095:しっぽ（原 梓）

秋雨を見くびるなかれ　しっぽりと濡れて帰れば臓器も冷えて

094:沈黙（原 梓）

沈黙を埋めるためだけの意味のない会話に喉ぼとけが白みゆく

093:周（原 梓）

周回遅れのアンカーのような輝きで夕暮れが秋の只中過ぎる

092:生い立ち（原 梓）

生い立ちを脚色せずとも小説より事実の奇なるひとと会話す

091:渇（原 梓）

渇望というもの薄くこのごろは本に折り目などつけて読みます

090:メダル（原 梓）

詩の中で月をメダルに喩えたる中也の真意を思う十月

089:減（原 梓）

朱の色の通帳繰ると減ってゆく数字、増えてゆく過去

088:錯（原 梓）

倒錯的感情錯綜し始めて視線が交錯、錯覚しそう

087:天使（原 梓）

「天使なんかじゃない」を読んでるとき、きみの輪郭はいちばん潤む

086:恵（原 梓）

恵まれぬ子らに愛の手をと叫ぶプラスティックスマイル近寄る