本書では、オランダの国の成り立ち、労使関係、宗教、思想等により分立した団体により構成される「柱状社会」としての、また、安楽死、麻薬、売春の合法化にみられる「究極の合理主義」の実験地としての特質など、わかりやすく解説されている。
わたしは、以前から、オランダとスウェーデンとが、同じ高福祉国ながら、売春・買春の法による統制や労働政策のあり方をめぐって、顕著な違いをみせていることに興味があった。
オランダは、売春・買春ともに合法であるが、売春・買春が行われる場所は厳しく制限され(ゾーニング)、セックスワーカーの健康や人権を守るべく、行政による介入が行われている。それに対し、スウェーデンでは、売春は罰せられないが買春は処罰の対象となる。オランダが、(売春・買春は)「望ましくはないがあるものはしかたないのでそれによる弊害を最小にしよう」という、なるほど徹底した合理主義の立場をとるのに対し、スウェーデンは、人身売買を許しがたい行為として考え、買う側の罪を問う。あくまで理念が優先されるわけである。
同様のことが「働き方」についても言える。オランダは、「1.5モデル」と称されるように、多くの女性が、妊娠・出産、子育て、親の介護といったライフイベントに合わせて、フルタイムとパートタイムの間をを行き来する。(ここいらへんの事情については『オランダ流ワーク・ライフ・バランス』が詳しい。)それを、賃金政策が、フルタイムとパートタイム労働者の時間あたりの賃金格差を世界一の水準まで縮小して、後押しする。対して、スウェーデンは、男女ともに生涯フルタイム労働に従事するのが一般的だ。(それでも、看護職、介護職、初等教育職等への女性の偏重は解消していない。)ここにも、現実主義と理念主義の相違がみられるように思う。
「オランダ病」から奇跡的回復を遂げ、「EUの優等生」と呼ばれる国。安楽死や麻薬、売春を合法化するなど、各国が驚く政策を打ち出す国。これらの改革は、建国以来の「寛容」と「合理主義」の精神に基づいている。この二つの精神が、生活しやすい国をどうつくり、多文化社会を一つの国家としていかにうまく機能させてきたか、そして、いまそれがどう揺らいでいるのか―。オランダがいま抱える問題は、国際情勢の新たな展開によってもたらされたものである。その意味で、オランダの改革や模索は、日本を含めた国際社会が抱えている問題を解く試みであるといえるだろう。
目次
第1章 究極の合理主義者のとらわれない改革
世界ではじめて安楽死を合法化
麻薬と売春―合法化の理由
第2章 国土の建設―自由と独立を求めて
国家の成立とオランダの思想と技術
多様な価値を認める社会へ ほか
第3章 生活しやすくつくられた社会構造
生活しやすい国
協調性とコミュニケーション
第4章 棲み分け社会オランダ
変わりつつあるオランダ
団体ごとの番組制作による国営放送 ほか
第5章 オランダ的「寛容性」の課題
統合政策の行きづまり混乱とその諸要因 ほか
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