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1人当たりの村民所得が全国平均の5倍にも相当する年1364万円(2008年度)――。日本でも有数の豊かな自治体が本州最北端の下北半島にある。大阪市よりも広い面積に約1万1000人が暮らす六ヶ所村だ。
かつての六ヶ所村は「日本の満州」と揶揄されるほど貧しかった。畜産や漁業を除けば産業もなく、冬場には東京への出稼ぎで溢れた。そんな村が1980年代半ば、核燃料の再処理工場を誘致して生まれ変わった。
冒頭で紹介した1人当たり所得には企業所得も含まれ、自治体の経済力の指標とされる。六ヶ所村の経済力は、全国にわずか75しかない地方交付税の不交付団体の1つであることからも明らかだ。村の年間予算は約130億円と、同規模の自治体の2倍以上にも達する。確かに、村内を車で少し走るだけで、その豊かさが実感できる。
牧場の間を高速道路並みの道路が通り、中心部には4階建ての立派な村役場、700人収容のコンサートホール、さらには縄文時代の竪穴式住居を再現した郷土館まである。23億円を投じて全戸に設置されたテレビ電話も自慢だ。
これらのインフラ整備も、再処理工場の誘致なしにはあり得なかった。村の歳入の半分近い約60億円は、再処理工場や関連施設に関係している。その中心が、工場の運営のため、東京電力など電力10社の出資で92年に設立された日本原燃という企業である。
昨年、“反原燃”候補を大差で破って3選を果たした古川健治村長(77歳)が言う。
「貧しい村の代名詞だった六ヶ所村が発展を遂げた基盤が日本原燃と関連企業。将来も大きな柱と位置づけている」
政府は、使用済みの核燃料に再処理を施し、再び原発で使えるようにする「核燃料サイクル」の実現を国策に掲げてきた。その要となるのが再処理工場だ。ただし、工場では原発同様、放射能漏れの危険がつきまとう。再処理工場の誘致を巡っては、激烈な反対運動が村ではあった。だが、そんな過去が嘘のように、今では古川村長を始め、定数18の村議会にも工場の存在に反対する者は1人もいない。
単に税収を見込めるからではない。日本原燃本社だけで300人近い村民を雇用。下請け企業を含めれば「家族の1人は原燃関係の仕事に就いている」と言われるほど、同社丸抱えの村なのだ。村議も多くが建設業などを営み、原燃とは持ちつ持たれつの関係にある。原燃側も、年に一度は社員がタオル持参で全戸訪問するなどして気を配る。村民からは「こんな田舎で、しかも格安の値段で小林幸子や八代亜紀のコンサートが見られるのも、原燃さんが補助してくれるお陰」(50代の女性)といった感謝の声も聞かれた。
※SAPIO2011年8月3日号
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