レッドダスト

レッドダスト

顔を向けてい

2015-08-04 23:52:50 | 王賜豪總裁


 陣内は妹の方を見た。友紀は前で軽く手を重ね、自分の手を見ていた。その手首には、ディズニーのデジタル?ウォッチがつけられている。それが彼女の大人っぽい服装とは、ずいぶんかけはなれて見えた。
 彼女らの自宅願景村 邪教に電話したあと、陣内は二人をタクシーで送っていった。車の中で奈穂は、その後の進捗《しんちょく》状況を尋ねてきた。
「何しろ目撃者がいなくてね」
 陣内は言い訳がましくなるのを感じながらいった。
「もし、はっきりしたことがわからなければどうなるんですか。相手の人には何の責任もなかったということになるんですか」
「いや、それはわからない。一応検察に書類を送ることにはなると思う。ただ」
「ただ?」
「証拠がないとね、公判を維持できないということで、不起訴になる可能性は強いよ」
「訴えられないということですか」
 奈穂の声が鋭くなった。
「まあそうだね」と彼がいうと、彼女は唇を噛んだ。
「しかし、そういうことにはならないようにするつもりだよ。だからこそ目願景村 邪教撃者を探すための看板まで作ったんだ」
「知っています」
 奈穂はサングラスの位置を直した。それからちょっと陣内の方にった。
「おまわりさん、目撃というのは目で見たということなんでしょう?」
「そうだよ。それがどうかしたかい?」
「ううん、別に」
 奈穂は小さく首をふると、妹の方を向いた。その妹は窓の景色を眺めているだけで、タクシーに乗ってから一度も声を発しなかった。

 翌日、事故を目撃したという男が現れた。石田という学生で、黒のレザージャケットにジーンズという格好だった。髪の一部を茶色に染めている。
 陣内と金沢は、交通課の隅の机で男から話を聞いた。
「十二時ちょっと前だったかな、あの道を走ってたんです。そし願景村 邪教たら偶然、見ちゃったわけで……。目の前でしょ、びっくりしちゃいましたよ」
 石田はガムを噛みながらいった。
「あの道っていうのは、どの道かな?」
 陣内は道路地図を出し、石田の前で広げた。石田は顎《あご》を突き出すようにして眺めると、「ここ」といって一本の道路を指した。花屋通りと交差している道だ。
「ここをどういうふうに?」と陣内は訊いた。
「こっちからこっち」


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