端と底を行き来するRPG

そのとき、きっと誰かの中心blog。
アーカイブにある作品は人事を尽くした盛者必衰の入れ替え制。

守護の愛

2013-07-16 00:00:00 | 黒子のバスケ
いつものように教会前を清める。
掃き掃除と同時に。
結界を張って文字通り『清める』のが日課であった。
子供たちにおはようと声をかけ。
年配の信徒には手を貸し。
懺悔室にて愛を説く。

「どうした、元気ないな」

Ace Of Vampire

彼の職務は、保守的な役割が強い。
教会の権威が保てているのが赤司のおかげなら。
教会の品格が保てているのは木吉のおかげである。
退魔任務には参加しない。
曰く『他の人間にも出来るから』
同時期に加入した大坪とは、その辺りに関して議論を交わしたが。
木吉の意見は変わることはなく。
とうとう『勝手にしろ!』と言われ、現状に至る。
お互いを認めあっているからこそ、出た言葉であると木吉は理解していた。
伸び一つ、嗚呼、今日もいい日差しだなと思いに耽る。
掃き掃除のあとは、しばらく空白の時間なのだ。
それは意図的に設けている時間であり。
このことを知っている人物は、このタイミングで話しかけてくる。

(出会いはいつあるか分からないからな)

こうしてのんびりしている時に出会うこともあるし。
買い出し中に声をかけられることもしばしば。
そんな中で一番印象に残っている出会いがある。
その存在との出会いは。
雨が降ろうかという曇り空、時限は夕刻であった。

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「こりゃ、ひと雨来そうだ。
 早く帰った方がいい」

教会に残っていた本日最後の信徒を送り出し。
戸締まりを開始したものの。
久しぶりに見た緑髪の同僚がほとんどやってしまっていた。
いつもの神の啓示による行動だろう。
信じる者は救われる、とはよく言ったもので。
半信半疑の者はさほど恩恵が得られないが。
緑間に対しての恩恵具合はものすごい。
緑間の言うことを疑っていない自分にも多少の恩恵はあったがその比ではない。
最後の拭き掃除をして場を清める。
何気なく窓の外を見、気付いた。

(誰かいる?)

辺りが暗くなりだしているから捉えづらいが。
確かに誰かいる。
泥棒に入ったところで金品とは縁のないところだし。
待ち伏せだとしたら、肩の動きがおかしい。
行ってみるか、と早足で教会を出る。
万が一、野党だとしても自分の体格であれば返り討ちに出来る。

(いた…!)

短く刈り込んだ黒髪に眼鏡をかけた男が座り込んでいる。
家出か?隠れん坊か?
様子を窺っていると、向こうも視線に気付いたらしい。
一言吼える。

「来んな!!来たらただじゃおかねぇ!!」
「どうなるんだ?」
「え、えと、そりゃあ、あれだ!
 狼男の力を総動員して引き裂いてやる」
「お前、狼男か」

確か、今日は満月ではないから危険はない。
しかし単独での接触は控えるべきとされている。
吸血鬼ひとりに20数名を割いているのだ。
腕力だけで言うなら狼男の方が断然強い。

「ここは教会だ、休む場所には不適切ではないか?」
「そんなことは分かってる!今、行こうとして…」

立ち上がろうとする狼男が小さく呻いた。
足下がおかしい。
捻ったのか?

「怪我か?」
「うっせ、関係ねぇだろ!」
「おい、どこ行くんだ?手当は?」
「いらねぇよ!!神父の手なんか借りるか!!」
「捻挫と思って甘く見てると、癖になるぞ」

言っても聞かないと判断し。
立ち去るために背を向けていた狼男の首根っこを掴む。
ひとより大きいらしい己の手は容易く男を捕まえる。

「離せ!!」
「んじゃあ、抱きつく!」
「ぎゃー!!」

抱きしめた彼を肩に担いで、教会に運び込む。
自分が最後であるから、狼男の搬入も簡単である。
高さに驚いたのだろうか。
下ろせ!!と言う割には暴れない。
足を捻っているのは間違いないみたいだから。
着地のリスクを考えたのかもしれない。

「油断させて俺を滅す気なんだろう!?」
「んー、出来るのは封印程度だよ。
 力の差?みたいなやつで俺たちは狼男と吸血鬼は倒せないんだ」

座ってろよ、と声をかけて。
礼拝のためのベンチに狼男を下ろす。
包帯と添え木にする板を取ってくる。
添え木は、緑間が置いていったものである。
噂の『神の啓示アイテム』だ。
近付いて跪く。
少し腫れているようだ。

「湿布貼りたいんだが、匂いは大丈夫か?」
「……大袈裟だ」
「そうか?歩けない程度に捻ってるんだ。
 やりすぎてるくらいでいいと思うけどなぁ」

特に臭いとも言ってこないので。
湿布を貼ってぐるぐると包帯で固定していく。
骨折でもしたのかってくらい。
添え木もしてがっちり固定する。
狼男は観念したらしく、大人しくしていた。

「……俺、狼男だぞ」
「うん、そうだな。でも、怪我人だ」
「ひとじゃねぇよ、化けもんだ」
「そう、卑屈になるなよ」

狼男というだけで、だいぶ虐げられていたのかもしれない。
別に怖がる必要はないのだ。
俺は『危害を与えてくる』と自分で判断しない限りは。
誰であれ保護対象としているのだから。
それを伝えたいのだが、何を言っても今はダメだろう。

「ほい、出来た」

狼男は黙って立ち上がり、足下の具合を窺っている。
言葉では何も言わないが表情が非常に分かりやすい。

(痛くねぇ…)

そう、思っているに違いない。
きっと根は素直なのだ。
それを表に出すのを得意としていないだけで。

「また来い、包帯を代えないとな」
「いいよ、舐めときゃ治る」
「ああ、なるほど。狼男だからか」
「そこで信じんな」

教会にいる人間にはない反応。
うん、こいつ、やっぱりいい奴だな。
悪くなろうとしても、それは格好だけで。
中身はいいひとのままでいるタイプに違いない。

「……調子狂う」

俯いて、髪をがしがしと掻きむしる。
この人間くさい奴が狼男だと言うんだから。
俗世間に溶け込んでしまうわけである。
普通に暮らしている分には、差は全くない。

「そうか?これが普通なんでな」
「ち…、あんがとさん」
「お、お礼が言えるのか、いい子だな」
「頭撫でんな!!」

ついノリで頭を撫でてしまったが。
なかなかに触り心地がいい。
手を引っ込めるのが惜しかった。
触れることを許してくれたのは成り行きとは言え。
出会ったのも何かの縁。
この縁を一度きりにしたくないと思った。
なら、帰ってくるようにしよう。
狼男に振り払われた手で、十字を切る。

「汝に我の加護あらんことを」
「は?」
「怪我が治るまで森に帰るな。
 まぁ、今のお前はすごく『人間臭い』から縄張りに入れないと思うけど」
「ふっざけんな!!」

足に力を入れようとして痛みが走ったらしい。
それ以上の怒号は来ることなく。
ちくしょう、だから信用できないんだと聞こえる。
多少、私情があるのは認めるが心配しているのは本当なんだけどな。

「また来たら解いてやるから」
「本当だろうな!?絶対だぞ!」
「ほら、雨が降る前に屋根のあるところに行け。
 なんなら俺の家に来るか?」
「お断りだ!!!」

ひょこっひょこっと足を引きずって狼男が立ち去っていく。
俺は黙ってそれを見送った。

☆☆☆

「猫か何かを飼いだしたのか?」
「何故、そう思うのですか?」
「う~ん、最近外を見る回数が多いからさ」

別の日。
緑間がやけに外を気にしていることに気付いた。
この教会に常駐するようになってまもなくのことである。
誰かを待っているのか?
何か罠を張ったのか?
どちらにせよ、職務中によそ見をするのが珍しかったので。
興味本位で訊いてみたのだ。
本人には自覚はなかったようで、すぐに返答はなかった。
もうちょっと突っ込んでみるか。

「最近、封印率が高いのと関係が?」
「……すみません」

つまり、言えないと。
なるほど、隠し玉が出来たのか。
新しい術か、それとも新たな人脈か。
それ以上の深追いはせず、そっかと引く。
必要があれば時が解決してくれるだろう。
で、なんで緑間の様子に気付いたかと言うと。
俺も実は窓の外を気にしていたからである。
思うは、あいつのことだ。

(緑間が『猫』なら、俺は『犬』かな)

目つきのちょっと悪いシベリアンハスキー。
また来いと言ったら、本当に来るくらい真面目な狼男。
曰く『人間臭ぇんだよ!!』らしい。
まぁ、そういう呪いをかけたしなぁ。

「おら、来てやったぞ!解け!!」
「おー、今日も元気だな」

待ち人来たり。
実は呪いをかけたのは初回だけなのだが。
帰り際に必ず『またかけといたから』と言って発破を掛けると。
『また来りゃいいんだろ!』と怒って行ってしまうのだ。
本当に分かりやすいほどに素直じゃない。

「足はどうだ?」
「いつの話してんだよ、もう治ったっつーの」
「そうか、それは残念」

ぽすっと抱き込む。
うわあああああ、と悲鳴を上げてもがくが。
体格差万歳ってやつでビクともしない。

「木吉!!TPOを考えろ!
 お前は神父、ここは教会の前、俺は狼男!」
「え、ああ、もうみんないないよ」
「人通りはあるだろうが!!」

一回解放すると、ふーっと体を強ばらせる。
犬と思っていたが、猫でもいけるなあ。
俺が何も言わないで見ているのが不服だったようで。

「何か言えよ!」
「え、ああ、うん、可愛いな」
「んなこと訊いてねぇよ!!!
 木吉は何考えてるか、わかんねえから苦手だ」
「そうか、俺はお前のこと―…」

ふと、気付く。
この『狼男』の名前を知らない。
向こうは俺の名前を知っているのに、だ。

「お前に名をやろう」
「はあ!?」

何か言い出しやがった!と全力で逃げようとしたので。
後ろからがっちり抱き込む。
腕一本だと壊してしまうような気がするのだ。
先ほどと同様、狼男はもがく。
大人しくさせるために、後頭部にキス。
想定したとおり、動きが止まる。

「んー、何がいいかな」
(ちくしょう、逃げられねぇ…!!)
「ひゅうが」
「……っ!?」
「日曜日の日に、方向の向で『日向』」
「人間みたいな名前を勝手につけるな!!」
「お前、太陽みたいに暖かいもんなー、物理的に」
「聞けよ!!!」

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「なに、笑ってるんだよ」
「おぉ、日向。
 お前に会った頃のことを思い出しててさ」
「気持ち悪いよ!!どういうきっかけだよ!?」
「自分で言うのもなんだけど、日向っていい名前だよな」
「言っとくけど、認めてないからな!?」
「ああ、俺が好きで呼んでるんだ」

けっ、と悪態をつきながら。
日向と名付けた黒髪の狼男は俺の傍に来る。
何をするでもないが、俺たちは並んで。
壁により掛かって何となく立っている。
自転車や子供が走り抜けていくのを見送って。
口を開くのはいつも日向のほう。

「……この間もらった飴、うまかった」
「そうか」
「あのさ、また、その、欲しいんだけど」
「そうか」
「笑うなよ」
「うん、ごめんな」

日向。
俺の可愛い狼男。
見えない角度で手をつなぎ。
俺たちは関係を続けている。
友情にも似た『愛情』を伴った関係を。

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木吉神父と狼日向の話。
A.O.V.シリーズの外伝です。
木吉視点なので『緑間神父』は出てきますが、『吸血鬼高尾』は出てきません。

書いてて思ったのですが。
日向ってツンデレ…!!
分かりやすいほど素直じゃない。
寝は真面目だから、悪くなれない。

木吉との関係は、ツッコミを入れているうちに親密度が上がってしまい。
なんとなく毎日通うになった『友達以上恋人未満』
たぶん、日向はまじないがかかってないのを知ってます。
会いに来る口実が欲しいだけ。

木吉には番犬がいるだの、猟犬がいるだのと噂になります。
緑間はそこら辺で気付くことになる。
訊けば、あっけらかんと教えてくれるでしょうけどね。

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