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それは梓がいちばん感じていたことだった。
しかし、彼女の口からは裏腹な言葉が飛び出した。
「もういいの、向日葵のことは・・・!」
背を向けて行こうとした。
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「ほんとにいいんですか?」とジホ。
梓は歩みを止めた。
「僕は駄目だと思います」
「・・・」
「向日葵さん、梓さんに何も言わずに出て行きました。白鳥プロレスのためにも、梓さんのためにもちゃんと話をするべきです」
梓はジホを振り返った。
「でも・・・向日葵はもう青薔薇軍に」
「違う!」
ジホは否定した。
「向日葵さんは残った。向日葵さんは梓さんのお父さんが亡くなってからも、青薔薇に行かなかった」
ジホは梓のそばに歩み寄った。
「残ってくれました」
梓はジホの目を見た。
「ちゃんと会って話をするべきです。・・・僕のお母さんも、何も言わずに出て行きました。その時、僕、ショックで・・・動けなかった。でも、今も、すぐに追いかけなかったことをすごく後悔しています。家族なら話をするべきです。お互いの気持ちを正直に」
梓はジホの言葉に感じ入った。いや、彼の母を思い続ける心に打たれた。
「ジホ」
「はい」
梓の表情に元気が萌した。
「ありがとう」
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梓はジホとともに向日葵に会いに出かけた。
梓の呼び出しに、向日葵はいやそうな顔をしながらも出かけてきた。
「何ですか!?」
梓は切り出した。
「1分だけちょうだい」
向日葵は黙って応じた。
「今から、私の正直な気持ちを言う」
「・・・」
「戻ってきて」
「・・・」
「確かにうちはまだ借金もあるし、お客さんも満員ってわけではない。未来は見えづらいかもしんない」
向日葵は話がうっとうしそうに足元を見た。
「でもね。私は白鳥の未来を信じてる。みんなとなら未来をつくっていけるって信じてる」
「・・・」
「お父さんが死んだ時、正直、もう無理かも、って思った。でも、今は思わない」
梓は力をこめて言った。
「みんなとなら、白鳥は絶対に大丈夫だって思ってる。だから私は向日葵にもうちで頑張ってほしいな・・・! 私は舞と薫とつかさと向日葵とで白鳥の未来を一緒につくっていきたいの」
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向日葵は梓の言葉に耳を傾けながら、じっとどこかを見つめ続けている。
「向日葵も、少しでも未来があると思ったから、白鳥に残ってくれたんだよね?」
向日葵は梓をまっすぐ見た。
梓は彼女の前に進み出た。紙バッグから何か取り出した。出てきたのは白鳥のビッグデビル向日葵のダーティツールだった。
それを向日葵に手渡して梓は言った。
「一緒に白鳥の未来を・・・」
その先を向日葵の嘲笑が吹き消した。
「それ、本気で言ってるんですか!?」
「えっ」
向日葵はおかしそうにした。
「うちが好きで・・・白鳥に未来があると思って残ったと思ってるんですか?」
「向日葵・・・!」
「ほんま、甘いよな、その辺が・・・!」
向日葵はいきなり手にした自分のシンボルを橋の下に投げ捨てた。
その行為に梓とジホは言葉を失った。
向日葵は梓の率直な思いをはねつけて言った。
「白鳥に未来なんか最初っからない」
「・・・」
「うちが白鳥に残った理由はな・・・白鳥をつぶすためや」
梓は悲しそうな目を向日葵に向けた。
「分かってもらえました?」
「・・・」
「ほな、もうええですかね? 1分、とっくに過ぎてるんで・・・!」
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ついに一度の笑みも見せることなく向日葵は背を返した。
「向日葵さん!」
梓の前にジホが走り出たが、彼女は振り向かなかった。
二人は落胆に沈むほかなかった。
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