ガリレイのめがね

橋本美術研究所・橋本真弓のエッセーです。

人間VSコンピューター 人工知能はどこまで進化

2012-02-08 | 日記
 今日のクローズアップ現代は、先月行われた将棋コンピューターと米長邦雄永世棋聖(元名人)の対局の話題でした。将棋コンピューター・ボンクラーズは、世界コンピューター将棋選手権チャンピオンの強敵です。チェスではすでに15年前に、人間をコンピューターが破っていますが、たった10手で1000京(けい)通りを越える指し手を誇る、「81マスの宇宙」・将棋では、まだまだ先のことと思われていました。

 米長元名人は、最初からプロの棋士同士ではありえない、入玉(ニュウギョク)という希代の指し手でコンピューターを撹乱する作戦に出て対抗します。人間有利と見られていた対戦は、米長元名人の作戦が功を奏し、中盤には膠着状態となり、コンピューターが飛車のみを動かすようになって、まるで混乱を見せるような一幕となりました。

 ところが、ボンクラーズは、ただ定跡をあらかじめ記憶させただけの従来型ソフトとは異なり、新しい発想の二つの能力を備えていました。江戸時代以来の5万局もの対局データを分析し、どの一手が指された時に戦局が動いたかを自分で学習する能力が与えられ、また、ただあらゆる手を想定して計算するのではなく、取捨選択する機能を備えているそうです。この二つの機能は、ちょうど名人が膨大な経験の中で築き上げた「経験知」に基づき、直観的に最善の手を選び出す「大局観」に匹敵します。羽生善治名人の指し手を研究した電気通信大の伊藤毅志助教によると、「感触の良い手」を瞬時に探り当てる名人の技に近い働きだそうです。

 対局から3時間、とうとう74手目で元名人はミスの一手を放ってしまい、ボンクラーズは鉄壁の守りを突破する手を見つけることに成功しました。そして7時間、113手で百戦錬磨の元名人を破りました。将棋をよく知らない者にも、大変興味深く驚異の出来事でした。やがて人間の知性をコンピューターが凌駕してしまうのではないかと、アナウンサーが伊藤氏に問いかけると、単純単調なジャンルを人工知能にゆだね、人間が得意とする長期計画を担うなどの見通しが立てられるが、人間を越えるものではないとのことでしたが、不気味な印象を持ちました。よくSFで、人間が暴走をはじめた人工知能に挑まれ、戦いを繰り広げるという設定を見かけますが、まるでそうした状況を予感させるような出来事でした。

 本当に、人間のなまじの考えで、簡単便利というばかりで済ませることができるのでしょうか。気がつくとコンピューターを利用していただけのつもりが、支配されてしまうというような事が絶対にないと言えるでしょうか。たとえば、原子力利用もそうですが、あまりにも恐れ知らずの人間が、科学の力を過信し、やがて手ひどい代償を負わされるのではないかと危惧するのは、私だけでしょうか。