2024年 冬
(270句 / 累計 27940句)
焦げ過ぎの トースト二枚 今朝の冬
今朝の冬 ホットミルクの 膜に皺
冬紅葉 ながらふものは 色澄まず
帰り花 過ぎ去りし日々 惜しむかに
老いてなほ 続く青春 帰り花
帰り花 どの面さげて 帰ろふか
こんな日の こんな処に 帰り花
堪忍の 雌伏幾月 帰り花
悲しほど 花びら痛む 帰り花
冬蜘蛛の 破れ囲無残 穴多し
冬蜘蛛の いのち痛みて 動かざる
吽象の 鼻梁にひとつ 冬の蠅
仁王門 阿象の口へ 冬の蠅
冬蠅や おのが影より つゆ出でず
枯蟷螂 飢ゑて伴侶の 骨を噛む
蟷螂枯る 殺生の咎 身に刻み
卵産む 枯蟷螂の 両ぎょろ目
枯蟷螂 くび傾ぐるも 小賢しく
木の葉散る 葉に惜別の 音かすか
木の葉散る
散り渋る葉も みな散りぬ
艶失せて 毛癖の強き 木の葉髪
いたはりつ 手櫛ですます 木の葉髪
ポマードで 固めて白き 木の葉髪
掃除機に 吸はれて消ゆる 木の葉髪
木の葉髪ほどにや 老いが拠り所
凩や 影攫はれて 筋をなす
凩に さらはれてゆく 笑ひ声
木枯しや 剥離の葉々の 行き処
朴落葉 人の裏見て 人恨む
朴の葉の散りて 天下の貧を知る
きりもなや
掻きても落葉 降りやまず
長財布 落葉を入れて ちちんぷい
落葉掻く
プロメテウスの やうに掻く
掻き溜めし 落葉を風が さらひゆく
舞ふ落葉 打てば空振り 竹箒
空を切る箒や 落葉とめどなし
目で掻きて
積もる落葉は そのままに
目で掻きて 落葉残るを 許諾せり
落葉屑 こころの隅に 吹き溜る
たなびくは 雲か煙か 落葉焚
眠さうに 煙たなびく 落葉焚
言の葉の 煙は薄し 落葉焚
落葉焚く
プロメテウスの 火を借りて
落葉焚く
木捨ての葉々が 灰になる
パン生地をこねて
初冬の厨(くりや)妻
神の留守 仮面家族の 祭壇に
神の留守 神々もまた 妻恐れ
神の留守 山手線を ひとまはり
神立ちて 神の非在を 知る夕べ
誦経して おはすはなんと 十夜婆
孫よりも 祖父母のはしゃぐ 七五三
大仏の 眼差しやさし 小春晴
あひ和して 耳やはらかし 小春晴
小春日の
スカイツリーを ひとつまみ
小春日や 山手線を ひとまはり
粟生線の ひと駅ごとの 小春色
粟生線は あふあはあをと 小春晴
竹馬の 高さ六寸 子の背伸び
勤労に感謝 無遅刻無欠勤
心臓の 長期勤労 感謝の日
ジャポネ小春
ボジュレヌーボー 解禁す
冬晴の窓辺で カフェ・マキアート
光陰や 泡立草は 立ち枯れに
泡立草 枯れて倒れず 直に立つ
鋭角に 折れて入水 蓮の骨
生真面目な 青年老いて 枯はちす
水草枯る 水の重さに 耐えかねて
隠沼に 枯れ水草の 溺死体
下流へと 枯水草の ひと欠片
荒海へ ぬつと突き出す 枯岬
人間を はづれて遠路 枯野まで
枯野原 誰も拒まず 受け入れず
どの道を行くも 枯野の端に出でず
引き返す こともできずに 枯野道
かにかくに 枯野さまよふ
当て処なく
ただ歩く そこが枯野で あろうとも
魂を 枯野に放置 せしままに
日あたりて 枯蘆原の 水の道
頑迷な 脳の老ゆらば 枯葎
枯葎 老の迷路を 抜けきれず
枯すすき 男女の機微に 疎き人
枯尾花 老いが旅路の 無一物
枯尾花 風の形に 靡き寝て
枯菊を 抛れば庭火 もりかへす
山暮れて 枯木に星の 灯るかに
立ちしまま 眠りをるかに 庭冬木
裸木や 千手万手の 枝観音
落城の冬や 万骨枯るるかの
北窓を塞ぎ 玄武の黒を断つ
キトラ古墳
花ひひらぎ 不遇の時の 小さき幸
柊や おのが身にそふ 幸小さき
冬菊や 泣くに泣けざる 喪主の女に
剪定を違へて 枇杷の花咲かず
底抜けの オプティミストの
レノンの忌
キリストも かくのごと死す
レノンの忌
レノン忌や わが青春も Yesterday
失ひて 分かることあり 小夜時雨
ひと雫 こぼるるまでを 小夜時雨
銛ささる 白鯨の血は 海染めず
海は広し 鯨は海の塵
あみえびを 食す鯨と 米食ふ吾
鯨より 抜けゆく魂は 白かりき
深海を 這ひし鮟鱇 空に吊る
鮟鱇の 笑ひ声なき 笑ひ口
鮟鱇の 口が吸いとる 海の黙
鮟鱇の 醜穢を断つ 光の刃
声出さぬ 大き口あり 鮟鱇剥く
深海の 闇ぞ濃厚 あんかう汁
生きながら 切られて海鼠 潮を吹く
歯ぢからに 抗ふ切り身 海鼠噛む
河豚喰うて 天国地獄 両睨み
鰭酒や ひらひりひれと 喉に燃え
ラグビーや 泥・汗・傷の 肉弾戦
ラガーらが 人に戻れり ノーサイド
漂ひて いのち軽ろしか 雪蛍
てのひらに 掴む昔の 雪蛍
手にのりし 冬毛の鳩に 重さなし
皺々の 脚に鉤爪 鷹猛る
ちょうげんぼう
ビル絶壁を ひとつ飛び
はやぶさは 鳥の雄なり 宇宙飛ぶ
隼は 真すぐに飛びて 鳥となる
かいつぶり 池に潜るは つむりより
かいつぶり 水笑はせて 浮き上がる
かいつぶり 浮くは視界の 端近く
群れ騒ぐ水鳥 水を傷つけず
浮寝鳥 支へて重し 池の水
千鳥翔つ 夕立つ波の 静か音に
飛び立ちの 百合鴎より 海しづく
西の端の 須磨へ須磨へと 都鳥
都鳥 京を離れて 幾千里
梟や 光失せても 瞽女の三味
梟は 森の賢者か 透視者か
肩を貸す ふふふと笑ふ 梟に
冬の靄 抜けて摩耶山 天上寺
冬山の 闇に届かぬ 星明り
山眠る 徘徊熊は 町めざす
熊撃たる 腹を空かせて 里に来て
熊除けの 鈴がちんたら 冬の山
肉ありしよ 熊の毛皮の その内に
地に落ちて 血反吐のごとき 木守柿
ワシントンD.C.から俳子庵にホームステイに来た
ユダヤの少年。姫路城博士と呼ばれていた白陵
高校生より姫路城にくわしく、座禅や空手もやる
という日本通だった彼とした禅問答…
「自宅の庭に、よく熟れている実が10個なっている
柿の木があって、もし君が柿が大好きだとしたら、
君はどうする?」
「毎日1個ずつ、全部食べちゃいます」
「家族で8個を食べ、残りの1個はそれを必要とする
かも知れない人に、もう1個は鳥に残して置きます。
その結果、2個の柿の実が無駄になってもいい」
ユダヤの少年は、柿の実10個の所有権は自分に
あるのだから、その権利を正当に行使すべきで、
俳子お父さんの考えは欺瞞的だとして、
小生の意見に賛同することはありませんでした。
その時は、うまく説明できなかったのですが、
①柿の所有権とは、ある時代の、とある国の
とりあえずの決まり事。
②法治国家では、その決まり事に従うほかないが、
③この所有権というのは、普遍的なものではない
のではないか。今は自分のものだけれど、
ひょっとしたら、他の人のものだったかも…。
④柿は人のものであるより前に自然のものであって、
人はその恩恵に、たまたまあずかっているだけ…。
俳子は、ユダヤの高校生を説得しようとして、
できませんでした。それから四半世紀後の2024年、
イスラエルはガザに侵攻し、非人道的な蛮行を行い、
俳子は俳句を作ることをよしとして…
鯛焼の頭と尾は 犬に分くべきか
見た目より 重き白菜 胸に抱く
大根擂る 始めはやはく あと激す
大根干す どれも足長 器量よし
切干や 干されて細く 刻まれて
ノラはノラ わたしはわたし 葱刻む
妻として また母として 葱刻む
刻まれて 青葱あはれ なみだ汁
塩辛し 一膳飯屋の 根深汁
矩ただす忌や 人と国家は 食次第
「栄養学の父」佐伯 矩は1959年11月29日没
親鸞忌 他力信ずる こともなく
腕相撲とて セーターの袖まくる
セーターの 袖をまくれば 細き腕
セーターの 毛玉のやうな 老社員
セーターに毛玉 手裏にあぶく銭
セーターに 毛玉がふたつ 君いとし
セーターを 脱げば抗ふ 長き髪
セーターを脱ぐ
けふの瘡蓋 はがすかに
太陽の 温もり残る 冬帽子
冬帽を 脱げばきんぴか 老紳士
手の影で 遊ぶ少年 白障子
白障子 内緒ないしょの 話かな
白障子 ちりも積もれば 穴もあく
白障子 生くるも死すも 紙一重
薄日さす 障子が分かつ 内と外
日本的 私的空間 白障子
家具調度 入れれば狭き 冬座敷
張りぼての 俳子首振る 冬座敷
日のささぬ 小窓明かりの 冬館
椅子あれば凭れ 蒲団のあれば寝る
冬蒲団 目には獏除け アイマスク
大鍋に 和洋中の具 漱石忌
倫敦の 夜雨に迷ふ 漱石忌
学徒征く冬や 鉛の歩兵銃
時は冬 蹶起するには 遅すぎて
ユメトピア 夢見て我の 終の冬
茶の冬や 村重陥ちて 「道糞」に
青鈍に くすみて静か 冬の海
須磨海岸
三角の 波が波打つ 冬海峡 明石海峡
曇天に 昏む沖より 冬の皺
冬磯は 海の死にぎは 波激す
北斎の 波の芯にや 冬の富士
雪富士を 真芯に波は 渦をなす
ふるさとの 冬は銀鼠 螺鈿波
冬の日は 死力尽くして 南天に
冬の日を 奪ひあふかに 空と海
冬の日に 透けて波穂は ベロ藍に
昼の空めくらば 冬の星座群
滅びゆく 運命さだめなりしか
冬夕焼
人類が 滅びしあとの 冬夕焼
骨壺の 底ひに沈む 冬落暉
夕暮れの 色ぞ恐ろし 冬山路
沖見れば 冬の銀河が 立ち上がる
暮早し 有馬湯山の 谷深し
短日や 山手線を 乗り継ぎて
短日に 百まで続く 数へ歌
短日も 時間長者の 鄙住まひ
またしても 朝令暮改 日短
酒席順 あるを忘れず 年忘
年忘れ 酒一献で 盛り上がる
年忘 ここぞ出番の 芸達者
年忘れ 締めは博多の 手一本
古代魚を 蒸し焼きにして 冬宴
闇汁や 煮れば毒気の 消え失する
煮えきらぬ 材ほど旨し 闇汁会
闇汁や 下手物喰ひの 腹自慢
下座にて 闇汁遠き 平社員
ぼろ市や 俳子俳句を うち並べ
ぼろ市や 由緒ある壺 売れ残る
朝起きて 畳冷たき 十二月
カラフルな 壁の落書き 十二月
十二月 またまたまたの 小忘れ物
クリムゾン レッドが眩し
冬フィールド
ヴィッセル神戸がJ1連覇達成
義士の日や 義に死す人の 虚と実と
社会鍋 尺布寸鉄 つのりてや
一銭も 我は入れずよ 慈善鍋
冬の灯に はやも黄昏 シルエット
冬の灯や 街が戴冠 せしごとく
冬の燈が 下へ遠のく 昇降機
家々に ひとつふたつの 冬燈
われを待つ ひとゐて仄か 冬燈
冬の灯や 輪郭だけの 夢家族
灯の冴えて
ティアラのやうな 街夜景
冬夜景 ティアラのやうに 輝ける
冬の灯や 星座は空を 区切らざる
君が死は わが胸奥の 冬灯り
仏前の 残り少なき 冬の燭
昇降機 届かぬ先や 冬の月
昇高機あらば 果てなき冬朧
星々の 軋み音尖る 冬銀河
肉体の 温みこばめり 冬銀河
冬の夜に 消えて
ふたりの ラブソング
遠火事や 隣家の窓に 灯がともる
遠火事や 超新星も 星雲も
遠火事や 噂の種は 尽きまじく
小火騒ぎ
夜更かしあとの 寝入りばな
火事を見る わが目を焦がす
火となりぬ
夜火事や 火の粉は赤き 星めきて
ふくよかに
鳥毛立女とりげりつじょの 屏風かな
冬洞窟 究極の闇 とぢこめて
冬至光 山端離れて 久しくも
冬至光 老女の覗く 針穴に
一陽来復 片手をあげて 友が来る
一陽来復 五色龍歯の きらめきに
冬至湯や 浴身ほのと 火照るまで
湯あたりや 柚子がぷかぷか 臍笑ふ
冬至湯の 臍が笑ひて 湯のぼせに
自分への ご褒美に買ふ 冬苺
イヴの夜に お口汚しの 手料理を
糧分けて 貧しき餐を イブの夜に
聖夜来る 燐寸でともす 和蝋燭
蝋燭の灯り 聖夜の手暗がり
聖誕祭 身寄りなき子に 幸あれと
戦場の 子らにもメリー クリスマス
ひたすらに 祈りに祈る クリスマス
遥かなる 空よりメリー クリスマス
クリスマス 投錨船に 灯がともる
キリストの 聖父いづこや 聖誕祭
頬こけし ユダの横顔 冬の雷
緑濃き葉陰 ひひらぎもち熟るる
ひいらぎもち 狭き庭さへ 華やぎて
門前へ ひいらぎもちの 鉢植を
年の市 品はさておく 値引き札
年の市 買はずもがなの もの買ひて
大納会 祝うて三度 パンパンパン
生き物の つながり太し 熊楠忌
熊楠忌なれば 南方まんだら図
古日記 あしたへ繋ぐ けふありて
天もまた 年惜しむかに 夕暮れぬ
年の瀬の 年中行事 絵巻かな
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