C'est beau comme la nuit

夜のように美しい。

夏の夜空に

2020-07-25 | 






夏の夜空に今宵も花火が上がらないから
あたしがきみに花火をあげよう


夏の夜空に今宵も月が見当たらないから
あたしがきみに満月みせよう


真夏の夜に今宵も妖精たちが踊らないから
あたしがかわりに歌ってあげる










秋歌四首

2020-07-03 | エッセイ





ひさかたの雨間(あまま)も置かず雲隠り 鳴きぞゆくなる早稲田(わさだ)雁が音




雲隠(くもがくり)鳴くなる雁のゆきて居む 秋田の穂立(ほだち)繁くし思ほゆ




雨隠(あまごもり)心欝(いぶ)せみ出で見れば 春日の山は色づきにけり




雨晴れて清く照りたる此の月夜(つくよ) また更にして雲なたなびき






「『万葉集』巻八、秋雑歌。「大伴家持秋歌四首」と題され、左注には「右四首、天平八年丙子秋九月作」とある。制作年の知られる家持の歌の中で、最も早い時期のもの。公卿補任に記載された年齢を信じれば、天平八年は家持十九歳である。


この四首については、橋本達雄氏の優れた論文がある(『大伴家持作品論攷』所収「秋の歌四首の創造」)。四首をきわめて周到に構成された「独創性をもった連作」とし、「家持の歌における終生の基調ともなった鬱屈した複雑な感情や繊細に揺れ動く心のひだまで表現することに成功したはじめての作」と高い評価を与えている。」


 とのこと。




☆☆☆☆☆☆☆




 プロの国文学者による繊細かつ高尚なこの手の解釈はもとより正当なものだと思うけれども、四首あわせて、久方ぶりに恋人と逢瀬をもった青年の性を起承転結のかたちで描いた若々しくも赤裸々な「猥歌」とみる読みをネットで見つけて、とても面白かった。いわゆる多重ミーニング。あまり詳しく書くのは憚られるが、たしかに「雁」は古来より男性の或る器官をさす隠語として用いられてもきたわけで、さらには「雨(あま)」が「女(あま)」であり「月夜(つくよ)」が「突くよ。」であったりと、同音異義を駆使したトリックは全編に仕掛けられており、牽強付会と一蹴するのは惜しい。「歌」=「言の葉」をあやつる技術に我が身どころか「家」の盛衰さえも賭していた歌人集団の俊英であれば、19歳にしてそれくらいの言語遊戯を忍ばせるのは容易だったはず。そのような目で見返せば、古典がいっそう楽しくなるのは確かですね。





スカボロー・フェア

2020-07-03 | 






 教養や好奇心のない奴は よい兵士になれないからな。お前は本を読まないのか? 資料の中では ここに来る前いつも……いや、なんでもない
 ……よい兵士になるために必要なら わたしも野菜の本を読みます


 餌は付けてやったから 竿のしなりを使って 下手(したて)でそっと放ってみろ。そして じっと魚を待つ
 でしたら それまでのあいだ わたしがあなたの脚になります


 (眼鏡を手にして)どうしてこれを?
 引き金というのは よく考えて引かなきゃいかん。これを掛けている間は 大人しいクラエスでいてほしい。書き換え可能な命令じゃない。血の通った約束だ






(眠りながら、ベッドのなかで泣きじゃくる)








 なにこれ?
 家庭菜園
 食べられる……草?
 (咳払いして)ハーブよ パセリ セージ ローズマリー。スカボローフェアって 知らない?
 知らない








 先生、お疲れのようですね。
 見苦しくてすまないね。来月、学会があるんだよ。ヨーロッパ循環器学会ってやつさ。いつもありがとう。君のおかげでいい論文が書けそうだ
 (検査室のベッドに横たわって)先生、スカボローフェア、わかります?
 (うわの空で)ああ……ふしぎな……示唆に富む歌だね
 塩水と海の砂のあいだ ワンエーカーの土地を見つけて? そして そこを羊の角で耕して それから 辺り一面 胡椒の実を撒くの そうしたら あなたはわたしの恋人…………どういう意味でしょうね?








 検査はつつがなく進んでいるか?
 はい
 どうだ 最近の生活は。なにか 必要なものはあるか?
 いえ 十分です。菜園をつくる許可を出してもらって 宿舎に出入りできて ピアノが弾ける 充実した毎日です
 ……あのピアノはな
 え?
 昔からここにあったものだ 公社ができる ずっと前から
 そうなんですか
 この土地は 千年まえ 修道院と畑しかなかった そのご、貴族が別荘を建て 20世紀になってからは 政府が利用し そして今では 公社が本部施設に使っている
 じゃあ わたしは 修道士のひらいた土地に ハーブを育てているんですね
 そうなるな
(…………自然の美を映したビデオを観て)
 どうした? クラエス
 ジャンさん、悲しくても涙が出ない そんなことあります?
 ………ああ あるな
 いま そんな気分です 胸がいっぱいな気がするのに ぜんぜん零れてこない ぎゃくに 寝ているあいだは涙が溢れるんです








 おい 義体が射撃場で撃つには 担当官の同伴が必要だぞ
 あの………わたしは見にきただけで
 あ……おまえはラバロ大尉の
 えっ?
 むかしよく来てただろ? GISの帽子をかぶって VP撃ってた 雰囲気がかわって 気がつかなかったぜ?








 クラエス、どうしたの?
 ちょっと通りかかって 見学に
 ………ヘンリエッタ
 はい
 マガジンを抜いて チャンバーも空にしなさい 今日はこれくらいにしよう
 わかりました ジョゼさん
 すみません お邪魔して
 いや 気にするな でも 白線からこっちには 入るなよ?
 はい
(………………)
 なんだろう 懐かしいにおいだ
(響く銃声)








 羊の角で耕して? それから辺り一面 胡椒の実を撒くの そうしたら あなたはわたしの恋人
 革製の鎌でそれを刈って? それから ヒースのロープで束ねるの
 そうしたら
 彼はわたしの恋人になるから
 できないというのなら
 わたしはこう答える
 パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
 ああ
 せめてやってみると知らせてくれ






 ただいまぁ
 お帰り
 今日はなにしてたの?
 いつもどおりよ。ハーブを育てたり ピアノを弾いたり
 そう ……ん? クラエス、あなた火薬くさくない?
 (くすっと笑って)火薬くさいのはトリエラでしょ?
 ああ……そっかあ……えっへへへ
(………………)
 じゃあお休み、クラエス
 お休みなさい








 これ、育ててどうするの?
 考えてないけど、ハーブのお風呂には入ってみたいかな
 ふーん。フアァ、ン……(あくび)
 あ……(かたわらに歩み寄り、何かを拾いあげる)
 なに?
 わからない……なにかの鉱物かも
 なぁんだ
 ねえ、メソシデライトって知ってる?
 ううん
 はるか昔、小惑星だった石。それが地球に落ちてきて、今に残ったの。…………すてきだと思わない?
 ……毎日、こんなことして楽しい?
 ええ。……理解できない?
 わたし、楽しいってどんなことかよくわからない。仕事をしていても、寮で過ごしていても、感動したり笑ったりしないわ。どうしてクラエスは楽しそうにしているの?
 …………(空を見上げて)きっと、遠い昔、だれかに教えてもらったのよ






 いつものエンディングのかわりに、「スカボロー・フェア」がながれる。この不思議な名曲をここまで鮮やかに用いた作品はたぶん世界にも例がないと思う。





詩作の心得

2020-07-02 | 


 読みやすく、面白く。できるならお話のように
 やっぱ行間は空けたほうがいいかな。連なってたら小説と変わらん 
 ユーモラスなのはいいけれど、笑わせようと気張らぬように。すべったときが目も当てられぬ
 官能的になりすぎぬよう。ほんのり色っぽいくらいがよろしい
 衒学的になりすぎぬよう。弦楽四重奏みたいに響くのはいいが
 節子これダジャレとちゃうねん、韻やねん
 いやでもそう、響くってのは大事だね。言葉がうまく鳴ったら胸にも響く。かも知れない
 となると、ポップなことはいいこと……なのではないか。詩がサブカルになってもいいんじゃないかな。知らんけど
 でもボブ・ディランのことはあまり気にするな。いろいろと条件ちがうんだから
 自らの才能の無さにめげないこと。「生きてるかぎり作り続けてりゃそのうち上手くなるだろう。」くらいの心持でいく。自分のブログで遊んでるぶんには、世間に迷惑かけないんだからね
 とりあえずいまはそんなところで。また思いついたら追加





見張り塔から、ちょっと

2020-07-01 | 





 気にするな。あれはただ政治的に正しい奴らが騒いでるだけだ


 さてここにきてようやくボブディランの新しい訳詩集が刊行されたわけだけども。……けど高いわ。上下でほぼ10000円だもの。ちょっと買えんわ


 神を(見)失った現代人には目的地がないから、どっちが前でどっちが後ろなのかもわからない。目ン玉がたまたま向いているほうが前だとは限らないからね。全然ね。だから無窮の砂漠を歩きつづけてるようなもんなんだよね。無休でね。しかも無給でね。死ぬまでね。超ブラックだね。


 ちょっと何いってんのかわかんない(富澤たけしの口調で)


 「彼女は女のように愛して、少女のように壊れた。」


 もう新しいものなど必要ないのじゃ。これからは儂は儂じしんの内部を掘っていくのじゃ。と老師は言った。年寄りの繰り言だ、とおれは思った。だが年寄りが年寄りの繰り言をいうのは当たり前のことかもしれない


 ンなこたぁない(タモリの口調で。片頬を歪めて、苦笑まじりに)


 ずっと旅をしていた。旅が好きなわけじゃない。むしろ嫌いだ(すぐに体が汗臭くなるし)。仕方なかったのだ。帰るべき家がないのだから


 世界は
 繰りかえし
 ギリシア悲劇を上演して
 ない




 たいていのことはコトバにするとウソっぽくなるよね。でもコトバにしなきゃ伝わらないしね。いやむろんコトバにしても伝わるとは限らないけどね。むしろ伝わらぬことのほうが多いしね。たまに伝わったと思ってそのまま妙に盛り上がって相手と肩組んで泣いちゃったりしても、しばらくしたら誤解だとわかってケンカんなったりするからね。ほんとにどうもコトバってものは。っていうか人間ってものはね