端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
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眼鏡

2013-07-07 00:00:00 | 黒子のバスケ
「しーんちゃん」

朝、目当ての人物を見つけて声をかけた。
きょとんとしたような、さして驚いていないような。
口を薄く開けて、俺を見る目はいつも通りだ。
涼やかなグリーンアイズ。
闘志に燃えた目を向けられたことはないが。
今のように、警戒心のかけらもない目は向けてもらえる。
出会った当初こそ、彼の敵意を感じたくて。
いろいろやったものだが。
友情越えて愛情に近い感情を抱えてしまった今ではどうでもいい。

「聞こえている、騒ぐな」
「まだ呼んだだけじゃん」
「十分ウルサイ」
「なんだよなぁ、つれねぇの」
「今に始まったことではないだろう」
「まぁね」

彼、緑間真太郎がクールなのはいつものことだ。
自分が騒いで、彼は我関せずでいるのが通常運転。
むしろ、大声上げて笑ったりするほうが違和感がある。
それは秀徳高校バスケ部に属す『緑間真太郎』ではない。
両腕を後頭部に回して、俺はへらりと笑う。
緑間に会えたことが嬉しい。
言葉を返してくれるのが嬉しい。
ぶっきらぼうで、不器用な人付き合いしかできない彼が。
愛しくて甘やかしたくてしょうがない。
眼鏡のブリッジをくいっと上げると、で?と聞いてくる。
そうだ、そうだ、本題を忘れてはいけない。
わざわざ日曜日に呼び出したのだ。
時間を取ってもらったということを忘れてはいけない。

「渡したいものがあってさー」
「月曜ではダメだったのか?」
「今日じゃなきゃ意味がないんだよ」

そう、今日でないと意味がない。
下見に行ったり、口コミ情報を集めたり。
果ては隠れてバイトまでして用意した『ソレ』は。
いつ渡してもいいものではないのだ。

7月7日。
緑間真太郎の誕生日。

当の本人も『今日じゃなきゃ』って言葉に反応した。
気にしてない振りして、すごく気にしてる。
期待していないけど、もしかして?と思ってる。
偏屈というか、ツンデレというか。
分かりやすいほど素直じゃない。
バッグから包みを取り出して、一言。

「誕生日おめでと、真ちゃん」

これ以上の言葉はなしだ。
どう反応するのか気になるし。
思考を遮断して、へそを曲げられても困る。
俺の贈り物を『悪いもの』にしたくない。
目で開けていいか?と聞いてくるので。
手でどうぞと返す。
まぁ、包み紙に店の名前が入っているから。
さほど驚かないだろうけど。

「……眼鏡?」
「そっ、試合中もかけられるタイプの」
「あぁ、そういうことか」

点と点が結びついた表情をした。
そりゃ、ここ最近の俺の行動は不審極まりなかったろうしね。
目を悪くしたのか?と言われたときは焦った。
というか、眼鏡屋にいる頻度が高すぎる。
俺のことを尾けてるんじゃないかと思ったほどだ。

「フレームだけでごめんな。
 レンズはさすがに本人じゃないと、と思ってさ」
「十分なのだよ」

フレームだけで結構な金額が飛んだ。
目ぇ悪くできないなと思うのに十分だった。
レンズはもっと高いと言うから、眼鏡人類は金持ちだ。
資金を貯めるのにはひと月かかった。
あの地獄のような部活を終えてからのバイト。
休日、適当に緑間と会いながら合間を見てバイト。
このまま定着しないかと声掛けがあるくらい。
必死になって働いたのだ。
だが、喫茶店の『高尾くん』は今日でおしまいである。
緑間が手にしたグリーンのスポーツ眼鏡。
それを渡すためだけに。
嗚呼、よく頑張ったな、俺。

「これからどこに行く?」
「レンズを入れに行くに決まっているのだよ」
「あー、そうなる?」
「すっかり顔馴染みだろう?」
「ええ、そりゃあもうね!」

買いもしないのに、質問責めにしたり。
金額の相談をしたり、足繋く通っていたりすれば。
店員だって嫌でも覚えるだろう。
そんなに好きなの?と聞かれたときは一瞬焦った。
お約束のように『眼鏡』と付け加えられたけれど。
俺の顔は真っ赤だったに違いない。
あのお姉さん、絶対、確信犯だ。

「ねぇ、眼鏡って『する』もの?」
「は?」
「眼鏡を『かける』とも言うじゃない?
 眼鏡を外すって言うからやっぱ『する』かな」
「かける、が一般的なのだよ。
 眼鏡をしているというのは、第三者が見たときに使う」
「へぇ、さっすが」

何がさすがなんだか。
自分で言ってておかしい。
眼鏡屋に向かいながら、何となく喋り続ける。

「かけるだとか、するだとか、なんかエロいよな」
「…っお前の思考回路がおかしいだけだ!!!」

あ、地雷踏んじゃったか?
まぁいいや、この際だから聞いてしまおう。

「服を贈ると、深層心理でそれは『脱がせたがってる』って言うじゃん?
 じゃあさ、眼鏡ってどうなのかな」
「なっ!?」
「なんとなくね、真ちゃん見てるとおかしくなんの」

試合中はそんなことはないが。
家に帰るとモヤモヤするのだ。
声が聞きたくなることはしょっちゅうで。
黙れ、の一言でゴチソウサマです!と言いたくなる。
病的だ。
きっとこれは友情じゃない。

「あ、大丈夫だよ。
 それ選んでるときは、邪念なしの無垢100%だったから」
「そうでなければ、もらったものだがへし折っているところだ」

眼鏡のフレームを眺めて。
緑間は何を思っているんだろう?
案外、何も考えていないのかもしれない。
かくいう俺は空っぽだ。
どうなりたいっていう希望もない。

「高尾」
「んー?」
「優勝の景色を見せてやる」

「この眼鏡を見ていたら、そう、強く思ったのだよ」

ああ、そうか。
うん、そうだな。

「見せる、じゃねぇよ、見るんだよ!」

どうなりたいか、決められちゃった感が強いけど。
俺には『これ』がいい。

「緑間と絶対勝つ!!」

それには、まず、最初の人事。
眼鏡屋に行こう。
今度は堂々と『ふたり』で。

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誕生日おめでとう、真ちゃん。
これしか言うことないです。
きっと他の緑間クラスタがもっと幸せにしてくれる。

眼鏡にかなう
って言葉にひっかけて。

⇒ 緑間が高尾の贈った眼鏡を気に入る
⇒ 眼鏡に『優勝』の夢を乗せる
⇒ 叶うに決まってんだろ!(※七夕系願望)

という意味を込めてみたんですけど。
ちょっと強引過ぎましたかね。


おは朝シリーズの『高尾が意味深な行動をとっている話』の総括版。
7/7に向けて繋げていたものだったんですが。
いやあ、眼鏡関連のワードが出てこなくてですね。
3回くらいしか材料が出なかった。
それでも書いたよ、愛だよ愛。

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