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カーズに入りたかった男

このブログは、現時点では 「80年代洋楽」 カテゴリメインで記事を書いている。
前回に引き続き、今回の記事も厳密に言うとそのカテゴリから外れるが、1978年から80年代後半にかけて活躍したバンド、カーズ(The Cars)に縁のある記事なので、広義の意味で 「80年代洋楽」 カテゴリに属するものとしたい。

The Cars という米国のロックバンドを、みなさんは御存知だろうか?
1976年にボストンで結成され、1978年にシングル 「Just What I Needed」 でデビュー。
このデビューシングルが、一大センセーションを巻き起こした。

「あの男前のリードボーカルは誰や?」

TV ショウのスタジオライブで 「Just What I Needed」 の演奏を見たアメリカの視聴者は、度肝を抜かれ、カーズの事務所に問い合わせの電話がバンバン殺到した(らしいw)

カーズは、リーダー格の人物が2人いる、いわゆる二枚看板のバンドだった。
デビュー曲 「Just What I Needed」 のリードボーカルを歌った、ベン(Benjamin Orr)。
もう1人が、全ての作詞作曲を手掛けるバンドの頭脳、リック(Ric Ocasek)だ。

ベンの完璧無双のルックスが、カーズにセンセーショナルなデビューをもたらした。
リックのペン先が楽曲を綴ったから、カーズはバンドとして存続することができた。
ベンの官能と、リックのインテリジェンス、いつも背中合わせの2つの個性が中心にある。
カーズはそんな不思議な魅力を持つバンドだった。

1988年のアルバム 「Door to Door」 を最後にカーズは解散し、2人は袂を分かった。
リックはソロキャリアの道を進み、一方のベンは一度シーンから遠ざかり、1990年代半ばから音楽活動を再開するが、そのとき既にベンの身体は病魔に侵されていた。
2000年8月、ベンとリック以下、カーズの5人全員が顔を合わせるラストインタビューが実現し、その2ヵ月後にベンは他界した。

2011年、ベン以外の4人は再び集結し、ニューアルバム 「Move Like This」 が発表された。
1988年の解散以降、リックはカーズの再結成を一貫して否定し続け、ベンの他界がそれに追い打ちをかけたかと思われていただけに、カーズ再結成は世界中を驚かせた。

カーズの来歴をざっと振り返ると、以上のような感じになる。



さて、今日の記事の主人公は、カーズの歴史の深淵を知るマニアにとっては忘れることの出来ない人物、ダグ・パウエル(Doug Powell)である。

ミュージシャン、宗教家、エンジニアと、マルチな才能を持つダグ・パウエルという人物が、カーズの歴史とどう関わっているかについては、Wikipedia にまとめられている。
ベンが他界して間もなく、カーズの再結成が模索された2000年代半ばに、話は遡る。

残ったオリジナルメンバーのエリオット・イーストン(Elliot Easton)とグレッグ・ホークス(Greg Hawkes)の2人がカーズ再結成に動き、リックと話をしたが、リックは拒否。
最終的に、リックの代役にトッド・ラングレン(Todd Rundgren)を起用した The New Cars の結成が着地点となったが、その騒動の中で、ダグ・パウエルの名前が一瞬登場する。

Wikipedia によると、カーズのトリビュートアルバム 「Substitution Mass Confusion」 に収録されたパウエルのカバー曲 「Candy-O」 を聞いて感銘を受けたエリオットが、「新生カーズのリードシンガーになってくれないか」 とパウエルに直々に頼み込んだらしい。
それを受けてパウエルは、デモ用にと6曲をレコーディングした。

が、リードボーカルはトッド・ラングレンに決まり、パウエルの用意した6曲も The New Cars のマテリアルに採用されることはなかった。
そのときの6曲は、パウエルの2006年のアルバム 「Four Seasons」 で聞くことができる。

2006年 「Four Seasons」

能書きはこれくらいにして、ここからがやっと今回の記事の本題であるw

先日、アルバム 「Four Seasons」 をアマゾンの MP3 ダウンロードで購入した。
前半の Track No.1~6 が、The New Cars 結成騒動でお蔵入りとなった6曲となっている。
LPの時代であればアルバムのA面であり、この6曲に対するパウエルの愛着がうかがえる。

A面が件の6曲であることは、Wikipedia を見ても書いていないが、聞けばすぐ分かる。
No.1~6 のA面と、No.7 以降のB面では、曲の趣がガラリと変わるからだ。
A面ではどの曲も Greg Hawkes ばりのキーボードのフックが効いている。
いくつかの曲では Elliot Easton のプレイを思わせるギターソロも楽しめる。

パウエルは元々、ベンの他界に伴い企画されたカーズのトリビュートアルバムに1曲を提供しただけあって、カーズ愛を内に秘めた男であることは間違いない。
そんなパウエルのカーズ愛は、オープニングの 「Feel For You」 から全開となる。
炸裂するキーボード、リックのリードボーカルを巧みに模写している様子など、それはもう渾身のカーズ愛が表現されていることが、カーズファンなら聞けばすぐ分かる。

「Feel For You」 も凄いが、3曲目 「Lies」、5曲目 「One Good Reason」 も秀逸だ。
特に、リックが歌う最中に時々漏らす 「嗚咽」 までもが巧みに模写されている 「One Good Reason」 は、カーズを飛び越えてリックのソロアルバムの領域に達しているw
02分03秒と03分27秒に聞こえる生リックの嗚咽は、カーズファンなら一聴の価値ありだ。

そして、A面ラストの6曲目 「Chained」 では、生ベンのリードボーカルが聞けるw
2曲目と4曲目もベンのボーカル模写のようだが、「Chained」 のそれが最もベンに似ている。
自分はアルバム 「Four Seasons」 を、都内までドライブする最中に初めて通して聞いた。
そのとき、「One Good Reason」 の生リックの嗚咽に感銘を受け、直後に 「Chained」 が流れてきたときは、あまりにもベンそっくりの歌い方なので笑ってしまった。

01. Feel for You
02. Runaround
03. Lies
04. Fire and Ice
05. One Good Reason
06. Chained

A面が終わると、7曲目からは曲調がガラリと変わる。
パウエル本来の地声で歌われ、Greg Hawkes ばりのキーボードのフックもなくなるが、カーズファンはもちろんのこと、そうでない人でも普通に楽しめる上質のパワーポップが詰まった全13曲となっている。

パウエルのカーズ愛は、本家カーズのリードギタリストをその気にさせた。
しかし、デモ用に書いた6曲のカーズライク度のクオリティの高さが仇となり、The New Cars のリードシンガーをパウエルが務めることについて、リックが難色を示した(と想像する)。
そんなこんなの裏事情に翻弄されて、パウエルの The New Cars 参加は実現しなかった。

それでもパウエルのカーズ愛は変わらなかった。
陽の目を見ずに終わった6曲をアルバム 「Four Seasons」 のA面に収録して発表し、一連の騒動を歌い清めるかのように、ラストの13曲目を 「God Bless Us All」 で締めくくった。
カーズに入りたかった男、ダグ・パウエルのカーズ愛が、そこに込められているように思う。

そうした御託抜きに、アルバム 「Four Seasons」 を一人でも多くの人に知ってほしい。
「One Good Reason」、「Chained」 での生リックと生ベンの揃い踏みをw、カーズファンだけでなく全ての洋楽ファンと共有したい、そう思って今回の記事を書いた次第である。
記事の前半でカーズの来歴について長々と説明した理由は、そこにある。

Doug Powell - Feel for you
https://www.youtube.com/watch?v=nX33ob8ogI4

Doug Powell - God Bless Us All
https://www.youtube.com/watch?v=p2iYlJw9FOQ
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