イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

Caravaggio(カラヴァッジョ)Rovereto(ロヴェレート)に行く?行かない?

2020年06月26日 17時28分44秒 | イタリア・美術

ちらちらとネットで目にしてはいたのだが、どうせ暫く行けないイタリアのことだったので、流しておいたお話。
よく読んでみたら結構面白かったので、今日はこのお話にしましょ。

これ、実物を見たことはないのだが、このためにわざわざ行ってもいいかなぁ、という作品の1つ。

Michelangelo Merisi 、通称Caravaggio(カラヴァッジョ)のSeppellimento di santa Lucia(聖女ルチアの埋葬)
この作品が今ちょっと問題になっている。
1608年カラヴァッジョがマルタ島からの逃避行の途中、Sicilia(シチリア島)のSiracura(シラク―サ)に寄った時に描かれた作品。
カラヴァッジョがシラク―サに行ったのは、多分ローマで知り合ったシチリア人画家Mario Minniti (マリオ・ミンニーティ)の せい(おかげ?)。
そこで聖女ルチアが埋葬されたというBasilica di Santa Lucia al Sepolcro (o Fuori le Mura)教会の主祭壇に「聖女ルチアの埋葬」を描いた。
現在この作品はPiazza Duomo(大聖堂広場)に面したchiesa di Santa Lucia alla Badia(聖ルチア教会)にある。
Roberto Longhi(ロベルト・ロンギ)曰くこの作品は「シチリア島のカラヴァッジョ作品で一番古く、一番ダメージを受けている」

実はこの作品、7月からTrento(トレント)のRovereto(ロヴェレート)という街のMart(トレント・ロヴェレート近現代美術館)で行われる予定だった"Caravaggio. Il contemporaneo"(カラヴァッジョと現代美術)という特別展に出展されるはずだった。(9月に延期。会期は3か月の予定)
ところがロックダウンが解除されたころから、この作品の貸し出しに反対する人の話をネットでちらほら見かけるようになった。
何でも貸し出しに反対する人が集めた署名は350人。
多いか少ないかはさておき、一番の理由は国内とはいえ、長旅に耐えうるコンディションではない、ということ。
それが数日前ようやくOKが出たとかでないとか…

実はこの作品2005年にMilanoで行われたCaravaggio e l’Europa(カラヴァッジョとヨーロッパ)という特別展の時も出展の打診があったのだが、RomaのIstituto Centrale del Restauro(中央修復研究所)の所長(当時作品はそこにあった)は、コンディションが展示会に耐えられないと判断して、出展されなかった。
しかし今回はこのローマの中央修復研究所だけでなくPalermo(パレルモ)の中央修復研究所も、展覧会出展可能、それほど悪いコンディションではないと判断したという。

Mart側はこの「聖女」の代わりにMart所蔵の作品を貸し出す上に、350,000€の資金を使って「聖女」を保護する”ケース”を制作すると提案した。
しかし、シラク―サの人たちは作品の繊細な状態を考え、この提案には更なる苛立ちを募らせているらしい。

この特別展のキュレーターはこのブログでも何度が取り上げたイタリアでは美術家として最も名の知れた(研究者としてではなく)Vittorio Sgarbi(ビットリオ・ズガルビー)
彼曰く「中央修復研究所の報告では、別の評論家たちが言うようような、運搬に耐えられないような悪いコンディションではない。ただ、作品をより良い状態で、長く生きさせるためにはローマの修復研究所でも修復が必要だ。」と。

他にもあるインタビューを見たら、今「聖女」がある教会は、入場料を取る設備もちゃんとしていない。
盗難防止のためにもきちんとした”箱”に入れ、”もとの場所へ戻す”のが一番!(この作品は転々として今の場所に収蔵されている。)
シラク―サ市にお金がないんだから(これはあくまでも私が感じたニュアンス)、金を出してくれるという人に出してもらえばいい。作品を貸し出すだけで良いんだから。
一部個人的な解釈が含まれてはいるけど、外国人である私でも受けた印象がこんなだからなぁ…

更に、このMartは2014年のAntonello da Messina(アントネッラ・ダ・メッシーナ)の特別展をやっていて、大成功した前例も有るから、会場としては申し分ない、とも言っていたし、「聖女」を持ち出すのは、シラク―サに観光客が少ない時期なんだからいいじゃないか、みたいなことも言っていた。
まぁ、最もと思う部分もあるんだけど、如何せん、反対派が見たらこりゃ不愉快だ。

しかし、Sgarbiだけではなく、文化財保護局の職員や市の文化財担当者も貸し出しに賛成している。
ただ、反対派が作品を貸し出したくないのは、コンディションの問題だけではない。
多くの市民は、この作品を街の宝、信仰の対象として心から大切に思っているし、マルタ島のValletta(ヴァレッタ)にあるDecollazione di San Giovanni Battista(洗礼者ヨハネの斬首)、San Girolamo scrivente(執筆するヒエロニムス),ローマの San Luigi dei Francesi(サン・ルイージ・デイ・フランチェージ)教会にある作品も Santa Maria del Popolo(サンタ・マリア・デル・ポポロ)教会、Sant’Agostino(サンタゴスティーノ)教会の作品も、修復以外の理由でその場から持ち出されたことがないのに、なぜシチリアの作品だけ?という複雑な思いも有るらしい。

この点に関してはSgarbi自身がちゃんと自分のせいであることを認めている。
彼は現在はMartの館長なのだが、以前シチリア島で評議会議員をしていた時に、お金がなかった州のために作品を貸し出していたのだ。
これを悪とは言えないだろう。

9月まであと2か月。どう決着がつくのか?
まぁ、出展する事になっても。私が見に行くことは出来ないことには変わりはない。
とほほ。

参考:https://palermo.repubblica.it/cronaca/2020/06/25/
https://palermo.repubblica.it/cronaca/2020/05/23/



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