氷舞う。
桜舞う。
そんな決闘がかつて行われた。
謙信を襲名せしは誰ぞ
「よいな、勝者を我が上杉家次期当主『謙信』とする」
空気が張りつめる。
日差しは確かに暖かなはずなのに。
この中庭だけ、冷気をまとっているように涼しい。
合間見えたのは、同じ顔。
同じ家に生まれ、同じ母から生まれた双子。
ただ性別のみ違っていた。
凛とした目を、お互いがのぞき込む。
「始めっ!!!」
号令と共に、二人が刀を抜き払う。
先に踏み込んだのは男児であった。
くんっと刀を下から上に斬り上げる。
女児はそれを後ろへ飛ぶことでかわし。
返し刃に上から下へ振り下ろす。
とっさに男児は真一文字に刀を構え、一撃を受けた。
ふっ、と息を呑んで押し退けようとする。
女児がたまらず、距離をとろうとしたところで。
はっ!とかけ声かけて、男児が真上から振り下ろす。
女児は受けずに、それを流した。
女児が刀を振るえば、氷が舞い。
男児が刀を振るえば、桜が舞った。
この剣舞が永遠に終わらないかと思ったそのとき。
勝負は動いた。
刀を握る力が一瞬緩んだのを見逃さなかった。
やぁ!!っと斬り込んで舞ったのは。
「そこまで!!」
「負けたぁ…!」
くたりと男児は座り込んだ。
息を切らして立ちすくんでいる女児に対して。
賞賛の声が浴びせられた。
「謙信様!!おめでとうございます!」
「ご立派です!」
嘘だ。
ついさっきまで、その言葉は兄様のものだった。
自分は何もなかった。
何も。
『謙信』は、複雑な気持ちで立っていた。
小さな声で男児が囁く。
「皆に応えろ、『謙信』。
もう、お前の名だ」
にかっと笑う兄を見て。
吹っ切れた気がした。
「いまこのときより、わたしが『うえすぎけんしん』である!!」
名を与えた。
名誉を与えた。
女を奪った。
自由を奪った。
双子が得たもの、失ったもの。
表裏一体、されど異なる。
****************************
現在は 氷舞い、桜舞い、かすが舞う です。
三段構えですがかすがは「兄様」を知りません。
ただの「その他」です。
上杉何某は、二人きりの時は『謙信』の本名を呼びます。
家のものも兵たちも誰も呼んでくれない、知らない名前を呼びます。
その時だけきっと「妹」に、「女」に戻ります。
それを勘違いで嫉妬して、かすがの奇襲を受けるも。
さらりとかわすのが兄の日常です。
桜舞う。
そんな決闘がかつて行われた。
謙信を襲名せしは誰ぞ
「よいな、勝者を我が上杉家次期当主『謙信』とする」
空気が張りつめる。
日差しは確かに暖かなはずなのに。
この中庭だけ、冷気をまとっているように涼しい。
合間見えたのは、同じ顔。
同じ家に生まれ、同じ母から生まれた双子。
ただ性別のみ違っていた。
凛とした目を、お互いがのぞき込む。
「始めっ!!!」
号令と共に、二人が刀を抜き払う。
先に踏み込んだのは男児であった。
くんっと刀を下から上に斬り上げる。
女児はそれを後ろへ飛ぶことでかわし。
返し刃に上から下へ振り下ろす。
とっさに男児は真一文字に刀を構え、一撃を受けた。
ふっ、と息を呑んで押し退けようとする。
女児がたまらず、距離をとろうとしたところで。
はっ!とかけ声かけて、男児が真上から振り下ろす。
女児は受けずに、それを流した。
女児が刀を振るえば、氷が舞い。
男児が刀を振るえば、桜が舞った。
この剣舞が永遠に終わらないかと思ったそのとき。
勝負は動いた。
刀を握る力が一瞬緩んだのを見逃さなかった。
やぁ!!っと斬り込んで舞ったのは。
「そこまで!!」
「負けたぁ…!」
くたりと男児は座り込んだ。
息を切らして立ちすくんでいる女児に対して。
賞賛の声が浴びせられた。
「謙信様!!おめでとうございます!」
「ご立派です!」
嘘だ。
ついさっきまで、その言葉は兄様のものだった。
自分は何もなかった。
何も。
『謙信』は、複雑な気持ちで立っていた。
小さな声で男児が囁く。
「皆に応えろ、『謙信』。
もう、お前の名だ」
にかっと笑う兄を見て。
吹っ切れた気がした。
「いまこのときより、わたしが『うえすぎけんしん』である!!」
名を与えた。
名誉を与えた。
女を奪った。
自由を奪った。
双子が得たもの、失ったもの。
表裏一体、されど異なる。
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現在は 氷舞い、桜舞い、かすが舞う です。
三段構えですがかすがは「兄様」を知りません。
ただの「その他」です。
上杉何某は、二人きりの時は『謙信』の本名を呼びます。
家のものも兵たちも誰も呼んでくれない、知らない名前を呼びます。
その時だけきっと「妹」に、「女」に戻ります。
それを勘違いで嫉妬して、かすがの奇襲を受けるも。
さらりとかわすのが兄の日常です。
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