空の音色

poetry

文字

2007-04-15 | ゆびさきの森


ノートの罫に
たどたどしくもたれかかる文字を

ひとつひとつ
拾って
つなげて



長い鎖ができた
とても長い鎖



けれどそれは弱い鎖だった
とてもとても脆い鎖



文字の鎖は
引っぱると
すぐに千切れてしまった





千切れた先端が
ゆらゆらと風に漂っている




私といっしょに
ずっと


このまま
流されていくみたいに






あたしはいま

2007-04-15 | てのひらの海


とうさんと
かあさんと
ねえさんと
あたし
よにんはとても
なかよしかぞく



あおいおそらと
やさしいかぜに
いつもつつまれてくらした



うまれたあさは
いつかよるにかわる

けれどかならず
あさはうまれた




あたしはまいにち
しあわせだったの

みんなといるだけで
ただ 
ここにいるだけで








あたしのむらに
せんそうがきて
たくさんのひとがしんでいった




あるひ
とうさんが
つれていかれて



あるひねえさんが
くさむらでしんで



あるひかあさんが
ひのなかへきえた




あたしはいま
あしのほうからもえている



あおいおそらがとおくなる




あたしももうすぐ
とおいせかいに
いくのだろう
あさもよるもうまれない
しずかなところへ
いくのだろう




いままでのひび
さようなら








かみさま
あたしとかぞくが
いたことを


どうか
わすれないでくださいね






蜜柑をむきながら

2007-04-15 | ゆびさきの森


母に
結婚してから詩を書くようになったと話したら
そんなことよりもまず
家の掃除をしろと言われた



母に
詩はとても面白いものだと話したら
そんなことよりもまず
子供を躾ろと言われた




母に
もう詩など書くのはやめにしたと言ったら
そう・・・
とだけの返事



それから母は
そっぽのままで
自分の好きなことをおやりなさいよ
と呟いた



なんとも思ってない風に
急いで
蜜柑をむきながら






未来

2007-04-15 | いたみ


僕らには
透明な未来は見えにくく


色のついた過去にすがる大人たちは
見えない未来など知らんぷりだ




たくさんの僕らの「助けて」が
ごうごうと音を立てて落ちていく


たとえ未来が
その手を伸ばしてくれたとしても
つかむことができない





見えないんだから
どうしようもなかった






意識

2007-04-15 | 即興詩


ふわん
ふわん

意識がそらをただよう


つかまえようとして
ジャンプ


うんちのわたし

すりぬける
もやもやしたものたち




ほったくっておくさ

そのうち心細くなって

ここにもどってくるさ





わたしの胸
ウスムラサキの静寂



すんと
まっている


まだ壊れていないから
大丈夫だなんて


あわてて
言い訳







安心して
もどっておいでよ





もどってきてよ


おねがいだから












※ 風邪薬(?)をのんでぼーっとしているときに書いてみました。



サガシモノ

2007-04-15 | ゆびさきの森


青空の片隅をさがそう

寄せ集められた光をさぐれば

失くしたものがたくさん

隠れているかもしれない



青空の片隅をさがそう

捨てられた玩具や

破り捨てた手紙

古い日記帳をほら

また胸に抱けるような気がする




青空の片隅をさがそう

青空の片隅をさがそう



舞い上がるほこりがきらきらと
吸い込まれていくあの場所に
そっと
手を伸ばしてごらん






帰宅

2007-04-15 | てのひらの海


玄関をあける

ちいさな声で
「ただいま」


むわん

台所からかけてくる
なたねあぶらのにおい


ふわん

お風呂場からのぞきこむ
バスクリンのにおい


「おかえりなさい」

母の声



つけっぱなしのテレビのニュースは
また 
ややこしい国のことを話しているね


靴下をぬいで
きゅん
冷たい床の上

足のうら
のびのびと
ようやく
大いばりだ



かちゃかちゃ

皿を並べる母の
古びたエプロンが
ゆれるのを
私はその場に突っ立ったまま
ぼんやりと見ていた






母が鼻歌を歌っている

また母が
鼻歌を歌っている

こころのなかで
歌っている





外は冬だけど
この家の中はあたたかだねぇ

それでいいじゃない
それだけでもう
じゅうぶんじゃない


母の鼻歌が
古い家の壁に
反響して

こぉん
こぉん



私は少しだけ泣きたかった



でも
誰も
こんなときの泣き方など
教えてくれなかったから


そのかわりといっちゃあ
なんだけど


母の鼻歌の
つづきを歌う私





菜の花畑にて

2007-04-15 | 


菜の花畑の輝きが
風を染めていく


風はやわらかに
花々を揺らした



空の空色は永遠


続いている春の先に
透明な初夏のこどもたちが
寝息を立てている



私はぼんやりと
ここに立っていた


一人だけ古びた魂を抱えて
無邪気なこの大地に
佇んでいた




誰も呼びに来てはくれないから
あと少しだけ
ここにいるつもりだ






答え

2007-04-15 | てのひらの海


朝と夜と
春と冬と

くりかえすでしょう
くりかえすでしょう




赤ん坊と老人
生まれて死んで

くりかえすのかしら
くりかえすのかしら





濃紺の小箱につめた混沌を
さかさに振ろう


答えが
こぼれて落ちるかもしれない



さっぱりと
こぼれて落ちるかもしれない






もしも明日、すべてのいのちが

2007-04-15 | てのひらの海


もしも明日
すべてのいのちが
遠く消えてしまうとしたら


空も海も
山も風も
みんな
死んでしまうとしたら




誰かが泣いて
くれるでしょうか?
お葬式など
どうしましょうか?



星がひとつの
お墓になれば

どなたが
お祈りしてくれますか?
お花を手向けてくれるのですか?





ああ
それよりも
気になります




生まれ変わりを待ついのち

どこに隠れて
いましょうか?






瞳に映る

2007-04-15 | せつな系100のお題


あなたの瞳に映る私と
私の瞳に映るあなたは
決して重なり合うことがなかった



最後まで
見つけられなかった答えは


それぞれの瞳の中に
隠れていたのに






抜け殻

2007-04-15 | せつな系100のお題


蝉はね
七年間も暗い土の中にいて
たった一週間だけ
地上の夏を謳歌し
そうして
死んでいくのだよ


残ったのはこの
乾いた抜け殻だけ


すかすかに軽くて
中身は空っぽで


七年分の重みなんて
どこにも見当たらないのね





もう捨ててしまわなくちゃね
いつまでも抜け殻なんか持っていたって
しょうがないもの





さようなら
抜け殻


さようなら
私の恋




からっぽの私は
もう捨ててしまうけど



あのまぶしい日々は
忘れないから






2007-04-15 | せつな系100のお題


夜の翼を
どこへやったか?

月明かり
の足元

ふわり
落ちてきた
白い羽根は

かくれんぼの子供の
落とし物




夜の翼を
探しあぐねて


途方に暮れて
ため息つけば


誰もいない公園の
ブランコが
きぃこと
鳴りました




(完璧な夜など
ありえないのでしょうか)






スケッチ

2007-04-15 | せつな系100のお題


窓の曇りを拭って
明日へ続く世界を探した


ガラスが再び曇らぬうちに
明るい光をとどめたい


だからスケッチ
真っ白な頁に
大急ぎでペンを走らせる



だけど一体
何を描こうか
窓の向こうの世界は
段々ぼやけていく


僕のスケッチ
いつも未完成


大人になるまでに
何かを描こうとして
僕は少し
慌てている






世界の終わりに

2007-04-15 | せつな系100のお題


そうして
世界の終わりに


私は花と家族をだいて
それからひとつの静寂をいだいて


あの空の裏側に
忘れ物を取りに行くふりをする