端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

TACITURN HUNTERS

2012-07-22 00:00:00 | テキスト(よろず)
生きるために。
慎重に。
気配を絶ち。
前を見据え。
タイミングを見計らい。
速やかに。
引き金をひ―――。

パキッ。

「………あ」

TACITURN HUNTERS

最後に狩猟に成功したのはいつだったか。
獲物を追いかけているうちに。
グラスランドの広大な大地に迷い込んでしまった。
見渡す限りの草原。
時々、アヒルが通るけど武器持っているから食べられないんだろう。
……頑張れば食べられるのかもしれないけど。
でかいイノシシを食べたのが最後だった…気がする。
で、いつ食べたんだっけ。

「………次」

いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない。
幸いなことに空気は騒がしくない。
「まだ」争いや、人の行進が始まっていない証拠。

「………狩りに紋章なんて使いたくないんだけど」

自身の右手に宿した固有紋章「大鷹の紋章」を見る。
数撃ちゃ当たる、ってタイプの紋章だからあまり使いたくない。
狙いをある程度定めればいいから、楽は楽だけど。
なんか、美学がないんだ。
一発で仕留められる保証もないし……。
ぐう、と腹が鳴る。
プライドで腹は膨れない。

「………なりふり構ってられないか」

溜め息ひとつ、吐き出して。
右手に神経を集中させる。
獲物は大きくなくてもいい。
小さなウサギだってかまわない。
そう思っていたのだが。

「?」

にわかに辺りが騒がしい。
周りの獲物は皆逃げてしまった。
今日は上手くいかない日らしい。
また溜め息を吐き出すと、気配のする方へ視線を向ける。



その男は、黒髪に黒い服、茶色の革手袋を着けていた。
この辺に住む人達とは明らかに異なる格好。
旅人、と言うにはあまりにも戦い慣れており。
抜き払った剣は迷うことなく振るわれ、相手を攻撃していた。
だが―――。

迂闊だった。
生き物の気配がしないからと、安易に単独行動をしてしまったことを後悔した。
いつもならこんなことはしなかったのだが。
やはりあの情報がガセだった、というのが効いたのだろうか。
目の前にいるトカゲは空を飛び、火を頭上から降り注いでいく。
攻撃を避けながらでは、決定的な一撃が与えられない。
一瞬でいい。
奴の動きが止まれば勝てる。

「ちぃっ!!」

思うように攻撃が当たらず、カウンターを喰らいそうになる。
このまま長引けば体力負けで、こっちが捕まる。
「右手」が自分を使えと、ざわついている。
冗談じゃない、「貴様」なぞこんなところで使ってたまるか。
だが日没が近い。
辺りが暗くなってしまえば視界が悪くなり、隻眼である自分はますます不利になる。
夕暮れまでには決着を付けねば。
気が焦る。

我ヲ 使エ……。
黙れ!!!

長い付き合いになってきた『こいつ』
強大な力を誇り、時折悪夢を見せ、不老不死の呪いをかける。
確かに『こいつ』を使えば決着は早いだろう。
それこそ一瞬だ。
だが『こいつ』に頼ることなど出来ない。
『人間』が意思で負けるわけにはいかないのだ。
大いなる力は破滅をもたらす。

「……うおっ」

足元が草で滑った。
体勢が崩れ、隙が出来た。
空飛ぶトカゲがチャンスとばかりに襲ってきた。
その時。
一本の矢が放たれた。
目標を正確に捉え、まっすぐ飛んでいく。

ギャアーーーー!!!

矢は見事にトカゲの右眼に命中し、動きが止まる。

「今だ!!」
「…っ!!」

弾かれたように、剣を振り下ろす。
トカゲの絶叫が辺りに響く。
ズーンっと音を立てて落ちるトカゲを確認し、矢が飛んできた方向に視線を移す。
身体に合わない巨大なボーガンを手にした青年。
全体的に頼りない印象を受ける。
この青年が矢を――…?

「…っ!? 危ない!!」

青年がまたボーガンを構える。
瞬間、放たれる矢。
トカゲの悲鳴。

「何……っ!?」

トドメを刺しきれてなかった…?
そんなことが…。
動揺を隠しきれずにいると、青年が言った。

「……アンタ、疲れてるから。
 ……攻撃力が落ちてる」
「……そうだったな」
「……そんなに疲れてるのは計算外だった」
「……?」
「……アンタの戦い方を見て、それでも倒せると思った」

一撃で。

この青年。
自分と同じ戦略を思い描いていたのか。
まさか、自分の思考が読めたとは思えないが。
全くの素人というわけではないらしい。
感心していると、青年がじぃーとトカゲを見ていた。
疑問に思い、訊いてみる。

「……何だ?」
「……それ もらえるか?」
「……フライリザードなんかどうするんだ?」
「……夕飯に……しようかと」

そう言った彼は、ひどく幼く見えた。
さっきまでの目の鋭さはどこへ行ったのか。
何だかこちらの調子が狂わされる。
そう言えば、エースの奴が人手を欲しがっていたな。
この戦力……、ただ別れるには実に惜しい。

「……仲間になるならくれてやってもいい」
「……仲間?」
「俺はハルモニア神聖国 南部辺境警備隊のゲドという者だ。
 お前の狙撃力をぜひ我が第十二小隊で活かしてもらいたい」

一息にそう言うと。
青年の眼の色が変わった。

「……アンタ、喋れたんだな」

脱力しつつ、トカゲをキャンプに運ぶことにした。



「……これからお前は“ジャック”と名乗れ」
「………」
「俺達はお互いの素性は知らないし、探らない主義だ」
「………そっか」

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7年前に書いたゲド隊です。
某友人に捧げたものですが、掲載許可を取り付けてまいりました。
貧乏性なもので。

「入隊前のジャックが読みたい!」の一言で作成されたのだそうです。
自分メモって残しておくもんですね。
原作自体が10周年とか。
うわー、長い付き合いになったものだ。

結局、ジャックって何者だったのでしょうか。
探偵に頼んでも過去のことは何も分からなかったんですよね。
序盤の「…夕飯に…うさぎを…」のインパクトが強すぎる。
某友人とラストパーティが全く同じ且つ同じ配列だったのには吹いた。
ですよねー!

本編について。
「…」が異様に多いです。
無口キャラだけしかいないのはダメだと魂に刻まれました。
フライリザードで何回全滅しかかったことか。
ゲドだけしょっちゅう死んでました。
隊長ぉおおおお!!攻撃の肝がああああ!!
仕方なしにエース&ジョーカーの「傭兵A攻撃」です。
ジャックとアイラはひたすらボーガン。
クイーンはひたすらおくすり。
よく二人で倒せたなーと思います(待て

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