茶飲みばなし2

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三谷幸喜監督「スオミの話をしよう」を見る

2024-10-17 12:06:42 | 映画

主演が長澤まさみで、彼女を愛した5人の夫が登場するミステリーコメディと聞いて、
長澤まさみが男たちを手玉に取る「コンフィデンスマンJP」めいた作品かと思ったが、
いささか違った。

むしろ自由奔放な行動で周囲を巻き込んでいくのは現在の夫の坂東彌十郎で、
人間味のある詩で知られる有名人なのだが、実は大富豪でワガママ放題に生きている。
妻のスオミが帰ってこないからと内密に警官で4人目の夫の西島秀俊を呼んでおいて、
正式な警察沙汰にはしたくないと面倒なことこの上ない。

巨大な洋館のセットを坂東彌十郎が勝手な言い分をワメキちらしながら歩き回るのを、
カメラは長回しで追いかけていく。
スイカを食べたり、柿ピーをほお張ったりの動きを伴いながら、
大量のセリフでたたみかけるのをワンカットで撮るあたりは演劇的にも見えるのだが、
カメラの追いかけまわすような動きが演劇では不可能というのが三谷流の主張だ。

そんなわけで、長澤まさみがほとんど登場しないまま、
なんやかやとバタバタしているうちに、5人の夫が坂東彌十郎の洋館に集まってしまう。
長澤まさみのスオミはというと、5人の夫が語る回想シーンの中には登場していて、
それぞれの夫が知っているスオミ像が少しずつ違っているのがポイントだ。

しかし、いわゆる多重人格というのではなく、
相手の期待している女性像をスオミが完璧に再現してしまうため、
男たちはベタ惚れしてしまうし、自分が一番スオミを理解していると思い込んでいる。

一番目の夫、遠藤憲一の前では勝ち気なツンデレ、
二番目の夫、松阪桃李の前では有能なビジネスパートナー、
三番目の夫、小林隆の前では中国語しか話さない、
四番目の夫、西島秀俊の前では気弱で不器用、
五番目の夫、坂東彌十郎は自分にしか興味がないのでほったらかし。

と、ここまで書いて、5人の夫がみな高身長であることに気づかされる。
女性は男性より背が低くあるべきという決まりはないのだが、
長澤まさみがドレスアップしても、5人の夫たちにそれを受け止める大きさがあって、
(偏見であるとしても)ダイナミックなカップルとしておさまりがいいことも否めない。
(昔、「アラベスク」というマンガもあってな。)

そして、5人の夫の回想(だけではない)場面で七変化するスオミにあわせて、
さらに振り切る遠心力のように七変化する宮澤エマの安定の演技力と、
西島秀俊のバディとして冒頭から登場する瀬戸康史の翻弄されっぷりがお見事だった。
轟じゃなかった戸塚純貴は三谷組初参加だが、次もきっと呼ばれるだろう。
梶原善と阿南健治の登場もお約束。

中身については、一応、推理ドラマの体裁を取っているので語れないが、
まあ、リアリティとかを真剣に考えると損をするようなコメディだ。
なぜスオミかとか、なぜ瀬戸康史がスオミの顔を知らないままなのかとか、
綱渡りのような橋渡しで、なんとか理屈が通るようにはしている。

で、長澤まさみだが、最後に皆を集めての謎解き場面もあり、
それがまた5人の夫と丁々発止するにもかかわらず数分の長回しだったりするし、
長澤まさみ100%というようなフィナーレもあるし、
やはり、しっかりと主役の地位にいる。

なので、やはり本作は、「コンフィデンスマンJP」への三谷幸喜のアンサーと感じた。
もともと、場をかき乱す/支配するマイペースな長澤まさみ像は「真田丸」が先だし、
小日向文世も小手伸也も「真田丸」で活躍した役者たちだ。
三谷にすれば、自分なら長澤まさみをこんなに良いコメディエンヌにできるよ、
とばかりに上書きをしたいところだろう。

今作で大活躍の坂東彌十郎も、三谷歌舞伎「風雲児たち」で三谷に「発見」され、
「鎌倉殿の13人」の北条時政で60代半ばにして売れっ子になった。
改めて存分に暴れられる場所を与えられて、その力を見せつけてくれた感じだ。
本来は、長澤まさみの相手役は西島秀俊という作りなのだが、
坂東彌十郎が喰ってしまったようにも見えた。

ああ楽しかったで通り過ぎていくようなコメディだが、
この役者には、こんなことをさせればもっと魅力的になる/できるという、
三谷の慧眼と演出力を強く感じさせるような映画だった。


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