端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
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こんな日常 ~陽虎学園~

2011-09-15 00:30:00 | 三國無双
陽虎学園に入学して、早くも夏を迎えようとしている。
最初こそ戸惑いはあったが、もはやそれもなく。
スポーツ推進校として名高いことを忌々しく思うのも。
血縁者が多く在籍しているのに萎縮することも。
どうしようもないこととしてやめることにした。

こんな日常 ~陽虎学園~  呉キャラ設定

授業も全て終わり放課後。
鞄の中に教科書類を突っ込んで立ち上がると。
視線を一人のクラスメイトに向ける。

「尚香、顔出しに来ますか?」
「策兄様の試合が近いから、当然行くわ」

赤の制服にリボンを着用した彼女は「妹」である。
妹と言っても血は繋がっていない。
両親が亡くなり、行く宛のなかった自分を引き取ってくれたのが孫家であり。
今、その一族が創設した学校に通っている。
「何してんの!」と急かされて、教室を出る。
今日は日直だったので、学級日誌を提出しに教員室に行かねばならない。
よって、無言で教員室に向かって歩く。
尚香もそれに従ってくる。

「呂蒙先生、来ましたよ」
「……お前の担任じゃないんだが」

自席で文庫本を読んでいた呂蒙先生は顔をしかめた。
ブラウンのスーツの上着は椅子の背もたれにかけている。
寛ぎモードに入っていることを確認して。
担任の席に適当に日誌を放る。

「今日は『ダイスケ』の気持ちについてお聞きしたくて」
「あのな、『ダイスケ』的には全部いいって言ってるんだ。
 それで済ませてやればいいじゃないか」
「先生~、何の本読んでたの?」
「あー、いいから部活行け、部活。確か伯符の試合が近いんだろ?」
「そう、そうなの!」

なら、行った行ったと体よく追い出されてしまった。
まぁ日誌は提出したから問題はないが。
もっと話したかったなぁと言う尚香に。
「兄さんと先生、どっちが好きなんです?」と聞いたら。
「別次元だからどっちも好き!」と返された。
そういうもんなのか。

「おお!お嬢!甘寧見なかったか!?」

廊下を進んでいるとピンクの割烹着が現れた。
江東給食センターから派遣されたパワフル系コック長である。
こめかみに青筋を浮かべて相当怒っている。

「見てないけど…。何、甘寧来てるの?」
「あんのガキ、この間空いた壁の穴から入って、食い散らかしていきやがった…!」
「なんで分かったんです?」
「鈴の音がしたのよ、そんなの、奴しかいねぇだろ」

甘寧は不登校状態で、喧嘩三昧だと聞いていたが。
給食は盗み食いをしに来ているようだ。
自由なことだ。

「黄蓋殿、直しておいた」
「おお、丁奉殿、かたじけない。手間をかけたな」
「いえ、堅実に直すのが某の役目ですので」
「あ…」

尚香が顔色を変える。
その声で丁奉先生がちらりと視線をよこす。
むっつりとただ一言。

「課題の絵は提出してくださいよ」
「はーい…」

こういう時は実に女子っぽい。
挨拶もそこそこに部室棟に向かって校庭に出る。
さすがスポーツ推進校。
運動系特有のかけ声が響き渡り、活気に溢れている。
しかし数多い生徒の中から「ちぃ姉」を見つけるのは造作もない。
小柄な体をめいっぱい使って走っていたら彼女だ。
今日は向こうがこちらを見つけて駆け寄ってきた。

「今から行くの!?」
「うん、小喬は短距離?」
「そっ、競技会が近いんだよ~」

ちぃ姉はスポーツ特待生なので、記録は死活問題だ。
計り知れない苦労もあるだろう。
だが、勉学が壊滅的でも問題ないメリットがある。
「学生」である以上、これはかなり魅力的だ。

「痛ぇよ、周瑜!はなせっつの!」
「ああ、向こうで話してやろう」
「そっちのはなすじゃねぇよ!フリー!オーケー!?」
「フリートークか、なるほど、了解した」

遠くの方から聞こえてきた声に振り向く。
シルバージャケットを着て、腰に鈴。
先程黄蓋が探していたお尋ね者に間違いない。
ぎゃいぎゃい言う甘寧を引っ張っているのは生徒会長の周瑜である。
彼はしれっと腕を掴んで離さない。

「周瑜様!そいつどうしたの?」
「周泰に校門前で絡んでいたんで捕まえたんだ」

不登校児が何故校門にいたのか甚だ疑問だが。
案外、寂しいのかもしれない。

「で、絡まれていた周泰は?」
「権のところに行ったようだ」

番長として有名な周泰は「ちぃ兄」の幼なじみである。
なんでも幼い頃は一緒にやんちゃしていたとか。
人は見かけによらないものだ。

「陸遜たちは孫策のところに行くんだろう?」
「はい、そのつもりです」
「兄貴のとこに行くのか!それを早く言えって!」

途端に甘寧が抵抗をやめる。
「行こうぜ!」と言ってきびきびと歩き出した。
肩をすくめて、周瑜たちと顔を見合わせる。
ちぃ姉の「またねー!」の声を背に受けて部室棟へ。

「あ!甘寧!!」
「げ、凌統!!」
「てめぇ、また、盗み食いしたろう!?
 お前が捕まらないと、俺にとばっちりがくんだよ!」
「それはご愁傷様」
「他人事じゃねぇんだよ、お前のせいだ!!」

凌統もスポーツ特待生で、水泳を専門にしている。
この間の記録会で入賞をしたはずだ。
そんな彼と甘寧の関係は、ご近所の幼なじみだと聞いている。
ああ、くそっ!と言って凌統は口論を切り上げた。
最後に甘寧の方を振り返って告げる。

「あんたの尻拭いはもうたくさんだ」
「……悪かったよ」

けっ、と言ったきり凌統は振り返らない。
甘寧も謝るのか、と驚いたのは自分だけでないらしく。
尚香も「気持ち悪っ」とごちていた。
ようやく着いた部室棟。
扉を開けて、まずは挨拶、それから一礼。
ここはボクシング部。
リングの上で既に孫策がスパーリングを行っていた。

「お、やってるやってる」
「さすが兄貴だぜ、今日もキレてんなぁ!」
「静かにしないか」

興奮気味の尚香と甘寧を周瑜が宥める。
その間に荷物を置いて練習着に着替える。
一応、ボクシング部に所属しているのでモップ掛けを始める。
開始してまもなく乱入者がやってきた。

「孫策!!勝負しろぉ!!」
「ん、おぉ?太史慈か。
 すまねぇな、試合が近いからまた今度にしてくれ」
「試合が近いならなおさら…」

言い募ろうとする太史慈の前にぬうっと壁。
下から睨み殺さんばかりの形相の甘寧である。

「兄貴が今度っつってんだろうがよ、アァ?」
「貴様、孫策の何だ!偉そうに!!」
「俺は兄貴の舎弟の甘寧様よ、覚えとけや」
「初耳だわ」

舎弟ってこんなに偉そうに使う身分だったろうか。
そもそもテコンドー部の太史慈が何故、ボクシング部に絡んでくるのか…。
気になることが多すぎる。

「周瑜!あいつらを外に放り出してくれ」
「よし、君の言う通りにしよう」

事態を静観していた周瑜がその言葉に素早く反応する。
むんずと太史慈と甘寧を猫のように掴みあげると。
部室の外にぽいっと放り捨てた。
ついでのように、がちゃりと鍵までかける。

「あ、大喬も見に来るって。今、メール着た」
「モテるな、孫策」
「いいから鍵開けとけ、陸遜、手が止まってるぞ」
「あ、すみません!!」

こんな状態で掃除なんて出来るわけがなかったが。
気を取り直して床を磨く。
孫策もスパーリングを再開し、部室には叩く音しかしない。
どれくらい経ったろうか、部室の窓がからりと開いた。

「孫策様はいらっしゃいますか」
「おお、大喬!待ってたぜ」

白を基調にしたユニフォームを着ていた。
彼女は鼓笛隊に所属していたから、その練習を抜けてきたのだろう。
そんなにいられないと残念そうに言う。

「応援してますからね、勝ってくださいね!」
「もちろんだ、大喬に応援されたらもう負けねぇぜ!」

力こぶを作るように持ち上げた手を、ふふふっと彼女が触る。
ああ、やっぱり恋人なんだなぁと思う。
だがあまりにも性格が正反対なので、ほとんどの生徒が信じていないのが現状である。

「じゃあ、そろそろ権兄様のところに行くね」
「そうか。権も練習試合だったか?」
「そ、今まさに、だったかな」

兄弟で随分扱いに差のあることだ。
掃除もひと段落していたが、さてどうしようか。

「陸遜、俺の名代で権のとこに行ってくれ」
「え、みょうだい? 私が?」
「孫家の男は応援にも来ないと言われたら嫌だろう?」

何より孫策が笑われるようで嫌だ。
モップを片付けてサッカーグラウンドへ移動。
試合は既に後半ロスタイム。
接戦のようで、足を削りあうプレイが目立っている。
背番号1番を背負った「ちぃ兄」はゴール前で声を張り上げる。
ピィー!と笛が鳴り、イエローカードが出た。
途端に怒鳴り込んでいく相手選手。
まさに一触即発。
危ないと思うが早いか、飛び込んでいく赤い人影。
その人物にぎょっとしたのは、ちぃ兄以外の全員。

「周泰かまうな!俺は平気だから!」
「…しかし、こいつは今、孫権が指示を出したと」
「ああ、濡れ衣には違いないが暴力はいかん」

この場で収まればよかったのだが。
相手は相手で意図があるらしく、抗議をやめない。
モチベーションを下げさせる作戦なのかもしれないが。
諸刃の刃ってやつで、自チームも下がる。
引き分けに持ち込むつもりか?
膠着状態が続き、どちらも引く気配がない。
審判が強制退場を告げる間際に。
「また」飛び込んできた人影。
今度は黒を基調にした赤ストライプのスーツ。
ああ、出てきてしまったか。

「喧嘩か?元気で何よりだが、あまり感心せんな」
「父上っ!?」
「喧嘩両成敗、私が相手をしてやろう」

試合はここで中断されてノーゲーム。
あとには、傷だらけの選手たちが残された。
言わずもがな、理事長直々に大暴れしたからである。

「この怪我、本当に試合だけ?」
「はぁ、試合中は何が起きるか分かりませんね」
「……無理は禁物ですよ」
「練師先生に会えるなら無理もしますよ」
「私の治療なんて一時しのぎ。怪我しないにこしたことはないわ」
「……先生」

保健室に入るのはこれが初めてではないが。
それにしても居心地が悪い。
ちぃ兄を運び込んだはいいが、タイミングを逃してしまった。
やっぱり、血縁者が多い学園生活は肩身が狭い。

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身 内 が 多 す ぎ る だ ろ う 。
誰を主人公にするか散々迷った結果、陸遜にしたはいいけど。
彼は「孫策の娘婿」なので。
「身内」として絡ませられないと執筆を開始してから気付く。(ぇ
で、養子縁組で「兄弟枠」に突っ込んだら。

今度は「兄」「兄」「兄嫁」「親友嫁」「妹」の壁。

そして、甘寧の文字ばかり打ってた気がする。
なぜだ…。

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