2012年に79歳で亡くなったTさん(女性)の晩年は、幸福感に包まれていた。
ご主人は小さな出版社を経営していたが、本がなかなか売れず、ご主人の会社で経理をしていたTさんも、年がら年中、資金繰りの心配をしなくてはいけない毎日。持ち家もなく、何十年も、家賃の安い、団地暮らしをしていた。エレベーターのない五階建ての五階。
だが、思いがけず、出したうちの一冊がベストセラーとなり、突然、まったくおカネの心配をしないですむ時が訪れる。会社も息子が跡を継いでくれるメドがたち、彼女にとっては長年の苦労が報われた日々となった。
「もう思い残すことはない。この先の私の目標は、みんなに迷惑をかけず、ポックリ逝くことだけ」
と口癖のように語っていたという。
だが、日常生活の中で、死を予感させることはまったくなかった。
せいぜい高血圧の薬を飲むくらいで、かえって心臓が弱く、常にニトロを欠かせなかったご主人の方が、よほどいつ倒れるかと周囲が心配していたくらい。
ボケもない。ご主人の会社での経理の仕事は80近くなっても続けていて、11時から6時まで、規則正しく仕事をこなしていた。
どちらかといえば「健康マニア」。酒もタバコもやらず、コーヒーもあまり健康に良くないからと言って飲まない。イワシが、体にいいアガリクスがたくさん含まれているからと、自分はもちろん、家族にもせっせと食べさせる。
おかげで、Tさんの外見も、とても70代後半には見えない若さだった。
そんなTさんが突然倒れたのが、ある秋の日。息子さんの話によれば、その2日前に電話でやり取りした時には、いつもとはまったく変わらない元気な声だったという。
ところが、その息子さんが、新しい本を作るための取材旅行に出掛けている最中、いきなり朝、会社から電話が入った。
「お母さんが倒れた。すぐに戻ってきてくれ」
と。戻ってみたら、すでにTさんは亡くなっていたという。
検死した医師の話では、突発性の動脈瘤破裂。だが、あまりにも急で、痛みを伴う死ではなかったのは、穏やかな死に顔を見てわかったとか。会社で一緒にいた社員によれば、もう突然に倒れて、近づいてみたら、すでに息をしていない状態だったらしい。救急車は呼んだものの、すでに手の施しようはなかった。
亡くなった後でも、周囲の人たちは、なぜあんなに若くて元気だったTさんが突然倒れて亡くなったのか、原因がわからない。そして、
「ようやく本が当たったのだから、もう1年長生きして、おカネをたっぷりつかってから逝けばよかったのに」
とも言い合ったそうだ。
(Tさんから学ぶピンコロへの道)
ずっと健康と若さを維持し、長年やってきた仕事の成果もようやく出て来たところで痛みもなくコロッと死ねるとは、羨ましいくらいの人生の結末だ。
恐らく、自分はまだ世の中や、夫、子供たちに必要にされている、という状況が支えとなって、日々、心地よい緊張感を保ち続けた結果、アタマも老化せず、鮮やかな最後を迎えられたのだろう。
「役者は舞台の上で死ぬのが夢」
なんて話もよく聞く。ポックリ死願望を果たしたTさんも、仕事の最中に亡くなったことには強い満足感があったろう。
緊張感を伴って、やれる限り仕事を続ける、そこにもピンコロを実現できる要素があるのかもしれない。
ご主人は小さな出版社を経営していたが、本がなかなか売れず、ご主人の会社で経理をしていたTさんも、年がら年中、資金繰りの心配をしなくてはいけない毎日。持ち家もなく、何十年も、家賃の安い、団地暮らしをしていた。エレベーターのない五階建ての五階。
だが、思いがけず、出したうちの一冊がベストセラーとなり、突然、まったくおカネの心配をしないですむ時が訪れる。会社も息子が跡を継いでくれるメドがたち、彼女にとっては長年の苦労が報われた日々となった。
「もう思い残すことはない。この先の私の目標は、みんなに迷惑をかけず、ポックリ逝くことだけ」
と口癖のように語っていたという。
だが、日常生活の中で、死を予感させることはまったくなかった。
せいぜい高血圧の薬を飲むくらいで、かえって心臓が弱く、常にニトロを欠かせなかったご主人の方が、よほどいつ倒れるかと周囲が心配していたくらい。
ボケもない。ご主人の会社での経理の仕事は80近くなっても続けていて、11時から6時まで、規則正しく仕事をこなしていた。
どちらかといえば「健康マニア」。酒もタバコもやらず、コーヒーもあまり健康に良くないからと言って飲まない。イワシが、体にいいアガリクスがたくさん含まれているからと、自分はもちろん、家族にもせっせと食べさせる。
おかげで、Tさんの外見も、とても70代後半には見えない若さだった。
そんなTさんが突然倒れたのが、ある秋の日。息子さんの話によれば、その2日前に電話でやり取りした時には、いつもとはまったく変わらない元気な声だったという。
ところが、その息子さんが、新しい本を作るための取材旅行に出掛けている最中、いきなり朝、会社から電話が入った。
「お母さんが倒れた。すぐに戻ってきてくれ」
と。戻ってみたら、すでにTさんは亡くなっていたという。
検死した医師の話では、突発性の動脈瘤破裂。だが、あまりにも急で、痛みを伴う死ではなかったのは、穏やかな死に顔を見てわかったとか。会社で一緒にいた社員によれば、もう突然に倒れて、近づいてみたら、すでに息をしていない状態だったらしい。救急車は呼んだものの、すでに手の施しようはなかった。
亡くなった後でも、周囲の人たちは、なぜあんなに若くて元気だったTさんが突然倒れて亡くなったのか、原因がわからない。そして、
「ようやく本が当たったのだから、もう1年長生きして、おカネをたっぷりつかってから逝けばよかったのに」
とも言い合ったそうだ。
(Tさんから学ぶピンコロへの道)
ずっと健康と若さを維持し、長年やってきた仕事の成果もようやく出て来たところで痛みもなくコロッと死ねるとは、羨ましいくらいの人生の結末だ。
恐らく、自分はまだ世の中や、夫、子供たちに必要にされている、という状況が支えとなって、日々、心地よい緊張感を保ち続けた結果、アタマも老化せず、鮮やかな最後を迎えられたのだろう。
「役者は舞台の上で死ぬのが夢」
なんて話もよく聞く。ポックリ死願望を果たしたTさんも、仕事の最中に亡くなったことには強い満足感があったろう。
緊張感を伴って、やれる限り仕事を続ける、そこにもピンコロを実現できる要素があるのかもしれない。