「ここまで来ればもう大丈夫ッスよね」
青峰から、神父から猛スピードで逃げた黄瀬。
裏路地に入って、しばらく走ったところ。
息を整えつつ、ふと思い出す。
ランサーはどうしたろうか。
青峰はどこに走って行った?
ぐるぐる考えて視線を下に向けると、自分の足元に影が出来ていた。
今夜は新月だったはずだ。
こんなに濃い影が出来るはずがない。
空を反射的に見上げる。
月だ、しかも満月だ。
「な、なにが起きてるッスか…」
眩暈がする。
一瞬押さえつけられて、すぐに力を解放された感じがした。
ざわざわと自分の本能が騒ぐ。
何かがこの一瞬のうちに起きたのだ。
カツン…と響く靴音がしたのは、そんな時。
視線を音の方向に向ける。
「あんた…」
Ace of Vampire
「おかしいですね、満月が出ています」
「旦那、嬉しくないの?」
「私のペースというものがありますので。
こんなことが出来るのは金の王だけでしょうね」
活動の拠点にしている屋敷の窓から空を見上げる。
今日は新月だったはずで、何も事を起こさない日だったのだが。
まん丸の月が顔を覗かせ、その存在を誇示しており。
条件反射で身体は反応していたが、心は全くついていっていなかった。
「へえ、そいつ、すごいね」
「すごいですよ、伊達に狼男の始祖と呼ばれてません」
「始祖?どんくらい生きてるの?」
「少なくとも私より年上ですよ」
月を睨みつけながらも『旦那』は冷静だった。
常日頃一匹狼として行動しているので直感が全て。
そして、その直感は今は出ていく時ではないと言っている。
「雨生、あなたはどうしますか?」
「教会近くでどんぱちやってるっぽいんだよなあ。
う~ん、行かなきゃまずいか」
「珍しいですね?」
「うん、まあねー」
首を鳴らしながら、神父服を羽織る。
面倒だけど、約束したしね。
☆☆☆
「驚いたか、神父?」
ギルガメッシュは余裕の表情を浮かべ。
背に負った満月が爛々と輝く。
枷が外れた根武谷とタイガが息を吹き返し。
文字通り飛び起きて、自身の両拳同士を打ち付ける。
よくもやってくれたなあ?と全身から怒りが吹き出して。
やったのは今吉だが、怒りは前方の青峰に向けられていた。
「そうかあ、そうきたか」
今吉が頭を掻くと、ギルガメッシュはさらに笑みを深くする。
はあ、とため息をつく今吉。
「諏佐、反転させ」
「おう」
諏佐がもう一つ術式を発動させた。
狼男を抑え込む結界を吸血鬼の強化作用するものに切り替えたのだ。
「いい仕事するじゃねえか、今吉サン」
青峰の第一歩。
踏み出した瞬間にトップスピードに乗り。
根武谷の顔面に膝がヒットする。
続けざま、火神に向かって回し蹴りを仕掛けると。
火神は反射的に避けたが、そこに待っていたのはバーサーカー。
両拳を組んで振り下ろし、それが脳天を捉える。
実渕があ!と声を上げる。
バーサーカーの腕から抜けられたと思えば。
ターゲットが移っただけだったのだ。
『高等種族』を自負する彼のプライドはズタズタだ。
「ぐぉ!」
「やってくれたわね!?」
「やってくれたな、神父」
「いやあ、すまんのう。
お前ら狼男に天下譲るくらいなら吸血鬼でも使うわ」
にんまり笑ったのは今吉だ。
狼男が一筋縄でいかないのは分かっていたし。
金狼が駐在している時点で不利なことは分かっていた。
何も手を講じずにこの場に参戦するわけがない。
想定外だったのは、金狼が参入してくるタイミングだ。
もっと後半になってからだろうと思っていたのだが。
だいぶ、早い段階で臨場してしまったのだ。
「おかげで準備が間に合ってへん。
せっかちさんは嫌われるで?」
「我は王だ、唯一たる絶対の王だ!
調子に乗るなよ、神父っ!!!」
咆哮。
びりびりと辺り一帯が震えだす。
諏佐に汗が浮かぶ。
ギルガメッシュの圧と結界の範囲がぶつかり。
効力が拮抗しているのだ。
今吉の顔から笑みが消えて、二人がかりでぶつかる形になった。
「はっはぁ、こらアカンわ」
「ああ…、弱っ…たっ…!」
「屈せよ、人間風情が!!」
結界が破られる。
再び満月の効力が最大化し、狼男たちのパフォーマンスが最大値に。
忙しいフィールド効果の切り替え。
これに真っ先にキレたのは。
「さっきからなんだ!落ち着かないな!!」
「同感です、僕も体が疲れました」
「おいぃぃ、黒子ぉぉ、力入れろ、ちから!!」
「灰崎くん、僕がヘルプに入ったところでたかが知れてますよ?」
ミシミシと音を立てて、タツヤの拳を捕まえている灰崎。
額にびっしりと汗を浮かべて、歯を食いしばり、両足でひとり踏ん張っている。
黒子は、と言えば何をするでもなくただ立っているように『見えた』
その実、タツヤが足を出そうとするのを牽制しているのだが。
あまりにも静かに事を運ぶので、灰崎には察することが出来なかったのだ。
思うような攻撃が出来ず、補助効果も不安定、そして何よりタイガの姿が確認できない。
タツヤのストレスは頂点に達しようとしていた。
『あああ!てめえ、いい加減にしろ!』
『捕まったら最後って分かってて誰が近付くかよ!投げんぞ!』
『投げてんだろ、もうすでに!!いてえんだよ!!』
『当たってんだから痛いに決まってんだろ!!』
地上から聞こえてきた声に一気に力が抜けるのが分かった。
なんだか、萎えた。
「ひとまず降りましょうか」
「……ああ、そうしよう」
「腕いってえ…」
「ありがとうございます、灰崎くん。
よく我慢しましたね」
「けっ」
☆☆☆
「チョロチョロチョロチョロ、うっぜえんだよ、青峰ぇ!!」
「かっは!強化されたのは筋肉だけかよ、知能はどうした」
「アア!?てめえ、攻撃できねえくせに調子こいてんじゃねえぞ!」
「攻撃も当てられねえくせに偉そうにほざいてんじゃねえよ」
「青峰ぇ!!」
青峰の挑発で根武谷の攻撃はどんどん直線的で単純化していく。
動体視力がいい青峰は、このパターン化された攻撃を苦も無く避ける。
もともとは自分が過去に黒子にやられた『お仕置き』なので。
どれだけ体力を持っていかれて、どれだけフラストレーションが溜まるか知っている分。
青峰は冷静に見極めていた。
「そろそろか」
ぼそりと呟いて、体勢を一気に低くする。
ターゲットを一瞬見失った根武谷の姿勢は崩れ、拳は空振り。
長いこと追い掛け回していた足元はその乱れに耐えられず、もつれさせ。
そこに追い打ちをかけるように青峰が足払いをお見舞いしたものだから。
根武谷は見事に尻もちをつき、ショックのあまり言葉も出ない。
「おーわりっ、と」
「てめえ…」
「そんな格好で言われてもなあ、怖くもなんともねえわ」
「さっきから、無視すんじゃないわよ!!」
「おー、お前もいたなあ。
どうした、バーサーカーに構ってもらえなくなったか?」
「うっさいわよ!」
「つーことは、あんたもいけんな?」
正面からの蹴り。
実渕のプライドはここでも攻撃される。
自分は狼男だ、畏怖され、絶対優位の種族だ。
なのに、なんの小細工もしない蹴り?
それで十分だとでも言いたげなその態度!
「どいつもこいつも、狼男をなめんじゃないわよ!」
蹴りを受け止めて、足を押し返し体勢を崩させてからの反撃。
そのつもりだった。
だが、がくんと膝が落ち、体勢が崩れたのは実渕の方だった。
想定よりも高い位置で青峰の蹴りを受けることになり、反動を受け止めきれず。
彼もまた尻もちをついてしまう。
状況を理解できずにいると、にやりと青峰が笑う。
「吸血鬼が吸うのが『血』だけって思ってたか?
そりゃあな、メインはそれだけどよ、それだけじゃあねえんだ」
「?」
「『生気』だよ、バーサーカーはそっちをメインで吸い上げる。
あんた、あいつにどんだけ触ってた?」
「な!?」
「バーサーカーが離れた時点で、あんたの生気はすっからかん。
満月効果がなかったら立ててねえよ」
そんぐらいアイツは容赦ねえから、と青峰は悪い顔。
根武谷は倒され、実渕も立てず、火神はバーサーカーと格闘したあとに動き回っている。
生気が枯渇するのも時間の問題だ。
「絶対優位をひっくり返す、たまんねえなあ、おい」
☆☆☆
「なぜ、我らが押されている…!なぜだ!!」
「知らんがな。何でも教えてもらえると思ったら大間違いや」
胡坐をかいて今吉は焦った様子も憔悴した様子もない。
諏佐も同様でむしろほっとしている。
ギルガメッシュは問いただす。
「術が破られたにしては、随分、余裕だな」
「まぁなぁ、身体ダメージは食らってないしなあ」
「貴様らの狙いは何だ」
「あんなあ、捕虜になったわけやないで?
もし、捕虜だったとして誰が素直に吐くと思う?」
少なくとも俺は吐かん、とけろりだ。
今吉の余裕、狼男の劣勢。
ギルガメッシュは、ようやく事態を重く受け止める。
満月の効果で、神父たちが引いた対・狼男の結界は打ち消し。
それをトリガーにした吸血鬼に力を転換する結界もまた打ち破った。
つまり、満月効果が優勢のはずなのだ。
だが、実際はその逆。
押されているのは狼男の方で、まるで吸血鬼に力がいっているような。
『おかげで準備が間に合ってへん』
『せっかちさんは嫌われるで?』
「……術者がもう一人いるのか!」
ギルガメッシュの焦った表情に、にんまりと今吉が笑う。
諏佐がほっとしていたのは、その第二術者までの繋ぎが完遂できたことによる。
まさに『安堵』だったのだ。
「言うたやろ、せっかちさんは嫌われるて」
☆☆☆
街の中心に教会はあった。
表側の理由は『シンボルだから』『平等に通いやすいように』とされているが。
裏を返すと『教会を中心に街を防衛するため』となんとも物騒な理由が隠れている。
教会は祈りの場であり、防衛拠点でもあるのだ。
守護するのは結界のスペシャリスト:木吉神父。
退魔任務には参加していないが、実力は大坪神父と同等とされる。
彼が対:狼男の結界を張り終える頃、雨生神父が現れた。
おお、珍しいなと声をかけると。
うん、ちょっとね、とだけ返す。
「……待ち合わせか?」
「うん、そんなとこ」
雨生はぼんやりと立っている。
木吉が怪訝に思ってさらに声をかける。
「雨生?」
「大丈夫」
約束は守る方だから、俺。
*************************
まだ当事者たちが出てこない。
次こそ出てくる!!
青峰から、神父から猛スピードで逃げた黄瀬。
裏路地に入って、しばらく走ったところ。
息を整えつつ、ふと思い出す。
ランサーはどうしたろうか。
青峰はどこに走って行った?
ぐるぐる考えて視線を下に向けると、自分の足元に影が出来ていた。
今夜は新月だったはずだ。
こんなに濃い影が出来るはずがない。
空を反射的に見上げる。
月だ、しかも満月だ。
「な、なにが起きてるッスか…」
眩暈がする。
一瞬押さえつけられて、すぐに力を解放された感じがした。
ざわざわと自分の本能が騒ぐ。
何かがこの一瞬のうちに起きたのだ。
カツン…と響く靴音がしたのは、そんな時。
視線を音の方向に向ける。
「あんた…」
Ace of Vampire
「おかしいですね、満月が出ています」
「旦那、嬉しくないの?」
「私のペースというものがありますので。
こんなことが出来るのは金の王だけでしょうね」
活動の拠点にしている屋敷の窓から空を見上げる。
今日は新月だったはずで、何も事を起こさない日だったのだが。
まん丸の月が顔を覗かせ、その存在を誇示しており。
条件反射で身体は反応していたが、心は全くついていっていなかった。
「へえ、そいつ、すごいね」
「すごいですよ、伊達に狼男の始祖と呼ばれてません」
「始祖?どんくらい生きてるの?」
「少なくとも私より年上ですよ」
月を睨みつけながらも『旦那』は冷静だった。
常日頃一匹狼として行動しているので直感が全て。
そして、その直感は今は出ていく時ではないと言っている。
「雨生、あなたはどうしますか?」
「教会近くでどんぱちやってるっぽいんだよなあ。
う~ん、行かなきゃまずいか」
「珍しいですね?」
「うん、まあねー」
首を鳴らしながら、神父服を羽織る。
面倒だけど、約束したしね。
☆☆☆
「驚いたか、神父?」
ギルガメッシュは余裕の表情を浮かべ。
背に負った満月が爛々と輝く。
枷が外れた根武谷とタイガが息を吹き返し。
文字通り飛び起きて、自身の両拳同士を打ち付ける。
よくもやってくれたなあ?と全身から怒りが吹き出して。
やったのは今吉だが、怒りは前方の青峰に向けられていた。
「そうかあ、そうきたか」
今吉が頭を掻くと、ギルガメッシュはさらに笑みを深くする。
はあ、とため息をつく今吉。
「諏佐、反転させ」
「おう」
諏佐がもう一つ術式を発動させた。
狼男を抑え込む結界を吸血鬼の強化作用するものに切り替えたのだ。
「いい仕事するじゃねえか、今吉サン」
青峰の第一歩。
踏み出した瞬間にトップスピードに乗り。
根武谷の顔面に膝がヒットする。
続けざま、火神に向かって回し蹴りを仕掛けると。
火神は反射的に避けたが、そこに待っていたのはバーサーカー。
両拳を組んで振り下ろし、それが脳天を捉える。
実渕があ!と声を上げる。
バーサーカーの腕から抜けられたと思えば。
ターゲットが移っただけだったのだ。
『高等種族』を自負する彼のプライドはズタズタだ。
「ぐぉ!」
「やってくれたわね!?」
「やってくれたな、神父」
「いやあ、すまんのう。
お前ら狼男に天下譲るくらいなら吸血鬼でも使うわ」
にんまり笑ったのは今吉だ。
狼男が一筋縄でいかないのは分かっていたし。
金狼が駐在している時点で不利なことは分かっていた。
何も手を講じずにこの場に参戦するわけがない。
想定外だったのは、金狼が参入してくるタイミングだ。
もっと後半になってからだろうと思っていたのだが。
だいぶ、早い段階で臨場してしまったのだ。
「おかげで準備が間に合ってへん。
せっかちさんは嫌われるで?」
「我は王だ、唯一たる絶対の王だ!
調子に乗るなよ、神父っ!!!」
咆哮。
びりびりと辺り一帯が震えだす。
諏佐に汗が浮かぶ。
ギルガメッシュの圧と結界の範囲がぶつかり。
効力が拮抗しているのだ。
今吉の顔から笑みが消えて、二人がかりでぶつかる形になった。
「はっはぁ、こらアカンわ」
「ああ…、弱っ…たっ…!」
「屈せよ、人間風情が!!」
結界が破られる。
再び満月の効力が最大化し、狼男たちのパフォーマンスが最大値に。
忙しいフィールド効果の切り替え。
これに真っ先にキレたのは。
「さっきからなんだ!落ち着かないな!!」
「同感です、僕も体が疲れました」
「おいぃぃ、黒子ぉぉ、力入れろ、ちから!!」
「灰崎くん、僕がヘルプに入ったところでたかが知れてますよ?」
ミシミシと音を立てて、タツヤの拳を捕まえている灰崎。
額にびっしりと汗を浮かべて、歯を食いしばり、両足でひとり踏ん張っている。
黒子は、と言えば何をするでもなくただ立っているように『見えた』
その実、タツヤが足を出そうとするのを牽制しているのだが。
あまりにも静かに事を運ぶので、灰崎には察することが出来なかったのだ。
思うような攻撃が出来ず、補助効果も不安定、そして何よりタイガの姿が確認できない。
タツヤのストレスは頂点に達しようとしていた。
『あああ!てめえ、いい加減にしろ!』
『捕まったら最後って分かってて誰が近付くかよ!投げんぞ!』
『投げてんだろ、もうすでに!!いてえんだよ!!』
『当たってんだから痛いに決まってんだろ!!』
地上から聞こえてきた声に一気に力が抜けるのが分かった。
なんだか、萎えた。
「ひとまず降りましょうか」
「……ああ、そうしよう」
「腕いってえ…」
「ありがとうございます、灰崎くん。
よく我慢しましたね」
「けっ」
☆☆☆
「チョロチョロチョロチョロ、うっぜえんだよ、青峰ぇ!!」
「かっは!強化されたのは筋肉だけかよ、知能はどうした」
「アア!?てめえ、攻撃できねえくせに調子こいてんじゃねえぞ!」
「攻撃も当てられねえくせに偉そうにほざいてんじゃねえよ」
「青峰ぇ!!」
青峰の挑発で根武谷の攻撃はどんどん直線的で単純化していく。
動体視力がいい青峰は、このパターン化された攻撃を苦も無く避ける。
もともとは自分が過去に黒子にやられた『お仕置き』なので。
どれだけ体力を持っていかれて、どれだけフラストレーションが溜まるか知っている分。
青峰は冷静に見極めていた。
「そろそろか」
ぼそりと呟いて、体勢を一気に低くする。
ターゲットを一瞬見失った根武谷の姿勢は崩れ、拳は空振り。
長いこと追い掛け回していた足元はその乱れに耐えられず、もつれさせ。
そこに追い打ちをかけるように青峰が足払いをお見舞いしたものだから。
根武谷は見事に尻もちをつき、ショックのあまり言葉も出ない。
「おーわりっ、と」
「てめえ…」
「そんな格好で言われてもなあ、怖くもなんともねえわ」
「さっきから、無視すんじゃないわよ!!」
「おー、お前もいたなあ。
どうした、バーサーカーに構ってもらえなくなったか?」
「うっさいわよ!」
「つーことは、あんたもいけんな?」
正面からの蹴り。
実渕のプライドはここでも攻撃される。
自分は狼男だ、畏怖され、絶対優位の種族だ。
なのに、なんの小細工もしない蹴り?
それで十分だとでも言いたげなその態度!
「どいつもこいつも、狼男をなめんじゃないわよ!」
蹴りを受け止めて、足を押し返し体勢を崩させてからの反撃。
そのつもりだった。
だが、がくんと膝が落ち、体勢が崩れたのは実渕の方だった。
想定よりも高い位置で青峰の蹴りを受けることになり、反動を受け止めきれず。
彼もまた尻もちをついてしまう。
状況を理解できずにいると、にやりと青峰が笑う。
「吸血鬼が吸うのが『血』だけって思ってたか?
そりゃあな、メインはそれだけどよ、それだけじゃあねえんだ」
「?」
「『生気』だよ、バーサーカーはそっちをメインで吸い上げる。
あんた、あいつにどんだけ触ってた?」
「な!?」
「バーサーカーが離れた時点で、あんたの生気はすっからかん。
満月効果がなかったら立ててねえよ」
そんぐらいアイツは容赦ねえから、と青峰は悪い顔。
根武谷は倒され、実渕も立てず、火神はバーサーカーと格闘したあとに動き回っている。
生気が枯渇するのも時間の問題だ。
「絶対優位をひっくり返す、たまんねえなあ、おい」
☆☆☆
「なぜ、我らが押されている…!なぜだ!!」
「知らんがな。何でも教えてもらえると思ったら大間違いや」
胡坐をかいて今吉は焦った様子も憔悴した様子もない。
諏佐も同様でむしろほっとしている。
ギルガメッシュは問いただす。
「術が破られたにしては、随分、余裕だな」
「まぁなぁ、身体ダメージは食らってないしなあ」
「貴様らの狙いは何だ」
「あんなあ、捕虜になったわけやないで?
もし、捕虜だったとして誰が素直に吐くと思う?」
少なくとも俺は吐かん、とけろりだ。
今吉の余裕、狼男の劣勢。
ギルガメッシュは、ようやく事態を重く受け止める。
満月の効果で、神父たちが引いた対・狼男の結界は打ち消し。
それをトリガーにした吸血鬼に力を転換する結界もまた打ち破った。
つまり、満月効果が優勢のはずなのだ。
だが、実際はその逆。
押されているのは狼男の方で、まるで吸血鬼に力がいっているような。
『おかげで準備が間に合ってへん』
『せっかちさんは嫌われるで?』
「……術者がもう一人いるのか!」
ギルガメッシュの焦った表情に、にんまりと今吉が笑う。
諏佐がほっとしていたのは、その第二術者までの繋ぎが完遂できたことによる。
まさに『安堵』だったのだ。
「言うたやろ、せっかちさんは嫌われるて」
☆☆☆
街の中心に教会はあった。
表側の理由は『シンボルだから』『平等に通いやすいように』とされているが。
裏を返すと『教会を中心に街を防衛するため』となんとも物騒な理由が隠れている。
教会は祈りの場であり、防衛拠点でもあるのだ。
守護するのは結界のスペシャリスト:木吉神父。
退魔任務には参加していないが、実力は大坪神父と同等とされる。
彼が対:狼男の結界を張り終える頃、雨生神父が現れた。
おお、珍しいなと声をかけると。
うん、ちょっとね、とだけ返す。
「……待ち合わせか?」
「うん、そんなとこ」
雨生はぼんやりと立っている。
木吉が怪訝に思ってさらに声をかける。
「雨生?」
「大丈夫」
約束は守る方だから、俺。
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