rapture_20210712201355rapture_20210712201421rapture_20210712201448rapture_20210712201518https://www.hokkaido-np.co.jp/article/565522?rct=n_nuclear_waste

「気温35度の炎天下。山頂付近から見えたのは、見渡す限りの岩とサボテンの荒野だった。米西部ネバダ州の砂漠地帯に位置し、標高2千メートル前後の稜線(りょうせん)が続くユッカマウンテン。1987年以降、米政府が30年以上にわたって高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の地層処分場の「唯一の候補地」と位置付けてきた場所だ。

■先住民の怒り

 「連邦政府の選定過程はあまりに不透明で、われわれの意向など完全に無視していた」。この地の先住民である西ショショーニ族で、処分場建設に反対し続けてきたイアン・ザバルテさん(56)は米政府への強い不信感を口にした。

 米国は94基(昨年末現在)の商業用原発を有する世界最大の原発大国。米メディアによると、核兵器製造や原子力潜水艦から生じた廃棄物も含め、世界全体の3分の1を超える約9万トンの核のごみが、行き場のないまま各原発サイトなどで「一時保管」されている。

 地表から200~500メートルの深さに坑道総延長64キロの処分場を建設するというユッカマウンテン計画。人口63万人の同州ラスベガスまで約150キロ、降水量が少ないために地下施設への水の浸透も少ないとして、米エネルギー省はブッシュ(子)政権下の2002年「最も慎重な基準の下で(処分場に)完全に適している」と結論付けた。

■消えない疑念

 だが、そうした砂漠地帯でも安全性への疑念は消えなかった。米国では処分場建設に際して地元州知事に「拒否権」を認める一方、連邦議会の承認を得られた場合は、これを覆すことができると定める。地元ネバダ州の知事は02年当時、「輸送のリスクもあり、計画は安全ではない」と不承認を通知したが、連邦議会が州の意向に反して計画を承認。州や住民がおびただしい数の訴訟を起こした。その後、オバマ政権が計画を白紙撤回、トランプ政権は計画継続の方針を示すなど揺れ続けてきた。

 ザバルテさんは言う。「西ショショーニ族にとってかけがえのない地下水が汚染されかねない」。ユッカマウンテン近くには核実験場があり、ザバルテさんはかつて、おじやいとこをがんや白血病で失った。「われわれから安全に暮らす権利を奪う。これは環境的人種差別だ」

 バイデン政権は計画に反対の立場だが、地元の懸念は消えない。今年3月にはネバダ州選出の上下両院議員が核廃棄物処分に関するインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)法案を連邦議会に提出。核廃棄物の搬入に際しても州知事、関係自治体、先住民族からの許可を義務付け、地元の意思に反した稼働を阻止する内容だ。法案を主導したタイタス下院議員(民主党)は「いかなる地域も核廃棄物の投棄を強いられるべきではない」と話す。

■進む土壌汚染

 そもそも米国の核廃棄物管理は、厳格というにはほど遠い。西部ワシントン州にあるハンフォード核貯蔵所はかつて、長崎に投下された原爆だけでなく、冷戦時代の6万発超の核兵器用のプルトニウムの大半を生産した拠点だった。いま、地下には2億リットルを超える液体の放射性廃棄物が埋められているが、貯蔵タンクの老朽化で多くが土壌にしみ出し「地下のチェルノブイリ」と呼ばれる。

 同貯蔵所を監視する民間団体「ハンフォードチャレンジ」のトム・カーペンター事務局長は「汚染土壌と放射性廃棄物をどうするのか、その答えがない。政府は核の長期的リスクを軽視している」と訴える。

 核大国でありながら、廃棄物の処分が定まらない米国。その姿は、行き場のない核のごみという世界共通の問題の根深さを象徴している。(平畑功一)=おわり=」