英国では肥満率(BMIが30以上の人たちの割合)が高く、15歳未満の子供の肥満率もここ10年で3倍に上昇し、2004年の段階で16%が肥満と診断されている。また、成人に至っては、2020年までにはこのままでは実に3人に1人が肥満となるという予測もある。肥満は糖尿病や心臓病にもつながり、肥満が原因での若死には毎年3万人を超えるらしい。それは冷たい言い方をすれば、自己管理の悪さなので仕方ないとも言えるが、肥満の治療には国民の税金が使われているわけで、それが毎年5億ポンドであり、英国経済への影響に換算すると2兆ポンド・・・となると、自分の勝手でしょ、で済まない気がしてくる。このまま肥満率が上がり続けたら、2010年までには毎年3.5兆ポンドもの打撃となるという予想もあるらしい。
みんなで太れば怖くない・・・という感じで、周囲もみなポッチャリだから危機感も恥じらいもないのかなぁ、と思ったが、ここ半年かそこらに増えた、数々の「あなたの食生活改善しませんか」番組を見ていて気がついた。美しくなるために痩せたいという気持ち以前に、正しい食生活による健康管理というものへの関心が見事に欠けているのだ。例えば、日本で「あるある大辞典」とか「試してガッテン」とかいうような情報番組で、「XXを食べるとこんなにこんなに身体に良い!」と紹介したとたん、その翌日には紹介された食品が売り切れ続出だそうだけど、そんなことは、英国ではまず絶対ありえない。自分の食生活はもちろん、子供の食生活でさえ、とりあえず飢え死にしない程度に食べさせればいいんでしょ、という人も多いようだ。
例えば、人気若手シェフのジェイミー・オリバーが一般の学校で子供たちが食べているものにショックを受けて、学食改善をめざしてあちこちでアピールした番組シリーズを見たのだけど、それによれば、日本のように栄養士さんがついているどころか、ニンジンの皮ひとつむいたことのないような人たちが学食を用意しており、それも安くて添加物たっぷりの冷凍食品をあっためるくらいしかしないので、経費削減のために学校にキッチンさえついてないところが多いようだった。子供らは学食に行って、好きなものを好きなだけ選べるので、ポテトフライの山に糖分と塩分がどっさり入ったソースをかけたものだけ、とか、ギットギトのピザだけ、なんてのを平気で毎日食べる。申し訳程度にサラダのようなものもおいてあるけれど、誰もそんなものは食べない。そして誰も野菜を食べるよう勧めたりしない。
あんなもの子供が毎日食べさせられていて、よく親が黙ってるなぁ、と思ったら、別の番組を見て納得した。自宅でも親がロクなものを作らず、不健康なものだけ食べて育った子供はもはや健康的な料理を受け付ける味覚を失っているため、ジャンクフード以外を断固拒否。親もラクなので言い聞かせて食べさせたりせず、それじゃぁ、と、冷凍ピザやらケバブやらを毎日毎晩食べさせ、不健康な清涼飲料やお菓子をむさぼるのも平気で承認しているのだ。もちろん、そんな食生活をしていれば、栄養バランスが崩れるため、倦怠感や短気、集中力の欠如などの問題行動が現れ、親はいったいどうしてだろう、と首をかしげ、ま、いいや、と肩をすくめる。
そういう子たちが成長して結婚し親になるので、この悪循環は終わらない。先日見た番組では、いい年した中年肥満カップルが現れ、体調・精神不良を訴えるのだが、毎日毎日揚げ物ばっか食べて、おやつはギットリ油の滲むジャム入りドーナッツ、飲み物はファンタとコーラ、週末は大量の甘いアルコール飲料、野菜は買ったこともなし・・・。コンサルタントがそれぞれにもっとも必要な栄養素を調べてそれを含んだ野菜類を使った料理を食べさせたところ、「うえ~っ!まずい!こんなの食べられない!」と言って、床に吐き出していた。・・・こういうのが子育てをするのだからぞっとする。若年層の肥満率がうなぎのぼりなのもムリはないわけだ。親がこれじゃあ、子供の食生活改善なんてまずムリだもの。なんとか、親から無理やりでも教育するようなプログラムがあればいいのに、と思った。