端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

自分でいられる場所

2009-06-28 21:01:59 | BASARA
上杉謙信が二人いる。

そんな話が囁かれ。
上杉陣営には、もういろんな意味で激震が走った。

犠牲だなんて思わない

「謙信様が二人いる?」
「そうとしか説明できませぬ」

かすがの元に届けられた噂。
ある忍が上杉謙信を見かけた地点をAとしたとき。
別の忍が、別地点Bで見かけたというのである。
AとBはどう見積もっても半刻で行けるような距離ではなく。
また、2名の忍はうそ偽りを発言することはない、というのが前提の話である。

「戯け者ぉぉおおおお!!!!!!」
「ひっ、ひぃいい…!!」

かっと目を見開き、かすが激昂。
叫ばれた忍は腰を抜かしてしまう。
ゆらりと、黒いオーラを纏ったかすがが口を開いた。

「あの見目麗しく可憐で誇り高く、鋭い瞳は冷たくもそれでいて慈悲深い色を…」

捲くし立てる褒め言葉は、止まらない。
手元の腹時計で、30分は経っている。

「聞いているのか!?」
「は、はぃ!!」
「とにかく、この世に完全なる美を持つ謙信様は二人もいない。
 いると言い続けるならば、ここへ連れてこい!!」
「ははっ」

早くこの場を離れたかった忍は、適当な返事を返した。
かすがはこのことに全く気付かなかった。
気付けるはずもない。

(はあああああ、あのお美しい謙信様が二人…。
 このかすがを囲んで微笑みかけてくださって。
 そして、お二人に…。
 きゃあああああああああああ)

頭は天国。
勝手にやってろ。

一方、その様子を見る影が二つ。
一人は渦中の人物、上杉謙信。
もう一人は、上杉忍軍の総大将。
総大将は、木に逆さづりにぶら下がっていた。

「みられていたようですね」
「ふむ、ぬかりました。
 ご迷惑をおかけしましたな」
「わたくしがすこし、こえをかければすむこと。
 もんだいはありません」
「そうですか」

すとっ、と総大将は地に降り立った。
目元まで隠していた布を取り払い、顔全体を開放する。
ふぅ、と汗ばんだ顔は。

「本当に『性別』が違うだけで、同じ顔だな『謙信』」
「ふたご、ですから」

「…俺を恨んでいるか?」
「なぜ?」
「お前の真の名を奪い、自由を奪い、『女』を奪った。
 もし、俺が同じ立場ならば恨むぞ、間違いなくな」
「しっていますから」
「何を?」

「あなたがわたくしをまもってくれたことをです」

上杉家に二人の赤子が生まれた。
ひとりは男児、もうひとりは女児。
生まれながらにして、絶対的な立場の差が出来た。
跡取りとして育てられた男児と、道具として扱われる女児。
元服を前に、男児は決意したのである。

『父上様、お願いしたいことがございます』

それは、正統後継者を決めるための決闘を行うというものであった。
同じ年齢、同じ家に生まれたのだから。
「性別」などという枠に囚われずに後継者を見極めるべきだ、と。
「性別」で決めることがどれだけ愚かで。
上杉家にとって損失を与えるかをとうとうと訴えたのである。
結果、その申し出は受け入れられ。
女児は「上杉家正統後継者」としての立場を得るに至った。

「そう言えば聞こえはいいな」
「わたくしが、うえすぎにいばしょができたのは、あなたのおかげ。
 うらんだのは・・・」
「恨んだのは?」
「『おんな』にうまれたことです」
「利口な奴だな」
「おそれいります」

静かに風が吹き抜けた。
『けんしん』は、同じ顔、同じ瞳で見つめあう。
ふっ、と先に目を伏せ笑ったのは忍のほう。

「上杉家、一人では重かろうがいつでも私がいることを忘れるなよ。
 我が上杉家の美しき剣よ」
「たよりにしています」
「おう、任せておけ」

にかっと笑うと、しゅっと姿が消えた。
ひとり残された謙信は、いまだ放心状態のかすがに視線を落とした。


みちにまよったとき。
わたくしは、かならずここへくる。
わたくしが「わたくし」になれるばしょ。

「あにさまには、ほんとうにせわになる」

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はい、ということで かすが はおまけ。
某兎さんの推奨する「男説」と公式の「女説」を一緒にしてみました。
妹を不憫に思った兄が、家督を譲ることで待遇改善を図った話。
そして、家督を譲った後は忍として生き、その全てを懸けることにした兄。
「うつくしきつるぎ」は兄の受け売り、もしくは口癖が移ったものだったらよい。

候補として。
「死んだ恋人の名前を名乗っている」とか。
「死んだ憧れていた人の名を名乗っている」とか。
「実は本物は男で、公式の謙信は影武者」だとか。
いろいろあったんだけど。
「双子の兄貴がいて、正真正銘の謙信」にしました。
でも。

男が「にかっ」と笑うタイプであることは共通。

す、好きなんだよ…。
悪いか!
こういうんでよかったでしょうかね。

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