遊遊遊遊わーるど

遊遊遊遊 である。

日本語ではダメッ!!!

2008-03-23 09:12:13 | Weblog


92/11/12

日本語ではダメ!  遊遊遊遊      


 ご存じ、アラビアンナイトの中から、アリ・ババと四十人の盗賊の一席。

 むかし、ペルシヤのある町に、カシムとアリ・ババという兄弟が住んでい
ました。貧しい父の遺産は、平等に分け合いました。兄のカシムは世渡りが
うまくて、他人を泣かせても平気で、良くない商売にも手を出し、自分の財
産を増やしていきました。弟のアリ・ババは生れつき、野心がなく、控えめ
な好みを持ち、多くを求めず、世を見る目を持っていました。

アリ・ババは木を切る人夫になって、貧困と勤労の生活を送り始めました。
アリ・ババの仕事は、今で言う、3Kの重労働そのものです。しかし彼は苦
しい経験の教えのおかげで、万難を排して、ロバを一頭買いました。それを
二頭、三頭とふやし、毎日、三頭のロバと森へ行きました。以前は自分が背
負わなければならなかった薪を、ロバに運ばせるまでに出世しました。仲間
の樵夫からも信頼される男になり、同業者のひとりから、その娘を嫁にもら
いました。やがて、子供たちも生まれ、家族とともに、しあわせな日々を送
っていました。 アリ・ババは、慎ましく、正直に、自分の薪を町で売る収
入で暮らし、この単純で静かな幸福より以上のものを、何ひとつ、願いませ
んでした。

 ある日のこと、アリ・ババが初めての森で木を切っているとき、遥か遠方
に砂塵が舞い上がるのを、彼は見ました。直感で、「不吉」を予感した彼は
、ロバを隠し、自分は高い木のうえに隠れました。瞬く間に砂塵が森に近付
いてきました。四十人の盗賊です。彼らは、アリ・ババの木の下で、馬をお
り、全員が重い袋を背負いながら、大きな岩の前に進みました。全員が整列
したところで、頭目が岩山に向かって、響きわたる大声で命令しました。

「開けーっ! 胡麻!」

 すると、まるで自動扉のように、岩がスルスルと動いて、ぽっかりと洞窟
が姿をあらわしました。洞窟は盗賊たちの宝の隠し場所だったのです。 四
十人の盗賊たちは、今日、奪ってきた金銀財宝を、洞窟へ運び込みました。
全員が出てきたのを確かめて、頭はまた、呪文を唱えました。

「閉じよーっ! 胡麻!」

また、自動扉のように、スルスルと岩が動いて、ピタリと閉まりました。後
は何もない、ただの岩壁だけです。 誰がこんなところに金銀財宝が格納さ
れていると思うでしょうか。

 砂塵が地平線の彼方に消えても、アリ・ババは慎重でした。ひとりでも盗
賊が残っていて、もし、見つかったら、最後です。なぶり殺しにされるので
す。じっと耳をすまし、あたりを見回し、完全に人気がないのを確かめて、
アリ・ババは木から降りてきました。

 彼は、一刻も早く、ここから逃げだそうと思っていたのですが、「開け!
胡麻!」の誘惑には勝てず、岩壁に近付きました。大岩の前に立って、彼は
、小さな声で、ボソボソッと言いました。

「開けーっ! 胡麻!」

 開きました。
 大岩が自動扉のように、スルスルッと開き、洞窟がポッカリと口をあけて
います。声紋を感知する仕掛けかと思ってていたのに、以外に単純なシステ
ムに、彼はびっくりしました。盗賊の頭の大声でも、アリ・ババの蚊の鳴く
ような小声でも、要するに、誰の声でも、「開け!胡麻!」で、大岩の扉は
開くのです。三十九人の盗賊はそれを知らなかったのでした。昔の盗人たち
は、純情です。

 彼ら、強盗殺人会社の社員たちは、夜も昼も、真面目? に働き、財宝を
増やすのに懸命でした。にもかかわらず、財宝の隠し場所の岩扉を、開け閉
めするのは、頭目ただ、一人だったのです。彼ら三十九人の盗賊たちは「開
け! 胡麻!」と呪文を唱えられるのは、彼らの頭、ただひとりと、信じて
いたのです。

 アリ・ババは、洞窟から金貨をたっぷりせしめて、三匹のロバに背負わせ
家路につきました。腹の底からわきでてくる喜びを押さえながら、ふと三十
九人の盗賊たちを哀れに思いました。

アリ・ババ「盗賊も楽じゃあなかろうに、頭目のいうとおりに稼ぐだけで
      あんまり自由はなさそうだなあ」
 ロバ A「下が頑張り、上が全部盗っちゃうんだね」
 ロバ B「一生懸命働いて、経済大国とかいう言葉に酔っている国民も
      どこかにいるようだね」
 ロバ C「働いても、働いても、自分の家一軒さえ、持つことも出来な
      いのに、おとなしい国民だね! 三十九人の子分と同じさ」

 アリ・ババが家に帰ってきました。 やさしい妻は、愛する夫が持ち帰っ
た金貨の山を見て、悲しみに打ちひしがれました。信頼していた夫が罪を犯
した!すぐ捕まるに違いない! これだけの金貨を盗めば磔は間違いない!
・・・と涙を流しました。 アリ・ババは、できるだけ自分も落ち着いて、
事の次第を妻に説明しました。この金貨の山は、アラーの神がくださった贈
り物であると・・・妻もやっと納得しました。

---途中省略---

 アリ・ババに吐かせた兄のカシムは、十頭のロバを連れて、森の岩壁の前
に立っていました。

 「開けーっ! 胡麻!」

 カシムの声でも大岩は開きました。
 こんなシステムは、現代では使いものにはならないですね。大袋を20も
背負って、カシムは洞窟に入りました。金銀財宝の山を目にして、欲張りカ
シムは、あわてて、「閉じよ! 胡麻!」を唱え、岩の扉を閉めました。

 洞窟の中で、金銀財宝の山に取り囲まれたカシムは、自分が世界一の金持
ちになったと思いました。その「幸せ」をアラーの神に感謝しつつ、金銀財
宝の搬出計画を練りました。今日は十頭のロバに乗せて少しだけ持ち出すが、
明日からは、何十頭ものラクダ輸送隊を連れてこよう・・・などと夢をふく
らませていました。金銀財宝をひとりじめできる、自分の幸せに酔っていま
した。この財宝が四十人の盗賊たちの物であることも忘れてしまって・・・
・・・・

 ハッと気が付き、カシムは20袋に金貨を詰め始めました。日頃から労働
などしていないカシムは、汗びっしょりになって、欲の神の手伝いもあって
やっと、荷造りを終えました。 金貨が20袋(現在価値でいえば40億円
)! 今日はこんなもんか! カシムは入り口へ立ちました。

「開けーっ! 大麦!」 岩の扉は開きません。
 で、もう一度
「開けーっ! 大麦!」 やはり、岩の扉は開きません。
「開けーっ! 大麦!  開けーっ! 大麦!」
 開きません。 焦るカシム!
「開けーっ! カラス麦!」  開きません。
「開けーっ! 蚕豆!」    開きません。
「開けーっ! 裸麦!」    開きません。
「開けーっ! 栗!」     開きません。
「開けーっ! 豌豆豆!」   開きません。
「開けーっ! とうもろこし!」  開きません。
 ますます焦るカシム!
「開けーっ! そば!」    開きません。
「開けーっ! 小麦!」    開きません。
「開けーっ! 米!」     開きません。

 カシムは、幸せの絶頂から、地獄へ直行している自分に気が付いたのです。
呪文を忘れたために、今、俺は洞窟の中に閉じこめられている。四十人の盗賊
たちはやがて帰ってくる。 俺は八つ裂きにされる・・・・カシムは恐怖の極
に達し、知っている穀物の名前をわめき続けました。しかし、岩の扉は開きま
せん。もう、金銀財宝のことは頭の中にありません。

 外では、地平線の彼方に砂塵が起こり、あっという間に森に近付きました。
 本日の労働?を終えた、殺人強盗会社の社員たちが帰ってきたのです。四十
人の盗賊たちは、疲れていましたが、岩壁の前にいる十頭のロバを見付けると
、全員に緊張がはしりました。頭目の命令で、全員が抜刀し、周囲を捜しまし
た。 が、ロバの持ち主は見つかりません。

 洞窟の中のカシムにも、盗賊たちが帰ってきたことが分かりました。蒼白に
なってカシムは、震えていました。

 外から、頭目の大声!

 『開けーっ! 胡麻!』

 カシムにも聞こえました。
「そうだ! 胡麻だったんだ!」カシムは引きつった声で叫びました。しかし
、遅すぎたのです。 岩扉が開きました。カシムは全力で走り出て、逃げよう
としましたが、日頃の暖衣飽食・運動不足の結果がでました。四十人の盗賊た
ちに追い回され、切り刻まれ、文字どおり八つ裂きにされて、カシムはその欲
深い一生を終えました。

 金銀財宝を持ちかえるはずのカシムが帰って来ないので、兄嫁は半狂乱にな
ってしまいました。アリ・ババは何とかこれをしずめて、翌朝、森の洞窟へ向
かいました。欲張りカシムは八つ裂きにされて、肉片として、洞窟の壁にぶら
さげられていました。アリ・ババはこれを持ち帰り、回教徒として、丁寧に兄
の弔いをしました。

 アリ・ババは、孤児だったモルギャーナという娘をわが子と同様に大切に育
てていました。モルギャーナの知恵で、兄のカシムの変死は町の誰にも分から
ないように、取り運ばれました。ただひとつ、肉片と化した遺体を、縫い合わ
せるのに、靴職人を使ったのが気掛かりでした。

 強盗殺人会社の一党が、今日も隊商を襲い、獲物を持ち帰ってきました。
 八つ裂きにして、ぶらさげておいたカシムの肉片がきれいになくなっている
のを見て、40人の盗賊たちは、事の重大さに気がつきました。禿げ鷹の仕業
なら、骨ぐらいは残っているはずだ。ほかにも泥棒がいるぞ! 明日からは仕
事?をやめて、全員が泥棒探しに取り組むことにしました。×月×日ごろ葬式
を出した家はないか? バラバラの死体を見なかったか? を聞き込み、犯人
を突き止めようというのです。

 あちらの町、こちらの町と40人の盗賊たちは、犯人捜査に散りました。殺
人強盗犯たちの泥棒捜査です。盗賊26号が靴職人から情報を得ました。アリ
・ババの家に白い×印をつけて、得意満面で帰ってきた、盗賊26号は頭目に
報告しました。「俺は手柄をたてた。主任くらいには格上げしてもらえるかも
しれない!」と思いました。ささやかな願いです。

 早起きのモルギャーナは、家の白い×印を見付けて、ピンときました。モル
ギャーナは町中全部の家に、同じ白い×印を付けて回りました。40人の盗賊
たちが、白い×印の家を目指して、町に乗り込んできました。町中白い×印の
家ばかりでした。主任になり損ねた盗賊26号は、森に帰った直後に、首をは
ねられました。

 今度は、盗賊34号が情報を得て、アリ・ババの家を見つけました。彼は赤
い○印を付けて帰ってきました。「俺は手柄をたてた。今度のボーナスは期待
できそうだな」と思いました。ささやかな願いです。

 モルギャーナは町中の家に赤い○印を付けて回りました。ボーナスゼロとな
盗賊34号も、首をはねられました。こうして、盗賊団は38人になりました。
 子分を二人、死刑に処した盗賊の頭目は、今度は自分がアリ・ババの家を探
しに出かけました。カシムの死体を縫い合わせた靴職人を脅して、アリ・ババ
の家は簡単に見つけだし、道順も頭の中に入れました。これでは、賢いモルギ
ャーナも知恵の出しようがありません。

 さすがに殺人強盗会社の社長ともなれば、少々頭がいいようです。頭目は油
商人に化けて、37人の部下を油壷に潜ませました。アリ・ババの家にやって
きた頭目は、旅の途中で日が暮れて困っている、中庭を拝借したいと哀願しま
した。アリ・ババは喜んでこれを引き受けました。疲れた旅人をもてなすアリ
・ババ、台所ではモルギャーナが忙しく働いています。たまたま、油が切れて
しまって困ったモルギャーナは、油商人の油を少し借りようと思いました。

 そこで、中庭の油壷の中身が何であるかを知ったモルギャーナは、大量の油
を煮立て、ひとつひとつ油壷に注いでいきました。37人の盗賊たちは、むご
たらしい死に方をしました。油地獄なんて、かわいそうに・・一生懸命、殺人
強盗業に励み金銀財宝稼ぎに貢献してきたのに、何も報われることもなく・・
・どこかの国民の過労死と似ています。真夜中にこれを知った、頭目はこそこ
そと逃げだしました。

 一年がたちました。アリ・ババ家は、その後、不幸に見舞われることもなく
、時がすぎていました。アリ・ババの長男は小さな商売をしていましたが、と
ても、お世話になっているおじさんがいました。何度も招待を受けているから
、一度、こちらも、招待することにしました。アリ・ババ一家は、総出で客を
歓迎しました。ご馳走を用意し、酒も、音楽もつけました。

 夜もふけて、宴は最高に盛り上がりました。モルギャーナは踊りを披露しま
した。すっぱだかの身に、薄絹をまとい、手には短剣を持っています。客人は
、モルギャーナのストリップショーに、心を奪われてしまいました。腰をくね
らせ、踊りながら、彼女は客人に近付きました。そして、客人の胸を短剣でひ
と突き! 客人は即死です。 彼は盗賊の頭目だったのです。

 こうして、盗賊は誰も居なくなりました。しかし、アリ・ババは、あとふた
りの盗賊が残っていると思いました。ですから、その後も用心ぶかく森の洞窟
には近付きませんでした。子孫にも、このことを伝え、何時の間にか、あの森
の洞窟の中の金銀財宝は、忘れられてしまいました。

 今も、あの洞窟には金銀財宝が眠っています。誰かが洞窟を発見しても、呪
文を唱えないと、岩の扉は開きません。「開け! 胡麻!」を日本語でやって
も、ダメなのです。

                1992-11-12    遊遊遊遊