端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

Guardian in a kitchen

2015-11-22 00:00:00 | テキスト(よろず)
『彼』がこの陣営に来たときには二人の先客がいた。
一人は赤毛で小柄な美少年。
一人は白毛で大柄な仮面の男。
どのような人物なのか、はっきりとは分からないが。
ただ、ひとつ、確かなことがあった。
彼ら三人は、この陣営の戦力。
聖杯を巡る世界の修正、そのために呼ばれた『英霊』である、ということ。

Guardian in a kitchen

「今日から世話になる。クラスはアーチャーだ」
「うん、僕はアレキサンダー。
 クラスはライダーで好きなものはたくさんあるよ」

赤毛の美少年はあっけらかんと自己紹介してみせた。
『英霊』は伝説上の人物であったり、偉人であったりするため。
自分の正体を告げるということは『弱点』をさらすようなものだ。
それにもかかわらず、この少年は隠すことなく、堂々と真正面から正体を告げた。
何を隠すことがある、とでも言いたげだ。

「アレ…キ、サンダー?」
「あ、アレクサンドロス3世のほうがいい?
 他の呼び方でもかまわないけど、この姿ならこちらかなって」
「いや、呼び方ではなくてな…」
「えーっと、こっちは、アステリオス。
 バーサーカーだから話すのが覚束ないんだ」
「そうではなくて…」
「彼もミノタウロスって名前の方が有名なのかな?
 君は?君の異名はなに?」
「……私の名は明かせない。これは形を変えた聖杯戦争だ。
 名を告げることは死を意味するに等しい。
 私はマスターに聖杯を捧げることが責務であると感じている。
 ゆえに…」
「長い」

ばっさりとアレキサンダーは話を切った。
つまらなそうな顔をして腰に手を当てている。
アステリオスは、といえば、仮面のせいでまったく表情が読み取れないが。
どうやら飽きているらしいことは、立っていたのが体育座りになっていたことで知れた。
その座ったアステリオスの頭がちょうどいい位置のようで。
ふう、とため息をつくとアレキサンダーはぽすっと自身のあごを乗せた。
完全にぬいぐるみを抱きしめる女子だ。

「君さー、能書きが長いよ。自信ないの?」
「英霊として呼び出された以上、勝たなければならないのだぞ!
 正体を知られるリスクを…」
「君、そんなに有名なの?『知られている』の?
 ちなみに僕は知らないけど」

ここにきて『アーチャー』が狼狽えた。
銀に近い頭髪が彼自身の汗で湿る。
確かに『アレキサンダー』『ミノタウロス』ほど有名ではない。
有名と言うのもおこがましい。
自分で分かっている。

「……ぇ」
「んー?なんだい?」
「エミヤ、と言う。出身は日本だ」
「へえ!日本!極東の国だよね!
 いいなあ、そっちは行ってないんだよなあ」
「うー?」

自分の頭の上でじたばたするアレキサンダーに反応して。
アステリオスが少し頭を動かした。
それに気付いて説明を加える。

「彼は僕の行ってみたかった国出身なんだよ。
 侵攻していたら見えたかもしれないけど、辿り着くだいぶ手前で死んじゃったからなあ」
「う、み?」
「そう、海!よく覚えていたね、アステリオス」

わしわしと大型犬の頭を撫で回すようにアステリオスの頭を撫でる。
嬉しそうにしている牛仮面。
なんとも珍妙な光景である。

「ひとつ、訊きたいことがあるんだけど」
「…なんだね?」
「君、料理は出来る?」
「料理?」
「アステリオスはバーサーカーだし、僕はこの身体だし。
 出来ることと言えば、カップラーメンを作ることくらい」
「待て、この世界にはカップラーメンが存在するのか!?」
「細かいことは気にしちゃダメだよ」
「いや、そこは気にすべきところだ!」
「君、理屈が好きなの?理屈武装?」
「うーあー、ごはん!」
「とにかく、僕らは腹ペコだ。
 僕たちは温かい食事を要求する!」
「よう、きゅう、するー!」

紅白コンビが腕を掲げて宣言する。
激しい脱力感。
エミヤが軽い眩暈を覚えているとぐう、と空腹を告げる音。
他でもない、自分の腹の音だ。

「……調理器具はあるのかね?」
「イメージするだけで出てくるらしいよ」
「らしいとは?」
「カップラーメンとやかんは出せたんだけどさ」
「分かった、訊いた私が悪かった」

俗世にすっかり染まったこの小さな征服王に何かを期待してはダメだ。
どこで覚えた、というか、誰が教えたのだ。
悶々としながらも、包丁とまな板を『創造』
食材も適当に用意していく。

「食材は何を入れてもかまわないのだろう?」
「ポトフでもごった煮でもなんでもいいよ。
 君が許すなら、ね」

エミヤを挑発するような発言は彼の琴線にいとも容易く触れたらしい。
纏っていた赤装束を脱ぎ捨て、召喚したエプロンに付け替える。
モードは一気に料理人モードに切り替わったらしく。
絶対うまいと言わせてやる。
そう、覚悟が感じ取れるほどである。

「楽しみだねー、アステリオス~」
「くっちまうぞ」
「うんうん、食事は大事だよねー」

いまいち噛みあっているんだか、噛みあっていないんだか。
二人の会話は終始ふわふわしている。

「味噌と醤油と塩。どれがいい!?」
「シェフのおすすめでいいよー」
「み、そ!」
「分かるの?」
「みぃそっ!」
「あ、音が好きなんだね」

エミヤはかまわず調理を進めることにする。
想像するだけで道具は出てくるのだから、この世界は便利だ。
レタスとニンジンを刻んで、鍋にお湯を沸かして麺を投入。
しばらくしてから切っておいた野菜を入れていく。
味噌は最後だ。

「いい匂いがする、おいしそう」
「おいしいんだ」
「へえ、すごい自信」
「座れ、こら、アステリオス行儀よく!」

名前を呼ばれたアステリオスはしゃんと座ると。
エミヤを見つめながら次の言葉を待っているようだ。
鍋敷きを置いて、調理していた鍋をその上に乗せる。
余熱で鍋はまだぐつぐつといっている。

「熱いからもう少し待て」
「少しってどれくらい?」
「私が席に着くまで。
 ……いいぞ、開けろ」
「うっは!ラーメンだ!」
「カップラーメンを知っていたから、ラーメンにしてみた」
「いいね、君、すごくいいよ」
「どうも」

戸惑うことなくラーメンを平らげてくアレキサンダーとは対照的に。
アステリオスの手はまったく動かない。
食べ方がわからないのかと思い、エミヤは助け舟を出す。

「フォークを用意しようか?」
「う…?」
「これを、こうして、巻くんだ。
 そう、そうやるんだ、分かったか?」

ずるっと一口食べると、アステリオスの目が輝く。
感激したようだ。
仮面を外して一気にかきこんでいく。

「熱いから火傷するぞ」
「あ、アステリオス食べ過ぎ!」
「スープは残しておけよ、米を入れて雑炊にする」
「ジャパニーズリゾット!」
「チーズは入れないぞ」

さすが征服王。
どんな食べ物の話にもついてくる。
こんなに若いのに、と思っているのが露骨だったのか。
先に回答を言われてしまう。

「今の僕は14,5歳ってとこかな。
 現界したのはこれが初めてじゃなくてね、前回は全盛期だったんだけど」
「あ、いや、侮ったわけではないのだが」
「うん、君はそんな愚かではないね」

ごちそうさま、と箸を置いて口元を拭う。
アステリオスも真似をしてごしごしと腕で口を拭った。
そして、アレキサンダーは告げる。

「今日からよろしく、エプロンくん」
「おい、征服王」

陣営に料理人が来ました。

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