空の音色

poetry

蚕蛾

2007-01-17 | ゆびさきの森



眠れずに迎えた朝が
多分いつもと変わりなく
山の向こうから じんわりと
染まるように 訪れる


絹糸を吐く 蚕のようだ
朝もやは折り重なる繭



夕べ何におびえ
夕べ何に打ちひしがれていたのか
次第に隠され
見えなくなってゆく


そして 
繭を破りあらわれたのは
真白な羽根の
生まれたての蚕蛾


飛ぶことの下手な

けれど新しい
私の一日







水鏡

2007-01-17 | いたみ


なにかを 忘れようとして
はたまた
なにかから 逃れようとして
私は小石を投げたのだった


耳の裏側で
かすかに澄んだ音をたてて
水鏡はくだけちった


のぞきこむとそこには 
くずれた空と 
あわてる風の姿があった

広がる波紋と泥の色は
少しの間だけ
私を哀れむように
時間を止めてくれたのだけど






小説、完成しました。

2007-01-16 | ほか

久しぶりに小説を書き上げました。
よろしければ、読んでください。

暗い話で、どんよりしてます。

す、すいません^^;こんな話ばっかで。

次回作は明るいものを、


・・・・・・・
か、書けるかなぁ・・・。


こちらからどうぞ。



2007-01-09 | てのひらの海


坊や
あなたが大人になった時
この国が戦火のただなかで
猛り狂っていたとしても


私はあなたを死なせはしない
前線に命をさらすなど
決してさせてなるものか




そのために
私は穴を掘るだろう

深く深く
幾重もの時の抜け殻が
埋もれているほど深い地中に
私はあなたをそっと隠して
この身で蓋をするだろう



そして 坊や
見てごらん


見渡せば大地の上
幾千万もの母親たちが
蓋となって
うつ伏せている


地中に隠した我が子を守り
白い体が延々と
遥か彼方まで
連なっている









2007-01-09 | 


冬は凋落ではなくて

冬はまるで
新生児がお乳をほしがって
泣いているような

真新しく
白く


冬は生まれたての
荒削りな
やわらかな
きよらかな









2007-01-09 | 


びょうびょうと風が吹く
この風は冬の風
冷たく厳しく強引で
意地悪で乱暴で配慮がなくて
ああ 悪口ならいくらでも思い付く


千切れそうに悲鳴を上げている
野の草や色づく木々の葉よ
秋は容赦なく追いやられ
我がもの顔の冬が来る
どっさりと重たい空を抱えて
きりりきりりと刺すように
苦難の時が巡り来る



でも時に
冬は驚くほど透明だ
一瞬が永遠に感じるほどの
静かな世界をかもし出し
私たちの騒がしい魂を
しばしの間黙らせる

空も大地もこの時とばかりに
安らかな眠りに浸るのだ



ああ そうだ
生きもの達の
生きものであるが故の哀しみも
冬の懐に取り込まれ
暖かく静かに凍り付く
そしてようやく
深い眠りにつくのだろう


遠い春を
抱きながら







冬の空

2007-01-09 | 


ためらいがちに
あらわれた朝の
その素朴な白さの中に
ため息のような蒼を
ひとしずく



銀の匙でくるくると
かき混ぜてみる
冬の空








てのひらの雪

2007-01-09 | 


てのひらに降る雪の
驚きと戸惑いは
ちくりと痛み
一瞬にして消えてしまった



何故だろう
ひどく
申し訳ない気がしたのは







2007-01-09 | 


雪が降っている
木や草や道ばたの石ころの上に
橋や道路や缶カラの上に
仄暗い
この町の屋根に


雪が降っている
目を閉じてここまで
白いまま
冷たいままで



これは哀しみなのだろうか
この汚れた地表を庇うため
生まれてきたわけではなかろうに


それでも




雪は降っている
ものも言わずに
与えられたさだめを
受け入れるように

どうしようもなくて
震えながらも






葉隠りの雀

2007-01-09 | 


冬に隠れる雀らの
生きる姿はいとおしい

ふうわりちいさく丸まって
肩寄せ耐えるは美しい


そんなこんなを想いつつ
ぬくぬくとした部屋にいて
君らを眺めるこの我の
おごる姿が恥かしい




冬に隠れる雀らは
生きる気負いも何もなく
生きているから
いとおしい


ただありのまま
美しい







結晶

2007-01-09 | 


ごめん とつぶやいた



届かなかっただろう

雪の降る
静かな音にかき消されて



想いの結晶は
雪に劣らず
美しい形であればよいけれど



このまま明日には
白い世界に隠されて

わからなくなれば 
よいのだけれど








2007-01-09 | 


どんなに否定しようとも
あれは天使の羽根


地上に辿りつくやいなや
涙に変わる代物





雪の輪廻

2007-01-09 | 


大地の恥部を隠して
人々の罪をあがなう

飾り立てた都市にも
骸(むくろ)をさらす丘にも
隔てなく降り注ぐ
無償の愛のように




贖罪を終えて
空へと還る日

雪は微笑み
汚泥を残して立ち去っていった

またいつか
と言い残し

干からびた体の
殉教者のように


空へ
空へ










雪の日

2007-01-09 | 


銀の雲
舞い上がる風花

何処へ行くのか



森は深い冬の奥で
樹々と土くれのために
子守唄を歌っていた




白い鳥
灰色の刹那

何処へ行くのか




私達は
この大地の帆影で
缶コーヒーなど
握り締めている