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団塊世代の昨日と今日の出来事

建築確認取り消し

2010年06月13日 | 仕事一途
 昨日のNHKTVの昼から夕刻にかけてのローカルニュース。
 『市内に開業する予定の介護老人保健施設について、市は、建物の一部の鉄筋が不足し耐震強度を満たしていないことがわかったとして、この施設の建築確認を取り消しました』

 外部の指摘を受けて市が調査を行ったところ、屋上を支える梁の鉄筋の本数不足が判明した。定められた耐震強度を満たさない建物は認められない。そこで市は、昨日付けで建築確認の取り消しという行政処分を課した。

 05年に起こった『耐震偽装問題』は、建物の耐震構造設計を担当した設計者が、自身の能力不足故に構造計算書を故意に偽装した事件だった。
 この度は、構造計算によって必要とされた鉄筋の本数が、設計図に正確に反映されなかったということである。
 原因は、設計途中での設計変更にあった。
 間取りの変更等で設計を一部変更した際、構造計算をやり直し構造計算書は作り変えたが、構造図面の修正を忘れてしまったのだ。

 テレビに映し出されたこの施設は、ほぼ完成している。ミスを犯したのは構造設計者だけではないことになる。

 設計から現在に至るまでに、問題の“鉄筋不足”に関係した組織とその担当過程を羅列してみる。
  A,設計事務所
   A-1,設計図書の作成:構造計算書と図面の作成(構造設計事務所が担当?) 
   A-2,建築確認申請←設計図書の管理(管理建築士によるチェック)
   A-3,現場監理:現場での配筋施工状況の検査
  B,民間検査機関
   B-1,建築確認申請書の審査→建築確認
   B-2,現場検査:現場での配筋施工状況の検査
  C,施工会社
   C-1,設計図・建築確認図書の確認→施工図の作成
   C-2,現場管理:現場での配筋施工状況の自主検査

 上記のそれぞれの過程において、原則通りの業務を遂行していれば、鉄筋不足を見付けることは可能だった。しかし、出来なかった。それは何故か?
  A-1)構造設計担当者のケアレスミス。耐震設計偽装事件以後は責任を負うことになっている。
  A-2)業務担当者及び管理建築士が、計算書と図面の照合を怠ったまま、建築確認を申請した。
      構造設計者任せにする(なってしまう)ことがほとんどである。
      管理建築士は、設計業務の最終的な責任を負う。
  A-3)現場監理担当者が計算書と図面を照合することはない、と言って良い。
      配筋施工状況と図面が一致すれば、間違ったままに工事は進捗することになる。
  B-1)審査担当者が、計算書と図面を照合することは大原則、基本中の基本である。
      大原則が守られず、ミスを見逃したまま、建築確認を降ろしてしまった。
      (業界では、「建築確認が降りた」「建築確認を降ろして貰う」と言い習わしている。)
  B-2)現場検査担当者が図面を鵜呑みにすることは、極めて一般的なことである。
      図面と配筋施工図・配筋施工状況が一致しさえすれば、工事は進行する。
  C-1)現場の工事責任者は、出来るだけ図面に忠実に施工することを原則としている。
      審査によって訂正された箇所には留意しても、その他については図面を信じるものだ。
  C-2)配筋の施工担当者は、図面通りにさえなっていれば良しとする。

 こうして書いてみると、民間検査機関による建築確認申請の審査結果が、重要な地位を占めていることが分かる。多くの関係者が頼りにしているのである。
 
 ミスを見逃した民間検査機関は公に認められた組織である。担当者は準公務員でもある。責任は大きい。何らかの行政処分は免れないだろう。

 当該施設は、補強工事を施して定められた耐震強度を満たさなくてはならない。開業予定はずれ込むことになる。
 そうすると、補強工事費と工事遅延による補償費用が生じることになる。

 かっての耐震設計偽装事件の折には、建築確認審査を行った特定行政庁は金銭的な責任は負わなかった。その他の事項で建築確認に間違いがあっても同様である。しかし、この度の検査機関は民間である。
 設計図、建築確認図書に、建築基準法及び関連法規に関する全事項を網羅することは出来ないし、施工する側に関係法規を満足する建物を建てる義務・責任があるとされている。
 設計事務所も設計に瑕疵は避けられないとして、賠償責任保険制度が整備された。
 関係者の間ではどのような解決策が考えられるのだろうか? 

 明るみになった発端は、“外部の指摘”である。大変に興味深いが、公になることはないだろう。



  *またまた、長くなった。この癖は何とかしなくては。


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