明日、利尻島を去る。ただの旅行者では味わえないような贅沢な時間を過ごすことができた。まさに島の人々の温かさと利尻の海の豊かさのおかげである。天候不順のおかげといっては親方には悪いが、昆布の収穫、加工、出荷準備と一通りの作業を経験できたことは、通常の半分の期間しか作業していない僕にとっては幸運だった。女将さんの手料理もあと数回しかない味わって食べよう。
このバイトを始めるにあたり昆布への想いを熱く書いたが、まずはその結果から報告しようかと思います。
①我々の食卓から昆布は消えるのか?
答えは消えはしないでしょう。僕自身も利尻に行って始めて知ったのですが昆布は養殖が可能であり、現在の海水温の上昇の影響はさほどない。ダシ昆布として珍重されている利尻昆布に関しては、まだまだ楽しむことは可能である。しかしながら、天然物の『マコンブ』は年々、漁獲高が減っているのは事実。さらに、昆布漁師の問題として後継者不足は如実に現れており、第一線で活躍する親方の多くは企業で言えば定年間近な年齢層が多く、私がお世話になった親方の息子さんも現在は都内で暮らしている。昆布漁の抱える問題は地球温暖化よりも第一次産業の衰退に左右されると思われる。
②顆粒状の昆布だしは何故、メジャーでないのか?
これは漁師さんの家にお世話になっていては絶対に分からない問題でした。それもそのはず、親方の家では様々な料理に惜しげなく利尻昆布を使ってダシをとっているからです。しかもそのダシの素晴らしいこと。顆粒状のものはパッケージを見ると『昆布風味』と記載されている。つまり、ケミカルな味付けということになる。僕も化学調味料に慣らされて育ってきた世代であるが、地味ではあるけれど奥行きのある天然ダシの素晴らしさを利尻での生活で気がつかされました。顆粒状の昆布だしが天下をとる日は遠いようです。
本日も天気が悪く加工作業。最後くらい青空の下で昆布を引き上げたかったが、それでもなお幸運の女神は僕に微笑み続けているようだ。というのも例年は昆布の収穫が終わってから開催されるアルバイト歓迎バーベキューが帰京前日、つまり今日、行われることになったのだ!前倒しの理由は見事に世相を反映したもので7月15日に日本全国の漁業関係者が原油高騰に反対するストライキを行うため、昆布漁もお休み。どうせ休むなら酒でも飲もうという趣向らしい。しかし、一日でも早く昆布を引き上げたい親方たちにとっては大変迷惑な話しのようだ。
心境は複雑だが参加!北海道名物『ジンギスカン』に地元で獲れたホタテやホッケなど腹がはちきれるほどご馳走になった。途中、各アルバイトの受け入れ先の親方ごとに別れ自己紹介、南は沖縄からやってくる人、八年連続で利尻にバイトにやってくる人、定年後に夫婦でのんびり旅する夫婦などなど、自分の中で没個性的なイメージの強かった日本人の印象は改まり、まだまだ自分らしい生き方を模索する人は国内でも多い。良いか悪いかは別にしても、このような多様性がなくなれば日本の未来はきっと暗いものに転ずるに違いない。写真は親方とK夫妻と自分。生まれも育ちも違う人々の人生が、ここ利尻島で交差する。
普段は夕方には眠りにつく親方はBBQ終了後ダウン。Kさんの旦那さんと利尻のスナック『ウニ丸』へ。スナックなんて、8年前に会社の社員旅行で熱海のスナックに行ったきりだ。ウニ丸に行くと偶然、近所の昆布漁の親方とアルバイトたちも飲んでいて合流。完全にいい気分になったKさんと自分でカラオケを独占し、カラオケを歌いまくる。漁師の生活はサラリーマンに比べ酷くストイックなものだ。知らず知らずのうちに溜まった鬱憤を晴らす。「うれしウィッシュ!」
おっかなびっくり参加した利尻昆布バイト。自分にとっては引き上げた昆布以上に収穫があった。大量生産・大量消費の生活に汚された首都圏の人々とは対照的に、限られた物資の中で慎ましく生きる北の離島暮らしのい人々。彼らの多くは都会の便利さを知りつつも、利尻の自然を愛し懸命に暮らしている。日の出共に起き、日の入りと共に寝る。春は山菜、夏はウニと昆布、秋から冬にかけてはじっと我慢。そんな太古から繰り返されてきた生活のリズムを利尻の漁師たちは守り続けている。
一見、素晴らしい職業に見える漁師生活だが、それこそが都会の人々の傲慢さであることを最後に書き加えておきます。というのも、漁師の親方たちは自分のように学生、サラリーマン、旅行者、フリーターなど様々な選択肢の中から漁師という職を選んだ人たちばかりではない。漁業と観光業しか産業のない利尻島の生活で、彼らが生きてゆくには漁師しか選べなかった人がほとんどではないだろうか?そんな不器用な利尻の人たちの生き方を目の当たりにし、自分は彼らの生き方が好きになった。利尻島再上陸の日を夢見て!