端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

時計と職人と営業と

2013-02-04 00:00:00 | 黒子のバスケ
社会人になってもう6年経つ。
就職活動中にアピールした社交性を買われて。
営業一筋、外回り。
地元密着は当たり前、新規取引先の開拓のためなら遠方でも出張する。
契約した後のことは、企画部の人間が関わるので。
俺は契約した時点でお役御免、お払い箱になってしまうが気にしない。
自分の役目はそうなのだ。
たまに「高尾さんと仕事がしたかったのに」と言ってくださる方もいらっしゃるが。
それはあくまで個人的意見であって会社の意見ではない。
俺を指定することに何のメリットもないからだ。
今日はこれから後輩の尻拭いに会社回りが予定されている。
取引先を潰すことになっても、最小限の傷にするために動くのだ。
縁の下の力持ち、それが俺の仕事なのである。

時計と職人と営業と

「はぁ?営業トトカルチョ?」

ある日の昼休み。
久々に社員食堂で昼食を取っていると同期入社の黄瀬が話しかけてきた。
かまわず俺はラーメンをすすり、コンビニで買ったサンドイッチにパクつく。
貴重な屋内での昼休みは、時間外労働だと完全に割り切っている。
出先ではかなり気を使っているのだ。
身内に気遣っている余裕はない。

「そっ!どんな人間でも仲良くなれる最強営業高尾っちと。
 どんな人間でも冷たくあしらう難攻不落の職人。
 ぶつかったらどっちが強いかって話なんスよ」
「ひとをダシに遊んでんじゃねぇよ」

ずぞぞと音を立ててスープを飲み干す。
うまそうに食べるッスね、と感嘆の声をあげる黄瀬に。
お前はチキンカツサンドを綺麗に食うね、と言うと。

「俺は、顔で仕事取ってるからイメージ崩せないんスよ」
「へーへー、俺はどうせ人柄勝負ですよ」

そっちのほうがいいッスよ、と口元を拭う。
確かに音を立てて飯を食おうが、パンくずを撒き散らそうが。
武器が「取っつき易さ」なら支障はない。
で、どうッスか?とまた話が戻ってきた。
こんだけしつこいということは。

「……大金かかってるんだな?」
「しかも、課長クラスも一枚噛んでるッス」
「マジか!?」

仕事を取ってくるのにトトカルチョ。
おまけに会社の上層部も噛んでいる。
これは相当利益が見込めて、相当な数の人間が撃沈したのだろう。
なるほど、営業として心揺さぶられる案件だ。
男・高尾和成の総決算…には早いが。
これを突破すれば箔がつきそうだ。

「黄瀬は会ったことあんの?」
「やってくれるんスか!?」
「答えろ、会ったことあんのか?」
「いやあ、ものの見事にフラれたッス。
 『なんのこだわりも持たない奴と話すことはない』ってピシャリ」
「こだわりかぁ…」

難攻不落のその人物は、職人気質で、こだわりがない人間が大嫌いのようだ。
ありがちな頑固おやじ。
下手に出ても、上っ面で会話してもダメだ。
もっとヒントが欲しい。

「他にはないのか?注意事項とか容姿とか」
「緑髪の若い男で、眼鏡かけてるッスよ」
「え、若いの!?」

プランが崩れた。
職人気質で、こだわりがない人間が嫌いな『若い』男。
おい、そいつ、絶対学生時代から友達いねぇよ。
いたとしたら、同じような人種だよ。
やべえ、俺の苦手なタイプだわ。
とにかく落ち着け、と自分に言い聞かせつつ。
注意事項っすかぁ、うーんと唸っている黄瀬が記憶回路を辿るのを待つ。

「あ、手に得体の知れないものを持っていても馬鹿にしちゃいけないッス」
「なんで?」
「『ラッキーアイテムだから』と言ってそのあとは会話にならないんス。
 確か、おは朝占いとか言ってたかな」
「おは朝占いね…」

早朝番組のワンコーナー。
身支度をしているときに甲高い声と共にやっている占いのことだ。
情報をもう一度整理する。
難攻不落の人物は。
職人気質で、こだわりがない人間が嫌いな若い男で。
眼鏡をかけて緑髪、おは朝のラッキーアイテムを持っている。

「……なぁ、このひと、営業かけて利益あんの?」
「仕事見たらヤバイッスよ。
 素人目でも分かるほどの品質っていうか」
「ふうん?」

ま、課長クラスも気にしてるくらいだしな。
何を作っているのかは、俺にはぶっちゃけ関係ないが。
その人物の仕事を知っているいないでは営業トークの内容が変わる。
職人気質だと言うから、今回は特に重要で必須だ。

「何を作ってるんだ?」
「時計ッス、腕時計と懐中時計」
「へぇ?」

携帯電話全盛期のこの時代。
アナログの時計を作り続けるにはあまりにも不利だ。
どんな奴だろう。
若干クセのある前情報には引いたが、会ってみたい。
善は急げ、行動は早ければ早いほどいい。
トレイを持って立ち上がり、黄瀬に向かって宣言する。

「いいぜ、そのトトカルチョ、やってやる」
「高尾っち!!」
「お前、どっちに賭けた?」
「当然『高尾の勝ち』ッス」

不敵な笑みを浮かべる黄瀬に見送られながら。
俺も気合いを入れる。
まだ見ぬ対戦相手に、期待と不安を綯い交ぜにして。
食堂をあとにした。

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新作モチーフを探していたときに、職人真ちゃんの声があり。
やってみますかぁと気軽に書き出してしまいました。
大オチが全く決まってません。

営業高尾のイメージモチーフは、まさかの実兄です。
あなたと仕事がしたいですと言わせたこともあるし。
実兄に言われたら仕入れないとなぁとも言われている。
部下の尻拭いと上司の尻拭いをしているそうです。

緑間くんの作っているもの。
これを考えるのに結構時間かけました。
テーピングしてても大丈夫な職人が作るもの?
捻り出したアイディアなので、そっとしておいてください。

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