土木屋政策法務自習室(案)

(元)土木系技術職員がいろいろな事案を法律を基点に検討しています。

土木事務所管理担当のための行政処分説明書 Ver.0.1β

2020年07月25日 08時49分17秒 | 管理一般

 本説明書は、土木事務所の管理担当に初めて配属された法律にあまり馴染みのない職員に向けて、平成25年に私的に(仕事の時間外に)書いたものです。なにとぞ。


土木事務所管理担当のための行政処分説明書

Ver.0.1β

まえがき

 本説明書は、土木事務所管理担当職員が担う行政処分の、基礎的で一般的な法律の運用に関する事項について解説するものです。

 土木事務所管理担当が行う業務には、各法律分野の事務要綱やマニュアルが定められています。この要綱は、一般的な事案に対しては深い法律知識を必要とせずに、また担当者ごとの業務処理能力を補い、職員個人の主義や感情などの主観を排し、画一的で適切な結果を生じさせるための手続きを定めたものです。このため、通常、一般的な事案であれば、この要綱に従って事務手続きを行えば法律に則った適切な事務処理が行われたこととなります。

 しかし、実際の事務においては、要綱が制定から時間が経過したことによって現実の社会状況にそぐわないなどの不都合が生じたり、要綱に明記されていない事象が発生したりする場合があります。このような場合、管理担当が「要綱の用語どおりにしか判断しない」又は「要綱に定められていない事項については判断しない」という事務を行うことは、近視眼的には一見正しいようであっても、実質的には法律の目的を達成しないこととなってしまう場合があります。

 なぜなら、要綱は法律の運用の具体的内容及び手順を行政自身が定めたものであって、社会状況の変化に対して行政が要綱の改正を随時、頻繁に行うことはほぼ無理なことであることから、要綱どおりの事務取扱いが法律の趣旨を完全に反映させているとはいえない場合があるためです。

 このため、現実として頻繁に要綱を改定することができない場合に、法律の趣旨に反することなく機動的に事務処理を行うためには、ある程度の法律知識や法律解釈の方法について理解し、前述のような事案に対処できる技法を管理担当職員が持ちあわせておく必要があります。

 気を付けなければならないのは、職員自身の正義感及び道徳観、あるいは従来からの前例や多数意見は行政処分の判断の際には直接の根拠とならないということです。あくまでも行政処分の判断として必要となるのは、法令等の趣旨に則った客観的な判断であって、この法令等の趣旨に合致していなければ、いかに行政機関内部において多数意見であったとしても妥当な判断とはいえず、行政処分としては無効となる可能性があり、また行政処分の相手方及び第三者からの損害賠償請求がなされるおそれがあるということになります。

 ここでは、行政処分を行う際の基本的な事柄について述べることとしています。また、過去の事務において作成した、行政処分等の可否について検討した内容も検討実例として参考に掲載したいと思います。

 本説明書が、土木事務所管理担当として業務に携わる職員の皆さんにお役に立つことを願います。


目次
第1章 はじめに
 (1) 本説明書において対象とする事例
 (2) 法律による行政の原理
 (3) 管理担当職員の事務 
第2章 行政処分のための基礎知識
 (1) 序論
 (2) 行政処分とは
 (3) 行政処分の基本型
 (4) 判断の種別
  ① 序論
  ② 主観的判断
  ③ 客観的判断
  ④ 行政処分に用いる判断
(5) 法的三段論法
(6) 法解釈
(7) 行政裁量
(8) 行政指導
(9) 公物管理法
第3章 業務での検討実例  ※非掲載
 (1) 道路法
 (2) 河川法
 (3) 都市計画法
 (4) 屋外広告物条例
 (5) 技術分野等への応用
第4章 参考文献
 (1) 行政法
 (2) 公物管理法
 (3) 民法
第5章 あとがき  ※非掲載


第1章      はじめに

(1)   本説明書において対象とする事例

 土木事務所用地課管理担当(以下「管理担当」という)においては、道路占用許可や屋外広告物許可などの行政処分[1])を担う。各個別の法律(以下「個別法」という)、例えば道路法、河川法及び都市計画法等に関係する行政処分については、要綱やマニュアル等(以下「要綱」という)で事務手続きの方法や流れが示されており、通常の事務の場合においては、個別法や他の法律の内容まで深入りすることなく、誤りのない適正な事務処理が行えることとなっている。

 では、要綱に規定の無い事案についてはどのような考え方に基づき行政処分の可否の判断を行えばよいのか。つまり、このような事案をどのように扱い判断するのかが本説明書において対象とする領域である。

 行政処分の事務を行う際には、要綱に規定されていない事項について相手方から許可申請を受け、その許可の可否を判断しなければならない場合が生ずる。最も単純に考えれば、要綱に規定されていない事項、例えば「許可対象リスト」に掲載されているもの以外の事項については不許可として扱うことも考えられるが、これは行政活動としては妥当性を欠くものといえる。

 なぜなら、要綱は、あくまで行政機関自身が作成した内規であって、それ自体が相手方の権利義務を拘束するものではない。相手方の権利義務の発生根拠はあくまで法律にその源があり、要綱に規定されていない事案であっても、本来的に許可の対象となり得る場合が存在することから、要綱の規定の不存在がそのまま行政処分における不許可の判断にはならないということとなる。

 本来であれば要綱に行政機関の判断基準をあらかじめ規定しておくことが、行政機関及び相手方に対してもわかりやすく有用であることから、要綱を頻繁に改定するということも考えられる。しかし、社会情勢は常に新しい事柄を生み出し、また改廃も生ずる。結局のところ、いかに新しい事項を規定したところで、要綱は社会情勢に対して常に受動的であり、規定された時点から陳腐化することは避けられない。また、要綱改定を待っていては、機動的な行政活動が行えず、その行政処分の相手方の経済活動を停滞させ経済的負担等を押し付けることになり兼ねない。

 このため、要綱に規定のない事案であっても、法律の目的を正しく理解し要綱に規定の無い部分や一定程度の解釈の修正が必要となる部分について、管理担当者が正しく判断できる力、すなわち「法解釈」に関する基礎的な知識が必要となる。

 本説明書においては、管理担当として行政処分及びその他の管理業務を行うに必要となる基礎知識について説明するとともに、個別の行政法ごとにその法律の特徴や重要事項についても説明を行うものとする。

(2)   法律による行政の原理

 行政活動において従うべき原理として、「法律による行政の原理」がある。これは、「行政の諸活動は、法律の定めるところにより、法律に従って行われなければならない」[2])ということを意味する。

 つまり、法律による行政の原理とは、「行政はたとえどのような名目(例えば、”公共の福祉”、”国民の生命の安全”等々)であろうとも、行政権の担い手の独自の判断で行われてはならず、国民の代表たる議会(国会)が定めた、一般的ルール(法律)に従ってのみ行われなければならない」[3])とする行政に課された原則である。

 このため、行政処分を行う際には、法律規定及び要綱に則って事務を行うことはもちろんのこと、法解釈が必要となる場合であっても法律規定に従い行わなければならない。たとえ、管理業務のベテラン職員が判断した行政処分であっても、職員の単なる正義感や道徳観を基礎としてなされた行政処分であれば、「法律による行政の原理」に反し正しい行政処分とは言えないこととなる。

 管理担当における行政処分の事務の執行にあたっては、道路法や河川法の個別法に対する法適合性の確保はもとより、その手続を規定した行政手続法及び行政手続条例、並びに相手方との申請前協議等においては、信義誠実の原則及び契約関係規定等の民法上の諸規定に則って行うことを心がけなければならない。

(3)   管理担当職員の事務

 管理担当は、土木事務所において建設行政分野の内、許認可、規制及び監督等の分野を担う。

 人々が、道路や河川を通常の使用方法で安全で快適に利用するためには、その構造が堅固で十分な安定性を保ち、日常的に維持管理が行われている必要がある。また、安全で快適な利用を妨げる違法な物件を排除するための命令、特別な使用を希望する者に対する許可を行うなどの事務も必要となる。前者は、主として工事として行われる「事実行為[4])」であり、後者は「法行為[5])」であり、この両者によって道路あるいは河川などの「公物」が管理されることとなる。

 また、私人の社会活動は原則として自由ではあるが、その自由は一方で無秩序をもたらし、結果として社会全体の不利益となる場合がある。このため、私人の活動に対して一定程度の制限を設け規制を行うことによって公共の福祉を保持しなければならず、行政機関による許可及び認可等が必要とされる。

 これら「公物管理」と「規制」は、行政機関が法目的を達成するための行政作用であって、広く公共の福祉を維持増進するための一切の役務及び給付を提供する作用である「給付行政」と、公権力によって社会公共の秩序を維持する「規制行政」とにより構成される。

 このうち管理担当においては、建設行政分野(建築分野及び従前単独事務所が所掌していた下水道分野について対象としていない)における、給付行政と規制行政にまたがる「法行為」の分野について担うこととなる。

 ただし、条例による事務処理の特例(地方自治法第252条の17の2第1項)及び都道府県条例[6])によって、許可権限等が都道府県知事から市町村長に移譲(以下「権限移譲」という)されているものもあるため[7])、これに該当するものについては担当業務から除外されることとなる。


第2章      行政処分のための基礎知識

(1)   序論

 第1章(2)において、行政処分が法律に従って行わなければならないことについて説明したが、ここでは、行政処分について説明するとともに、その行政処分を行う際の判断の種別及び基礎的な事項について説明する。

 行政処分の事務については、個々の職員の事務の知識の不足を補い、また主観を排除して適切で妥当な法執行が行われるよう、各個別の法律分野毎に要綱やマニュアル等が定められている。これにより、許可要件及び手続きの流れが具体的に示され、法令等に則った客観的な判断が行うことができるようにしてある。

 実務においては、法令等に則って客観的に判断することは理屈としては理解しているものの、意外に主観による判断を行ってしまう場合がある。例えば、許可申請内容が社会的に意義がある(ように感じられる)内容で管理担当者個人がその内容に共感し許可とする場合などである。このような場合、行政処分の結果が誤っていなかったとしても、その根拠が誤っていれば正当な行政処分としての手続に瑕疵がないとはいえない。

 以下には、判断の種別について例示するとともに、行政処分を行うにあたって必要となる基礎的知識について述べることとする。

(2)   行政処分とは

 ここでは、行政処分の定義について説明し、その特徴について説明する。

 教科書では、行政処分は「行政機関が、公権力の行使として、対外的に行う具体的な法行為」[8])と定義され、およそ図解すると(図1-4)のように表される。つまり、管理担当が通常、相手方に許可や認可を与える行為が行政処分の具体例となる。

 一方、相手方との合意でなされるもの、例えば市町村との間で道路管理の協定を締結する行為、及び町内会との間で河川環境美化(草刈り)の協定を締結する行為、並びに工事請負及び物品購入は、双方の意思の合致を前提とした民法上の契約として扱われるものである。このため、相手方は、その内容等について納得できなければ契約しないことを選択することができ、行政に対して義務を負うことも無い。

 この行政処分の大きな特徴は、その効果の及ぼす特別な力にある。

 まず、行政処分は、行政機関(行政庁[9]))が一方的に相手方である国民の権利義務を変動させる行為であるという点である。つまり、相手方の同意を必要としないということである。

 また、行政処分には、公定力[10])が備わっており、処分時点から有効となるという点である。つまり行政処分は、どのようになされたものであっても(処分時に「無効」となる例外的なものを除けば)、一旦は有効なものとなり、その行政処分に不服の有る場合には、行政不服審査法による異議申し立て、行政事件訴訟法による訴訟提起の手段によって行政処分の効力を取消さなければならないということである。

 行政処分の分類は、次のように表すことができる。

この各々の行政処分に対して管理担当の業務等を当てはめると以下のようになる。

  • 下命 公物管理者による監督処分(道路法71、河川法75)
  • 免除 手数料の免除(屋外広告物条例27)
  • 許可 開発行為許可(都市計画法29)
  • 禁止 営業の禁止(建設業法29の4)
  • 特許 公物占用権許可(道路法32、河川法23・24)
  • 認可 河川占用権譲渡承認(河川法34)

 これら行政処分は、一般県民や民間事業者等に対し、権利を付与し義務を課すこととなり、その活動の可否や経済的利益及び損失に大きく影響することから、事務を所掌する管理担当においては法令等に基づいた適正な事務を行わなければならない。

(3)   行政処分の基本型

 行政機関が行う行政処分の根拠は、基本的には法律及び条例に存在し、法律に委任規定のある場合には政令、規則及び場合によっては条例に存在することとなる。

 この場合、条文は、許可基準である「法要件」と、行政処分である「法効果」とによって表され、申請内容が法要件を満たしている場合には、法効果である行政処分(許可)を行うことができることとなる。

 具体的には、開発行為許可(都市計画法29①)の法要件は、「次に掲げる基準(中略)に適合しており、かつ、その申請の手続がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反していないと認めるとき」(同法33①)であり、法効果は「(都道府県知事は)開発許可をしなければならない」(同)という文言で表される。また、この法要件は、「国土交通省令で定めるところにより」(河川法23他)で表されるように、法律では直接その細目を定めず、行政機関に対して政令及び条例等に委任する形式で定められる場合がある。

 基本的な行政処分の流れは、許可の場合であれば、私人(法人を含む)からの申請があって処分基準及び要綱による申請内容の審査が行われ、私人に対して許可あるいは不許可としての行政処分が行われる。

 また、例えば監督処分の場合であれば、当然私人からの申請は無く、管理者による判断によって行政処分がなされることとなる。

(4)   判断の種別

①     序論

 ものごとを判断する際には、「好き・嫌い」、「有利・不利」、「正・誤」、「善・悪」、「正義・不正義」、「道徳・不道徳」などの様々な要因をもってなされる。この場合、判断の結果が本人の範囲にのみ及ぶ場合については、利益あるいは不利益は本人の問題であり、利害に関係しない他人については特に問題は生じない。

 しかし、判断した結果が他人の利害に及ぶ場合には、その判断の理由が単なる「好き・嫌い」であっては判断の相手方が納得することは難しい。また、特に行政が判断する場合においては、担当者の「好き・嫌い」等の判断で事務が行われては一貫性や客観性を欠き、相手方の法を前提とした行政事務に対する予測可能性を損なうことから、行政の信頼性を欠くものとなってしまう。このことは、一見多数の同意を得られるであろう正義や道徳を判断基準としたところであっても、結局のところ判断する個人の内心による判断となってしまうことには変わりない。

 このため、判断を行う際には、あらかじめ判断基準を設け、判断する者とその結果を受け入れる相手方が同様の基準をもとに判断がなされれば双方にとって納得性の高いものとなり、判断する側に対する信頼性も高まる。

 行政処分の事務については、個々の職員の主観を排除して適切で妥当な法執行が行われるよう法律事務要綱や事務マニュアル等によって事務手続きの具体的内容があらかじめ定められ、これを判断基準として客観的な判断が行えるようにしてある。

 以下には、主観的判断と客観的判断を例示するとともに、行政処分に必要とされる判断について述べることとする。

②     主観的判断

 まず、主観的判断は、その個人の持つ主義、感情等の人の内心を判断基準とする。

 この場合、個人がそれぞれの判断基準を持ち、そのうえでの判断がなされる。このため、他人との共通の基準、社会一般に認識されている基準及び法律等の基準、すなわち客観的基準を当てはめて、その結果の良否や妥当性を判断することはできない。

 このため、個人が主観的に判断した場合には、他の者の判断(意見)とは異なる場合も生じ、双方の意見が収斂することなく衝突することもありうる。

 しかし、個々の主観的判断による意見が別れる場合であっても、集団や組織においては意見をひとつに決定する必要が生ずる。このような場合においては、権限を有する者による決定、あるいは多数決によって決定する方法が一般的である。

 権限を有する者による決定は、組織において運営や業務執行の権限を委ねられた「長」等によってなされる。例えば、町内会や学校PTAにおける会長や株式会社における取締役が「長」に当たる。この長の判断は、その組織の規約に則ることや総会等において決定された事項を執行する義務を負うものであるが、その執行の具体に関しては長の裁量に委ねられているものである。つまり、組織の構成員等の様々な意見があった場合であっても、それらの意見を長自身が主観的に判断し、それにより組織が運営されることとなる。

 管理担当の業務においては、例えばその年の業務の重点事項として「不法占用物件の解消」を課長等が決定することは権限の範囲内であって問題ないが、行政処分が決裁権者の主観によって判断されることは妥当性を欠き許されない。


 多数決による決定は、組織において議決権を有する者の総数から一定割合(数)を獲得した決議案が組織の判断となる方式である。いわゆる組織の意思決定を「総会」によって行う場合がこれに当たる。

 管理担当の業務において、各法律分野の行政処分について、どのように判断すればよいかわからなくなった場合、多数意見を判断の参考にする場合もあると思われる。しかし、多数意見は結局のところ、それは主観的判断の積み重なりであって、直接的には行政処分の判断根拠にはならない。つまり、起案様式を統一する場合などであれば、多数意見によって様式を決定することは、他の者の権利義務の変動を伴わない単なる事実行為であって問題ないが、行政処分の判断には「多数」であることそれ自体を根拠として採用することはできない。

③     客観的判断

 主観的判断に対して客観的判断は、あらかじめ判断基準を設け、事実が要件を満たした場合には効果が生じ、満たさない場合には効果が生じないとするものである。

 客観的判断は、当事者同士で合意された基準や要件を判断基準としたり、当事者が属する集団等で決定された基準や要件を判断基準としたりするものである。そして、事実が基準や要件を満足する場合にのみ効果が生ずる。そのため、同様の事実であればいつでも等しく同様の効果が発生し、あるいは同様の効果が発生しないこととなる。また、同様の2つの事実であるにもかかわらず、それぞれの判断された効果が相違する場合には、その2つの事実あるいは要件を再度検証することによって、判断の妥当性を確認することが可能となる。

 行政機関においては、法律、政令、規則、要綱及びマニュアル等が客観的判断を行うための基準及び要件となる。行政行為における判断は、処分権者である行政機関(担当職員も含む)が主観的な判断を行うことは、恣意的で公平性を欠くものとなるおそれがあるため、法律等を基準とした客観的判断をもって行わなければならない。事実が基準や要件を満たしていないのにもかかわらず、主観的に効果を発生させようとすることは(あるいは反対に効果を生じさせないとすることも)、不適切な判断となる。

④     行政処分に用いる判断

 上記、主観的判断と客観的判断について述べたが、行政処分においては客観的判断、すなわち対象とする事実を法令等の基準に当てはめて判断しなければならないということになる。この客観的判断のための注意点は以下のとおりである。

 まず、判断に対して「決裁権者及び担当職員(以下「決裁権者等」という)の主観」が入り込む場合である。行政処分の事務においては、担当職員が起案し、決裁権者の決裁がなされることによって、相手方に対して行政処分を行うことができることとなる。しかし、その決裁権者等が主観をもって恣意的に判断した行政処分であれば、場合によっては無効な行政処分となる場合もある。決裁権者等の判断(トップダウンによる指示の場合は特に)であっても法令等に則った客観的な判断であることを確認しなければならない。

 次に、「多数決」及び「前例」を判断根拠とする場合である。管理担当者は、法令等に明確な規定がなく、その判断に迷った場合、他の土木事務所の管理担当職員にその取扱いについて尋ね、自らの行政処分の事務の判断の参考にする場合がある。その際、多くの管理担当において採用している意見であることや前例があることをもって行政処分の判断の根拠とすることは、その判断根拠が法令等の要件を満たしたものであるか判別がつかず適正な行政処分であるとはいえない。つまり、行政処分の判断は、多数意見であることや前例があることそのものに根拠があるのではなく、あくまでも法令等に則った客観的な判断であるかに尽きるためである。そのため、多数意見であれば有力な判断結果の一つではあるものの、その結果を導き出した客観的な判断の要件等を見出し、その要件の妥当性を改めて確認したうえで行政処分を行わなければならない。

(5)   法的三段論法

 法令等に従って客観的に判断することについては前述したが、では具体的にどのように判断するのか、その技法について説明する。

 法律上の客観的判断を行うためには、「事実を法要件に照らして法効果が生ずる」過程を論理的に導き出すことが求められ、この基本的技法が法的三段論法と呼ばれる。

 行政行為の判断においては、個人の主義や感情等の主観を排し、法令等を基準(要件)とした客観的判断を行わなければならないことから、このような論法を用い判断することが正しい判断につながることとなる。

(6)   法解釈

 基本的には、行政処分の可否を判断する場合には、法令及び要綱の要件の用語どおりに判断すればよい。この法令等の用語に従って法要件及び法効果を理解することを文理解釈という。

 しかし、法令及び要綱の内容は、社会の動勢に随時機動的に対応することはできず、また、社会において発生する事象をくまなく条文中に網羅することは不可能である。そのため、法令及び要綱の制定当時には考えられなかった事象や、条文中において使用される用語が行政処分を行う時点において陳腐化している場合などについては、法律の立法趣旨に沿って法令及び要綱を解釈することにより対応することが求められる。この解釈を法解釈という。

 この法解釈とは、法令等の意味内容を解明する作業であり、文理解釈では判断できない言葉の真意を法目的に沿って理解することといえる。

 上記「法解釈の流れ」は、規定において「地方公共団体」に限定されている要件に対して、「地方公共団体から譲り受けた私人」も「地方公共団体」含まれるとして解釈(拡張解釈)している例である。

 この法解釈において注意しなければならないのは、あくまでも解釈は条文中の個別の用語に対してその意味内容を解明するものでなければならないということである。これによらず、「法律(あるいは条文)全体を総合的に判断して結論を出す」ということは、いかにも内容を吟味して大局的な判断を行ったようなニュアンスを感じさせるものではあるが、その行為は法解釈ではなく判断する者の主観的な意見でしかない。また、場合によっては、法令等によって許容された内容の範囲から逸脱し、行政が法の委任を受けずに新たな法規定を作ることにもなり兼ねない。

 そのため、法解釈においては法目的に沿い、用語の真意を解明することを心掛け行わなければならない。

(7)   行政裁量

 第1章(2)において、行政の活動は法律に従ってのみ行われなければならないとする「法律による行政の原理」を述べた。つまり、許認可等の行政処分においては、法律条文に規定される「要件」及び「効果」によって行政の判断が一義的に拘束(覊束・きそく)されることが望ましいとも考えられる。

 しかし、法律条文によっては、「許可することができる」などの文言によって、許可要件を満足していても行政機関は一定の判断の余地もと、必ずしも許可を行うことは義務付けられてはいない内容の規定となっている場合がある。これが行政裁量である。

 このうち、要件裁量及び効果裁量の自由裁量とは、法律が行政機関に対してその判断の権限を与え(授権)、行政機関が政策的・行政的判断を行うことをいう。他方、覊束裁量は、「裁量」という用語は使用しているが、自由裁量とは逆に要件及び効果に対して政策的・行政的判断の余地はなく、法律が厳格に行政機関の判断を拘束(覊束)する場合を覊束裁量という。行政裁量の種別は、上記のとおりである。

 法律が行政機関に裁量を授権している場合があっても、理由の不明な、あるいは恣意的な判断を行うことを行政機関に許しているものではなく、また管理担当職員の主観による判断を許しているものではない。行政機関の裁量に属する事案であったとしても、行政機関は予め要綱の審査基準を定め(行政手続法5①)、要綱に規定のない事案の場合にはその判断の理由明らかにしておく必要があり、相手方から行政処分の理由を求められたときには提示しなければならない(同法8①・理由の提示)。

これら行政裁量は、条文において以下のように表される。

 まずは、要件裁量の例である。

 ここでは「やむを得ない必要があるとき」が行政機関に対する裁量の部分にあたる。つまり、河川管理者が行う河川工事に対して、その施工時期、工事計画及び代替性等を勘案して必要性を当事者である河川管理者に判断する権限を与えていることとなる。

 次に効果裁量の例である。

 ここでは「許可を与えることができる」が裁量の部分にあたる。つまり、道路管理、道路工事及び計画等への支障があると道路管理者が判断すれば不許可とすることができることとなる。

 最後に覊束裁量の例である。

 この開発行為の場合には、行政機関は申請内容が基準等に適合していれば許可する義務があり、裁量の余地は全くない。

 このように、行政処分が自由裁量と覊束裁量によってその扱いが異なるのは、行政処分の対象が行政機関の管理対象となる物件であるか否かによるものと考えられる(私見)。つまり、道路や河川等の行政機関が管理者として管理する公物に対する行政処分の場合には、管理者としての権限行使のための自由裁量が認められ、行政機関が管理対象物件を有しない法規制分野の場合であれば、行政機関に対する効果裁量の判断を与えないことによって、行政機関が私人の活動を任意に制限することを排除し、私人の自由な活動を担保するため覊束行為とされているものと判断する。

(8)   行政指導

 行政指導は、「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう」[12])とされる。このことから、行政指導は、法律上の強制力を持たないものである。

 この行政指導は、実務上においては、監督処分等に至る前段階での相手方に対して改善を促す指導や、許可申請の前段階において許可対象として不適切な内容に対する修正を求める行為として行われる。

 具体的には、河川区域内に占用許可を受けずに置かれた資材等の撤去を求める指導や、屋外広告物の設置許可申請の事前打合せにおいて広告板の設置方法について危険防止の措置をとることを指導すること等が挙げられる。

 行政指導の方式は、口頭によるものでも構わないが指導の趣旨、内容及び責任者を明確にしなければならない(同法第35条第1項)他、相手方から書面の交付を求められた場合にはこれを交付する義務を行政機関は負う(同条第2項)。このため、行政機関が相手方に対して行政指導を行う際には、常に法令等の根拠を十分に把握した上で行う必要がある。

(9)   公物管理法

 ここでは、各個別の法律の説明の前に、共通する知識としての「公物」に関する説明を行う。

 公物の管理は、「公物の管理者が、公物の存立を維持し、これを公用又は公共の用に供し、公物としての本来の機能を発揮させるためにする一切をいう」[13])と定義される。自らが所有権等の権原を有し、一般に供する物件を公物といい、それを管理する法律を総称して公物管理法といい、管理担当の所掌するものは、道路法、河川法、港湾法及び都市公園法が挙げられる。これら公物は、人工公物と自然公物に大別され、その公物としての成立、消滅及び損害賠償請求(国家賠償請求)に関してその取り扱いが大きく異なる。

 そもそも、公物を人工公物と自然公物とするのは、「公物としての実体の成立過程の差異による種別」[14])である。

 このうち、人工公物は、「行政主体において、人工を加え、かつ、これを公の目的に供用することによって、はじめて公物となるもの」[15])いうとされ、道路、公園、下水道及び港湾等がこれにあたる。

 他方、自然公物は、「普通、自然の状態のままで、すでに公共の用に供せられうる実体を具えている物」[16])をいうとされ、河川、湖沼及び海浜等がこれにあたる。

 この人工公物(道路)と自然公物(河川)を比較すると以下のようになる。

 人工公物は、人為的に土地上に構築されるものであって、その成立は供用開始を公示する手続(供用開始告示)によってなされる。このことは、例えば道路事業において、用地買収そして工事を経て構造物としての道路が完成したとしても、供用開始告示がなされなければ道路法上の道路として成立していないことなり、道路法の諸規定が適用されないこととなる。

 一方、自然公物の場合であれば、その区域は旧来からの河川区域としての一号地(河川法6①一)は、供用開始告示をせずに河川区域であり、河川改良工事等によって用地買収がなされた土地(ニ号地・同法6①二)も同様の扱いとなる。

 また、国家賠償法により管理者の有責性の判断も人工公物である道路と自然公物である河川とでは、その扱いが変わる。道路の場合であれば、災害によって道路利用者が被害を受けた場合、予算上の制約(最判昭45.8.20)及び不可抗力(札幌高判昭47.2.18)であったとしても、道路管理者の管理瑕疵は否定されない。河川の場合は、「一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えている」(最判昭59.1.26・大東水害事件)かが判断基準となっており、水害の発生をもって直ちに河川管理者が責任を負うこととはなっていない。

 これらから、人工公物の場合であれば利用者が被災した場合には管理者の有責性が認められやすく、自然公物の場合であれば公物が元来的に有している危険性があるため管理者の有責性は認められにくいものとなる。


第3章 業務での検討実例

※この検討実例については、固有名詞等が出てきたりするため、ここには掲載しないこととします。

(1) 道路法 - 21 -
(2) 河川法 - 23 -
(3) 都市計画法 - 28 -
(4) 屋外広告物条例 - 30 -
(5) 技術分野等への応用 - 31 -


第4章      参考文献

本説明書の作成にあたっては、以下の書籍を参考にしたので記す。

(1)   行政法

  • 大橋洋一行政法Ⅰ現代行政過程論[初版] 2009年 有斐閣  大橋Ⅰ
        行政法Ⅱ現代行政救済論[初版] 2012年 有斐閣  大橋Ⅱ
  • 藤田宙靖行政法総論[初版] 2013年 青林書院  藤田
  • 宇賀克也行政法概説Ⅰ行政法総論[第2版] 2007年 有斐閣  宇賀Ⅰ   
    行政法概説Ⅱ行政救済法[初版] 2007年 有斐閣  宇賀Ⅱ
  • 塩野宏行政法Ⅰ行政法総論[第4版] 2006年 有斐閣  塩野Ⅰ
    行政法Ⅱ行政救済法[第4版] 2005年 有斐閣  塩野Ⅱ
  • 阿部泰隆行政の法システム(上)[新版] 1998年 有斐閣  阿部
              行政の法システム(下)[新版] 1997年 有斐閣  阿部下
  • 芝池義一行政法読本[初版] 平成21年 有斐閣  芝池
  • 稲葉馨他著行政法[初版] 2007年 有斐閣  稲葉
  • 渋谷秀樹憲法[初版] 2010年 有斐閣  渋谷
  • 北村喜宣行政法の実効性確保[初版] 2009年 有斐閣  北村
  • 亘理・北村編著重要判例とともに読み解く個別行政法[初版] 2013年 有斐閣  亘理
  • 原田大樹公共制度設計の基礎理論[初版] 2014年 弘文堂 原田
  • 高木光他編行政法学の未来に向けて[初版] 2012年 有斐閣  高木

(2)   公物管理法

  • 原龍之助法律学全集13-Ⅱ公物営造法[新版] 平成6年 有斐閣  原
  • 古崎慶長判例営造物管理責任法[初版] 昭和50年 有斐閣  古崎
  • 植木哲災害と法-営造物責任の研究[第1版] 昭和57年 一粒社  植木
  • 建設行政実務研究会新建設行政実務講座第6巻「道路」  新建設

(3)   民法

  • 加藤雅信新民法大系Ⅰ民法総則[第2版] 平成17年 有斐閣  加藤Ⅰ
                  新民法大系Ⅳ契約法[初版] 平成19年 有斐閣  加藤Ⅳ

[1]) 「行政処分を定義すると、『行政機関が、公権力の行使として、対外的に行う具体的な法行為』と言うことができる」(芝池p95)とする。「行政行為が学術上の用語であるのに対して、(行政)処分は法令上の用語であ」(大橋Ⅰp307)り、行政処分が行政行為より拡大された概念を持つが、本説明書においては、行政行為と同義なものとして「行政処分」を用いることとする。

[2]) 藤田p53

[3]) 藤田p53-54

[4]) 「事実行為とは、相手方の権利義務に変動をもたらすことを目的としない行為である。例えば、国や地方公共団体が行う道路建設工事がその例である。」 芝池p22-23

[5]) 「法行為とは、相手方である国民の権利や義務の変動を目的とする行為である。」 芝池p22

[6]) 平成※※年※※月※※日 ※※県条例第※※号「市町村への権限移譲の推進に関する条例」

[7]) 同条例9条(商工業パッケージ)砂利採取法の認可等の事務。10条(まちづくりパッケージ) ※※県の景観を守る条例、屋外広告物法、都市計画法「開発行為許可」等の許可等の事務。11条(生活・安全安心パッケージ)急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律及び砂防法施行条例等の許可等の事務。

[8]) 芝池p94-95

[9]) 宇賀Ⅰp2 「国や地方公共団体の意思を最終的に決定し外部に表示する権限を持つもの」

[10]) 法律学小辞典[第4版]p213 「行政行為は、たとえ違法であっても、無効と認められる場合でない限り、権限ある行政庁又は裁判所が取り消すまでには、一応効力のあるものとして、相手方はもちろん他の行政庁、裁判所、相手方以外の第三者もその効力を承認しなければならないという効力」

[11]) 藤田p197

[12]) 行政手続法第2条第6号

[13]) 原p213

[14]) 原p67

[15]) 原p67

[16]) 原p67