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放送作家はっしー橋本~北上次郎解説文庫探しの旅~

大好きな書評家・北上次郎さん(目黒考二)解説文庫423点を(なるべく)書店、古書店などの実店舗で探し出す趣味のブログ

【北上さん解説文庫 捜索遍歴㉕ 7/2 Bいとう東中野本店閉店惜別&僕の構成作家人生と重なる一作】

2024-02-27 00:52:27 | 日記

■なんだか、ずっとブックセンターいとうの話ばかりしている気がしますが(笑)

東中野本店が23年8/31をもって閉店、というショッキングな告知を見て、

7/2、お別れを兼ねて、北上さん解説文庫を探しに行きました。

 

初めて東中野本店へ行った時のことは、以前書きましたが、

あの「陶酔感」は、多分、忘れないだろうなー。

階段を昇って2階に上がった時の、広大さ!

確か、上がったところが児童書コーナーで、遊園地などにある、

100円入れて乗る遊戯カーみたいな物があった記憶が。

そして、その児童書コーナーを見たら、いきなり、ずっと探していた

「ノーチラス号の冒険」シリーズが、ズラリと!

 

「こ、こりゃあ、今日はエラい買い物になるぞ」

と、慌ててカゴを取りに行きました。

そして、文庫本コーナーは、後回しにして

(お弁当の美味しいおかずは最後に取っておくタイプです)、

単行本ゾーンを見て回り、ノンフィクションやら、冒険記やらを漁り、

いざ、文庫本コーナーへ!

館内の案内放送で「この館内放送は、コンピューターで作っております。ヨロシクネ」とか言った、

謎のアナウンスが流れていたっけ。

それが何巡したか分からないくらい夢中になって探し、

「スッキリ」(当時)OA後、昼下がりに来て、帰りは夕方になっていたことを思い出します。

帰り、重くて、途中のコンビニで心が折れ、

宅配便で実家に贈ったのではなかったかしら(笑)

 

閑話休題。

 

■惜別のため、去年7/2月曜日、その東中野本店へ。

もちろん、一番の目的は、

田中光二「灼熱の水平線」角川文庫と

谷恒生「喜望峰」集英社文庫 

~を探しに行ったんですが。

 

これはねー。

いわゆる「持ってたつもり」だった2作なんです。

 

田中光二は、「ロストワールド2」でシビれ、以来、UFOモノとか、

絶滅したはずの古代生物を捜索するシリーズなどで、さらに好きになり、

ずっと集めていた作家。

だから、北上さん解説リストに「灼熱の水平線」を見つけた時、

「ああ、北上さんも好きだったんだ!」

とは思ったけど、

「これなら、持ってる」

と思い込んでいたんです。

あ、もちろん、持ってなかったというわけじゃないんですよ。

ただ、持っていたのが、徳間文庫版で、北上さんの解説が載っている角川文庫版じゃなかった。

「持ってるつもり!」だった作品なんです。

 

谷恒生「喜望峰」も、同じパターン。

持っていたのは、1990年に再販された徳間文庫版。

北上さん解説は1980年、最初に出た集英社文庫版だったんですね。

 

で、ある日、家で手に取ってみたら、どちらも

「あれ? 北上さん解説じゃないじゃん!」

と焦って、捜索し始めたというわけ。

 

こういう「持ってるつもり!」作品が、最近、また一作判明したんですが、

それはまた後日。

 

■で、その2作、前に東中野本店に来た時は、

持ってる気になっていたから、しっかり探してなかったので、改めてチェック。

結果、その2作はありませんでした。

でも、行って良かった!

 

難関本の

水原秀策「キング・メイカー」双葉文庫

~があったんです!

 

これは、古書店、新刊書店、何十軒も回ってきたけど、全く目にしなかったので、

万一見かけたら、迷わず買っておいた方が良いかと。

希少だし、北上さん解説、ということで面白さは保証付きですから。

 

その「キング・メイカー」を見つけた喜びと共に、

これまでの感謝を込めて買ったのが、

 

藤谷治「船に乗れ! Ⅲ合奏協奏曲」ポプラ文庫

北上さん解説です。

とても売れた本らしく、ブックオフのかなりのお店で目にしていました。

どこにでもあり、どこでも買えるからこそ、

お世話になったお店で買おう、とカゴに入れました。

でも買ったのは3巻だけ。

以前、北上さんが書評でオススメしていて、面白そう!と

単行本で全3巻を買って読破。

今も家のどこかにあるので、北上さん解説の掲載されている3巻だけ

買うことにしたんです。

 

物語の主人公は、サトル、という高校生。

音楽一家に生まれたけど、一流校には行けず、音楽では二流の私立の高校。

僕は、この作品を読んだ時、自分に重なって、胸が苦しくなったのを覚えてます。

北上さんの解説では…

 

「クラシック音楽を学ぶ若者たちの日々など特殊な青春だ、

 と思われるかもしれないが、そうではない。

 なぜなら、そこにある悩みは私たちと同様だからだ。

 自分の希望する職業があっても、その才能が自分にない場合、

 人はどういう選択をするのか――

 第三部では、その苦い現実を描いていく」

 

わかるなぁ。

もちろん、僕は、音楽の道を志したわけではないですが、

最初は「マンガ」に憧れ、主人公の顔が、向かって左側を向いた顔しか描けないことに絶望(笑)。

早々に断念し、

次は「小説家」を志し、ワセダミステリクラブに入って、ミステリ作家になる!と決意し、

必死で勉強して、早稲田大学第一文学部に合格したものの……

ミステリの肝のトリックやら、伏線やらが書けず、それ以前に、

自分の小説は何だか説明っぽくて、全然人間が描けないことに気づきました。

そして何より、

「作家の業(ごう)」が無いことを悟ったんです。

 

「真の物書き」って、書くのが辛くて、苦しくても、

それでも、書かずにいられない。

書かない苦しみより、書く苦しみの方が楽。だから書く。

そういう「業」のような宿命を背負っている方だと思うんです。

僕には、そういう「内から溢れ出す創作の情念」が無い、と気付いてしまった…

平井和正流に言えば「言霊」というのでしょうか。

僕には、降りてこなかった。

 

それは早稲田の2年になって「文芸専修」に入って、分かったこと。

早稲田出身の現役の作家、三田誠広さんが講師で、

いざ、作品を書いてみせて、ということになったけど……

 

「僕は何を書きたいんだろう?」

 

その原点で、僕の中は、空っぽだった。

作家になるための道筋は、どうにか歩いてきて、文芸専修まで辿り着いて、

現役の人気作家に見てもらえる所までは来た……

でも、肝心の、僕の内部に、そこへぶつける物が無い。

同じ専修の、本気で作家を目指す同級生の作品を読んで、

明確に、僕との違いが分かった……

「書かずにいられない人」と「書かずにいても、平気な人」

その大きくて、永遠に超えられない、深い谷間。

 

「船に乗れ!」でも、主人公のサトルは、それを、その名の通り、悟ります。

自分の演奏を聴く時の、先生方の、寂し気な顔。

教える声の中に潜む、諦念のようなもの。

それを感じ、

「ああ、自分は音楽家にはなれないんだ」

圧倒的な才能の欠如に、気づいてしまう哀しみ……

サトルと、あの時の自分が重なって、本当に胸が苦しかった。

 

■その後のサトルの選択と驚きの行動は、作品を読んで頂くとして……

僕の場合、それでも、すぐに諦めることは出来なかったなぁ。

未練がましく、なんとなく本や、モノを書くことの周辺には携わりたくて、

徳間書店やら、新潮社やら、「ぴあ」やら、出版社の入社試験や面接を

受けて回りました。

そんな時。

運命の分岐点となり、僕を救ってくれたのが、当時、個人で通っていた

日本放送作家協会主催の「フリーライター教室」。

そこで、小説やエッセイを書く勉強をしていたのですが、

(後にそこの講師になろうとは思いませんでしたが 笑)

救い主が、講師をされていた、人気脚本家・西条道彦先生でした。

僕の生涯の恩師です。

 

西条先生は、向田邦子さんらと同世代の人気脚本家で「産科歯科」などの

大ヒットシリーズを手掛けた方。

書いたシナリオは1000本!

当時、お酒の席で伺った、名優・鶴田浩二さんとの“真剣勝負”は、

面白かった~!

 

TBSの日曜劇場だったか、毎週一話完結のドラマを紹介していた枠。

そこで、鶴田浩二さんが出演することになっていたものの、

別な脚本家の書いた作品に鶴田さんが納得できず、

急きょ別な作品を、ということになり、

その時、たまたま現場に見学で居合わせたのが、まだ見習い同然だった

若き日の西条先生。

「お前、明日までに60分の脚本、書けるか?」

とプロデューサーから言われ、そんな無茶な!と思いつつも、引き受けた先生。

どんな作品を書いたか、伺ったはずですが、失念しました。

すみません。

それでも、人の悲しみとか、心のひだとかを伝えたい、と必死で書き上げて

翌日、脚本を持参。

鶴田さんは、ぎろっと、睨んで、その脚本を持って別室へ。

しばらく経ってから、部屋に呼ばれた西条先生。

正座して対峙すると、じっと見つめて来た鶴田浩二さんが一言。

 

「こういうのが、やりたかったんだよ」

 

どっと安堵したそうですが、それ以上に心から嬉しかった、

と話しておられました。

以来、鶴田浩二さんに気に入られ、何作も書いたと聞きました。

そんな切迫した状況で、素晴らしい脚本が書けたのは、

西条先生の中に、書きたいものが詰まっていたから。

「業」があったからなんだろうな、と今は分かります。

 

僕には、それが無いことを薄々自覚しつつ、それでも、物書きの周辺に居たい…

迷っていた時、フリーライター教室の、少人数の実習ゼミに通う中、西条先生から紹介されたのが

日本テレビ「ルックルックこんにちは」でした。

「構成作家を募集してるんだってさ。やってみるか?」

 

構成作家? って何?

そんなレベルでした。

「要は、進行台本を書く作業だよ」

▼TOPニュースのVTRを受けて、スタジオに降りて、

▼MCの岸部シローさんが、受けてひと言。

▼さらに取材したリポーターが、補足情報を報告。

▼そして、次のVTR振り。

そういったもの、とざっくり教えられました。

とはいえ、先生も、構成作家ではなく、ト書きと台詞を書く脚本家ですから

全く違うジャンル。

あまりよく分かっていなかったかも。

でも、自分の教室の教え子が、何人か「ルックルック」で構成作家として

既に活躍しているから、心配せずに行ってみろ、と。

「テレビの現場で、とにかく書く、ということを続けたらいい」

と言われ、行ってみたのが始まり。

多分あの頃、先生も、僕が迷っているのを察して、

背中を押してくれたんだろうなと思います。

 

日本テレビ社屋が、汐留ではなく麹町だった頃の話です。

まだ大学3年生になったばかりだったかと。

そんな学生が、構成作家見習いに!?

今なら、考えられないことですが(笑)

 

確か、当時、日本テレビが「午後は○○(丸々)おもいっきりテレビ」という

正午から午後4時前まで、ブチ抜きの4時間生放送の情報番組をスタート。

そこに、「ルックルック」などをやっていて、生放送の手練れの作家さんが

駆り出され、人手不足になったため、

先輩作家さんのアシスタントとして呼ばれるようになった……

というのは後に知ったことです。

ちなみに、その時、「おもいっきりテレビ」の4時間全体の総合MCだったのが

山本コウタローさん。

その中の1コーナーを受け持っていたのが、みのもんたさんで、

後に、みのさんは、正午から2時間の生活情報番組「思いっきりテレビ」のMCとなり、

大ヒット番組になっていきます。

 

それはさておき、あの日、先生に押されたのがきっかけで、

構成作家の道に飛びこんで、30年以上。

まがりなりにも構成作家として働いて来られたのは、本当にラッキーでした。

 

では、「業」が無いのに、その後、

どうやって、「ものを書く」現場でやってこられたのか?

なぜなんでしょう? 

いつかまた、機会があれば書こうと思います。

 

 


【北上さん解説文庫 捜索遍歴㉔ 6/29 吹きさらし100均棚に幻の難関本&難関本の在り処情報】

2024-02-13 00:40:35 | 日記

これを書いているのは24年2/12

北上さん解説本=オススメ本を、あのリストをもとに

読もうとしている人がいる、と信じて……

まずは、「北上さんの難関本、ここにありました情報」から!

 

■難関本が、しかも3作、しかも、うち1作は2冊! あったのは

池袋西口の光芳書店

①作は 

三雲岳斗「煉獄の鬼王 新将門伝説」双葉文庫

これは本当に、探しても探しても、見つからなかった本です。

時代小説だから、ブックオフとか探せば、いつか見つかるだろう、

と軽く見てたら、甘かったっす。

三雲岳斗さんという作家が、そもそも時代小説より、SFライトノベル系の

作家ということもあるのか、

時代小説ファンのお父さん層に認知度が無い、という判断か

ブックオフや古本市場を数十店は回りましたが、空振り。

「海底密室」などのSFミステリーは結構見たんですけどね。

 

ちなみに、僕は、千葉で一、二を争う巨大古書店

「ほんだらけ 成田店」で見つけました。(詳しくはいずれ)

ここは、ブックセンターいとうなどと同じ匂いのする、70~90年代の

古め文庫や、笹沢佐保、高木彬光、和久俊三、斎藤栄、大藪春彦、

栗本薫(グインサーガ以外)……など

ちょっと忘れられた流行作家の懐かし作品が大挙して並んでいて、

そういう作品が好きな層(僕)には宝の山のような古書店です!

 

そこでようやく見つけた「煉獄の鬼王」が、

2/9金曜、池袋の光芳書店にあったんです!

しかも、2冊!

店内の作者五十音別の棚に1冊、さらに、店外に出すため用なのか、

棚の前に置かれた可動式の書棚にも1冊!

マジ、奇跡ですよ!

 

②作目は、

 大島真寿美「戦友の恋」角川文庫

これは、以前書きましたけど、

何しろ2012年の出版だから、新刊書店には無いでしょ、と思い込み

古書店、ブックオフ、古本まつり……ず~~っと探してましたが、

全く無し。

ある時、ダメもとで三省堂書店でネット検索したら池袋店でヒット!

まさかの盲点だった……という作品。

参考までに、その後、新刊書店でも古書店でも、全く見かけてません。

時期的に絶版になる寸前、という中途半端な時期だからなのかなー。

察するに、

 *2012年と比較的新しめ文庫だから、一般古書店には出回らない 

 *新刊書店に並んでないから皆買わず、売らず

   ⇒ ブックオフなど新古書店にも出回らない

 *そもそも恋愛系で、女性読者中心だから古書店に売りに行かず出回らない

 ~~などが重なっているのではないか?

 というのが、素人なりの推理。

 

そんな「狭間の難関本」(勝手に命名)も、ありました!

 

そして③作目は、

 野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」角川文庫

これまた以前、書きましたが、2020年に映画化され、

光文社文庫で再版されたようで、そちら版は、すぐ見つかりますが、

解説は北上さんじゃありませんので、ご注意を。

もちろん、北上さんの本意は、作品を読んでもらう事だから、

光文社文庫版でもいいのでしょうが、北上さんの解説とセットで読みたい方は、

角川文庫版を。ただし超が付く入手難関本です。

(★僕の言う難関はあくまで“店頭で”のお話です。ネットでは多分すぐ見つかります) 

 

これまで1年間で、見たのは光芳書店含め3回!

 

最近では保町の白山通りにある「アムールショップ」という古書店の

外の文庫棚に1冊!

あの、2冊100円文庫の大きな文庫棚が4面くらい並んでいるところ。

店内はアダルト系ですが(笑)

外の棚は古めの文庫が珍しい本がドカッと出たりして、油断ならないんですよ。

この前、戸部新十郎「服部半蔵」全10巻揃ってて、

「おわっ!」と魅入られ、思わず買っちゃいましたもん(笑)

 

ここは、サラリーマンの皆さんが結構かぶりついていて回転が速いから

既に無くなってたらごめんなさい。

 

そして、光芳書店に、この「宇宙でいちばんあかるい屋根」もあったんですよ!

難関本が、1店舗で3作! 

ここも穴場ですな。

~~という長い前段がありまして!

 

■23年6/29 見つけたのが、その、

野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」角川文庫

場所は阿佐ヶ谷の「銀星舎」!

光芳書店、アムールショップ、そして銀星舎。

1年間回り続けて、この3店です。

 

ここへ行ったキッカケは、小山力也さんの古本屋ツアー・イン・ジャパンのサイト。

小山さんは、本当に、週に一回くらいのペースで

西荻窪や、阿佐ヶ谷界隈の古書店を巡回していて、面白そうな本を発掘。

そのブログが面白いんですよねー。

何より、僕のような人間にとってありがたいのは、

 ▼外観……写真を掲載。文庫の100均棚が充実してるかが分かる!

 ▼店内……取り扱いラインナップ どういう傾向の本を置いているか。

      70年代、歴史系、茶色い系……とジャンル詳細が!

      そして量! 

      単行本の棚が○棹、文庫棚が○棹、絶版コミックが○棹、

      

 ~~などを書いてくれるから、本当にありがたい!

僕は今、北上さんの解説文庫を探しているので、必然的に

「文庫が充実しているか」を知りたいので

「作者五十音順に並んでる」などと書いてあると

「それなりの数がある」と推測でき、行ってみる目安になるんですよ。

 

それで、古ツアさん(知り合いでもないのに通称ですいません)のサイトで

阿佐ヶ谷は結構、古書店が点在していて、楽しそうだなー、と思い

まあ、北上さん解説文庫が見つからなくても、面白い本が見つかりそう!

と思い、行ってみたんです。

 

既に6月も末でしたから、確か結構暑かった記憶が。

で、「コンコ堂」さんなどを巡って、

「阿佐ヶ谷 古書店」でスマホ検索したら、

最後に一軒、残っていたのが、一番遠い「銀星舎」さん。

暑いわ、疲れてるわ、正直一瞬、帰ろう、という気になってました。

「でも、まあ、ここまで来たんだし!」

と、腹をくくって、向かいました。

それが、大当たりだったわけです!

 

あったのは、なんと外の100均書棚。

ちょっとね、車道に面していることもあって、埃かぶって、

カバーも色褪せ系が目立ちました。

だから、あまり期待せず、さーーっと、流しながら見てたんですよ。

そしたら

「野中ともそ」

という名前が! よく見ると、

「チェリー」ポプラ文庫。

うーん、残念。

でも、これまで古書店で「宇宙でいちばんあかるい屋根」光文社文庫版以外、

ほとんど見かけなかったこともあって、一気に期待値急上昇!

そしたら、隣に、確かもう一作、野中ともそがあったんですよね。

これは多分、ファンが何作か買って読んだ本を、まとめて販売したに違いない!

となると、これは……!!

俄然、目が輝きますわね。

そしたら……

その1段下の棚に、

「宇宙でいちばんあかるい屋根」!

あった~~~~~~ッ!

思わず声出た~~~ッ!

周囲に人がいなくて幸いでした~~ッ!

 

背表紙も、光文社文庫とは違う!

おそるおそる手に取って、中を見たら……

「北上次郎」!!

おおっ!

しかも、珍しいことに

「解説 北上次郎」

ではなく

「丁寧に優しく、力に満ちている  北上次郎」

という「見出しタイトル」。

珍しいですよね? 

 

■この作品は、中学生の「つばめ」という女の子が主人公。

5歳年上の幼馴染、亨くんに恋心を抱くようになり、何だか意識して、

上手く喋れなくなってしまう。

で、思い切って亨くんにバースデーカードを贈ったものの

何だか恥ずかしくなって取り返したくなる。

その時

「取り戻してあげる」というのが、星ばあ、という癖のある不思議なおばあさん。

その代わり……と星ばあにあることを頼まれるお話。

 

北上さんは、野中ともそのデビュー作の時から

「中学生小説ベスト30」に入れたい、というほど、この作家さんに入れ込んでいて、

「宇宙で~」についても、新刊当時の書評で称賛。

ただ、その魅力の理由が上手く説明できなかったらしく、

この解説で、当時の新刊評を正直に再掲載。

 

「空を飛ぶことが出来るというヘンな老女と中学生の奇妙な出会いを描く

 ヤングアダルト小説で、この魅力が何であるのか

 まだ私にはうまく説明できない」

 

とした上で、

 

「野中ともその小説は豊穣すぎて、なかなかその正体を見せないのである」

 

と弁解。

どうやら、その正体を掴んだ、と伝えたくて、「解説」ではなく

「丁寧に優しく、力に満ちている」

というタイトルにした模様。

 

でも、そこで、即「宇宙で~」の話に行かないのが北上さんらしいとこ。

野中ともその、もう一つの「カチューシャ」という作品について語り出す。

これは、

「のろまな高校生の男の子 かじお」の物語。

お昼休みの間に、給食を食べ終えられず、

テストも、問題の意味を考えている間に終わってしまう。

生きる速度が違う男の子。

だけど、お父さんは怒らず

「のろまなことは決して悪いことではない」

と言い切る。

だから、かじおは、

学校でフォークダンスの輪からはじき出されても、

焦ることなく、おどおどすることなく、

草原のキリンのようにスッと校庭に立っていられる……

それは、親の愛に包まれているから。

 

うーん、何だか、北上さんの紹介だけで、胸が熱くなってくる。

かじお、頑張れ!と応援して、読みたくなる。

別の作品なのに(笑)

 

そして、北上さんは、そのかじおと、つばめを重ねる。

実は、つばめは、実の母親が自分を置いて出て行き、

父と、その後妻である「ママ」と暮らしている。

なんで母は出て行ったのか。

葛藤を呑み込んで生きている。

道を踏み外したっておかしくないのに、

道を踏み外そうとしている同級生に勇気をもって声をかける。そういう子。

そんなある時、

血のつながらないママが、つばめを思い、くだしていた、

“ある決断”を知る。

これが、胸に迫るんですよ!

北上さんは、そんなつばめと、見守る親の姿から、

野中ともその小説の魅力の正体を突き止めたようで、最後に、こう記します。

 

 

「親の愛は必ず届く、と信じなかったら、子を育てる勇気は持てそうにないが

 大丈夫、必ず届く。

 かじお(つばめ)を見れば、信じる気持ちがもりもり湧いてくる。

 いい小説だ」

 

そして北上さんは、とどめに、もう一言

 

「最後に一言だけ繰り返す。いい小説だ。」

 

うん。なんかもう、解説だけで泣けてきた。

 


【北上さん解説文庫 捜索遍歴㉓ 6/26 再び 無きブックセンターとう立川西砂店で「シービスケット」など】

2024-02-08 00:44:40 | 日記

■またまた、前回に続いて、ブックセンターいとう立川西砂店であります。

前回は5/21で、一か月空いていますが、

もちろん、その間も、色々探し回ってはいました。

どこ行ったっけ?

多分古書店、古本市、ブックオフなどを巡ったはず。

でも……全然覚えとらん(笑)

 

「北上さん解説文庫」を見つけた時だけ、付箋に日付とメモを書いて

その庫に貼っておくので、それは覚えてるんだけど。

ヤバい?

でも、日々、企画を考えたり、原稿を書くために調べたりして、

色々インプットしなきゃいけないから、

その分、何かが出て行かないと入らなくなっちゃう。

だから、仕方ないよね? うん、そういうもんです。

大丈夫(笑)

 

■で、一カ月ぶりの立川西砂店です。

なんでそんなすぐに、再訪したんだっけ? 

まず前提として、この頃は、まだ、北上さんの解説文庫、持っていない作品が

数多くあったので、一度にまとめて探すことは出来なかったんですよね。

で……ああ、そうそう!思い出してきた。

キッカケは、

ローラ・ヒレンブランド「シービスケット」ヴィレッジブックス。

これね、持ってたんです。

実は、試写会巡りが趣味だった頃、この映画を見て感動して購入。

原作も面白かった!(内容は覚えてない 笑)

でも、その後、どこに保管したのか……

家の本棚にも、実家にも無い。

多分、山積みの「読了本」段ボールの中にあるんだけど、

アレを一つ一つ引っ張り出して確認するのは、気が遠くなる……

ということで、改めて買おう、と思ったんです。

もちろん既に新刊は無いから、古書店。

で、浮かんだのが、一か月前に行ったブックセンターいとう立川西砂店。

「マフィアへの挑戦」を見つけた時、

確か、海外ミステリ文庫のコーナーにあった気がしたんです。

 

そして行ってみたら…ビンゴでした!

 

■さらに、嬉しい発見! 

谷甲州「エリコ」下巻 ハヤカワ文庫

まで、あったんですよ!

実は、谷甲州は、「遥かなり神々の座」を読んで以来、好きで読んでいたんですよね。

航空宇宙軍史シリーズも、まとめて読もうと揃えていたり。

「エリコ」も、2022年に上巻だけブックセンターいとう東中野本店で

見つけて購入。

偶然ですが、北上さんの解説作品と知る前から、

ズ―――ッと「下巻」を探していたんです

もともと欲しかった上に、

「え、解説、北上さんだったん!?」

となって、欲しさ倍増!

そしたら、立川西砂店にあったんです。

僕の記憶では、一か月前には無かったのに(自信は無い 笑)。

やっぱ、古書店も棚が動くから、定期的に行くもんですね。

 

■さらに、この際だから、ここで!と買ったのが

村山由佳「すべての雲は銀の…」上下 講談社文庫

実はこれも、10年以上前に読んでいた本。

同じく「読了本」箱に入っているのを探す気力が無く、買いました。

 

恋人が、よりによって自分の兄に心変わりしてしまう、というつらい経験をした男子大学生が主人公。

逃げるように信州の宿でバイトを始め、

自然の中で、色んな人と触れ合ううち、前へ向いて歩き出すお話。

北上さん解説だったのは、全く覚えていませんでした。すいません。

で、北上さんの解説を読んでみたら…

 

「本書は失恋の痛手を抱えた大学三年生の祐介が、

 信州の宿にアルバイトにやってきて、そこで再生していく物語である。

 一言で説明するとそういうことになるが、

 それだけではこの小説の魅力がほとんどこぼれ落ちる」 

 

ゲッ。

直前に書いた僕の説明は、まさに、北上さんが指摘する説明そのまんま。

魅力が全く零れ落ちてます。

ごめんなさい。

 

なので、もう少し説明しますと、魅力的なのはヒロイン的存在の瞳子さん。

宿の主人の姪で、3歳の男の子を持つバツイチの女性。

サバサバしているようで、でも、夫の消息を気にかけていて、

とても魅力的だったのを覚えてます。

「良い本を読んだなぁ」

と思いたい方は、ハズレ無しです。

まだ、色々こぼれ落ちてるか?(笑)

 

■でも、今回書きたいのは、「シービスケット」の話。

これは、1930年代、全米を熱狂させた競走馬。

当時の一年間の新聞紙面を割いたトップ3が、

2位ルーズヴェルト、3位ヒトラーで

1位がシービスケットだというから、どれくらい国民的な人気者だったかが

分かりますよね。

シービスケットは、有名調教師に見捨てられた馬で、

その隠れた実力を無名の調教師が見抜き、

なぜかその馬に懐かれた二流の騎手と共に、あれよあれよと勝ち上がり、

ついには最強の三冠馬と、運命の対決レースに臨む、という

シンデレラストーリー。

ホント、胸が熱くなりますよ。

誰もが夢を託した、奇跡の馬。

運命のレースは

「行け―! 行け―!」

と、声を上げたくなるはず。

映画も素敵なので、観て欲しい。

 

そんなシービスケットのノンフィクション。

競馬大好きの北上さんの解説は、もちろんすごい熱量(笑)。

その中で、僕が強く共感したのは、好きなシーンについて。

シービスケットは、全くやる気を見せない馬だったが、

 

「パンプキンという誘導馬、ポカテルという名の犬、

 クモ猿のジョシュなどを友達として与えられたので、

 シービスケットが徐々にリラックスするというくだりも無性におかしい」

 

「ジョッキーの過酷な生活を描く部分では、馬糞の山を掘り起こして、

 その穴に入り込み、熱気で汗を搾り取るというシーンがある。

 競馬の裏側の、こういうディテールの積み重ねが素晴らしい」

 

と、細かなエピソードに感服していました。

全く同感。

僕も「Going!Sports」というスポーツ番組をやっていることもあり、

アスリートのスゴさの奥に潜む、「細かなこだわりやエピソード」が

好きなんですよね。

 

以前、Goingの解説でもある阪神の元盗塁王・赤星憲広さんの本を

読んでいたら、

「盗塁王は皆、投手のモノマネが上手い」

というエピソードがありました。

それくらい、徹底的に観察し、ビデオで癖を研究しているからだそうな。

その研究のおかげで、

元中日の山本昌投手の場合、百発百中で盗塁できたという。

 

「ランナーをチラッと見た後、捕手を見てから一、ニのタイミングで

 左足を上げる時は、必ずホームへ投げる」から。

 一番面白かったのは、一塁で大きめにリードをした時のエピソード。

 

これは別の話ですが、

けん制球を投げる時の癖も分かっていたので

ある時、思い切って遥かに二塁側までリード。

そしたら、セットポジションに構えた時、目が合って、昌さんが

「えー、お前そりゃやりすぎやろ!」

という嘆き顔をしたとか。

いくら盗塁してもええけど、そんなにリードされたら、

他の野手や後輩投手に示しが付かんやろ!

ということらしい(笑)。

裏を返せば山本昌さんは、赤星さんにいくら走られても、

後続打者を押さえる自信があったから

癖を盗まれていると知っていても、直さなかったのでしょう。

それも凄いですよね。

 

こういうプロの細かなエピソードって面白いでしょ?

 

■「Going」でもありました。

三浦カズ選手が練習の時、「いつも、人より1回多くやっている」

というエピソード。

気付いたのは、日テレスポーツ局の当時の担当ディレクターさんだったかと。

カズ選手のトレーニングに密着。

どうしてあの年齢になっても第一線でやれるのか? 

秘密を探りに行ったんです。

そしたら、皆で腕立てや腹筋などをやる時

「1、2、3……20」などと皆で数えながらやる時、

な~んか、いつもカズ選手だけ終わるのが遅い。

で、撮った映像をリプレイして確認したら、

皆が20回なら20回で終わる中、

カズ選手ひとりだけ、プラス1回、余計にやっていたんです。

それでさらに、よーく観察したら、今度は皆でのランニングで発見!

グランドを走る時も、常に一番大外。

同じ一周でも、内側の人より、確実に多く走ることになるわけです!

凄いでしょ!?

「こういう積み重ねが、レジェンドを生むんだな」

と心から感動しました。

 

皆さんも、「シービスケット」のようなスポーツノンフィクションや、

「スポーツ選手の書いた本」読むと面白いですよ!

「社長の自慢本」とは違う、

そのアスリートが、勝つために編み出した独特な練習法や、工夫、そして

技術の裏にある汗と研究……書かれていて、「へぇ~!」の宝庫!

 

そんな流れで……

「Going!」も、そうした取材Dの見つけた発見やエピソードが

散りばめられていて、そこにMCの上田晋也さんが突っこんで、

面白いです(笑)

是非ご覧下さいまし!

 


【北上さん解説文庫 捜索遍歴㉒ 5/21 今は無きブックセンターいとう立川西砂店で大人買い】

2024-02-01 03:53:38 | 日記

■これを書いているのは、24年1月31日。

北上さんが去年1月19日に亡くなられてから、一年が経った。

 

まだ、正直、北上さんロスから抜け出せていない。

 

僕は、北上さんとお会いしたことも無いし、話したことももちろん無い。

ただ、北上さんの書く書評や解説を読んで、

時に、ネットやTV番組などで熱い話しぶりを見ていただけ。

ご家族や、一緒に「本の雑誌」を作っていらした編集部の方たち、

親交のあった出版社の皆さんや書評家仲間の皆さんの喪失感とは、

次元が違うと思う。

 

それでも、この前、「小説推理2月号」を手に取ってしまった。

毎年、この号に、北上さんが「海外ミステリーの年間ベスト」を発表するから。

「あれ? 無い……あ、そうか。北上さんは、もういないのか」

 

タイトルに釣り込まれるように

城山三郎さんの「そうか、もう君はいないのか」を読み返してしまった。

亡くなった奥さまとの日々をつづった作品。

冒頭から、明るくチャーミングな奥さまのエピソードが綴られる。

 

城山さんが講演会に呼ばれ、上手く喋れるか、緊張して演台に立つと、

正面に、ちゃっかり奥さまが座ってる。

内緒で来ちゃった、と悪戯っぽく笑って「シェ―!」のポーズまで。

赤塚不二夫「おそ松さん」のイヤミのアレだ。

なんとも可愛らしい。

その様子が可笑しくて、城山さんが怒ったものやら吹き出したものやら、

と困る様子も、いいなあ、と心から思う。

 

その奥さまが、もういない。

「おい」

と、つい呼びそうになって気付く。「そうか、もう君はいないのか」。

病床の奥さまとの、最後の別れが切ない。

最後まで、奥様らしいチャーミングな別れの挨拶。

これは、読んでいただくのが一番ですが、

本当に笑えて、泣けて、そしてこの人と一緒になれて幸せだったろうな、

と思う仕草。

そして、城山さんは、その姿を思い出す度、

「私は声も出なくなる」

どれほどの喪失感だったのか、それだけで伝わってきました。

 

■さて、遡って、去年5/21(日)

僕は、ブックセンターいとう立川西砂店へ行きました。

 

国分寺店、東中野本店、元八王子店、日野店と、フル活用してきて、

この支店も以前、訪れていました。

ここはね、中途半端に駅から遠いんですよねー。

 

元八王子店くらい駅から遠ければ、バスで行くけど、それほどではない。

西武立川駅から歩いて行くと、途中、両サイドが赤茶色い畑となって、

見渡す限り平原。

風があると、その土埃が吹きつけてくるんですわ。

そこを顔を伏せつつ通過すると、小学校の前を抜けて、

さらにひたすら一本道。

一本道って、迷わないけど、心折れそうになることありません?

ひたすら歩いても、目印が遥か先「まだ、あそこまで歩くんかい」

というカナシミ。

曲がったり、道の先が見えない方が、

目先が変わって頑張れると言いますか。

 

しかし。

その立川西砂店も、24年1月14日に閉店。

数日だけ延期になっていたみたいだけど、今はもうありません。

西武立川駅の駐輪場にあるレンタサイクルの会員、

申し込もうか迷っていたけど、なる前に、行く先の店が消失してしまった……

最後にお別れにお店に行った時のことは、またいずれ。

 

この日も、そんな遠い道を歩き続け、辿り着きました。

 

■でも、その甲斐ありましたよ!

まず、難関本の白井喬二「富士に立つ影」ちくま文庫を発見!

全10巻の7巻に、北上さんが解説を書いています。

北上さん解説本だけにこだわるなら7巻だけ手に入れれば、となりますが、

大長編小説となると、7巻だけ買うというのはナシかなと。

やっぱり、全部読み通したいですわね。

ま、そもそもなかなか見かけない作品を7巻だけバラで探しても、

出会うのは、ほぼ奇跡。

セットで買おうと思ってはいたんです。

そして実は以前、立川西砂店に来た時、

「たしか、富士に立つ影 全10巻セット 売ってなかったっけ?」

とかすかな記憶があったんですよ。

立川西砂店は、割と、文庫のセット本が充実していて、棚の一番上や、

棚の床下にズラッと並んでまして。

その中に、あった印象が。

というのも、以前、北上さんが白井喬二「新撰組」をお勧めしていたのを覚えていて、

「お、富士に立つ影って白井喬二だったんだ」

と思ったのを覚えてたんです。

だから、

「きっとある!」と信じて行ったら……

ありました!

全10巻! 

すぐ籠に入れました。

 

■さらに嬉しかったのは、海外ミステリーコーナーを覗いた時。

創元刷り文庫 

ドン・ペンドルトン「マフィアへの挑戦」シリーズ

が、ズラリ!

これ、調べたら確か全20巻の大人気シリーズ。

だけど、こういうのって、1巻2巻など、始めの方の巻は

比較的出回るけど、後ろへ行くほど、発行部数も減って、

古本でも出回らなくなるんですよね。

 

まして、北上さんが解説を書いているのは、なんと17巻!

ほぼ、シリーズ終盤。

正直、北上さんの解説本の、海外ミステリの中で、一番の難関本になる、と

覚悟してました。

だから、「マフィアへの挑戦」が、ズラッと並んでても、

糠喜びにならないよう、じっくり1巻2巻……と左から見て行って、

一気に見ないように我慢(笑)

5巻……10巻。

まだある!

そして……

「17巻! おお、あるやんか!」

案の定、後半、歯抜けになっている中、17巻だけあったんです!

これも、すぐさま、誰にも渡さないよう、手に取りました。

ちなみにこちらは、一巻読み切りスタイルだから、セット買いではなく、

17巻だけ購入とさせて頂きました(笑)

そしてこの解説を見たら、これがねー、色々読んできた北上さん解説の中で、

異色だったんですよ。

 

「一九七〇年代はダスティン・ホフマンの時代だった、

 という話を以前、書いた記憶かある」

 

えー? ダスティン・ホフマン? これマック・ボランの話ですけど。

しかも、以前も書いてた?

メッチャ気になる。

しかも、それが、同じ七十年代、このマック・ボランシリーズが熱狂的に

支持された理由だという。

いや、北上さん、それ何の関係が……?

そして話はダスティン・ホフマン「卒業」の話になる。

 

「卒業」というと、結婚式に乗り込んで、花嫁をさらって飛び出す、

憧れの恋愛映画というイメージですが、北上さんによると、それは違うと。

実は、男が自信を喪失していた時代の訪れを見事に描いた映画だという。

八十年代冒頭「クレイマー、クレイマー」でアカデミー賞主演男優賞を受賞するまで、

その時代の象徴だったのがダスティン・ホフマンだった、という。

そして、こんな指摘をするんです。

 

「主人公の青年は…(略)スクエアな人生もドロップアウトも出来ない

 中途半端な男が、最後のよりどころである女の体に、

 逃げ込むための行動なのである」

 

そこで、あっ、と僕も思い当たったんです。

「卒業」のラスト。

確かに、花嫁をさらって飛び出すけど、そのカッコいい感じで終わり……

に、なっていないんですよね。

ネタバレになっちゃうかもしれないけど、

最後、二人は颯爽とバスに飛び乗って、前を振り向くと、

他の乗客の視線が厳しい。

そして、二人も笑顔が消える。

これからの厳しい道のりを暗示しているかのような終わりだったのを

思い出したんです。

北上さんの指摘するように、

「卒業」は、安直な憧れの恋愛映画などではなかった。

映画を見ながら、

「この男についてって、大丈夫?」

と思わされたことが蘇りました。

そして、そんな頼りない男ばかりの時代だからこそ、

ストイックに、たった一人でマフィアと戦い、倒していくヒーローに

熱狂したのだという。

なるほど!

腑に落ちました!

昔、映画も見て歩いていたという北上さん。

映画の読みも深い!

唸らされました。

 

北上さんが亡くなって一年。

改めて、思い知りました。

「北上次郎って、すげぇ」