炭水化物を避けるか、可能な限りその摂取を制限し、タンパク質と脂肪を重点的に摂取する食事法の創始者は、ロバート・アトキンスが元祖というわけではない。前述した、デュポン社のアルフレッド・ペニントン以前に、ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン( Jean Anthelme Brillat-Savarin, 1755~1826 )、ジャン=フランソワ・ダンセル( Jean-François Dancel )、ユストゥス・フライヘアー・フォン・リービッヒ( Justus Freiherr von Liebig. 1803~1873 )、ウィリアム・ハーヴェイ( William Harvey, 1807~1876 )、ウィリアム・バンティング( William Banting, 1796~1878 )、ジョン・ユドキン( John Yudkin, 1910~1995 )といった、歴史上の様々な人物が実践してきた方法である。彼らはいずれも、「肉のような栄養価の高い食べ物は、ヒトを太らせることはない」「ヒトを太らせるのは、小麦粉のような精製された炭水化物、とくに砂糖である」「食事に含まれる脂肪分は、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」と確信していた。アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中で、「砂糖は始末に負えない厄介な物体」と断じている。
ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナール( Claude Bernard, 1813~1878 )がパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった。
クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、テムズ川でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った[6]。「運動には体重を減らす効果は無い」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。
1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量するにあたって試しては失敗を繰り返してきた方法をまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。
バンティング自身、『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー( en:Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871 )も、 著書『The Practice of Medicine』( ISBN 978-1377805573 )の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法」の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げ、「これらの方法をどんなに辛抱強く続けたところで、望む目的が達成されることはない」と断じている
『Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある[13]。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の動詞として使われるようになり、スウェーデン語にもこの言葉が輸入されて使われるようになった。
南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークス(英語版)( Tim Noakes )は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた。
サイエンス・ジャーナリスト、ゲアリー・タウブス( Gary Taubes )による著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている[16]。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる。
なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。
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ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナール( Claude Bernard, 1813~1878 )がパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった。
クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、テムズ川でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った[6]。「運動には体重を減らす効果は無い」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。
1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量するにあたって試しては失敗を繰り返してきた方法をまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。
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『Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある[13]。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の動詞として使われるようになり、スウェーデン語にもこの言葉が輸入されて使われるようになった。
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サイエンス・ジャーナリスト、ゲアリー・タウブス( Gary Taubes )による著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている[16]。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる。
なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。
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