第五章 「ニューザイム」の新世界
【植物にも備わる「細胞内解毒」】
さて、こうした細胞内解毒の多種多様な働きについて調べていく過程で、私はある一つの興味深い事実に気づきました。
それは、リソソームが行っている細胞内解毒と同様の働きが、植物や微生物の中にも見られるという点です。
リソソームは、人間を含めた動物の細胞内にある器官です。
では、植物の場合はどうでしょうか?
植物の細胞においても、リソソームと同様の働きをする器官はもちろんあります。
それが、液胞です。
液胞は、その名の通り、水分のたっぷりと詰まった袋のようなもので、植物の細胞のじつに9割以上はこの液胞によって占められているといわれています。
新鮮な野菜や果物がみずみずしいのもそのためですが、ただ単に袋の中に水がたまっているというわけではありません。
じつは、この中に細胞内解毒を行う酵素が数多く生まれ、細胞にたまった老廃物や有害物質の解毒を担っているのです。
近年、こうした酵素の中で注目されているのが、病原体に感染した際に特有の働きをする「液胞プロセッシング酵素」です。
この酵素は、細胞が病原体の侵入を察知すると同時に小胞体という器官で生成され、液胞の内部で活性化しながら液胞膜を破壊していくことで、感染した細胞を自死させます。
これは、すべての生命が個体を生き延びさせるために備えているアポトーシス(細胞死)と呼ばれるシステムの一つで、詳しくはのちほど解説していきますが、「細胞内解毒の究極版」として考えればいいでしょう。
このアポトーシスにも、特定の酵素が関わっているといえるわけなのです。
また、植物特有の現象としては、液胞内にポリフェノールをはじめとする多くの抗酸化成分=ファイトケミカル(第三章「腸相をキレイに「新谷式食事健康法」」参照)が含まれていることがわかっています。
このファイトケミカルが、老廃物や変性したたんぱく質から発生するフリーラジカルの活性酸素を除去するなどして、液胞内の酵素の働きをサポートすることで、植物はみずみずしい生命力を維持できるのです。
液胞内には、このほかにも、コカイン、ニコチン、カフェインなど、アルカロイドの名で総称される毒物が貯蔵されていますが、これも本来は、病原体や昆虫たちなどの外敵に対抗するための「武器」として作り出されたものなのです。
大地に根を張り、動物のように動き回ることのできない植物には、細胞内解毒を効率よく進める様々な「生きる知恵」が詰まっていることに気づかされるでしょう。
では、動物、植物に対して、微生物の場合はどうでしょうか?
細菌などの原核生物は、飢餓など生存の危機に瀕すると、まず自らの分身(胞子)を作り、自分自身は自らが分泌した酵素の働きで自己分解してしまいます。
そうやって自らの死骸を栄養物として胞子に供給し、生き延びる道を選ぶ。
これなどは、細胞内解毒の原型と呼べる働きといえないでしょうか?
また、細菌よりも進化した酵母や麹菌などの菌類(真核生物)になると、細胞内にすでに液胞が確認できます。
もちろん、植物と同様、この液胞内で酵素が働くことで細胞内解毒が行われていることはいうまでもありません。
微生物たちの生命活動も、解毒分解に関与する様々な酵素に支えられているのです。
【ニューザイムは「若返り酵素」】
さて、動物、植物、微生物と、生物全体の細胞内解毒について見てきましたが、ここでまた一つの事実に気づかれないでしょうか?
それは、こうした細胞内解毒に関わる特別な酵素群を総称する呼称がないということです。
これまで私は、「細胞内で解毒分解に関与する酵素」といったいい方をしてきましたが、ここから先は、「従来のパラダイム(視点)を変える新しい酵素(ニュー・エンザイム)」という意味を込めて、仮にこれを「ニューザイム」と呼ぶことにします。
このニューザイムの活動を軸に生命活動を見渡していくことで、細胞の若返りや、生命の危機に対する生体防御の仕組みなどが、より明確に浮かび上がってきます。
こうした仕組みが健全に機能することが、多くの人が求めている健康増進や若返りに密接につながっているということも見えてくるでしょう。
まず、ニューザイムの働きを明確にするため、従来の酵素(消化酵素+代謝酵素)と比較し、両者の違いを改めて検討していくことにします。
この章の冒頭でもお話ししましたが、これまで酵素の代名詞として認識されてきた消化酵素や代謝酵素は、食べたものを消化吸収し、それを細胞内のミトコンドリアでエネルギーに変えるという、私たちの日常の活動を支えてくれる酵素群です。
健康な毎日を送るための土台となる働きをしていることは確かですが、細胞内解毒のような生命活動の根幹に関わっているとはいえません。
わかりやすくいえば、日常の活動を支えている従来の酵素群に対して、生命が何らかの危機に瀕したときに働く酵素群がニューザイムなのです。
この酵素が細胞内できちんと働いていなければ、健康であるかどうかという以前に、私たちの生命そのものが脅かされてしまいます。
そう考えていけば、ニューザイムの活性度が、文字通り「生命力の高さ」を示すバロメーターになることが見えてくるのではないでしょうか?
少々俗っぽい表現になりますが、「あなたの潜在能力を引き出すカギはニューザイムが握っている」のです。
こうしたニューザイムの働きは、もちろん、細胞内解毒だけにとどまるものではありません。
というよりも、そこには連続性が見出せます。
たとえば、細胞内に侵入してきたウイルスや細菌がニューザイムによって分解されると、細胞内のセンサーがこれを感知し、様々な抗菌・抗ウイルス物質が分泌されます。
このセンサーの働きが先にお話しした「自然免疫」の基本であり、私たちの細胞はこうした形で自らの身を守っているのです。
また、この自然免疫は、ウイルスや細菌に感染した細胞がその病原体もろとも自死するというアポトーシスの仕組みとも連動しています。
自然免疫で外敵の侵入に対処しきれないときの「最終手段」として、自己犠牲的なアポトーシスのシステムが発動されると考えたらいいでしょう。
私たちの生命は、大まかにいえば、①細胞内解毒→②自然免疫→③アポトーシス、という三つのシステムが複雑に絡み合った中で防御され、生きていくための活力が保持されています。
私の定義するニューザイムは、こうした生体防御のすべての局面に関わり、細胞活性をうながす「若返り酵素」にほかならないのです。
【細胞内にある先天的な免疫システム】
ここで、ニューザイムが関与している自然免疫やアポトーシスの仕組みについて、もう少し踏み込んで解説しておきましょう。
まず自然免疫について。
病原体から身を守る免疫機能の重要性は比較的知られるようになってきましたが、「自然免疫」という言葉そのものはまだ聞いたことがないという人が多いかもしれません。
自然免疫とは、先ほどもお話ししたように、細胞にもともと備わっている先天的な生体防御システムです。
これまで免疫というと、白血球の一つであるリンパ球のように、血液やリンパ液で作られた免疫細胞の活躍に目が向けられてきました。
しかしそれは、生物の長い進化の過程を経て、脊椎動物の時代になってようやく作り出された後天的な免疫機能であり、あらゆる生物に備わっている普遍的な働きというわけではないのです。
こうした免疫細胞の働きは、自然免疫に対して「獲得免疫」と呼ばれています。
体内に侵入してきた病原体をまず「抗原」として認識し、それと戦う「抗体」を作り出すことで生命を守る・・・・・・つまり、病原体が侵入してきた段階で新たに獲得される免疫機能であるわけですが、これまでの医学では、進化した高等生物のみに見られるこの「抗原抗体反応=獲得免疫」のほうが重視されてきました。
しかし、ここまで見てきたように、生命の基本単位である細胞内で働いてきたのは自然免疫のほうです。
高等生物では獲得免疫が主役で、自然免疫はほとんど機能していないなどというわけではありません。
というよりも、後天的に作られた獲得免疫は、あくまでも後天的な自然免疫という土台の上に成り立っているものです。
そのため近年では、「免疫の主役は自然免疫であって、獲得免疫は補助的な役割にすぎないのではないか?」といった議論が、専門家のあいだでさかんに行われるようになってきました。
たとえば、第一章「「腸・土壌・微生物」のトライアングル」で解説した感染症について思い出してみてください。
私たち人間は歴史的に、インフルエンザ、コレラ、ペストなど様々な感染症に悩まされてきました。
しかし、こうしていまも社会生活を営めているのはなぜでしょう?
それはいうまでもなく、全員が感染したわけではなかったからです。
いや、もう少し正確にいいましょう。
かつてのペストやスペイン風邪のような強力な感染症が猛威をふるったときでも、感染した全員が亡くなったわけではありません。
多くの人の生命が奪われる一方で、軽度で済んだ人もいれば、まったく発症しなかった人もいるはずです。
この違いはどこにあるのでしょうか?
先ほどもお話ししたように、獲得免疫では、抗原抗体反応によって抗体を作らないことには感染症に太刀打ちできません。
抗体を獲得するまでに一定の時間がかかりますし、過去に同じ病気にかかっていなければ、新たに抗体を作らねばなりません。
一つの病原体に対して一つの抗体しか作用しないからです。
つまり、侵入者である病原体に対して即座に立ち向かえる能力は持ち合わせていないのです。
感染症による生死を分けるもの・・・・・・ここまでお話しすれば、それは自然免疫の差にあることが見えてくるのではないでしょうか?
私たちの生命に(というより、あらゆる生命に)もともと備わっていた自然免疫がしっかり機能しないことには、獲得免疫すら活用できないといえるのです。
【リンパ球を主役にしてきた免疫学の終わり】
じつはこれまで自然免疫というと、免疫細胞の中でも原始的な働きをするマクロファージや好中球などを指すケースが多かったようです。
マクロファージや好中球の名前を出してすぐにピンと来る人は少ないと思うので、大ざっぱながら、ここで解説しておきましょう。
これらの免疫細胞は「貪食細胞」などと呼ばれ、細胞内の異物を文字通り貪り食べて処理していくことが知られています。
しかし、ただ貪り食べているだけの原始的な細胞というわけではありません。
じつはマクロファージに関しては、これ以外にももう一つ重要な働きがあることがわかっています。
それは、抗体を作って病原体を退治するリンパ球に様々な指令を出すコントロールセンターの役割を担っているということです。
一般には、免疫機能の中心的な役割を果たしているとされるリンパ球ですが、面白いことにマクロファージの指令がなければ何も活動ができない存在でもあるのです。
ただ貪食するだけの原始的な機能を持ちながら、その一方で、免疫細胞を統括するコントロールセンターとしても働いている・・・・・・一見すると矛盾した働きを併せ持っているように思われるかもしれませんが、「後天的に作られた獲得免疫ではなく、自然免疫こそが免疫機能の土台である」というここまでの話をふまえるならば、決して不思議といえないことが感じ取れるでしょう。
そもそもマクロファージは、細胞内で働いていた自然免疫の機能をそっくり受け継いだ別働隊のような存在です。
細菌のような単細胞生物が多細胞生物へと進化し、個体が除々に大きく複雑になっていく中で、従来の細胞内の免疫機能(細胞内解毒→自然免疫)だけでは生体を防御できなくなった・・・・・・それゆえ、新たに作り出された免疫機能であると考えられているのです。
ここで生物の進化について簡単に言及しておくと、生物は多細胞生物へと進化する過程で、まず1本の管=腸管を作り出しました。
たとえば、サンゴのような初期の多細胞生物には腸管しかなく、栄養を補給してそれを腸管で消化吸収し排泄する、というシンプルな仕組みだけで活動していたとされています。
腸が私たちの生命を支える中心的な器官であることは、こうした進化の歴史をたどることでも見えてくるのです。
ちくわの内側を想像すればわかると思いますが、腸は体の内部にあるようで、じつは筒の内側のように外界に触れている器官です。
そこには当然、様々な病原体が侵入してきます。
そう、マクロファージの祖先(貪食細胞)が腸管の細胞から分化したのも、こうした腸内の病原体に備えた生体防御の一環だったと考えられるのです。
好中球やリンパ球などの免疫細胞は、マクロファージの祖先である貪食細胞からさらに分化して生まれたものです。
こうした点から見ると、自然免疫と獲得免疫の関係性がより明確になるでしょう。
進化したものを尊ぶことも大切ですが、すべての土台は古くからあるもの、より原始的なものの中に隠されているのです。
その意味では、リンパ球を主役のようにとらえてきたこれまでの免疫学の「常識」をいったん脇に置き、生物の免疫機能を一からとらえ直す必要があるのかもしれません。
いま、学問の最前線でそんなホットな議論が交わされているのです。
【「細胞の自殺」にも関与するニューザイム】
話がやや脱線してしまいましたが、もう一つの生体防御システムであるアポトーシスについても言及しておくことにします。
アポトーシスとは、老廃物などの異物が過剰にたまったり、細胞内解毒や自然免疫では対処できない強力なウイルスや細菌が侵入してきたりしたとき、細胞が最後の自衛手段として自らの体を分解してしまう仕組みのことです。
細胞死、すなわち「細胞の自殺」といった呼び方がされていますが、決してネガティブなものではなく、自らを犠牲にして他の細胞に害が及ぶのを防いだり、その個体を再生させたりする、多細胞生物にはごく普通に見られる機能の一つです。
そもそも、自らが犠牲になってもまったく同じ細胞が補充されるわけですから、一種のリサイクル・システムとしてとらえたほうが実態に近いのかもしれません。
たとえば、よく知られているところでは、オタマジャクシがカエルになるときに尾をなくしますが、成長するためにはもはや不要な尾の細胞を切り離してしまうわけですから、これなども立派なアポトーシスです。
また、出産前の胎児は、ある段階まで手の指が分化せず、水かきのようにくっついていますが、ここでも、指と指の間の細胞が徐々にアポトーシスされ、進化した人間の指が作られていきます。
細胞の自衛手段という面では、ガン細胞のアポトーシスも重要です。
通常、私たちの体にガン細胞が発生した場合、増殖を食い止めるためにガン細胞のアポトーシスが起こりますが、体を酸化させる食事やストレスなどが原因でフリーラジカルの活性酸素が大量に発生すると、その働きが阻害されてしまいます。
私がガンにかかった患者さんに、動物性食品を減らし、抗酸化作用の高い新鮮な野菜や果物を摂取する「新谷式食事健康法」をすすめるのは、一つには体内のフリーラジカルを除去し、アポトーシスをうながすためでもあるのです。
もちろん、こうしたアポトーシスにもニューザイムは関与しています。
なかでも重要なのが、アポトーシスのプロセスを管理するカスパーゼという酵素です。
こうした管理型の酵素は、普段は活動する必要がないので不活性の状態で保存されていますが、アポトーシスが必要な場面に遭遇したとき、別の酵素がこの拘束をほどいて活性状態にしてくれるのです。
これまで登場したニューザイムとは少々性質が異なりますが、「生命が危機に瀕したときに働く」点では同じといえるでしょう。
新谷弘実先生 著
『酵素力革命 若返り酵素「ニューザイム」を活性化させる生き方』 より抜粋
【植物にも備わる「細胞内解毒」】
さて、こうした細胞内解毒の多種多様な働きについて調べていく過程で、私はある一つの興味深い事実に気づきました。
それは、リソソームが行っている細胞内解毒と同様の働きが、植物や微生物の中にも見られるという点です。
リソソームは、人間を含めた動物の細胞内にある器官です。
では、植物の場合はどうでしょうか?
植物の細胞においても、リソソームと同様の働きをする器官はもちろんあります。
それが、液胞です。
液胞は、その名の通り、水分のたっぷりと詰まった袋のようなもので、植物の細胞のじつに9割以上はこの液胞によって占められているといわれています。
新鮮な野菜や果物がみずみずしいのもそのためですが、ただ単に袋の中に水がたまっているというわけではありません。
じつは、この中に細胞内解毒を行う酵素が数多く生まれ、細胞にたまった老廃物や有害物質の解毒を担っているのです。
近年、こうした酵素の中で注目されているのが、病原体に感染した際に特有の働きをする「液胞プロセッシング酵素」です。
この酵素は、細胞が病原体の侵入を察知すると同時に小胞体という器官で生成され、液胞の内部で活性化しながら液胞膜を破壊していくことで、感染した細胞を自死させます。
これは、すべての生命が個体を生き延びさせるために備えているアポトーシス(細胞死)と呼ばれるシステムの一つで、詳しくはのちほど解説していきますが、「細胞内解毒の究極版」として考えればいいでしょう。
このアポトーシスにも、特定の酵素が関わっているといえるわけなのです。
また、植物特有の現象としては、液胞内にポリフェノールをはじめとする多くの抗酸化成分=ファイトケミカル(第三章「腸相をキレイに「新谷式食事健康法」」参照)が含まれていることがわかっています。
このファイトケミカルが、老廃物や変性したたんぱく質から発生するフリーラジカルの活性酸素を除去するなどして、液胞内の酵素の働きをサポートすることで、植物はみずみずしい生命力を維持できるのです。
液胞内には、このほかにも、コカイン、ニコチン、カフェインなど、アルカロイドの名で総称される毒物が貯蔵されていますが、これも本来は、病原体や昆虫たちなどの外敵に対抗するための「武器」として作り出されたものなのです。
大地に根を張り、動物のように動き回ることのできない植物には、細胞内解毒を効率よく進める様々な「生きる知恵」が詰まっていることに気づかされるでしょう。
では、動物、植物に対して、微生物の場合はどうでしょうか?
細菌などの原核生物は、飢餓など生存の危機に瀕すると、まず自らの分身(胞子)を作り、自分自身は自らが分泌した酵素の働きで自己分解してしまいます。
そうやって自らの死骸を栄養物として胞子に供給し、生き延びる道を選ぶ。
これなどは、細胞内解毒の原型と呼べる働きといえないでしょうか?
また、細菌よりも進化した酵母や麹菌などの菌類(真核生物)になると、細胞内にすでに液胞が確認できます。
もちろん、植物と同様、この液胞内で酵素が働くことで細胞内解毒が行われていることはいうまでもありません。
微生物たちの生命活動も、解毒分解に関与する様々な酵素に支えられているのです。
【ニューザイムは「若返り酵素」】
さて、動物、植物、微生物と、生物全体の細胞内解毒について見てきましたが、ここでまた一つの事実に気づかれないでしょうか?
それは、こうした細胞内解毒に関わる特別な酵素群を総称する呼称がないということです。
これまで私は、「細胞内で解毒分解に関与する酵素」といったいい方をしてきましたが、ここから先は、「従来のパラダイム(視点)を変える新しい酵素(ニュー・エンザイム)」という意味を込めて、仮にこれを「ニューザイム」と呼ぶことにします。
このニューザイムの活動を軸に生命活動を見渡していくことで、細胞の若返りや、生命の危機に対する生体防御の仕組みなどが、より明確に浮かび上がってきます。
こうした仕組みが健全に機能することが、多くの人が求めている健康増進や若返りに密接につながっているということも見えてくるでしょう。
まず、ニューザイムの働きを明確にするため、従来の酵素(消化酵素+代謝酵素)と比較し、両者の違いを改めて検討していくことにします。
この章の冒頭でもお話ししましたが、これまで酵素の代名詞として認識されてきた消化酵素や代謝酵素は、食べたものを消化吸収し、それを細胞内のミトコンドリアでエネルギーに変えるという、私たちの日常の活動を支えてくれる酵素群です。
健康な毎日を送るための土台となる働きをしていることは確かですが、細胞内解毒のような生命活動の根幹に関わっているとはいえません。
わかりやすくいえば、日常の活動を支えている従来の酵素群に対して、生命が何らかの危機に瀕したときに働く酵素群がニューザイムなのです。
この酵素が細胞内できちんと働いていなければ、健康であるかどうかという以前に、私たちの生命そのものが脅かされてしまいます。
そう考えていけば、ニューザイムの活性度が、文字通り「生命力の高さ」を示すバロメーターになることが見えてくるのではないでしょうか?
少々俗っぽい表現になりますが、「あなたの潜在能力を引き出すカギはニューザイムが握っている」のです。
こうしたニューザイムの働きは、もちろん、細胞内解毒だけにとどまるものではありません。
というよりも、そこには連続性が見出せます。
たとえば、細胞内に侵入してきたウイルスや細菌がニューザイムによって分解されると、細胞内のセンサーがこれを感知し、様々な抗菌・抗ウイルス物質が分泌されます。
このセンサーの働きが先にお話しした「自然免疫」の基本であり、私たちの細胞はこうした形で自らの身を守っているのです。
また、この自然免疫は、ウイルスや細菌に感染した細胞がその病原体もろとも自死するというアポトーシスの仕組みとも連動しています。
自然免疫で外敵の侵入に対処しきれないときの「最終手段」として、自己犠牲的なアポトーシスのシステムが発動されると考えたらいいでしょう。
私たちの生命は、大まかにいえば、①細胞内解毒→②自然免疫→③アポトーシス、という三つのシステムが複雑に絡み合った中で防御され、生きていくための活力が保持されています。
私の定義するニューザイムは、こうした生体防御のすべての局面に関わり、細胞活性をうながす「若返り酵素」にほかならないのです。
【細胞内にある先天的な免疫システム】
ここで、ニューザイムが関与している自然免疫やアポトーシスの仕組みについて、もう少し踏み込んで解説しておきましょう。
まず自然免疫について。
病原体から身を守る免疫機能の重要性は比較的知られるようになってきましたが、「自然免疫」という言葉そのものはまだ聞いたことがないという人が多いかもしれません。
自然免疫とは、先ほどもお話ししたように、細胞にもともと備わっている先天的な生体防御システムです。
これまで免疫というと、白血球の一つであるリンパ球のように、血液やリンパ液で作られた免疫細胞の活躍に目が向けられてきました。
しかしそれは、生物の長い進化の過程を経て、脊椎動物の時代になってようやく作り出された後天的な免疫機能であり、あらゆる生物に備わっている普遍的な働きというわけではないのです。
こうした免疫細胞の働きは、自然免疫に対して「獲得免疫」と呼ばれています。
体内に侵入してきた病原体をまず「抗原」として認識し、それと戦う「抗体」を作り出すことで生命を守る・・・・・・つまり、病原体が侵入してきた段階で新たに獲得される免疫機能であるわけですが、これまでの医学では、進化した高等生物のみに見られるこの「抗原抗体反応=獲得免疫」のほうが重視されてきました。
しかし、ここまで見てきたように、生命の基本単位である細胞内で働いてきたのは自然免疫のほうです。
高等生物では獲得免疫が主役で、自然免疫はほとんど機能していないなどというわけではありません。
というよりも、後天的に作られた獲得免疫は、あくまでも後天的な自然免疫という土台の上に成り立っているものです。
そのため近年では、「免疫の主役は自然免疫であって、獲得免疫は補助的な役割にすぎないのではないか?」といった議論が、専門家のあいだでさかんに行われるようになってきました。
たとえば、第一章「「腸・土壌・微生物」のトライアングル」で解説した感染症について思い出してみてください。
私たち人間は歴史的に、インフルエンザ、コレラ、ペストなど様々な感染症に悩まされてきました。
しかし、こうしていまも社会生活を営めているのはなぜでしょう?
それはいうまでもなく、全員が感染したわけではなかったからです。
いや、もう少し正確にいいましょう。
かつてのペストやスペイン風邪のような強力な感染症が猛威をふるったときでも、感染した全員が亡くなったわけではありません。
多くの人の生命が奪われる一方で、軽度で済んだ人もいれば、まったく発症しなかった人もいるはずです。
この違いはどこにあるのでしょうか?
先ほどもお話ししたように、獲得免疫では、抗原抗体反応によって抗体を作らないことには感染症に太刀打ちできません。
抗体を獲得するまでに一定の時間がかかりますし、過去に同じ病気にかかっていなければ、新たに抗体を作らねばなりません。
一つの病原体に対して一つの抗体しか作用しないからです。
つまり、侵入者である病原体に対して即座に立ち向かえる能力は持ち合わせていないのです。
感染症による生死を分けるもの・・・・・・ここまでお話しすれば、それは自然免疫の差にあることが見えてくるのではないでしょうか?
私たちの生命に(というより、あらゆる生命に)もともと備わっていた自然免疫がしっかり機能しないことには、獲得免疫すら活用できないといえるのです。
【リンパ球を主役にしてきた免疫学の終わり】
じつはこれまで自然免疫というと、免疫細胞の中でも原始的な働きをするマクロファージや好中球などを指すケースが多かったようです。
マクロファージや好中球の名前を出してすぐにピンと来る人は少ないと思うので、大ざっぱながら、ここで解説しておきましょう。
これらの免疫細胞は「貪食細胞」などと呼ばれ、細胞内の異物を文字通り貪り食べて処理していくことが知られています。
しかし、ただ貪り食べているだけの原始的な細胞というわけではありません。
じつはマクロファージに関しては、これ以外にももう一つ重要な働きがあることがわかっています。
それは、抗体を作って病原体を退治するリンパ球に様々な指令を出すコントロールセンターの役割を担っているということです。
一般には、免疫機能の中心的な役割を果たしているとされるリンパ球ですが、面白いことにマクロファージの指令がなければ何も活動ができない存在でもあるのです。
ただ貪食するだけの原始的な機能を持ちながら、その一方で、免疫細胞を統括するコントロールセンターとしても働いている・・・・・・一見すると矛盾した働きを併せ持っているように思われるかもしれませんが、「後天的に作られた獲得免疫ではなく、自然免疫こそが免疫機能の土台である」というここまでの話をふまえるならば、決して不思議といえないことが感じ取れるでしょう。
そもそもマクロファージは、細胞内で働いていた自然免疫の機能をそっくり受け継いだ別働隊のような存在です。
細菌のような単細胞生物が多細胞生物へと進化し、個体が除々に大きく複雑になっていく中で、従来の細胞内の免疫機能(細胞内解毒→自然免疫)だけでは生体を防御できなくなった・・・・・・それゆえ、新たに作り出された免疫機能であると考えられているのです。
ここで生物の進化について簡単に言及しておくと、生物は多細胞生物へと進化する過程で、まず1本の管=腸管を作り出しました。
たとえば、サンゴのような初期の多細胞生物には腸管しかなく、栄養を補給してそれを腸管で消化吸収し排泄する、というシンプルな仕組みだけで活動していたとされています。
腸が私たちの生命を支える中心的な器官であることは、こうした進化の歴史をたどることでも見えてくるのです。
ちくわの内側を想像すればわかると思いますが、腸は体の内部にあるようで、じつは筒の内側のように外界に触れている器官です。
そこには当然、様々な病原体が侵入してきます。
そう、マクロファージの祖先(貪食細胞)が腸管の細胞から分化したのも、こうした腸内の病原体に備えた生体防御の一環だったと考えられるのです。
好中球やリンパ球などの免疫細胞は、マクロファージの祖先である貪食細胞からさらに分化して生まれたものです。
こうした点から見ると、自然免疫と獲得免疫の関係性がより明確になるでしょう。
進化したものを尊ぶことも大切ですが、すべての土台は古くからあるもの、より原始的なものの中に隠されているのです。
その意味では、リンパ球を主役のようにとらえてきたこれまでの免疫学の「常識」をいったん脇に置き、生物の免疫機能を一からとらえ直す必要があるのかもしれません。
いま、学問の最前線でそんなホットな議論が交わされているのです。
【「細胞の自殺」にも関与するニューザイム】
話がやや脱線してしまいましたが、もう一つの生体防御システムであるアポトーシスについても言及しておくことにします。
アポトーシスとは、老廃物などの異物が過剰にたまったり、細胞内解毒や自然免疫では対処できない強力なウイルスや細菌が侵入してきたりしたとき、細胞が最後の自衛手段として自らの体を分解してしまう仕組みのことです。
細胞死、すなわち「細胞の自殺」といった呼び方がされていますが、決してネガティブなものではなく、自らを犠牲にして他の細胞に害が及ぶのを防いだり、その個体を再生させたりする、多細胞生物にはごく普通に見られる機能の一つです。
そもそも、自らが犠牲になってもまったく同じ細胞が補充されるわけですから、一種のリサイクル・システムとしてとらえたほうが実態に近いのかもしれません。
たとえば、よく知られているところでは、オタマジャクシがカエルになるときに尾をなくしますが、成長するためにはもはや不要な尾の細胞を切り離してしまうわけですから、これなども立派なアポトーシスです。
また、出産前の胎児は、ある段階まで手の指が分化せず、水かきのようにくっついていますが、ここでも、指と指の間の細胞が徐々にアポトーシスされ、進化した人間の指が作られていきます。
細胞の自衛手段という面では、ガン細胞のアポトーシスも重要です。
通常、私たちの体にガン細胞が発生した場合、増殖を食い止めるためにガン細胞のアポトーシスが起こりますが、体を酸化させる食事やストレスなどが原因でフリーラジカルの活性酸素が大量に発生すると、その働きが阻害されてしまいます。
私がガンにかかった患者さんに、動物性食品を減らし、抗酸化作用の高い新鮮な野菜や果物を摂取する「新谷式食事健康法」をすすめるのは、一つには体内のフリーラジカルを除去し、アポトーシスをうながすためでもあるのです。
もちろん、こうしたアポトーシスにもニューザイムは関与しています。
なかでも重要なのが、アポトーシスのプロセスを管理するカスパーゼという酵素です。
こうした管理型の酵素は、普段は活動する必要がないので不活性の状態で保存されていますが、アポトーシスが必要な場面に遭遇したとき、別の酵素がこの拘束をほどいて活性状態にしてくれるのです。
これまで登場したニューザイムとは少々性質が異なりますが、「生命が危機に瀕したときに働く」点では同じといえるでしょう。
新谷弘実先生 著
『酵素力革命 若返り酵素「ニューザイム」を活性化させる生き方』 より抜粋