本条まったりブログ

初めてブログをやってみようと思い、このブログから始める事にしました。日記、レビュー、自作小説とかをちまちま。

インパルスハンターズ第十六話その一

2008-05-08 18:35:44 | 自作小説
インパルス・ハンターズ~衝動狩り奇人伝~
第十六話『猫耳の刺客』


「にゃ~、にゃかにゃかの反応、貴様、やるにゃ」

日本刀を盛った大きな猫が、俺に話しかけている。

…うゎ、逃げたい。

見ると、この猫、猫では無かった。

茶色の猫の着ぐるみを着込んだ、人間だ。うん、人間だ。

…良かった。

でも、関わり合いになりたくない。

「…さて、寝ようかな」

「にゃー!」

シュッ

またも、横一閃。

「うおっ!」

ガギン

今度は、黒視無双で防ぐ。

「にゃにぃ!?そんにゃ小太刀で防ぐとは…」

この猫の着ぐるみを着た、声が高いから恐らく女は、やたらオーバーリアクションであった。

ギギギ

と、日本刀と小太刀が交錯する中、

「…おい、アンタ」

俺は、冷静に問う事にした。

「にゃ?」

「…いや、アンタ、誰?」

すると、猫の着ぐるみを着込んだ女(もう面倒なので、猫さんと仮名)は

「…ふっふっふ、よくぞ訊いてくれましたにゃ!」

バッと俺と距離を取り

「私は、貴様を殺すように命じられた刺客で、名を峰猫実【みねねこみ】と言う者だにゃ」

「…………」

火向井進は刺客に自己紹介されると言う、極めて珍しい光景を目の当たりにした数少ない人間になってしまった。

「どうにゃ。驚いたかにゃ?」

「いや、余りの光景に、驚く事すら忘れている」

「の割に、冷静だにゃ貴様」

「いや人間って、思考がついていかない事が起きると呆けるじゃん」

「そうにゃのか?私は人間じゃにゃいからわかんにゃいにゃ」

…コイツ、あくまでキャラを通す気か。

「と言う訳で、おとにゃしく殺されるが良いにゃ火向井進」

「嫌だ。猫の着ぐるみを被った女の子に殺されるなんて、嫌だ」

「にゃ!にゃにを言っているのにゃ!?わ、私は猫にゃ!」

「…バレバレですから」

「にゃ~…」

猫さん改め峰さんは、みるみる萎縮した。

よよよ、と崩れ落ちる。

「な、何故にゃ…、ここまで完璧に猫を演じきっているにょに…」

「…取り合えず、猫は喋らないからね」

「にゃ!」

はっと、気付いた顔。

「…とんだ失態にゃ、まさか、敵に核心突かれるにゃんて…」

「…その言葉遣いは、地なんですね」

「そ、そんにゃとこまで分かるのかにゃ!?何者にゃ貴様!エスパーかにゃ!」

「いや、言葉遣いは何か自然だったから…」

猫語だけは、はまっていた。

それ以外は、グダグダだが。

「…にゃあ、そんにゃ甘い言葉で私を懐柔しようたってそうはいかないのにゃ!」

「…あの~、帰って良いですか?」

「駄目にゃ!貴様は此処で死ぬのにゃ!」

再び、刀を構える峰猫さん。

何だかなぁ…、もの凄く切迫した状況のはずなのに、何故どんどんやる気が失われていくのだろうか?

やっぱり、猫語のせいか?

「手加減、頼みますよ…」

「手加減なぞしにゃーい!何故なら、私は刺客だから!」

俺は、黒視無双を構える。

「にあぁぁぁああぁ!!」

猫さんは、叫びながら俺へと突貫する。

この叫び声が無ければ、対ガンズ・フェイス並の緊張感が出るのだが、この叫び声のお陰かせいか、衝動を使う気にもならない。

が、やらなきゃやられそうなので

俺は、衝動を意識する。

ズキン

と、頭の隅で音が鳴り

体が軽くなる。

接近する刀。

俺はそれを

「…ふっ!」

刀が振り切れる前に、接近し、刀に黒視無双を叩きつける。

「にゃっ!?」

ギギギ

と、再び交錯する刀と小太刀。

長さ的には、俺が不利。

少しでも、横にずらされれば、俺の体は両断される。

ならば、そうなる前に

俺は、猫さんの刀を持つ腕を掴む。

「…ここは、見逃してくれませんか?峰さん」

そして、そう頼んだ。

「…貴様、命乞いは見苦しいにゃ」

「誰だって、命は惜しいでしょ。俺だって、伊座波だって、総士郎さんだって、貴女だって」

「分かったような口をきくにゃ、人間。人間と我等の命を同等に扱うその考えから、間違っているのにゃ、火向井進」

………意味が、分からない。

「…どう言う意味ですか?」

「我は猫また。齢八百年の大妖怪。もう肉体は死んでいるのにゃ。命など、惜しくはにゃい!」

ガギン
と、俺を弾く。

「…っつ!…妖怪。貴女が?」

「そうにゃ。裏に何が居ても不思議ではない事は、貴様も承知のはずにゃ」

「…そりゃ確かに。…成る程。猫またってのは、人間にも化けられるんすね」

「妖怪は人智を外れた存在にゃ。人間の尺で測ろうとするのは止めるにゃ」

「…………」

どうやら、随分と人間がお嫌いなようで。

「…人間は、型にはまった生き方が好きな奴が多いんすよ。自然、考え方だって型にはまるし、常識に捕らわれやすくなる。八百年も生きてりゃ、そんぐらい分かるっしょ?」

「…これだから、人間は嫌いなのにゃ。弁を振りかざして、自らを正当化したがる。どうやら、貴様もその部類のようだにゃ」

ゆらり

と、猫さんの体が揺れる。

俺の背筋に、走る寒気。

「…!」

「…今、全身全霊を持って、貴様を排除するにゃ」

猫さんは、俺を睨んだ後

着ぐるみを脱ぎ始めた。

「…………」

「…ちょ、ちょっとタンマにゃ!…こ、腰がひっかかって…」

着ぐるみを脱ぐのに、戸惑う猫さん。

…あぁ、シリアスな雰囲気が失われていく。

何だろうね、この猫またさんは。

ていうか、脱ぐなら何で着てんだろ、着ぐるみ。

「良し、準備OKにゃ!」

数分後、猫さんはそう言った。

黒色のボディースーツ姿で。プラス猫耳で。

「どうにゃ!」

「いや…、どうにゃと言われても」

その格好で思いつくのは、俺から見れば一つ。

「みーつめる、キャッツア…」

「歌うにゃ!」

「それは無理でしょう。ボディースーツが代表的なアニメですよアレ」

猫耳は無いけど。

「貴様はこれをコスプレか何かだと思っているにゃか?!」

「はい」

「即答すんにゃ!」

刀をブンブン振り回す猫さん。

「で、キャッツアイさん」

「峰猫実にゃ!」

「…じゃあ、猫さん。それで何が変わるんすか?」

「…ふふふ、見てるが良いにゃ」

猫さんはそう怪しく笑い、

俺の視界から消えた。

「!」

「貰った!」

瞬間、目の前に現れ

俺は、腹に一撃を喰らった。

「ぐほっ…」

「死ねにゃ!」

苦しみで蹲っている俺に、猫さんは手刀を走らせる。

狙われているのは、こちらからは見えないが、恐らく首。

…気絶させる気か。もしくは、へし折る気か。

だが、この直感が正しければ

「…………」

俺は、ガードするのでも、逃げるのでもなく

体勢を崩し、寝そべった。

「にゃ…!」

それにより、俺の首も下がり、それを狙っていた猫さんはバランスを崩す。

そこが狙い目。

俺は、手に力を入れ、体を浮かせ、回転する。

そして

「そらっ!」

猫さんの足に、一撃を入れた。

「ぎゃにっ!」

猫さんはあり得ない悲鳴を上げ、足をかばうように後退する。

「…なかなかの動きだにゃ」

「ホントは弁慶を狙いたかったんすけど、体勢的に無理でしたね…。…しかし、それがそのボディースーツの力ですか?」

猫さんのスピードは、衝動を使った俺が対処しきれない程、早かった。

何らかの異能が働いているに違いない。

しかし

「ボディースーツは関係無いにゃ」

猫さんはそれを否定する。

「猫または、妖怪内では一、二を争う瞬速にゃ。人間に対処出来るもにょか」

「…じゃあ、何でその格好を?」

「暑いからにゃ」

「じゃあ、何で着ぐるみを?」

「…好きだからにゃ」

「…へ~」

「な、何にゃその冷めた反応は!妖怪が着ぐるみを着てはいけないと言うルールでもあるにょか!」

「…まぁ、その速さは貴女が人外って証拠ですね」

「そうにゃ。驚いたかにゃ!」

「取り敢えず、今度は驚きすぎて驚けない」

「何にゃその矛盾した答えは!」

「…伊座波の配下って、口が回る人が多いんだろうか」

俺は猫さんに聞こえないように、そう言った。

伊座波も総士郎さんも明石も…。口が止まってるのを見たこと無い。

このまま話しているのも、楽しそうだが、夜も深い。

これ以上の騒ぎは、ご近所迷惑だ。

そう思い、俺は、無言で黒視無双を構える。

「…ふん。ようやくやる気かにゃ」

「…出来れば、真剣勝負はしたくないんすけどね。特に、話が通じそうな相手とは」

これは灯白さんの持論だが。

「あいにく、私は人間と分かり合おうなんて気は無いにゃ」

「じゃあ、何で此処に居るんすか。此処は人間しか居ないでしょ」

「…諸事情にゃ。何も好き好んででは無い。…だが」

猫さんは、重々しく、言う。

「灯様は別にゃ。あの方は我らを侮蔑していない。…貴様と戦うのは、むしろ私怨に寄るところが大きいにゃ」

「…私怨」

伊座波が俺と結婚するかも、なんて噂が流れているからか?

それは、むしろ嫉妬じゃないだろうか。この場合、どっちも同じだが。

てか、伊座波は男を避けてるせいで、そっちに目覚めてるんじゃないのかねぇ…。

いや、これは失礼か。自粛。

「…成る程。おかしいとは思ってたんす。そもそもこの提案は総士郎さんが言い出した事なのに、何で伊座波組の人に命を狙われなきゃいけないのか、やっと分かりました」

「この提案には微小ながら、反対派が居るのにゃ。無論、伊座波総士郎に逆らえる訳が無いから、こうして貴様を闇討ちするしか手が無い」

そりゃ、えらい迷惑な話だ。

俺、巻き込まれてばっかだな。

しかも、それが命に関わる事ばっか。分相応、では片付けきれないな…。

「と言う訳で、死ね」

猫さんは日本刀を構え

「断る」

俺は黒視無双を構える。そして

俺と、猫さんは同時に疾走を開始した。



先手を取られたらさっきの二の舞だ。

猫さんが視界から消える前に、近づき、倒す。

しかし

「…ふっ」

猫さんはそれを見透かしたように笑い

視界から消えた。

「ぐっ…」

ヒュンヒュンヒュンヒュン

と、俺の周りを回転する、風きり音。

何処だ…、何処から来る…。

「…!」

後ろに気配。

「そこかっ!」

すかさず後ろに肘うちを打つ。

が、外れる。

「え…」

「惜しかったにゃ」

その冷たく放たれる言葉と共に

俺は正面から、腹に日本刀の峰打ちを喰らった。

二回目のこの一撃は、一撃目とは違う。

内臓を抉り取るような、鈍い痛み。

「ぐほっ…」

俺の口から意図せず漏れる、嗚咽と胃液。

腹を抱えて蹲る俺。

だが、猫さんは容赦せず、日本刀を俺の首元に突きつける。

「終わりにゃ。遺言くらい聞こう」

「くっ…」

これが、裏の住人の力か…。

雛罌粟だって、庵さんだって、ガンズ・フェイスだって、風里だって、これほどじゃなかったのに…。

…いや、もしかすると、それは俺の思い違いだったのか?

皆、アレは本気じゃなくて、にもかかわらず俺は、それを勘違いして思い上がって、調子に乗っていたってのか…。

…俺の遺言は、決まったな…。

「情けないよ…」

「にゃ?」

「情けなくって、涙が出てくるよ…猫さん。ちょっと異能を持ったからって、皆と対等になった気で居た…。俺にはまだまだ、裏に居られる実力が無かった…」

俺の声は、自分で意図せず、消沈していた。

猫さんは、そんな俺を、悲痛そうな表情で見る。

「だが、それが貴様の実力にゃ」

だが、その言葉は非情だった。

「でも、泣くのは止めるのにゃ。泣いてる男など、見たくはないにゃ。そんな男を灯様の旦那様にする訳にはいかない」

「…何言ってんすか。認めてくれないんでしょ?」

「無論。恨むなら、自分の非力さを恨むと良いにゃ」

猫さんは俺の首もとの刀に、力を込める。

…非力、か。

今の俺には、ぴったりな言葉だ。

「…さっさと、やれよ」

「潔しにゃ。貴様の存在は覚えておくにゃ」

…忘れてくれても良いのに。

どうせ、俺はちっぽけな存在なんだから。

ほら、今も未練がましく、皆を思い出してる。

(…ご武運を)

有難う、矢賀峰さん。飯、美味かった。

(…帰って来て、下さいね)

ごめん、庵さん。約束は守れなかった。

(本当に、ゴメンね。気を付けて)

謝らないで下さいよ、灯白さん。俺のせいなんすから。

「死体で帰ってくるのは、許さないと言ったはずよ、火向井」

雛罌粟、お前は最後までむかつく女だったよ。

…ん?アレ、何か台詞が違うぞ。

しかも何かはっきり聞こえるし。幻聴か?

「全く、そんな猫女ごときに跪いて…。変な趣味に目覚めたんじゃないでしょうね」

…だとしたら、やたら失礼な幻聴だな。

いや…、違う。このはっきりとした口調は

これは間違いなく

「…雛罌粟」

死を覚悟して、目を瞑っていた俺は、目を開けた。

そして、見た。

伊座波邸の庭、俺と猫さんとさして距離の無い場所に

雛罌粟雪乃が立っているのを。

それだけではない。

「幾ら何でも、護衛を全員倒してくるのはやりすぎのような…」

「しかし、そうでもしないと、ここまでは来れませんでしたし」

「まぁ、手段はともかく、来たかいはあったね」

そこには、見慣れた面々。

「庵さん…、矢賀峰さん…、灯白さん!」

俺の声は先ほどとは打って変わって、歓喜に満ちていた。

そうだろう。

皆と、また会えた。

それが堪らなく、ただ嬉しかった。

「やあ、進君。無事かい?」

灯白さんはわざとらしく、俺に言う。

「…いいや全く。今にも死にそうです」

なので、俺もなるべく棒読みで、言い返す。

「そう。なら、助けないとね」

灯白さんはさも当然のようにそう言って

鋭い視線を、猫さんに向けた。

「僕の部下を離せ。そうすれば、命までは取らない」

「ぐ…、赤衣…灯白…」

猫さんは灯白さんに威圧されたように、体を震わせる。

「庵ちゃん」

「はい。不可視の眼、発動!」

庵さんは、服の袖をまくり、緑色の紋章を露わにする。

瞬間、猫さんは吹っ飛んだ。

「…っく、あぁあぁぁあああぁぁぁ!」

壁に激突し、抑えられ、苦しみで悶える猫さん。

それを見た俺は

「庵さん!もう良い!止めろ!」

そう叫んだ。

「え…、進様?」

「不可視の眼でつぶされたら、無事じゃ済まないだろ!」

「ですが、この女は進様を…!」

「だからって、こっちが似たような事やったら連鎖になる!不毛な争いになるだけだ!」

「…わ、分かりました」

庵さんは、袖を戻した。

「猫さん!」

俺は、猫さんに近寄った。

「くっ…」

壁から離れた猫さんは、苦しそうに呻き

「…何故、助けたにゃ」

そう訊いてきた。

答えは決まっている。

「死んで欲しくないからです」

心から、そう言った。

「…私は、貴様を殺そうとしたんにゃ。殺そうとする者には殺される覚悟がある。ほら、
さっさととどめを…」

「嫌です」

「な…」

猫さんは唖然とした。

「俺は、人間でも、妖怪でも、生きているものを殺したくないです。それに、幾ら殺されかけたって言ったって、貴女は憎めない」

「…何故にゃ」

「だって、猫さん、伊座波が好きなんでしょ?」

「…………」

「こんな偉そうな事言える立場じゃないすけど、普通好きになった相手が他の何処の馬の骨とも知らない奴と結婚なんてなったら、俺だって嫌ですから。気持ちが分かるから、憎くは思えなかったんです」

我ながら、馬鹿らしい言い分だと思う。

でも、この人が伊座波を好ましく思っていると言うのは、この人自身の言葉。

殺意にまで発展するほど、誰かを思ってるこの人を、俺は凄いと思った。

俺はまだ、そこまで人を好きになった事が無いから。

「………貴様、馬鹿じゃにゃいか?」

猫さんは、俺の言葉に、笑う。

「えぇ…、良く言われますよ」

「………分かったにゃ」

猫さんは、ため息をつくように

「私の負け、にゃ」

諦めたように、目を閉じた。

「…猫さん」

「大丈夫だよ進君。見たとこ、寝ているだけだ。…さ、逃げよう。追っ手が来るかもしれない」

灯白さんは、そう俺を呼ぶ。

すると

「そこまでだ」

冷たい声が、響いた。

すると

ザザザザッ

と、袴姿の男女に俺達は包囲された。

「なっ…!」

「く……」

俺は驚き、灯白さんは舌打ちをする。

そして、

「夜分にご苦労。皆さん」

総士郎さんだけが、笑っていた。

「反対派の捕獲への協力、感謝するよ火向井君」

その笑みを、俺に向ける。

「…捕獲すか」

「あの峰猫実を筆頭とする反対派がこの伊座波組に居る事は知っていたが、大きな動きは無かったのでね。これでやっと口実が出来た」

「捕まえる口実ですか…。俺、殺されそうになったんすけど、まさか、ずっと見てたんですか?」

俺は、総士郎さんを睨みつけた。

「峰猫実程度の実力を跳ね返せないようでは、跡取りの資格があるとは思えない。この一件は、君の実力を試す意味合いも含んでいたのだよ」

試す…、ね。

それが殺し合いかよ、えげつねぇ事この上無いな。

「じゃ、俺はその試験に不合格ですね。帰って良いですか?」

「いいや、重要なのは過程では無く、結果さ。赤衣灯白一派の出現で動揺し峰猫実が油断した事も、君が永宮庵の力を借りた事も、全て過程。峰猫実と火向井進の戦いにおいての勝者は君だ、火向井君」

「…随分な理屈っすね。その気になれば、何でも筋が通りそうだ」

「理論と言うのは、曲げる事で実用性を得る。全てにおいて、正攻法で攻めなくてはならない理由は無いのだよ」

…そんな考えをする時点で、貴方は曲がってる。

俺は心から、そう言いたかった。

裏随一の、策士。

正攻法を嫌うのも道理って言えば道理だが、そこに人情が入る余地が無い。

俺は、そう言う冷たい理屈は嫌いだ

と、今分かった。

俺も、大概ロマンチストだな…。

「じゃあ、訊きますけど、何で俺らは包囲されているんですか?」

俺は感情を顔に出さないように、声を低めて訊いた。

「用心のためだ。今の光景を見ている限り、君は若干人情にもろい。峰猫実を捕縛すると言えば、君は確実に止めに入るだろう?ならば、先に抑えておく。とても策とは言えない事前準備だよ」

意味ありげに微笑む、総士郎さん。

…思考を、トレースされた。

人情にもろいというのは、俺も今自覚した事だ。

くそ、一手先より先を読まれてる…。

「さて、君たちを拘束し続けるのはいささか心苦しい。早めに、事を済ますとしよう…」

総士郎さんはそう言って、猫実さんに近づく。

…どうする、か。

総士郎さんは、捕縛すると言った。

ならば、俺が猫実さんにしてあげたい、したい事はただ一つ。

助ける。

しかし、この状況、俺達は五人にして、向こうはざっと三十人は居る。

俺単独で動こうが、すぐに捕まる。

灯白さん達も動こうとしてくれれば話は別かも知れないが、もし灯白さんの判断が俺と違い傍観と言う意向なら、俺の独断はそのまま、本部と伊座波組の全面前戦争の引き金になであろう事は、幾ら俺が馬鹿でも分かる。

動くべきか、動かざるべきか。

考えろ…、今何をするのが最善かを…。

徐々に猫実さんに接近する総士郎さん。

俺は、以前硬直。灯白さんも、庵さんも、矢賀峰さんも、雛罌粟も、以前硬直。

この緊迫した状況を、打破しえよう者が居るのであろうか。

しかし、そんな俺の問いは

「待ってください」

と、そんな声で、解答がなされた。

その二


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