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本と音楽とねこと

人口減少社会のデザイン

広井良典,2019,人口減少社会のデザイン,東洋経済新報社.(10.3.24)

「都市集中型」か、「地方分散型」か。
東京一極集中・地方衰退→格差拡大→財政は改善?
地方への人口分散→格差縮小・幸福感増大→財政は悪化?
果たして、第3の道はあるのか。

2050年、日本は持続可能か?
「日立京大ラボ」のAIが導き出した未来シナリオと選択とは。

借金の先送り、格差拡大、社会的孤立の進行・・・…
転換を図るための10の論点と提言。
「集団で一本の道を登る時代」―昭和
「失われた30年」―平成
そして、「人口減少社会」―令和が始まった
「拡大・成長」という「成功体験」幻想を追い続け、
「先送り」されてきた、「持続可能な社会」モデルを探る。
社会保障や環境、医療、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで
ジャンルを横断した研究や発言を続けてきた第一人者による10の論点と提言
①将来世代への借金のツケ回しを早急に解消
②「人生前半の社会保障」、若い世代への支援強化
③「多極集中」社会の実現と、「歩いて楽しめる」まちづくり
④「都市と農村の持続可能な相互依存」を実現する様々な再分配システムの導入
⑤企業行動ないし経営理念の軸足は「拡大・成長」から「持続可能性」へ
⑥「生命」を軸とした「ポスト情報化」分散型社会システムの構想
⑦21世紀「グローバル定常型社会」のフロントランナー日本としての発信
⑧環境・福祉・経済が調和した「持続可能な福祉社会」モデルの実現
⑨「福祉思想」の再構築、“鎮守の森”に近代的「個人」を融合した「倫理」の確立
⑩人類史「3度目の定常化」時代、新たな「地球倫理」の創発と深化

 わたしは、社会変動論を専門の一つにしているので、広井さんの気宇壮大な人類史、変動論には、少なからず惹かれてきた。

 とりわけ興味深いのが、「持続可能な福祉社会」が地球環境と親和的なものであることを指摘するくだりだ。


(p.283)

 こうした点に関して、図表7-1を見ていただきたい。これは縦軸に「経済格差」を示す指標であるジニ係数をとり、横軸にはEPI(環境パフォーマンス指数、Environmental Performance Index)と呼ばれる、イェール大学環境法・政策センターが策定した「環境」に関する総合的な指標をとって国際比較したものだ。縦軸の「経済格差」は「福祉」に関わるものなので、この図は「福祉」と「環境」とを包括的に俯瞰したものとも言えるだろう。
 興味深いことに縦軸と横軸はある程度相関しており、左上のグループは「格差が大きく、環境パフォーマンスも良くない」国々であり、先進国ではアメリカや日本などが含まれる。逆に右下のグループは「格差が小さく、環境パフォーマンスも良い」国々であり、ドイツやスイス、北欧諸国などがここに含まれる。
 そしてこの点は、先ほど言及した「持続可能な福祉社会 sustainable welfare society」という社会のあり方とまさに関連している。つまり「持続可能性」は「環境」と関わり、「福祉」は富の分配の公正や個人の生活保障に関わるものなので、「持続可能な福祉社会」とは、「個人の生活保障や分配の公正が実現されつつ、それが環境・資源制約とも調和しながら長期にわたって存続できるような社会」を意味している。
 言い換えれば、「持続可能な福祉社会」というコンセプトの主眼は、「環境」の問題と「福祉」の問題をトータルにとらえる点にあり、図表7-1はまさにそうした観点からの国際比較なのである。
(pp.282-283)

 成長と拡大を旨とし、人口が増加していく時代から、成熟と環境との調和を旨とする、人口が減少し、やがて定常化していく社会へ。

 広井さんは、そこに至るための論点として以下のことがらを挙げる。

①将来世代への借金のツケ回しを早急に解消すべきであり、そのため、消費税を含む税の水準をヨーロッパ並みの水準に引き上げる。
②人口減少社会においては「人生前半の社会保障」、つまり若い世代への支援の強化が何より重要であり、またすでに生じている世代間の不公正を是正するためにも、たとえば年金給付約55兆円のうち、高所得高齢者向けのせめて1兆円程度を、課税等を通じて教育・雇用等を含めた若者支援に再配分する。
③地域ないし国土の構造として、「多極集中」という方向(都市や地域の「極」が多く存在しつつ、それぞれの極は集約的なまちになっているという姿)を実現するとともに、「コミュニティ空間」という視点を重視した(ドイツなどヨーロッパに典型的な)〝歩いて楽しめるまちづくり〟を積極的に進める。
④都市と農村は〝非対称的〟な関係にあり(不等価交換)、ほうっておけば都市が有利な構造となり人は都市に流れていくため、「都市と農村の持続可能な相互依存」を実現すべく、都市・農村間の様々な再分配システムを導入する(農業版ベーシックインカム[BI]、地域版・若者版BIなど)。
⑤企業行動ないし経営理念の軸足を「拡大・成長」から「持続可能性」にシフトしていく。これは、日本が本来もっていた伝統的な経営哲学を現代的な視点から再評価することにもつながる。
⑥科学の基本コンセプトは17世紀以降、「物質→エネルギー→情報→生命」と進化してきているが、「情報」はすでにその成熟期に入り、私たちは「生命」を軸とし、マクロの生態系やその持続可能性に価値を置いた「ポスト情報化」の分散型社会システムを構想する時期に来ている。
⑦人口増加がもっとも顕著だった20世紀と異なり、21世紀は高齢化と人口の定常化が地球規模で進行する時代となる。日本はその〝フロントランナー〟として、「グローバル定常型社会」と呼びうる社会像を率先して発信していくことが求められる。
⑧環境・福祉・経済が調和した「持続可能な福祉社会」と呼ぶべき社会モデルを志向すると同時に、ローカルな経済循環から出発し、ナショナル、グローバルへと再分配や規制等を積み重ねていくような社会モデルを実現していく。
⑨根底にある「福祉思想」の再構築が重要であり、日本の場合、〝神仏儒〟という伝統的な基盤に(近代的な)「個人」そして近代後期の状況を踏まえた「地球倫理」と呼びうる理念の深化を図っていく。
⑩私たちは人類史の中で「3度目の定常化」の時代を迎えようとしているが、拡大・成長から成熟・定常化の移行期には大きな精神的・文化的革新が生じており(5万年前の「心のビッグバン」及び紀元前5世紀前後の「枢軸時代/精神革命」)、「地球倫理」はそうした画期に呼応し理念として深化していく必要がある。

 ①については賛同できないが、その他のことがらはおおむね正しい。

 中身のない「持続可能な成長」を唱えるよりも、このような、壮大でありながらも、しっかりと歴史と現状をふまえた議論と理念とを提示していくことがはるかに有益だ。

目次
イントロダクション AIが示す日本社会の未来―2050年、日本は持続可能か?
第1章 人口減少社会の意味―日本・世界・地球
第2章 コミュニティとまちづくり・地域再生
第3章 人類史の中の人口減少・ポスト成長社会
第4章 社会保障と資本主義の進化
第5章 医療への新たな視点
第6章 死生観の再構築
第7章 持続可能な福祉社会―地球倫理の可能性


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