたまま松山さんの正面に立ち
 思い切り松山さんを平手打ちした。

 パーン!!と空気を裂くような音のあとに
 松山さんがふらついて倒れる音が続いた。

 『はい。では、松山さん。もう一度乗ってみてください』

 そう言って乱暴に松山さんを起こすと、幸重計に促した。

 『は・・・はい』

 真っ赤に腫れあがった頬を隠すことなく松山さんは幸重計に乗る。
 先程と同じアングルになり、出てきた数字は・・・


 『40です!5も増えましたね!!』
 
 『ほんとだ!少し叩かれるくらいで幸せが5も増えるなら耐えられます!!』

 そういう松山さんの頬は、少し叩かれた、では済まない状態になっていた。

 『この幸重計!今なら、些細な不幸ガイドブックもつけてたったの
  19,800円!!いちまんきゅうせんはっぴゃくえんです!!』

 『わぁ!そのお値段で人生の幸せを買えるなんて物凄く得ですよね!!』

 二人はニコニコと笑っている。
 その絵面があまりにも不気味で、そっとテレビを消した。

 でも・・・
 少し気になるなぁ。

かんがない。

2015年10月31日 | コバナシ日記。
 こんにちはこんばんは、トリックもトリートもないタムラです。
 脚本を書くようになったけれど
 まだまだ稚拙だと思う。
 習うより慣れよ、そんな言葉を思い出したので書いてみます。
 まぁ、自己満足的にこっそり書いてもいいんだけど
 誰かが見ている、というものがあった方がいいんじゃないかと思いまして。
 短編ですが長いですので、読んでみたろかいな、という方だけこの先はお読みください。
 チャゲ〇スの『One Day』 という曲を聞きながら浮かんだお話です。
 


『ONE DAY』

 朝目が覚めて、時計を見て絶望した。
 今日も遅刻が決定だ。

 目覚ましをヒトツフタツと増やしても
 就寝時間を早めても
 何をしても朝、ちゃんと起きることができなかった。

 こんなものは甘えだ。
 どうしても起きれないんです。
 なんて言い訳は社会じゃ通用しない。

 焦っても仕方ないけれど、最低限のメイクだけで家を飛び出る。
 電車に乗りこみ、少し長めに息を吐く。
 自分が悪いのだが、どうしても気持ちがささくれだつ。

 スマホをとりだし、ラインを開く。
 恋人に送ったラインは、既読がついているだけで返信はない。
 次の休みの予定を聞いたのは二日前。
 忙しいのかな?と送ったのは昨日。
 どちらにも返信はない。
 
 もう一度、息を吐く。
 わざとらしい溜息にならないように気を付けてゆっくりと。
 眉間に皺が常駐していることに気付き軽くもみほぐす。

 会社に着いて、挨拶もそこそこに自分の席に着く。
 パソコンを立ち上げ、電話にも率先して出て
 遅刻なんかしていませんよ、という顔で職場の空気に溶け込もうとする。

 お昼休みを知らせるチャイムがなり
 みんな各々に昼食へ向かう。

 女子社員たちは会議室を占拠して、お弁当を開いている。
 食欲を感じなかったので、私は缶コーヒーを買って喫煙室に入った。

 「おつかれさまでーす」
 
 スマホから目をそらさないままおざなりに挨拶してくる同僚。

 「お疲れ様です」

 私もおざなりに挨拶を返し、スマホに目をやった。
 もちろん恋人から返信はない。
 それでも他にすることもないから無意味にいじる。

 「進藤さん」

 突然同僚が話しかけてきた。

 「はい」

 少し驚きながら顔をあげる。
 同僚は話しかけてきたにもかかわらず、目線はスマホにしか注がれていなかった。

 「次の契約更新はないっすよ。ってか、今月いっぱいでおしまいです」

 突然告げられた内容は予想はしていたけれど、ショックを受けるのに充分な言葉だった。
 
 「遅刻が多すぎっすよ。それに、居眠りもよくしてるでしょ」

 「あ・・・すみません」

 「なんでそんななんすか。病気っすか?」

 いっそ病気ならいいのに。と、思った。

 「いや・・・すみません。わざとじゃないんですけど・・・」
 
 「ま、あとで課長から直接言われると思います。お疲れ様でしたー」

 バタン、と扉が閉まる。
 同時にピロンと間抜けな音がスマホからした。

 慌てて画面を見ると

 『ごめん、もう会えない』
 
 差出人は確かめるまでもなく恋人だ。
 予想は・・・していた。
 実現してほしくはなかったけれど。


 
 課長からクビを宣告されて、明日から有給消化に入ってそのまま退職になるらしいこと。
 引き継ぎも必要ない程度の仕事しかしていなかったのかと今更気づいたこと。
 
 それらすべてフワフワとした気分のまま受け止めていた。

 帰宅して、靴を脱ぐのも億劫でそのまま玄関にへたりこんだ。
 ノロノロとカバンからスマホを取り出し
 恋人に『どうして?』と送ってみた。
 
 送ってから、返事が怖くなってバスルームに駆け込んだ。
 そして、目を見張った。
 
 天井から滝の如く水が漏れ出ていた。
 慌てて外に出て扉を閉める。

 管理会社に電話してみても
 営業時間外のアナウンスが流れるだけだった。

 とりあえず上の階の住人に話をしようと尋ねていくと
 鬱陶しそうに対応された。

 「水漏れがひどいので、管理会社が対応してくれるまでお風呂を使わないでもらえるとありがたいのですが」

 「そんなこと言われても困る。それに、別にうちには実害ないですし」

 バタンと鼻先で扉を閉められる。
 そして、当てつけのようにシャワーを流す音がし始めた。

 部屋に戻ると、バスルームから少しだけ水が染み出ていた。
 隙間にバスタオルをつめ、部屋への浸水をふせぐ。

 スーツの裾が濡れている。
 しばらく着ることもないだろうからクリーニングに出してしまおう。
 のろのろと着替えをして、スーツを鞄に詰め込んだ。

 メイクを落とすため、洗面所は使えないからキッチンのシンクに向かい蛇口をひねる。

 ひねっても水が出ない。
 一度締め、もう一度ひねってみると
 ゴボ、ゴボとイヤな音がして、そして赤茶けた水が噴き出した。

 慌てて蛇口をしめる。
 管理会社に・・・とスマホに手を伸ばそうとして
 さっきの無機質なアナウンスを思い出す。

 恋人の家に泊めてもらおうか、と考えたところで
 もう会えない、という文字が頭に浮かんだ。

 実家に帰ろうかと考えたけれど
 今出発したら、途中の駅で立ち往生になってしまう時間だった。

 友人を頼ろうと思ったけれど
 近くにいる友人のほとんどが既婚者だということを思い出す。

 とりあえずコンビニに行って、水と食料を調達しなければ。
 ついでにお手洗いも借りよう。
 そう思って鞄から財布を取り出そうとしたのだが・・・

 ない。

 どこかで落としたのか会社に忘れたのかわからないけれど
 鞄の中に財布の姿はなかった。

 とにかくカードの利用は停止しなければとカード会社に連絡する。
 ここにはつながった。
 当たり前なのだけれど、それがなんだか嬉しかった。
 事務的な口調でもそれでも会話を続けたいと思ってしまった。

 電話を終えて、また静かな部屋になった。
 そうなってから、私は泣いた。
 ホントは泣き叫びたかったけれど
 少し声を上げただけで隣の部屋から壁を強めに叩かれた。

 枕に顔をうずめて、必死に声を殺して、私は泣き続けた。
 そのうちに眠ってしまったらしい。

 眠りという一瞬の安息を壊したのは
 毎朝私に無視され続けてきた目覚ましたちだった。

 一つずつ丁寧に止めていき
 もう会社に行くことがなくなってから起きられるなんて、と笑いがこぼれた。

 バスルームの前は、タオルの許容量を超えた水が部屋に侵食していた。

 スマホを見ると、恋人からの返事はなく、それどころか既読すらついていなかった。
 ブロックされたらしいことをなんとなく悟る。

 赤茶けた水が飛び散ったシンク。
 
 
 部屋の真ん中で、スマホ片手に私は思った。

 あぁ。

 私は自由だ。と。