情報労連REPORT編集部

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共感生み出すチェンジを/ハリス鈴木絵美・Change.org日本代表(REPORT2014年4月号掲載)

2014-04-23 09:00:00 | 労働運動

共感生み出すチェンジを

 

インタビュー・ハリス鈴木絵美/Change.org日本代表

 

(情報労連REPORT2014年4月号掲載)

http://www.joho.or.jp/report/20140415_1342332142/

 

与党多数の政治情勢の中で、労働分野の規制緩和に対抗するには、労働組合だけの力では足りない。世論をどう巻き込むのか。世界的ソーシャル・サイト「Change.org」の日本代表・ハリス鈴木絵美さんに聞いた。


 ─アメリカではオバマ大統領の選挙キャンペーンに参加していましたね。

08年のオバマキャンペーンは、若い人の巻き込み方やネットの使い方といった点でずば抜けてました。

 その中で一番よかったのは、有権者が自分の価値観をオバマに投影できる仕組みです。オバマのイメージが、「チェンジ」や「ホープ」といった抽象的でルーズなものだったので、有権者は、オバマのキャンペーンに自分のストーリーを投影することができました。

 多くの人を巻き込むポイントは、最初から政治的な話題をしないことです。政策を有権者に語りかける従来型の手法は、“政治マニア”にしか伝わりません。その外にいるマスに働きかけるには、「キャンペーンに参加すると、なんとなくかっこいい」という雰囲気を作らないといけません。その点、オバマの運動はビジョンの掲げ方がとても上手でした。

 また、インターネットの活用方法も歴史的でした。例えば、キャンペーンサイトに郵便番号を入力すると、近所のイベントとか、人とつながる機会がたくさん提供されるようになっていました。

 若い人を巻き込む点でも、パーティーやピクニックなどを開いて、「楽しいこと」を重視していました。人とのつながりを作るためには、楽しいこと8割じゃないとダメですよね。

 ─日本に帰国してインターネット署名サイト「Change.org」の代表になりました。

 「Change.org」は、オープンなプラットフォームなので、オバマの選挙キャンペーンより幅広い価値観を持つ人たちが集まります。そのなかで、多くの人から賛同を得るには団体の「色」をあまり出さない方がいいと思います。

 今の若い人たちは、自分の政治的な視点をあまりしっかりと持っていません。なので、カジュアルにいろんな人とデートする感覚で、賛同できるものがあれば、とても気軽に署名します。

 私はブラック企業対策プロジェクトにも参加しています。そこで大事なのは「プロジェクトそのもの」ではなく、「コンテンツの中身」です。

 先日、ブラック企業対策プロジェクトのサイトで、「ブラック企業の見分け方」というコンテンツを掲載したところ、これまで2万回近くのダウンロードがありました。ただ、そのユーザーたちは、サイトから情報を得るだけで去っていきます。それはプロジェクトにかかわる人たちにとってある意味、残念なことです。

 でも、大きな反響はありました。それがうまくいったのも、常にユーザー視点に立ってコンテンツを出す感覚が強かったからです。例えば、労働分野の規制緩和阻止に多くの人を巻き込みたいなら、その層の人たちのことを詳しくマーケティングして熟知し、ユーザー目線に立たなければなりません。

 ブラック企業対策プロジェクトのホームページは、デザインやイメージ作りも気にしました。政治色を打ち出すのではなく、誰が見ても賛同できるような、「見せ方」を大事にしたからです。

 ─その点、日本の労組や市民団体などの運動はどう見えますか?

 非常にもったいないって思います。私は労組や市民団体などの訴えにたくさん賛同しますが、その伝え方によって、外部の人が入りづらくなっている部分もすごく感じます。

 既存の労組や市民団体って、否定的なメッセージが多いですよね。「反対」とか「NO」とか。それは、ある一定の層に対しては完全に一致します。でも、運動を広めたいのなら、外部の人たちにどう見られているのかを考えなければいけません。その点、言葉はきついですが、日本の市民活動は自己満足で終わっていないでしょうか。

 アメリカでもインターネットを活用していない組合はたくさんあります。けど、かっこいいと思える活動をしている組合はネットをうまく活用しているし、メッセージもわかりやすい。否定的なメッセージがダメというわけではありません。ただ、それだけだと人は疲れてしまって運動が長続きしないということです。

 それから、日本の市民活動は、国に対して訴えかけることが多いと感じます。でも、それによって国が本当に変わるのかなって率直に思います。

 活動で一番大切なのは、小さな成功体験の積み重ねです。自分のアクションが何につながったのか実感を得られないままでは活動は続けられません。だから、活動目標を3カ月とか6カ月の単位で区切って、ステップを踏んでいくのが理想です。例えば、脱原発という大きな目標であれば、どれだけ小さなステップやアクションにかみ砕けるかが重要になります。

 ─労働組合はどうすべきでしょう。

 私が組合のリーダーなら、外部の人材を活用します。労働組合の運動に多くの人を巻き込むという課題に専門的に対処するチームを作って、そのなかにマーケティングやデジタルソーシャルのプロを入れます。そこに若手の組合役員を混ぜて、4~5人のチームを作って、調査やキャンペーンをしてもらいます。

 その際に大切なのは、上層部が関与せずに、外部の人材に責任を持たせて、自立性を持たせることです。組合の運動に、組織の外部にいる人を巻き込みたいのなら、そこで求められる価値観は、上層部の持っている価値観と違います。だから、上層部が指導するやり方では絶対にうまくいかないんですね。これは賭けてもいい(笑)。なので、アメリカの労組や市民団体も、すごく悩んだ末にそうした決断を下して、まったく新しいキャンペーンを展開しました。

 日本の労働組合は新しいプロジェクトにチャレンジしてきましたか?過去の成功体験に縛られて一歩踏み出せなかったのではないでしょうか。言葉がきつくなってしまって申し訳ないのですが、過去5年10年で新たに挑戦したことって何ですか?労働組合が元気になってくれないと日本の労働環境は悪化する一方です。だから私は、組合にがんばってほしくて、耳の痛いフィードバックもするつもりです。

 労働分野の規制改革を止めるために世論を巻き込みたいのなら、組織改革を断行するか、まったく新しい組織を立ち上げてソーシャルメディアを活用するか、そこまで振り切らないといけません。怖いかもしれませんが、それくらいやらないと新しいものを生むのは難しいと思います。労働組合にはそういう決断をぜひ下してほしいです。


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