桐野夏生,2010,ナニカアル,新潮社.(1.23.25)
昭和十七年、南方へ命懸けの渡航、束の間の逢瀬、張りつく嫌疑、そして修羅の夜。波瀾の運命に逆らい、書くことに、愛することに必死で生きた一人の女を描き出す感動巨編の誕生。女は本当に罪深い。戦争に翻弄された作家・林芙美子の秘められた愛を、桐野夏生が渾身の筆で灸り出し、描き尽くした衝撃の長篇小説。
評伝小説と呼ぶには、あまりに脚色、創作の部分が大きく、これは、作家、林芙美子の、「こうであった、ありえたかもしれない」人生を描いた、フィクションとして読むべきものであろう。
一気に読ませる筆力はさすがというほかない。
桐野夏生,2004,残虐記,新潮社.(1.24.25)
失踪した作家が残した原稿。そこには、二十五年前の少女誘拐・監禁事件の、自分が被害者であったという驚くべき事実が記してあった。最近出所した犯人からの手紙によって、自ら封印してきたその日々の記憶が、奔流のように溢れ出したのだ。誘拐犯と被害者だけが知る「真実」とは…。
失踪した小説家、景子は、小学生のとき、工員、ケンジに誘拐され、1年余りのあいだ、監禁される。
そのケンジは、同じ工場に勤め、隣室に住むヤタベに子どものときに性虐待を受けており、ヤタベへの屈折した思慕から、隣室の覗き穴から景子との戯れを見せつける。
メインストーリーのなかに、いくつものサブストーリーが挿入され、グロテスクな人間の性欲、性愛のありようが描かれていく。
桐野さんの、ストーリーテリングの力を堪能できる作品だ。
桐野夏生,2003,リアルワールド,集英社.(1.25.25)
母親を殺してしまった少年と、彼の逃亡を手助けすることになる4人の女子高生。遊び半分のゲーム感覚で始まった事件が、やがてリアルな悲劇に集約してゆく。心の闇を抉り出す問題作。
母親を惨殺した男子高校生、ミミズの逃亡を助ける、トシ、ユウザン、キラリン、テラウチ、4人の女子高校生。
4人のうち、2人が命を落とすことになるが、「心の闇」というよりも、自らも高校生時分に抱えていた、親をはじめとする他者への憎悪、嫌悪感を懐かしく思い起こした。
5人の登場人物の話者転換によるストーリー展開が秀逸で、一気に読ませる。