
アンナはプールに落ちてもがいて気を失った。
その後、夢を見続けた。
海辺で潮騒を聞きながらチョルスと二人で憩っていた。チョルスの肩に身を預け、アンナはつぶやく。
「暖かいわ」
「…」
「不思議ね。まだ冬なのに――春みたいにぽかぽかする。こうしてると――冬が来ない気がする」
「ここで眠ったらダメだ。起きろよ」
「どうして? ここは居心地いいのに」
チョルスはアンナを見る。
「ここはお前の居場所じゃないだろ。起きるんだ」
アンナは目を開ける。
「お前は記憶を取り戻しただろ」
チョルスを見上げる。黒い瞳にあきらめが浮かぶ。
「そうね。私はもう――戻っていかなくちゃあ。あそこに戻って」
アンナの目じりから涙が流れ出す。彼女は再び目を閉じる。
大きなベッドの上でアンナは目覚めた。
彼女の目に男の背中が飛び込んできた。その男が誰かはすぐにわかった。
ビリーが振り返る。
「アンナ!」
「…」
ビリーが枕元にやってくる。しゃがみ込んで訊ねる。
「大丈夫? 自分がわかる?」
「大丈夫よ、ビリー」
「君は僕が分かるのか?」
「…」
「自分が誰かも?」
「私は・・・チョ・アンナよ。私は、戻ってきたわ」
「本当か?」
ビリーは嬉しそうにした。
「何もかも思い出したのか?」
「ええ。すべてよ。みんな思い出したわ」
チョルスはアンナの眠る部屋の外にいた。アンナが目覚め、ビリーと話すのを見て暗い顔で部屋を離れた。
外に出てきたチョルスは外で待っていたユギョンも目に入らなかった。
彼女に気付かずそばを通り過ぎた時、ユギョンが声をかけてきた。
「チョルスさん」
チョルスは立ち止まる。ユギョンは言った。
「彼女は元の場所へ戻ったのよ。あなたも元のあなたに戻って」
話を聞き終わるとチョルスは振り返りもせずに歩き去った。
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