きっと忘れない

岡本光(おかもとこう)のブログです。オリジナル短編小説等を掲載しています。

短編小説 (ショートショート) 「夢の続き」

2010年10月23日 | 小説 (プレビュー版含む)

 繁華街の片隅で、小さな赤い「貴方の夢を叶えます」と書いた看板を見たとき、私は無意識にその看板の横にある小さな店の扉をノックしていた。

 入り口から出てきたのは、上品そうな白い服を着た女性だった。

 受付の担当者が自分と同性が受付だった事で、私は少し安心した。そして

「あの、このお店はどんな事をするお店なんですか?」

と遠慮がちに尋ねてみた。もしこの店が何か、いかがわしい事をする店だったら、すぐに立ち去るつもりだった。

「ご説明いたしますね。千円で十分間、素敵な夢をご提供します。ただし、叶える夢は、あなたの『過去』か『未来』に『経験した』夢のような時間限定です」

 私には、受付の女性が何を話しているのか、ほとんど理解できなかった。

「もちろん、あやしい催眠術や霊感商法ではないのでご安心を。リアルな3D映画のようなものとお考え下さい。ただし、上映できるのはあなたの心の中だけ、ということで」

 どう考えても怪しい説明にもかかわらず、私は、その店の受付カウンターから離れる事が出来なかった。そして、気がつくと財布の中にある五千円札を取り出し

「これで、少しの間だけ、素敵な夢を見させてください」

 そう頼んでいた。受付の女性はやさしく微笑んで

「途中でキャンセル等できませんが、初回から五十分でよろしいですか? それと、叶える夢の種類は選べませんので、ご了承下さい」

 と私に確認してきた。

「かまいません。お願いします」

 私は五千円札を受付カウンターに置き、そう答えた。

「では、こちらに」

 女性の声に導かれて、私は店の奥へと進んで行った。店の通路は暗くて狭く、どこまでも続いているようだった。





 そして一時間後、私は、繁華街の路上で声を上げて泣いていた。いきかう人達の目も気にせず、ただひたすら、涙を流し続けていた。





(了)