退魔師を乗せた。
あの馬鹿野郎また無茶しやがった。
自分を大事にしないオロカな人間からは料金を5倍ふんだくることにしているのだが、店のツケでプラマイゼロだ。しくじった。
奴さんはいつだって明るい、看板娘の中の看板娘みたいな娘だ(もう27だが)。
だが腹の底に、内側から臓腑を食らう蛇を飼っている。
真っ直ぐだからこそ、自分を穢れていると思うと、許せない。
生きる目標を持っているくせに、いつ死んだっていいと思っているのかもしれない。
そんな馬鹿野郎の面倒を見てやる義理はない。義理はないが
俺はこんなことやってるうちに、中身ばっかり人間ぶるようになってきたようだ。
吸血姫を乗せた。
この姉さんはいつ会っても眩しい。人間世界の上下関係とは少し違うが、吸血鬼業界もそれなりに格差社会なのだ。
混血とはいえ所謂『真祖』。俺は既に業界の枠からは外れてしまっているが、それでもそのオーラみたいなものには一歩下がらざるを得ない。
だが彼女は何を気にする風でもなく、俺を虹子と呼ぶ。
おそらく他の同属が見たら何事かと思うだろう。彼女は自由だ。探偵業、妖怪退治、人間の恋人。
この東京において、人間と人間以外を区別することに然程意味はないだろう。
…人間にとっては。
彼女はもしかすると、そこらの人間共より余程人間らしいのかもしれない。
俺はこんなことやっていたって、人間にはなれないのだ。
いくら血液を拒絶したって。
いくら十字架を受け入れたって。
いくら人間の近くで生きていたって。
俺が人間を羨ましいと思っているとでも言うのか。
俺にない何かがあるとでも言うのか。
俺は何かが欠落しているとでも言うのか。
わかっている。考えるな。
俺が東京に居るのは、血を、吸うためだ。
生かさず殺さず、時々致死量。
人間が多く生き、人間が多く死ぬこの東京が、一番吸血鬼が生き易い。
連中は、俺の食事だ。それ以外では在り得ない。それ以外では
人間でありながら、呪いによってバケモノのようになってしまった女。
バケモノでありながら、自らの意思で人間のような生活を送る女。
ケダモノの自分を捨て切れないまま、人間に■■■女。
―――ヒトの血を飲み過ぎて、自分の血を見失ったか。
アルコールが入ると血の巡りが速い。吹き出て、飲みこぼすのだ。おかげであちこち舐めて拾わなくてはならない。
ああ、またフライヤーを、貼り直さなきゃならんな。
一時間前に乗せた女の死体を抱え、血まみれの後部座席で一人、そんなことを考えていた。
あの馬鹿野郎また無茶しやがった。
自分を大事にしないオロカな人間からは料金を5倍ふんだくることにしているのだが、店のツケでプラマイゼロだ。しくじった。
奴さんはいつだって明るい、看板娘の中の看板娘みたいな娘だ(もう27だが)。
だが腹の底に、内側から臓腑を食らう蛇を飼っている。
真っ直ぐだからこそ、自分を穢れていると思うと、許せない。
生きる目標を持っているくせに、いつ死んだっていいと思っているのかもしれない。
そんな馬鹿野郎の面倒を見てやる義理はない。義理はないが
俺はこんなことやってるうちに、中身ばっかり人間ぶるようになってきたようだ。
吸血姫を乗せた。
この姉さんはいつ会っても眩しい。人間世界の上下関係とは少し違うが、吸血鬼業界もそれなりに格差社会なのだ。
混血とはいえ所謂『真祖』。俺は既に業界の枠からは外れてしまっているが、それでもそのオーラみたいなものには一歩下がらざるを得ない。
だが彼女は何を気にする風でもなく、俺を虹子と呼ぶ。
おそらく他の同属が見たら何事かと思うだろう。彼女は自由だ。探偵業、妖怪退治、人間の恋人。
この東京において、人間と人間以外を区別することに然程意味はないだろう。
…人間にとっては。
彼女はもしかすると、そこらの人間共より余程人間らしいのかもしれない。
俺はこんなことやっていたって、人間にはなれないのだ。
いくら血液を拒絶したって。
いくら十字架を受け入れたって。
いくら人間の近くで生きていたって。
俺が人間を羨ましいと思っているとでも言うのか。
俺にない何かがあるとでも言うのか。
俺は何かが欠落しているとでも言うのか。
わかっている。考えるな。
俺が東京に居るのは、血を、吸うためだ。
生かさず殺さず、時々致死量。
人間が多く生き、人間が多く死ぬこの東京が、一番吸血鬼が生き易い。
連中は、俺の食事だ。それ以外では在り得ない。それ以外では
人間でありながら、呪いによってバケモノのようになってしまった女。
バケモノでありながら、自らの意思で人間のような生活を送る女。
ケダモノの自分を捨て切れないまま、人間に■■■女。
―――ヒトの血を飲み過ぎて、自分の血を見失ったか。
アルコールが入ると血の巡りが速い。吹き出て、飲みこぼすのだ。おかげであちこち舐めて拾わなくてはならない。
ああ、またフライヤーを、貼り直さなきゃならんな。
一時間前に乗せた女の死体を抱え、血まみれの後部座席で一人、そんなことを考えていた。