真衣歌の心~蛸壺の中で

生きているとあれやこれやあるわねえ

仮想世界で生きる女

2021-03-01 15:04:03 | ショートストーリ~
昔むかし有る所にひとりの女がいた。
その女は50歳を過ぎて初めてSNSの楽しさに触れた。
SNSと言っても最初はタイピングで打ち込むだけの世界だったが、
最近、アバターが本人に代わり行動する世界が出来たのだ。
「貴女とそっくりのアバターが暮らす世界、
そこで、貴女は会話を楽しみ、いろんな所へ行き・・」
そんなキャッチフレーズとは裏腹に、
「貴女とは似てもに似つかわないアバターが・・・」
その世界で、女は自分を10代の少女に設定し、
10代らしい可愛い少女のアバターを作り、
過ぎた日々を風のように遡りたい思いか、
美少年を追いかけて、その世界に埋没して行った。

現実に、寝たきりでオムツを代えてやらなければならない姑と、
定年間際で老人特有の病気持ちになった夫と、
遅く生まれた子供を抱えて、
女の楽しみは、仮想世界で生きることだけになってしまった。
仮想世界と言っても、課金が付いてまわるのだが、
この女の場合は、
家計が自由になるだけあって、無尽蔵だ。
すでに課金は何十万を越えて、何時か大台に乗り込む勢いだ。
誰にも文句を言われる立場ではないので、
お金は使い放題だった。
時間も使い放題で、
夫と別の部屋で寝起きしている為、
仮想世界での女の行状は、家族は知らなかった。
24時間、パソコンをつけっぱなし状態で、
おまけにスカパーもつけっ放し状態だった。

この世界の少年達と(たまに大人)の交際の果ては、
仮想結婚の連続で、離婚と結婚を繰り返し、
月日は流れていった。
ライバルは、ことごとく卑劣な手段で蹴落とし、
好きな男は、ことごとく我が手に収め、
あまたの家来を従え、この世界の女王になるのが女の夢だった。
その夢の中で生きているうちに、
女は現実を思い知らされてしまったのだ。

それまでの更年期障害が酷く、薬漬けで生きていた現実。
望んでいた第2子ができたのかと有頂天で行った病院で、
閉経を宣告された現実。
それでも女は、今日もパソコンの中へ入って行く。
17歳の女になって。
(今度は中学生になろうかしら・・・)

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