優厳 × 赤鬼通信

社会参加活動の支援を目指す「なんちゃって社会貢献チーム」の、「優しく厳しい遊び場づくり」の迷走過程を記して行きます。

草津白根山にて、車椅子を押し上がる

2006年10月13日 | Weblog
 ロープウェイで、ちょっと不愉快になったこともあり、やはり自然とハンディキャップが向き合うときに見せつけられる限界を、改めて感じることとなったんだけど、まぁ、仕方がない部分もある。
 ピタラスロープウェイでは、階上に上がって食堂を利用することは出来なかったというか、することも想定していないような返事をされたのだけど、それでも建物脇にあったバーベキュー部屋を使って昼飯を食べることができたのだから、まだマシなのだろう。現実的な話をすれば、今時エレベーターはともかく、スロープ1つ用意していないと平然と返事するような受付案内があること自体、大笑いだ。問い合わせをするときは丁重に質問するけど、常識的には考えられない。つい、1時間も前に行ってきた蓼科牧場は、ロープウェイに乗ることができてるのだ、ガツガツと板を貼り直したり、スロープを作った痕跡が残っている。大したものだよ、ロープウェイに乗れたんだから、売店や食堂にスロープがなかったり、スロープの先まで行くと階段があって、結局どこの食堂も使えなかった事実は、許してあげたいものだ。
 新穂高ロープウェイも、駒ヶ根ロープウェイも、どちらもシッカリしていた。どちらも、高齢の方が観光で見えられることを十分に想定して、職員も準備されているし、設備も万端だった。高齢の方で、かつて登山をやってた方々は、せめてもの楽しみに山に近づこうと思ったとき、ロープウェイなどはその際たる手段になると思われる。
 何せ日本は、超高齢化社会が間近に迫っているのだ。顧客もどんどんと高齢化していく。高齢の多くは、いずれ障害を持つこととなる。そのとき、どんな顔をして、メインコンシューマー層である高齢者などを相手にしていくのだろう? とても不安になる。
 当たり前だけど、自然を相手にして何でも思い通りになるとは思ってなどいないけど、人の手が入っている場所で、かつ民間とはいえ、公益的な役割を果たす企業が携わっている業務について、「せめてこのくらいはやれてるんじゃないか・・?」という希望を抱いて、皆、目の前まで来る。でも、バッサリ閉じられてしまうのは、あまりにも不愉快なものというか、不本意なものだろう。バリアフリーなんて大袈裟なものではなく、「そこまで行くことのできる環境」を整備してあれば、「楽しみ」なんて、各々が見つけるに決まっている。だからこそ環境整備が大事なのだ。楽しさを提供することは、ディズニーランドとかで勝手にやってくれれば良く、「楽しさを自ら見つけられる人が、体感できるためのベースを社会資本で整備できれば・・」ということなのだ。


 ・・・というわけで、翌日は八ヶ岳を離れて草津白根山である。スロープの前に立ったところで、車椅子に乗った相棒は、当たり前のように「さぁ、行こう」という顔をしている。
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 「草津白根山の湯釜へのアクセスはとっても簡単。滋賀草津道路で山麓のレストハウスまでは車で登れるので、そこからだと徒歩でほんの10分(ゆるやかな登り約500m)。坂も比較的なだらかなため、小さいお子さんなら抱っこしてもたいした事はありません(草津白根山公式HP参照)。」
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 小うるさい駐車場の巡視から逸れ、スロープを歩き始める。コンクリートの、ナイスなスロープが延びている。途中で勾配を調整するために石がデコボコに積まれている箇所が何箇所もあるのだが、まぁ、山登りと同じである。ひたすら前に、上に向かって歩いてさえいれば、いつかは山頂に着く。なので、とにかく車椅子を押して上っていく。
 草津白根山の山頂は、約2160m。湯釜の展望台は、もう少し低い位置にあるのだが、駐車場のあるレストハウスの位置から 500m続くスロープ状の遊歩道を、高さ50m分まで登って行けば、大抵の方は湯釜を見ることができる。じいさん、ばあさん、おじさん、おばさん、若者、子ども・・・皆がせっせと歩いていく。歩き慣れない方たちも多いので、息を切らして歩いていくのが手に取るように分かる。草津白根は、いわゆる「深田百名山」としても有名なので、中にはハードでタイトな格好をした登山者も多い。
 だが、その中で車椅子を押して、せっせと歩く我々の姿は、どうもその中でも異彩を放っているようで、登り20分、往復30分程度の道中、そこにいた草津白根山の湯釜の観光客の多くが、未だかつて見たことの無いような光景を眺めるような、怖ろしい程の注目を集めてしまった。あのくらいの勾配で、あのくらいの距離であれば、まぁ、きっと多くの方が押して登ってるんだと思うし、背負った方が楽だったかなと思えるくらいの道なのだが、だからといって常時車椅子利用者が押して登っていく光景が見られるわけでもないだろうし、やはり足腰の弱い多くの方が諦めてしまうこともあるだろう。
 だが、だ。「設備を整えても、ロープウエイ山頂で待ちぼうけする事になってしまう要介助者様の対策までは結論が出せないでおります。」などという声を聞かされてしまうと、「要介護者」として目されるであろう自分は、どうにかこんな不愉快な論理を打破して行かなければなるまい・・と、妙に気合が入るのであった。一人で押し上げるのはしんどいのだが、誰かに手伝ってもらうのもしんどい。息が上がってくる最中に「頑張って」とか声を掛けられるのは、実はペース配分からすると邪魔だし(笑)、目の前を歩いてる人が心配そうに急に立ち止まって振り向かれると、今度は車椅子を相手にぶつけてアキレス腱とか切られそうで怖い。だからといって止まって息が上がってるところで、「手伝いますか?」と声を掛けられると、今度はそれも困ってしまう。「紐とかあれば、引っ張りますよ?」・・でも、紐でこの勾配を支えるのは不可能だし、補助機能としても難しい。仮に替わってもらったら、一体どこまで頑張ってもらえば良いんだろう・・? まぁ、あと残り道も少しってこともあるし、体力的にも何とかなる感じだったので、大丈夫ですと断ることになったのだが、断るのは心苦しいなー・・・そんなことを考えてしまうわけだ。
 こんなことを言ってはならないんだろうが、介助のプロは、介護技術を必要とするのだが、ボランティアレベルでは、腕力勝負のところが、まだ多い・・・と思っている。この場面だって、確かに「押せば良い」というものでもない、わけでもないのだ。でも、「押せば良い」と言えるためには、そこに至るまでにすっごく多くの経験と危機予測があって・・・
 とまぁ、そんなこんなで20分、車椅子を押し切ったところに見えたのは、まずは観光客の群れであった。「蔵王のお釜」にも最近バリアフリースロープができて、お釜の近くまで行けるようになったのだが、蔵王のお釜はでかいので、近づける距離も限界があり、そんなに迫ってはいない。でも、草津白根の湯釜は小さく、案外目の前にあるので、近くまで人がゴチャゴチャ迫っている。とりあえず、力を抜けるように座り込む。青い空、白っぽい土、薄めのエメラルドグリーンの湯釜、そして黒山の人だかり。火曜の平日に、これだけの観光客が集まるのかってくらい、人が並んでる。湯釜の水はph1。世界一酸性度の高い湖で、ちなみにバッテリーの電解液と同等のphらしく、水に浸かると、あっという間に解けるくらいらしいんだな。キレイな水には、毒がある(笑)。

 下りは、長大なスロープを下がっていくだけなので、あっという間である。当然、帰りの車は腕が乳酸が溜まってパンパンで、かつ翌日には手首がギリギリしてきたのだが、中々面白い体験だった。降りてきて、こんなに注目されると困るなとか言ってたら、湯釜の向こうから見てたとかって人が、わざわざ挨拶に来たりするので、声には出さないのだが、「今度、誰かを連れて来たときは、お前も車椅子を押して上がれよ」と、呟いたりするわけだな。
 後日談があり、帰ってきた翌日、一緒に車椅子で登った方は、「草津で山に登ってなかった? 友達が草津に行って、車椅子を押して登ってる人がいたって連絡を寄越したんだけど・・・」とか、いきなり言われたらしい。単なる偶然にしては、案外笑えるのだが、本人はお土産を買い忘れたこともあり、草津で日焼けしたのを、庭でバーベキューをやって日焼けした言って誤魔化してるそうだ。

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