預金の払い戻しを元本1千万円とその利息に制限するペイオフが戦後初めて発動された日本振興銀行の破(は)綻(たん)から10日で1カ月。これまで大きな混乱はなかったが、5日には取引先の上場企業が初めて倒産した。事実上の創業者で銀行法違反で起訴された前会長の木村剛被告らの責任追及はこれからだ。元金融相の竹中平蔵氏ら設立にかかわった金融当局の監督責任も焦点となる。 ■複合企業への野望 「木村さんは、どの銀行も貸してくれなかったときに助けてくれた恩人。拘置所に差し入れしたい」 ある振興銀関係者は融資先企業の経営者からこんな相談を受けたと明かす。 「中小企業の救世主」とあがめられた木村被告の信奉者はいまも少なくないようだ。 日銀から金融コンサルタントに転じた木村被告は、小泉政権下で金融相だった竹中平蔵氏に引き立てられて、平成14年に金融庁顧問に就任。2年後の16年に中心メンバーとして振興銀を立ち上げた。 「コンサルタント時代に接した中小企業の役に立ちたい」というのが動機だったようだが、次第にその思いとはかけ離れた拡大路線を邁(まい)進(しん)し始める。 「2015年にりそな銀行に追いつき、2020年にメガバンクを目指す」。各支店には、こんなスローガンが張り出された。銀行を核とした「コングロマリット(複合企業)」を模索し、地方テレビ局や新聞社の買収も画策したという。 木村被告をよく知る関係者は、「グループの仕事を中小企業に発注し、融資以外でも経営を支える仕組みを作りたかったようだ」と代弁する。 ■連鎖倒産の懸念 その第一歩が、融資先をグループ化した「中小企業振興ネットワーク」だ。内部資料には製造業、流通、建設?不動産からメディアまで幅広い業種の約100社が名を連ねる。 だが、参加企業に振興銀株を半強制的に買い取らせていたほか、参加企業間で迂(う)回(かい)融資を行っていた疑惑も浮上している。 5日にはネットワークに参加する大証ヘラクレス上場でエステティクサロン経営のラ?パルレが、東京地裁に民事再生法の適用を適用を申請し倒産した。 新規融資のストップで資金繰りに行き詰まったことに加え、紙くず確実の振興銀株で3億円超の損失処理を迫られたことも打撃となった。ネットワークには同社以外にも、新興市場を中心に十数社の上場企業が参加している。 「今後どれだけの影響が出るのか、現時点では全く予想がつかない」と、金融庁関係者は、連鎖倒産を心配しため息を漏らした。 ■預金者犠牲のツケ 「破綻で資産が凍結されたことで、捜査を進めやすくなった」 金融庁の検査を妨害した検査忌避の疑いで木村被告を逮捕した警視庁の関係者は、捜査継続を示唆する。木村被告はなお拘留中だ。 これまで公的資金の投入で預金が全額保護された銀行の破綻処理では、経営陣の刑事責任が問われたケースも少なくない。 警視庁の捜査に加え、預金保険機構も不正が見つかれば、特別背任などで刑事告発を行うほか、民事上の損害賠償請求の準備を進めている。 金融監督当局者の道義的な責任を問う動きも進んでいる。民主党は、竹中氏に加え、振興銀発足当時の金融庁長官だった高木祥吉氏や元監督局長だった五味広文氏ら3人を国会に参考人招致することを検討中だ。 振興銀の銀行免許は正式な申請からわずか1カ月でで交付されており、「木村被告への身内意識でスピード審査が行われたのでは」といぶかる声が多い。 メガバンク幹部は「高めの金利でカバーしても、無担保で融資すればつぶれて当たり前だ。もともとビジネスモデルに問題があった」と、免許交付自体に疑問を呈する。 現在、慶応大学教授を務める竹中氏は、広報担当者を通じて「振興銀に関する取材は現在、すべてお断りしている」とし、沈黙を続けている。 振興銀の債務超過分は、預金保険機構が金融機関から徴収している保険料と預金のカットで穴埋めされる。 司法関係者は「初めて預金者に負担を強いるケースとなるだけに、責任追及はより厳格に行うべきだ」と指摘する。 関係者は枕を高くして眠れない夜が続きそうだ。(藤沢志穂子) (MSN産経ニュースには【ドラマ?企業攻防】のタイトルで掲載しています)【関連記事】「木村剛のウソ見抜けなかった」振興銀社外取締役 激白インタビュー 「老後の大事なお金が…」振興銀ペイオフ、泣き崩れる高齢女性も エステ「ラ?パルレ」が民事再生法 振興銀の取引先、初の破綻 振興銀、預金解約は662億円 破綻1カ月弱で11%流出 邦銀に2つの大きな試練…ペイオフとバーゼル合意 巨悪に立ち向かう地検特捜部で、何が起きているのか
預金の払い戻しを元本1千万円とその利息に制限するペイオフが戦後初めて発動された日本振興銀行の破(は)綻(たん)から10日で1カ月。これまで大きな混乱はなかったが、5日には取引先の上場企業が初めて倒産した。事実上の創業者で銀行法違反で起訴された前会長の木村剛被告らの責任追及はこれからだ。元金融相の竹中平蔵氏ら設立にかかわった金融当局の監督責任も焦点となる。 ■複合企業への野望 「木村さんは、どの銀行も貸してくれなかったときに助けてくれた恩人。拘置所に差し入れしたい」 ある振興銀関係者は融資先企業の経営者からこんな相談を受けたと明かす。 「中小企業の救世主」とあがめられた木村被告の信奉者はいまも少なくないようだ。 日銀から金融コンサルタントに転じた木村被告は、小泉政権下で金融相だった竹中平蔵氏に引き立てられて、平成14年に金融庁顧問に就任。2年後の16年に中心メンバーとして振興銀を立ち上げた。 「コンサルタント時代に接した中小企業の役に立ちたい」というのが動機だったようだが、次第にその思いとはかけ離れた拡大路線を邁(まい)進(しん)し始める。 「2015年にりそな銀行に追いつき、2020年にメガバンクを目指す」。各支店には、こんなスローガンが張り出された。銀行を核とした「コングロマリット(複合企業)」を模索し、地方テレビ局や新聞社の買収も画策したという。 木村被告をよく知る関係者は、「グループの仕事を中小企業に発注し、融資以外でも経営を支える仕組みを作りたかったようだ」と代弁する。 ■連鎖倒産の懸念 その第一歩が、融資先をグループ化した「中小企業振興ネットワーク」だ。内部資料には製造業、流通、建設?不動産からメディアまで幅広い業種の約100社が名を連ねる。 だが、参加企業に振興銀株を半強制的に買い取らせていたほか、参加企業間で迂(う)回(かい)融資を行っていた疑惑も浮上している。 5日にはネットワークに参加する大証ヘラクレス上場でエステティクサロン経営のラ?パルレが、東京地裁に民事再生法の適用を適用を申請し倒産した。 新規融資のストップで資金繰りに行き詰まったことに加え、紙くず確実の振興銀株で3億円超の損失処理を迫られたことも打撃となった。ネットワークには同社以外にも、新興市場を中心に十数社の上場企業が参加している。 「今後どれだけの影響が出るのか、現時点では全く予想がつかない」と、金融庁関係者は、連鎖倒産を心配しため息を漏らした。 ■預金者犠牲のツケ 「破綻で資産が凍結されたことで、捜査を進めやすくなった」 金融庁の検査を妨害した検査忌避の疑いで木村被告を逮捕した警視庁の関係者は、捜査継続を示唆する。木村被告はなお拘留中だ。 これまで公的資金の投入で預金が全額保護された銀行の破綻処理では、経営陣の刑事責任が問われたケースも少なくない。 警視庁の捜査に加え、預金保険機構も不正が見つかれば、特別背任などで刑事告発を行うほか、民事上の損害賠償請求の準備を進めている。 金融監督当局者の道義的な責任を問う動きも進んでいる。民主党は、竹中氏に加え、振興銀発足当時の金融庁長官だった高木祥吉氏や元監督局長だった五味広文氏ら3人を国会に参考人招致することを検討中だ。 振興銀の銀行免許は正式な申請からわずか1カ月でで交付されており、「木村被告への身内意識でスピード審査が行われたのでは」といぶかる声が多い。 メガバンク幹部は「高めの金利でカバーしても、無担保で融資すればつぶれて当たり前だ。もともとビジネスモデルに問題があった」と、免許交付自体に疑問を呈する。 現在、慶応大学教授を務める竹中氏は、広報担当者を通じて「振興銀に関する取材は現在、すべてお断りしている」とし、沈黙を続けている。 振興銀の債務超過分は、預金保険機構が金融機関から徴収している保険料と預金のカットで穴埋めされる。 司法関係者は「初めて預金者に負担を強いるケースとなるだけに、責任追及はより厳格に行うべきだ」と指摘する。 関係者は枕を高くして眠れない夜が続きそうだ。(藤沢志穂子) (MSN産経ニュースには【ドラマ?企業攻防】のタイトルで掲載しています)【関連記事】「木村剛のウソ見抜けなかった」振興銀社外取締役 激白インタビュー 「老後の大事なお金が…」振興銀ペイオフ、泣き崩れる高齢女性も エステ「ラ?パルレ」が民事再生法 振興銀の取引先、初の破綻 振興銀、預金解約は662億円 破綻1カ月弱で11%流出 邦銀に2つの大きな試練…ペイオフとバーゼル合意 巨悪に立ち向かう地検特捜部で、何が起きているのか