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隠人(おに)使い 2 呪われし者 龍王の剣

2011-07-10 16:14:05 | 小説
 「何かおかしいぞ。」
 意識を失った新谷を背中に抱いた飯田がその歩みをふいに止めた。「ここはさっきも通った所だ。」
 「そう言えば・・・ ・・・」
 土地勘は無いが、望は少し周囲を見回した。
 『午後10:00まで営業』と書かれたスーパーの灯りがまだ灯っている。
 望は左手首の時計に目をやった。
 午後7時だった。
 井上 遥もそれに気付いたようだ。
 「藤宮くん」
 井上は振り返り、「確かあの家に着いたのはお祓いが始まる午後8時頃だったわよね。」
 「そうよ、貴方。」
 新谷の母は夫を振り返り、「少なくともあのお坊さんがお祓いを始めて1時間は経っていたわよね。」
 「そうだ。」
 新谷の父は頷き、「そこへこの子たちが飛び込んで来たんだ。」
 「どうしてだろう。」
 皆、立ち止りゆく手を阻まれた。
 綾からは早くこの地を後にしろ、と言われている。

              ニャー   ニャー

 猫の鳴き声が遠くから、近くから聞こえてくる。
 天空には金色の満月。
 「このままじゃ、相手の思うつぼだぞ、藤宮。」
 飯田は、目を細め、「ここから抜け出さない限り、俺たちも新谷もいつか命を奪われるぞ。」
 「そうだけど---」
 望は彼の言葉に戸惑った。
 (どうしたらいい?)
 彼はライトが灯ったままのスーパーを見上げた。
 ふと。
 その視線がスーパーの2階辺りで止まる。
 「・・・ ・・・」
 じっと、目をこらしてみる。
 何故ならそこに『人』の姿などなかったからである。
 「変だ。」
 望は呟いた。
 「何が変なの?」
 井上が目を丸くして尋ねる。
 「だって、俺たちここに「また」着くまで誰かに会ったか?」
 「いえ・・・ ・・・」
 井上は周囲を見渡し、「そう言われてみれば。」
 「どういう事なんだ、君たち。」
 新谷の父親が皆の顔を見渡した。
 「あのね。」
 井上が説明した。「新谷くんを助けようとした人は陰陽師で土御門 綾くんっていう新谷くんとは同級生の子なの。彼は霊能力者とかじゃないけど、私たちには説明できない特別な力を持ってるの。」
 「そう。」
 井上が頷く。「彼は京都からこの東京を悪霊みたいなものから守るために来たんだ。そして、新谷くんは猫の霊に取りつかれているんじゃなくて、その陰陽師の誰かが放った式神に家ごと乗っ取られていたんだ。」
 「家ごと?」
 新谷の母が小さな声をあげた。「じゃ、あの家が悪かったの?」
 「・・・ ・・・いや。」
 望は右手の親指を軽く噛み、「それは綾だけが知っている。あの家で今頃をの式神を放った主と闘っている綾が。」
 そこで、軽く呼吸を止め、
 「もしかしたら・・・ ・・・!」
 思いついたように、飯田と井上の顔を見つめた。「あの綾から貰った式神、持ってるだろ?」
 と、自分のポケットから白い小さな紙を取り出す。
 「ああ。」
 「ええ。」
 彼らも頷き、それを懐から出した。
 「綾は言った。」
 (何かあったら俺の式神を使え。)
 
                 ニャー    ニャー

 「出来るかな・・・ ・・・綾みたいに。」
 彼らから五芒星がうっすらと描かれた紙を受け取り、自分のと合す。
 そして、綾がやるように、右手の人差指と中指の間にそれらを挟み、
 「臨」
 望は目を伏せた。「兵闘者界陣裂斉仁。」
 綾の真似をして「九字」を唱えた。
 途端。

                   バッ・・・ ・・・

 視界が突然、光に包まれた。
 「何?」
 「何なの!?」
 戸惑う彼らの耳に、
 「望、飯田先輩、井上、新谷。」
 聞き覚えのある声がした。
 「・・・ ・・・」
 うっすらと目を開けると、そこには龍王の剣を構えた血まみれの綾の姿があった。
 「綾っ!!」
 望は彼の元に走り寄った。
 「どうして・・・ ・・・!!」
 その血まみれの姿に気付いた望は、彼に、「どうして君がこんな目に。」
 「その式神のおかげで。」
 綾はにっこりと笑った。「望。お前たちはあいつの放った式神の猫に傷つけられずに済んだ。」
 「綾・・・ ・・・」
 望は初めて、綾の『本当の笑顔』を見た。
 「晴明め---」
 綾の背後で、苦しげに身を持ちあげる僧侶の姿があった。「おぬし、あやつらにまで式神を・・・ ・・・!」
 
 気が付くと、そこはまだ新谷が『お祓い』をしていたあの部屋だった。

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