「しーんちゃん」
朝、目当ての人物を見つけて声をかけた。
きょとんとしたような、さして驚いていないような。
口を薄く開けて、俺を見る目はいつも通りだ。
涼やかなグリーンアイズ。
闘志に燃えた目を向けられたことはないが。
今のように、警戒心のかけらもない目は向けてもらえる。
出会った当初こそ、彼の敵意を感じたくて。
いろいろやったものだが。
友情越えて愛情に近い感情を抱えてしまった今ではどうでもいい。
「聞こえている、騒ぐな」
「まだ呼んだだけじゃん」
「十分ウルサイ」
「なんだよなぁ、つれねぇの」
「今に始まったことではないだろう」
「まぁね」
彼、緑間真太郎がクールなのはいつものことだ。
自分が騒いで、彼は我関せずでいるのが通常運転。
むしろ、大声上げて笑ったりするほうが違和感がある。
それは秀徳高校バスケ部に属す『緑間真太郎』ではない。
両腕を後頭部に回して、俺はへらりと笑う。
緑間に会えたことが嬉しい。
言葉を返してくれるのが嬉しい。
ぶっきらぼうで、不器用な人付き合いしかできない彼が。
愛しくて甘やかしたくてしょうがない。
眼鏡のブリッジをくいっと上げると、で?と聞いてくる。
そうだ、そうだ、本題を忘れてはいけない。
わざわざ日曜日に呼び出したのだ。
時間を取ってもらったということを忘れてはいけない。
「渡したいものがあってさー」
「月曜ではダメだったのか?」
「今日じゃなきゃ意味がないんだよ」
そう、今日でないと意味がない。
下見に行ったり、口コミ情報を集めたり。
果ては隠れてバイトまでして用意した『ソレ』は。
いつ渡してもいいものではないのだ。
7月7日。
緑間真太郎の誕生日。
当の本人も『今日じゃなきゃ』って言葉に反応した。
気にしてない振りして、すごく気にしてる。
期待していないけど、もしかして?と思ってる。
偏屈というか、ツンデレというか。
分かりやすいほど素直じゃない。
バッグから包みを取り出して、一言。
「誕生日おめでと、真ちゃん」
これ以上の言葉はなしだ。
どう反応するのか気になるし。
思考を遮断して、へそを曲げられても困る。
俺の贈り物を『悪いもの』にしたくない。
目で開けていいか?と聞いてくるので。
手でどうぞと返す。
まぁ、包み紙に店の名前が入っているから。
さほど驚かないだろうけど。
「……眼鏡?」
「そっ、試合中もかけられるタイプの」
「あぁ、そういうことか」
点と点が結びついた表情をした。
そりゃ、ここ最近の俺の行動は不審極まりなかったろうしね。
目を悪くしたのか?と言われたときは焦った。
というか、眼鏡屋にいる頻度が高すぎる。
俺のことを尾けてるんじゃないかと思ったほどだ。
「フレームだけでごめんな。
レンズはさすがに本人じゃないと、と思ってさ」
「十分なのだよ」
フレームだけで結構な金額が飛んだ。
目ぇ悪くできないなと思うのに十分だった。
レンズはもっと高いと言うから、眼鏡人類は金持ちだ。
資金を貯めるのにはひと月かかった。
あの地獄のような部活を終えてからのバイト。
休日、適当に緑間と会いながら合間を見てバイト。
このまま定着しないかと声掛けがあるくらい。
必死になって働いたのだ。
だが、喫茶店の『高尾くん』は今日でおしまいである。
緑間が手にしたグリーンのスポーツ眼鏡。
それを渡すためだけに。
嗚呼、よく頑張ったな、俺。
「これからどこに行く?」
「レンズを入れに行くに決まっているのだよ」
「あー、そうなる?」
「すっかり顔馴染みだろう?」
「ええ、そりゃあもうね!」
買いもしないのに、質問責めにしたり。
金額の相談をしたり、足繋く通っていたりすれば。
店員だって嫌でも覚えるだろう。
そんなに好きなの?と聞かれたときは一瞬焦った。
お約束のように『眼鏡』と付け加えられたけれど。
俺の顔は真っ赤だったに違いない。
あのお姉さん、絶対、確信犯だ。
「ねぇ、眼鏡って『する』もの?」
「は?」
「眼鏡を『かける』とも言うじゃない?
眼鏡を外すって言うからやっぱ『する』かな」
「かける、が一般的なのだよ。
眼鏡をしているというのは、第三者が見たときに使う」
「へぇ、さっすが」
何がさすがなんだか。
自分で言ってておかしい。
眼鏡屋に向かいながら、何となく喋り続ける。
「かけるだとか、するだとか、なんかエロいよな」
「…っお前の思考回路がおかしいだけだ!!!」
あ、地雷踏んじゃったか?
まぁいいや、この際だから聞いてしまおう。
「服を贈ると、深層心理でそれは『脱がせたがってる』って言うじゃん?
じゃあさ、眼鏡ってどうなのかな」
「なっ!?」
「なんとなくね、真ちゃん見てるとおかしくなんの」
試合中はそんなことはないが。
家に帰るとモヤモヤするのだ。
声が聞きたくなることはしょっちゅうで。
黙れ、の一言でゴチソウサマです!と言いたくなる。
病的だ。
きっとこれは友情じゃない。
「あ、大丈夫だよ。
それ選んでるときは、邪念なしの無垢100%だったから」
「そうでなければ、もらったものだがへし折っているところだ」
眼鏡のフレームを眺めて。
緑間は何を思っているんだろう?
案外、何も考えていないのかもしれない。
かくいう俺は空っぽだ。
どうなりたいっていう希望もない。
「高尾」
「んー?」
「優勝の景色を見せてやる」
「この眼鏡を見ていたら、そう、強く思ったのだよ」
ああ、そうか。
うん、そうだな。
「見せる、じゃねぇよ、見るんだよ!」
どうなりたいか、決められちゃった感が強いけど。
俺には『これ』がいい。
「緑間と絶対勝つ!!」
それには、まず、最初の人事。
眼鏡屋に行こう。
今度は堂々と『ふたり』で。
****************************
誕生日おめでとう、真ちゃん。
これしか言うことないです。
きっと他の緑間クラスタがもっと幸せにしてくれる。
眼鏡にかなう
って言葉にひっかけて。
⇒ 緑間が高尾の贈った眼鏡を気に入る
⇒ 眼鏡に『優勝』の夢を乗せる
⇒ 叶うに決まってんだろ!(※七夕系願望)
という意味を込めてみたんですけど。
ちょっと強引過ぎましたかね。
おは朝シリーズの『高尾が意味深な行動をとっている話』の総括版。
7/7に向けて繋げていたものだったんですが。
いやあ、眼鏡関連のワードが出てこなくてですね。
3回くらいしか材料が出なかった。
それでも書いたよ、愛だよ愛。
朝、目当ての人物を見つけて声をかけた。
きょとんとしたような、さして驚いていないような。
口を薄く開けて、俺を見る目はいつも通りだ。
涼やかなグリーンアイズ。
闘志に燃えた目を向けられたことはないが。
今のように、警戒心のかけらもない目は向けてもらえる。
出会った当初こそ、彼の敵意を感じたくて。
いろいろやったものだが。
友情越えて愛情に近い感情を抱えてしまった今ではどうでもいい。
「聞こえている、騒ぐな」
「まだ呼んだだけじゃん」
「十分ウルサイ」
「なんだよなぁ、つれねぇの」
「今に始まったことではないだろう」
「まぁね」
彼、緑間真太郎がクールなのはいつものことだ。
自分が騒いで、彼は我関せずでいるのが通常運転。
むしろ、大声上げて笑ったりするほうが違和感がある。
それは秀徳高校バスケ部に属す『緑間真太郎』ではない。
両腕を後頭部に回して、俺はへらりと笑う。
緑間に会えたことが嬉しい。
言葉を返してくれるのが嬉しい。
ぶっきらぼうで、不器用な人付き合いしかできない彼が。
愛しくて甘やかしたくてしょうがない。
眼鏡のブリッジをくいっと上げると、で?と聞いてくる。
そうだ、そうだ、本題を忘れてはいけない。
わざわざ日曜日に呼び出したのだ。
時間を取ってもらったということを忘れてはいけない。
「渡したいものがあってさー」
「月曜ではダメだったのか?」
「今日じゃなきゃ意味がないんだよ」
そう、今日でないと意味がない。
下見に行ったり、口コミ情報を集めたり。
果ては隠れてバイトまでして用意した『ソレ』は。
いつ渡してもいいものではないのだ。
7月7日。
緑間真太郎の誕生日。
当の本人も『今日じゃなきゃ』って言葉に反応した。
気にしてない振りして、すごく気にしてる。
期待していないけど、もしかして?と思ってる。
偏屈というか、ツンデレというか。
分かりやすいほど素直じゃない。
バッグから包みを取り出して、一言。
「誕生日おめでと、真ちゃん」
これ以上の言葉はなしだ。
どう反応するのか気になるし。
思考を遮断して、へそを曲げられても困る。
俺の贈り物を『悪いもの』にしたくない。
目で開けていいか?と聞いてくるので。
手でどうぞと返す。
まぁ、包み紙に店の名前が入っているから。
さほど驚かないだろうけど。
「……眼鏡?」
「そっ、試合中もかけられるタイプの」
「あぁ、そういうことか」
点と点が結びついた表情をした。
そりゃ、ここ最近の俺の行動は不審極まりなかったろうしね。
目を悪くしたのか?と言われたときは焦った。
というか、眼鏡屋にいる頻度が高すぎる。
俺のことを尾けてるんじゃないかと思ったほどだ。
「フレームだけでごめんな。
レンズはさすがに本人じゃないと、と思ってさ」
「十分なのだよ」
フレームだけで結構な金額が飛んだ。
目ぇ悪くできないなと思うのに十分だった。
レンズはもっと高いと言うから、眼鏡人類は金持ちだ。
資金を貯めるのにはひと月かかった。
あの地獄のような部活を終えてからのバイト。
休日、適当に緑間と会いながら合間を見てバイト。
このまま定着しないかと声掛けがあるくらい。
必死になって働いたのだ。
だが、喫茶店の『高尾くん』は今日でおしまいである。
緑間が手にしたグリーンのスポーツ眼鏡。
それを渡すためだけに。
嗚呼、よく頑張ったな、俺。
「これからどこに行く?」
「レンズを入れに行くに決まっているのだよ」
「あー、そうなる?」
「すっかり顔馴染みだろう?」
「ええ、そりゃあもうね!」
買いもしないのに、質問責めにしたり。
金額の相談をしたり、足繋く通っていたりすれば。
店員だって嫌でも覚えるだろう。
そんなに好きなの?と聞かれたときは一瞬焦った。
お約束のように『眼鏡』と付け加えられたけれど。
俺の顔は真っ赤だったに違いない。
あのお姉さん、絶対、確信犯だ。
「ねぇ、眼鏡って『する』もの?」
「は?」
「眼鏡を『かける』とも言うじゃない?
眼鏡を外すって言うからやっぱ『する』かな」
「かける、が一般的なのだよ。
眼鏡をしているというのは、第三者が見たときに使う」
「へぇ、さっすが」
何がさすがなんだか。
自分で言ってておかしい。
眼鏡屋に向かいながら、何となく喋り続ける。
「かけるだとか、するだとか、なんかエロいよな」
「…っお前の思考回路がおかしいだけだ!!!」
あ、地雷踏んじゃったか?
まぁいいや、この際だから聞いてしまおう。
「服を贈ると、深層心理でそれは『脱がせたがってる』って言うじゃん?
じゃあさ、眼鏡ってどうなのかな」
「なっ!?」
「なんとなくね、真ちゃん見てるとおかしくなんの」
試合中はそんなことはないが。
家に帰るとモヤモヤするのだ。
声が聞きたくなることはしょっちゅうで。
黙れ、の一言でゴチソウサマです!と言いたくなる。
病的だ。
きっとこれは友情じゃない。
「あ、大丈夫だよ。
それ選んでるときは、邪念なしの無垢100%だったから」
「そうでなければ、もらったものだがへし折っているところだ」
眼鏡のフレームを眺めて。
緑間は何を思っているんだろう?
案外、何も考えていないのかもしれない。
かくいう俺は空っぽだ。
どうなりたいっていう希望もない。
「高尾」
「んー?」
「優勝の景色を見せてやる」
「この眼鏡を見ていたら、そう、強く思ったのだよ」
ああ、そうか。
うん、そうだな。
「見せる、じゃねぇよ、見るんだよ!」
どうなりたいか、決められちゃった感が強いけど。
俺には『これ』がいい。
「緑間と絶対勝つ!!」
それには、まず、最初の人事。
眼鏡屋に行こう。
今度は堂々と『ふたり』で。
****************************
誕生日おめでとう、真ちゃん。
これしか言うことないです。
きっと他の緑間クラスタがもっと幸せにしてくれる。
眼鏡にかなう
って言葉にひっかけて。
⇒ 緑間が高尾の贈った眼鏡を気に入る
⇒ 眼鏡に『優勝』の夢を乗せる
⇒ 叶うに決まってんだろ!(※七夕系願望)
という意味を込めてみたんですけど。
ちょっと強引過ぎましたかね。
おは朝シリーズの『高尾が意味深な行動をとっている話』の総括版。
7/7に向けて繋げていたものだったんですが。
いやあ、眼鏡関連のワードが出てこなくてですね。
3回くらいしか材料が出なかった。
それでも書いたよ、愛だよ愛。
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